剣の勇者の成り代わり   作:min-can

26 / 35
盾の勇者の成り上がり熱が戻って来たので、再開しました。
また少しの間よろしくお願いします。


再起

 滅茶苦茶にしてしまった会場を放置して、城下町の方へと歩いていく。

 ...当然だけど、影と思しき奴らがついて来ているな。

 

 少しは考える時間が出来たとはいえ、今晩中にはこれからの方針を決めないといけないだろう。

 その為には...みんなと話し合う必要がある。

 みんなはこんな事になってしまった俺の事をどう思うだろうか。

 責められる...だろうな。そりゃそうだ、あれだけ意気揚々と村の皆を救うなんて言っておいてこの様なんだから。

 はっ、こんな時でも自分ばかりが可愛いみたいで本当に嫌になる。俺がどう思われるかしか考えてないじゃないか。

 

 やっぱり俺には、勇者なんて荷が重すぎたんだろうな...

 これだけ力を付けて、この世界に住む誰よりもこの世界の事を知ってる癖にこの様だ。

 俺なんかに勇者で居る...みんなの仲間で居る資格は無いんだろうなぁ。

 

 それでも、これは俺のせいで起こってしまった事態だ。

 例えどんな事があろうと、なんだってやって、なんとかして三勇教やクズ共を倒してみんなを救って...解決して、それで....

 

 ...それで、お別れにするべきだ。

 尚文になら、安心して任せられる。尚文なら...主人公ならきっと、本物の勇者としてきちんと導いてくれる。

 俺みたいな紛い物と居るよりもずっと幸せに生きれるだろう。

 

 そもそも本来なら、みんな尚文の仲間になって、幸せになるはずの子達だったんだしな。

 俺なんかがでしゃばるからこんな事になるんだ。

 

 ...ひとまず行動しよう。

 

 ひとまず建物の陰にでも隠れて転移スキルを発動して...いや、どうせなら転送剣は移動に使うべきか。

 自分の力で影を撒いて魔物商の所に直行し、転移で皆の安全を確保してからまずはじっくりとこれからの事を話し合うべきだ。

 

 向こうだって人質がいる以上、今晩俺が消えた所で明日の朝の約束を破らない事は分かっているハズ。

 むしろ明日以降は転移に制限をかけられる可能性が高い。影の捕捉から離れるなと言われてしまえば従うしかないからな...。

 全部向こうの言いなりになるつもりは無いが、突っぱねられる命令には限りがあるだろう。

 こちらからの要望がいくつかある事を考えれば、転移スキルの制限くらいは受け入れる範囲にしておくべきだな。

 やれるうちにやってしまって、今晩の内に準備を整えよう。

 

 俺は突然大通りから路地裏へと飛び込んだ。

 

「ハイドソードⅡ」

 

『力の根源たる剣の勇者が命じる。理を今一度読み解き、雷の幻影で我が身を隠せ』

 

『ファスト・サンダーミラージュ』

 

 幻影魔法は適正が無いので、真昼間ならバレるかもしれないがこの暗がりだ。スキルと魔法の複合なら充分に効果を発揮するだろう。

 

 ...その証拠に、少し離れた場所に待機していれば俺を見失った影が付近を捜索しているのが見えた。

 

「よし、いくか」

 

 効果が切れる前に魔物商の所へとなるべく音を立てずに走り出した。

 

 ────────────────────────────────────────

 

「みんな、遅くなってごめん...って、尚文!?」

 

「おう」

 

 魔物商のテントに入ってすぐ、尚文が何事もなかったかのようにこちらに片手をあげて答える。

 

「なんでここに...!?追手は大丈夫なのか?」

 

「お前と会うにはここしかないと思ってな。追手はラフタリアの魔法で撒いてきた...とりあえず、一通りあいつらには事情を説明してあるから、後はこれからどうするか決めるだけだ」

 

 尚文がさらりと言って来る。ついさっき思いっきり斬り飛ばされた相手に、どうして普通に接する事が出来るのだろうか。

 俺のせいでこうなったも同然だっていうのに、どうして俺を責めるような目で見ないのだろうか、俺を糾弾しないのだろうか。

 

「............そ、そっか。その、ありがとう...後、さっきは...」

 

「....ハァ。あぁもう、シャッキリしやがれ!これからの事を考える大事な時間だろうが!くだらない事でうじうじしてんじゃねぇ!」

 

 尚文がガシガシと頭を掻きながら吐き捨てる。

 

「う、うん...」

 

「...俯いてないで、仲間の顔くらいちゃんと見やがれ。ひとまず今後の相談は、お前が少しはマシな顔つきになってからだ...俺達は周囲の警戒をしてくる。戻ってくるまでにはそのしみったれた顔をどうにかしておけよ...いくぞラフタリア!」

 

「えっと、はい。剣の勇者様、失礼しますね」

 

 尚文とラフタリアちゃんが動く事で、皆のことが俺に視界に映った。

 ...けれど、俺は怖くてすぐに俯いてしまった。みんなの顔を見るのが怖い。みんなに失望した眼を向けられることが耐えられない。

 

「話はナオフミちゃんから聞いたわ。大変な事になってしまったけれど、気をしっかりもってね。お姉さんもなんだって協力するから、一緒に頑張りましょう」

 

「兄ちゃん!俺...もっと強くなって、絶対役に立てるようになるから...!だから、ライ君とノーラちゃんの事、絶対に助けよう!!」

 

「...人質なんて最低。私とガエリオンでそんな奴等懲らしめてやるわ」

 

「なの!コウヤの事をイジメるやつは許さないなの!!」

 

「みんな...」

 

 けれど、俺の耳に届いたのは決して失望や叱責の言葉ではなかった。むしろ、俺への気遣いに溢れていて...

 なんで...なんでだよ...なんで...

 

「なんで...なんで、俺を責めない!俺を咎めない!!俺が...!!俺さえもっとしっかり立ち回ってれば...!」

 

「そんな事ないわー。コウヤちゃんだけが悪いだなんて事絶対に無い。今はそれよりもどうやって二人を助けるかを考えましょう?」

 

「俺のせいじゃない...?俺が...!やれる事、いくらでもあったはずの...俺が!!不甲斐ないから...!」

 

「もしかしたら...色々と知っているコウヤちゃんには、何か出来る事があったのかもしれないけれど...起こってしまった物はしょうがないし、コウヤちゃんに全てを予測して救えだなんて...とてもじゃないけど言わないし言えないわ。だからそんなに自分を責めないで...ね?」

 

「そんな事...出来るわけないでしょう!?俺がもっとうまく立ち回ってれば...!あの子達があんな目に遭う必要は無かったんだ!!俺にはそれが出来たはずなんだ...!!...いや、出来なかったからこうなってるのか。ハッ、大して取り柄もない奴が、ちょっと知識があるからってでしゃばるからこうなる...俺なんかが、何事も成したことのない...そんな奴が勇者だなんだってはしゃぐからこんな無様を晒して...!」

 

「...........コウヤちゃん」

 

 カラカラとサディナさんが車椅子で俺の傍に近づいてくる。

 

 パンッ!と乾いた音が鳴って、視界がブレた。

 

「ッッ...!!」

 

「しっかりしなさいコウヤちゃん!」

 

「サ、サディナ...さん?」

 

「辛いのは分かるわ。自分のせいでこうなったって責めたい気持ちも分かる...でも、今あなたがすべきことはそうやって下を見て蹲る事じゃないでしょう?」

 

 頬の痛みが否応なしに俺を現実に引き戻した。

 サディナさんの憂いに満ちた顔が...心配げな眼が俺の視界に映り込む。

 

「もちろん、私もみんなも全力でコウヤちゃんの支えになるわ...でも、それでもライ君、ノーラちゃんを...みんなを助けられるのは、剣の勇者であるあなたしかいないのよ?」

 

「それは...」

 

「叩いてごめんなさいね。それでも、コウヤちゃんには立ち上がってもらうしかないの。辛い時にこうやって追い立てる私の事を恨んでくれてもいいわ...だけど、お願い。二人を助けるために立ち上がって、前を向いて...抗って欲しいの」

 

 俺にしか...そうだ。今、この時にもあの子達がどんな目に遭っているか分からない。他の村の子だってどうなってるか分からない。

 それをどうにか出来るのは...俺だ。

 

 尚文に全部任せて、仲間の事も託して...だなんて無責任にもほどがある。それこそ最低の行動だ。

 厳しい状況になったからって現実逃避してたって何も解決なんてしない。

 

 村の子達は今この時ももっと辛い目に遭ってるんだ。

 だってのに、それを救える場所にいる俺が現実から逃げてどうする...!?

 

「それに...それにね。何も成してないだなんて...なんの取り柄もないだなんて言わないで?」

 

 サディナさんが叩いた俺の頬に慈しむように触れる。

 

「確かにちょっと頼りない所があるのかもしれないけれど、私達はみんなあなたに...剣の勇者様に救われたのよ?」

 

「俺が...救った?」

 

「えぇ。キールちゃんも、ガエリオンちゃんも...本人は認めないかもしれないけれどウィンディアちゃんだって...もちろん私だって。それにナオフミちゃんやラフタリアちゃんもきっとそう思ってる...ニーナちゃんももう酷い事をされないんだって泣いて喜んでいたわ」

 

「みんなが...」

 

「ちゃんと私達を見て、あなたの成したことを否定しないで?みんな、あなたが手を差し伸べてくれたから...導いてくれたから、あなたの力になりたいって思ってるのよ?」

 

「...でも、それは俺じゃなくたって...」

 

「コウヤちゃん。他の誰でもないあなただからついていくって決めたの。優しくて、一生懸命なあなただから信頼してるのよ?誰でもいいなんて言っちゃダメよ?」

 

「俺...ごめんなさい。自分の事ばっかりで...グス...みんながそんな風に思ってくれてるなんて、考えてなくて...」

 

 頬に触れる手から...その言葉と表情から伝わる温もりに触れて、涙が溢れて来る。

 

「フフ、最近は良く泣くようになっちゃったわねー。男の子が泣いてばかりじゃダメよ?」

 

「ハイ...!すみません。もう、大丈夫です...俺、間違ってました。ちゃんと、立ちます。立てます」

 

 俺は視界をぼやかす涙を強引に拭って、今度こそきちんとサディナさんを見つめ返す。

 

「えぇ。期待してるわよ、コウヤちゃん」

 

 サディナさんの向こうにも視線をやる。

 

「兄ちゃん!俺は兄ちゃん事大好きだぜ!!」

 

「ガエリオンもなの!」

 

「ふん!そんなにぽろぽろ泣いてちゃ、嫌味の一つも言えないわね」

 

「えっと...その...あぅ」

 

 皆が俺の事を励ますように明るく声をかけてくれている。そこには負の感情は一つも見えなかった。

 ...まだ仲良くなってないニーナちゃんがあたふたしているのが、場違いにも微笑ましくてつい笑みがこぼれる。

 

「みんな、さっきはごめん!ついつい皆に当たるような事をしちゃった...でも、みんなのお陰でちゃんと立ち上がれたから...ありがとう。この前も言った気がするけど....何度でも。これからもよろしく、俺の事を支えて欲しい。その代わり俺も全力で皆の為に頑張るから...!」

 

「おー!」

 

「もちろんなのー!」

 

「ほんと、手のかかる勇者様だこと!」

 

「ハハ、ごめんねウィンディアちゃん。これからもよろしく頼むよ」

 

「まぁ...お父さんの敵討ちが出来るまでは無事でいてもらわないと困るし」

 

「そんな事もう思ってないのにお姉ちゃん素直じゃないなのー」

 

「うるさいガエリオン!!」

 

「あぁもう、体が動かないのに喧嘩してもしょうがないでしょ。ほらやめてやめて」

 

「ふー。お姉さん柄にもなく真剣に話したから疲れちゃったわー」

 

「すみません...でも、お陰で前を向けました」

 

「えぇ。コウヤちゃんを支えてあげるのが私達の役目だからねー」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 それから少し雑談していると尚文達が戻って来た。

 

「お前らうるさいぞ!外にまで声が漏れてるっつの」

 

「ひとまず、まだこの辺りには来ていないみたいです」

 

「鋼也も少しは...って、しみったれた顔をどうにかしろとは言ったが余計酷くなってないか?」

 

「あ...えと、はは。ちょっと気合いれて貰ってたんだ」

 

 頬と目が真っ赤っかになっている事だろう。我ながら少々情けない姿だ。

 

「そ、そうか...まぁ元気になったならいいが。オホン!とにかく、これからの事を決めるぞ」

 

「うん...ひとまず、俺の転移スキルで城下町からは離れよう。港のポータルには荷馬車が置いてあるからそれを使って人里から離れるのが良いと思う」

 

「やっぱ転移スキルは無法だな。あのバカどもの諜報員も転移されちゃ追いかけ様がない」

 

「俺は明日の朝、城に向かう用事があるからひとまず皆の隠れ場所を確保できたら離脱する...そこで皆の安全を確保できるよう交渉出来たら一緒に行動出来るように連れて来るけれど、最悪の場合尚文にお願いする事になるかもしれない」

 

「流石にこの人数を抱えて、おまけに半数が寝たきりとなると動けないぞ?補足されると逃げられん」

 

「うん...だから、俺が交渉でなんとかする。大丈夫、決して無策な訳じゃ無い。交渉材料ならいくつかあるんだ」

 

「具体的には...?」

 

「一番はまぁ...盾の勇者の排除になるだろうな」

 

「まぁ、それしかないわな」

 

「さっきもチクチク斬っておいて悪いけど、明日からはそれなりに本気で敵対する事になると思う」

 

「ふぅ...しょうがない。ラフタリアの友達だっていうなら見捨てるわけにはいかないからな」

 

「うん...本当にごめん。今日の事も含めて...でも、俺ももう決めたから。あの子達を救う為にはなんでもやるって...だから尚文。全体重かけるつもりで全力で寄り掛からせてもらうから、俺を助けてほしい」

 

「...いいだろう。好きに襲ってこい。全力で返り討ちにして逃走してやるさ」

 

「ありがとう」

 

 俺は尚文に向かって頭を下げる。

 

「礼は要らん。今日まで散々お前のお陰で助かって来たからな...借りを返すだけだ」

 

「そっか...それでも、ありがとう」

 

「あぁ。それじゃあ、善は急げだ。すぐに用意をして発つぞ」

 

「そうだな...じゃあ準備してくる」

 

 それから俺は、魔物商の部下に買い取れたルロロナ村の奴隷をなるべく遠く...できれば国外で保持しておいてもらうように言いつけた。費用は手持ちの金と預けている親リオン産以外の宝石の代金を全て渡す事で賄うようにした。

 少なくとも城下町のここに連れて来るよりは安全なはずだ。

 

 そうして動けない皆を集めて準備を整えた。尚文達も準備が終わったようだ。

 

「それじゃあいくぞ....転送剣!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。