あの後、尚文達と仮の拠点となる森の奥の洞窟に移動し様々な決めごとをした。
ひとまず尚文達はポータルシールドを解放するためにレベリングに勤しむ事、その間の拠点の守りはサディナさんがする事、実際に俺と尚文が遭遇して戦闘になった時の決め事、定期的に情報交換する為の約束事、教皇との取引に使うべき手札と隠すべき手札...その切り時、ついでに切る時の演技まで...その他多くの事を尚文と相談しながら決めていく。
後、フィロリアルに特別な成長をさせるために卵を孵してリユート村でキメラの肉を食わせるように伝えておいた。
緊急事態ではあるが、フィーロ誕生のフラグを失う訳にはいかないからな...
どのみち、今後の尚文の逃走劇にはフィロリアルは必要不可欠だ。少々危険な手ではあるが育てる方がいいという風に伝えておいた。
「...ふぅ、なんだかんだとほぼほぼ一晩かかってしまったな。とりあえず、今後の方針としては俺とラフタリアは完全に身を隠すと相手も躍起になるかもしれないから、リユート村を拠点に活動して、刺客に繰り返し襲われるようなら人里から再び離れてレベリング...ついでにお前がこいつらを守れる下地を作れるまでの護衛と世話だな」
「あぁ。そして俺はひとまず教皇の信頼を得られるように行動しながら、隙を見て俺達の勝利条件へのピースを集めていく」
「そうだな。それじゃあ...これがまともに話せる最後の機会になるかもしれないし言っておくか」
「いやいやいや!そんなフラグみたいなこと言わないでくれよ!」
「ハッ...そうだな、やめておくか。それじゃあ代わりに...全部解決したら、盛大に祝勝会でも開こうぜ、ガキどもも一緒に皆でな」
「祝勝会...もちろん尚文が料理してくれるんだよな?」
「まぁ、少しくらいならな」
「よし!やる気出て来た...!」
「なんだそりゃ...」
尚文が呆れたように笑いながら俺に拳を向けて来る。俺もそれに無言で答え、コツンと音を立てて拳がぶつかる。
「それじゃあ、鋼也!負けるんじゃないぞ!」
「尚文も...!絶対生き残ってくれよ!」
「俺は元々この国の全部が敵みたいなもんだからな、ただ一人ちょっとめんどくさいのが敵に回っただけでいつもと変わらねぇよ」
「そっか...それじゃあ」
「あぁ、行ってこい」
「うん!」
俺は寝入っている皆を起こさないように外に出て、転送剣で城下町に戻った。
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城に向かうと、兵士が俺を引き留めた。
「剣の勇者様、王との謁見の前にご案内したい場所がございます」
「...そうか、それじゃあ頼む」
「は!」
よし...どうせ教皇の所だろう。ここからが正念場だ...
突貫とはいえ、昨日の努力の成果が実ってくれればいいが...いや、皆の為にも実らせないといけないんだ。
やるぞ...!
黙って衛兵についていくことしばらく、城内の迎賓室のような場所に通された。
そこに奴は柔和な笑みを浮かべながら立っていた。
「...お待ちしておりました、剣の勇者様。さ、どうぞお座り下さい」
「あぁ」
俺は特に反抗する事も無く促された場所に着席する。
「ほう?昨夜の事から随分と恨まれているのではないかと思っていたのですが、思いのほか落ち着かれているのですね。この場で斬り捨てられるのではないかと少々心配しておりましたが...」
「それをしない理由はお前が一番分かってるだろうが」
「さて、なんのことやら」
「言ってろ」
俺は使用人によって注がれた紅茶を一口飲み、席に深く座り背中を預ける。
「そっちの望み通り、俺達の今後について話し合いといこうじゃないか」
「えぇ、有意義な時間となる事を神に祈りましょう」
教皇の奴も着席し、しばらくの間沈黙が場を支配する...
「ハァ...このまま黙ってても進まないし、俺から話させてもらうぞ」
「えぇ、是非ともよろしくおねがいいたします」
「まず一つ...降参だ」
俺は手をひらひらとさせながらわざとらしく両手を上げた。
「降参...とは?」
「これ以上お前たちの暗躍に付き合ってられないって言ってるんだよ」
「さて、何のことを言っていらっしゃるのかわかりかねますが」
「そのくだらない演技を今すぐやめろ、話が進まない...俺は、俺のなか...いや奴隷共と自分の事が大事だ。ぶっちゃけ盾の勇者の事をこれ以上擁護するような真似をして被害を被りたくはない」
「ほう?なかなか殊勝な事ですが...昨日の今日でそれを信じられるとでも?」
「別に信じろなんて言ってないさ。ただ俺はもう盾の勇者には付き合ってられないって言ってるだけだ。異世界に来て、好き勝手に過ごしたかっただけだってのに...こんな風に国や宗教に迫害されてちゃなんにも楽しくない。コソコソとお前らの刺客から逃げ隠れする生活はまっぴらごめんなんだよ」
「それは、これからは盾の勇者と縁を切り活動していただけるという事ですかな?」
「そう言ってやってるんだよ。盾の勇者も同じ勇者なのに、一人だけ迫害されてて可哀想って思ってたからちょっと良くしてやってただけなんだ。ここまで激しくこの国に反発される行為だって知ってたらそうはしなかった」
「なるほど...確かに理解できる話ではありますね。我々の祈りが届いたという所でしょうか?」
「ふん。まぁ、そう考えて貰っていい」
「それはそれは...素晴らしい事です」
ニッコリと笑みを浮かべながらも、何か言いたげな雰囲気を感じる。そりゃそうだ、昨日の今日で態度が変わりすぎているからな...
でも、こっちも尚文とカバーストーリーはみっちり考えて来たんだ。押し通させてもらうぞ。
「まぁ分かってるんだ。こういう風に俺が言っても信じちゃくれないだろう?」
「そんな事はありませんとも。我らが神のお言葉ならば、何を疑う事がありましょうか...本当に、あなたが我々の神ならば、ですが」
「随分な言い草だが...まぁいい。ひとまずの信頼の証としてお前らの所持しているルロロナ村の奴隷は預けておいてやる...ただし、俺も共同で奴隷紋の主にしてもらうぞ」
「する必要がありますか?」
「あぁあるね...俺は奴隷が大好きでね。あれは良い、嘘をつけないし俺に反抗する事も一切できないからな。お前らに預けているガキどもだってゆくゆくは俺が主として楽しませてもらうつもりなんだよ」
俺はあくまでも露悪的に、奴隷を当然と思っているように話す。
尚文に突貫で演技指導してもらった...亜人を痛めつける事に喜びを感じているクズの演技だ。
「ほう...?しかし、それならば何もあの村の奴隷にこだわらなくてもよいのではないですかな?」
「いいや、それが良くない。1つ教えてやる...いいか?大いなる幸福から突き落とした時の絶望にこそ、大いなる愉悦が秘められてるのさ。具体的にはそうだな...剣の勇者の威光でルロロナ村を復興!そして亜人共が生活を取り戻し前を向けるようになったその瞬間...再び全てを奪い去ってやる!その時の...信じていた、全てを与えてくれた勇者様に裏切られたと知った亜人共の間抜け面を想像してみてくれよ...笑えるだろ?今持ってる奴隷共は特に俺のお気に入りでな...あいつらを幸せの頂点に連れて行くためには、あいつらの村の奴らが必要なんだよ。俺の計画を邪魔してもらっちゃあ困る」
「ふむ...なかなかに愉快な趣味をお持ちの用で」
「国からの印象が悪いと分かってからでも盾の勇者の味方面してやってたのも、亜人どもに信頼してもらうためってのがあってな。ほら、あいつら盾の勇者好きだろ...?でももう充分だ。今更盾の勇者の擁護なんかしなくてももうあいつらは俺の事を、自分を救ってくれた勇者様だって崇拝してやがるからな」
うっ...作り笑いで口の端っこが引きつりそうだ...我慢しろ我慢...
「ここまでいけば、あいつらの口伝で充分に奴隷共からの信頼は得られる...もはや盾の勇者も用済みなんだよ」
「なるほど...少々剣の勇者様の事を誤解していたようですね」
「ハッ、軽蔑したってか?同じ穴の狢の癖に」
「いえいえ、穢れた亜人共は人間ではありませんからね。素晴らしいご趣味だと感心しているのですよ」
「あぁ。人間相手じゃ罪悪感があってこうはいかないだろ?おまけに反抗されても面倒だし...この国で認められてる知性ある奴隷は亜人獣人だけだからな。元の世界じゃ出来なかったことが自由に出来るって訳だ」
「なるほどなるほど、それは非常に素晴らしいですね」
「あぁ...で、だ。そんな俺の楽しい楽しい人生計画には、もういい加減お前たちの妨害は迷惑なんだよ。それに、自分で言うのもなんだが俺達協力できるとは思わないか?」
「協力ですか?」
「あぁ。今の盾の勇者にまともにダメージを与えられるのは俺だけだ。俺は、お前たちが俺の計画を邪魔しないって約束してくれるのなら、盾の勇者を捕える為に奔走しても構わない」
いいぞ、教皇が随分と思案顔になってきた。このまま畳みかけてやれ...!
「今まで俺は自己強化に奔走していたから、まともに名声を稼いで無かったよな...お前たちにとってもそれは不都合だっただろう?そろそろレベリングも落ち着いてきたから協力してやろうかとも思ってな。だから取引だ。無論、断る時は断らせてもらうが...俺はお前達の望む働きをしてやる...だから、俺の楽しみの邪魔をするな。そして俺の愉悦のために協力しろ」
「ふ...む...」
教皇が深く座りなおして、深い呼吸をし、目を瞑る。
今頃色々と考えているのだろう。俺が言ってる事が事実かどうか、嘘だったとしてどこまでが嘘か、仮に全て嘘だとしてもそれでもなお利用できるかどうか...
好きなだけ考えればいいさ。どのみちこいつは俺の事を拒否できない。なぜなら今の奴らにとって俺が唯一尚文を倒しうる存在だからだ。
さぁ、これだけ歩み寄ったふりをしてやってるんだ...いいから頷きやがれ...!
「良いでしょう。剣の勇者様...我々三勇教はあなたを槍の勇者様、弓の勇者様と同じく本物の勇者であると認めます。これから、良い関係が築けると良いと思います」
「あぁ、よろしく頼む」
内心で唾を吐き捨てながら握手を交わす。
よし...まだ、向こうも俺を信用は当然していないだろうが、少なくともその土台に立つことは出来た。後はなるべく悪事になるような事をしないように避けながらこいつらの信用を稼ぐだけだ。
「さて、それでは早速...協力の証という訳ではありませんが、一つお教え願えませんか?」
「何をだ?こちらも協力の証として、大抵の事には答えてやるが?」
「貴方様はどのようにしてその神の如き力を手に入れたのですかな?少なくとも召喚当時は他の勇者様方と同じくレベル1相当であったとの報告があったのですが、いつの間にあれほどの差が生まれたのでしょうか」
「そんな事か...」
ふむ...これは想定していた手札の一つだな。尚文曰く、あれが釣り合う手札だと言っていたけれどうまくいくだろうか...。
「教えてやってもいいが...それは俺の生命線みたいなものだからな、容易く教えるわけにはいかないな」
「お教えいただけないと...?」
「そうは言ってない。あくまで俺達は協力関係だと言ってるんだ...それを差し出すのなら俺にもそれなりの見返りが欲しい。おかしなことを言っているか?」
「なるほど...して、その見返りというのは?」
「お前らの動員できる治療部隊による『聖域』の行使だ。見ての通り今の俺は呪いに蝕まれていてな...これさえ解消できれば盾の勇者相手にもっとうまく立ち回れる。悪い話じゃないだろう?」
「そういった事でしたか...えぇ、それならばすぐにでもご用意いたしましょう」
「ついでに俺の奴隷共も呪いを受けていてな、別のガキに面倒みさせてるとはいえいい加減鬱陶しいからついでに呪いを祓って欲しい...良いだろう?亜人とはいえ、剣の勇者の奴隷だ。道具の整備も立派な勇者の支援だと思うが?」
「...おっしゃる通りです。いいでしょう、亜人共を連れて来て下されば勇者様共々聖域による治療をさせていただきます」
「後、なるべく俺の奴隷になる予定の奴らを痛めつけるな...ある程度は許容するが、使い物にならなくなったら俺の楽しみが減ってしまう。絶望しきったボロボロのガキを更に痛めつける趣味は無いんでね...貴族共にもその辺りうまく立ち回っておけよ」
「えぇ。最大限力になれるよう努めましょう...それで、以上でしょうか?」
「あぁ。俺の言う強化方法を使えば間違いなく元康と樹も今の何倍も強くなれる」
「それは素晴らしい...しかし、それが偽りではない保証はどのようにしていただけるのでしょうか?」
「段階的に交換条件を満たしていこう...俺から持ち掛けた取引だ。そちらに先に情報の半分を与え、情報の真偽が確認できれば治療を行う...その後俺がもう半分の情報を与え、その真偽が確認されればお前たちは俺の楽しみの為に奴隷共を集めろ。そうだな...そういえば、この城の地下にセーアエット領の娘が軟禁されていたよな?」
「...よくご存じで」
「俺の情報源を舐めない方がいいぞ?よし...集めた奴隷は適当な収容所にでも集めて、そいつに面倒を見させろ。実はそいつにも目をつけていたんだ...亜人を保護しようとした罪人の血筋...自分達の領地が剣の勇者のおかげで再興出来たと思った矢先に裏切った時の顔はきっと見ものだろう...?それに、亜人なんか保護しようとする奴だ。亜人共の面倒も上手いこと見れるだろうさ。お前らも亜人共のお守りなんかわざわざするのは面倒だろうし丁度良いと思わないか?...ま、俺みたいな奇特な趣味を持ってるなら話は別だろうが」
「面白い事を考えますね...」
教皇があごに手を置きながら黙りこくる...
「わかりました。王に確認は必要ですが、ご許可いただけたらそのように手配いたしましょう...それでは早速お教えいただけますか?」
「あぁ...少し長くなる。紙にでもメモすると良いだろうな」
「なるほど...そこのあなた、今から剣の勇者様がおっしゃることを確実に書き写しなさい。一字一句間違えないようにするのですよ」
「は!」
そこから俺は、四聖勇者の強化方法を時間をかけながら伝えた。
「...これで半分だ」
「なるほど...勇者様方の力は共有されるものなのですね。それならば貴方様の力も納得できる」
「あぁ。もう半分はお察しの通り七星武器...いや八眷属器というべきだな。その強化方法になる。杖くらいなら王から聞き出せばいいだろうが後は俺しか知らないぞ?ただ、一つだけ懸念がある。俺が伝えるんじゃあいつらも信じないかもしれないからな...王や王女からの言葉なら聞き入れるんじゃないかと俺は踏んでいる。そういう風に取り計らってくれ。それで失敗したなら...取引失敗だな。俺は本当にこれしか強化方法を知らないから他の勇者を鍛える事は出来ないし、代わりに俺も何も得られない...この情報をあいつらに伝える努力までも含めて今回の取引だ。分かってるな?」
「良いでしょう...あまり長くなって王との謁見の時間に遅れてはいけませんからね。一度このあたりで話を中断し、謁見後に再び詳しくお話いたしましょう」
「そうだな」
ひとまず話した内容を吟味して整理したいって所か?まぁいい。こっちもさっきから頬が攣りそうで仕方がないんだ。慣れない演技に、訳の分からない嗜好を持った人間の思考をシミュレートして...頭が痛くなってくる。
「それでは、貴方様に神の祝福がありますように」
「あぁ」
一刻も早く、この場から出ていきたいので俺は急いでいるとバレない程度に素早く部屋から退出した。
よし、ひとまずの目標は達成できた...と思いたい。
正直今の二人に強化方法を共有するのは諸刃の剣なのだが...カースで思考能力が落ちた所にならば、少なくとも王女と王を信じている元康には言葉が届くのではないかと思うのだ。それを見れば樹だって信じざるを得なくなるだろう。
尚文の危険が増すだろうが、今は少しでもあの二人が死ぬ可能性を減らしておきたい...そういう風に話し合って決めた。尚文には一か月分のリードと、防御特化かつ聖武器の性能も最大限引き出せる素質がある。
分の悪い賭けではないはずだ。
後の亜人の事云々は、正直全部が全部上手くいくとは思えないが...何もやらないよりはマシ程度だろう。
少なくとも俺の地雷であることは意識付けられたと思う。今すぐ早まった事はしないと思いたい...
「それでは。半刻程後に謁見の間で此度の援助金の支給がございますので、ご案内する部屋にてお待ちください。時間になればもう一度お呼びいたします」
「あぁ、頼む」
案内された部屋で、俺は深いため息をつく。
「....疲れた」
これからはあの変態趣味の勇者をあいつらの前で演じ続けなければならないのか...
でも。なんだってやるって決めて、尚文にも負担をかけて、皆にも協力してもらって...
だから、ここからだ。
全部拾ってみせる...俺が主人公じゃなくたって、勇者に相応しくなくたって。
信じてくれるみんなの為に...
剣の勇者として...!!