時間となったので謁見の間に向かった。
するとそこには樹と元康、それにクズとビッチが居た。
「あぁ、鋼也さん。王様と王女様から聞きましたよ。僕達の決死の説得によって尚文の洗脳の盾の支配から逃れられたようですね...安心しました。僕達勇者同士で潰し合うようなことになっては困りますから...さぁ。これからは勇者同士、あの悪魔を懲らしめる為に協力しましょう」
虚ろな目をしながら樹が俺に握手を求めて来る。
「あ、あぁ...よろしく頼む」
「おい鋼也...!正気に戻ったからあの悪魔を倒す為のチート能力を共有してくれるってのは本当なんだろうな...!!」
元康が俺の胸倉を掴んでくる。
「あぁ。ク...じゃなかった。王様から説明があるはずだ。まずは援助金を受け取ってから話を聞こう...」
「ダメだ!!今すぐ教えろ...!俺は...すぐにでもあの子を...ラフタリアちゃんをあの悪魔の魔の手から救わないといけないんだ...!!!じゃないと...あぁ!可哀想なラフタリアちゃん!!今すぐ俺が解き放ってあげるからねぇ...!!!」
元康が俺の胸倉を掴みながら、ガックンガックンと揺らしてくる。
「わ...わかった...!わかったから、離せ...!!」
「分かったんだな!?それじゃあ早く教えろ!!」
顔が近っかい...!圧が強いなこいつ...!
「あぁ...えっと、いいですか?」
俺はクズに許可を貰う。
「う...うむ。勇者殿達の情報共有は急務であろう。コウヤ殿、まずは二人に説明してやるとよい」
「んんっ...」
さてと、どうしようか...俺の口からの説明じゃ、昨日言ってた出鱈目と一緒じゃないかと言われる可能性もあるけど...いや、俺は盾の悪魔の洗脳が解けたって設定になってるんだし、王と三勇教のお墨付きって言ってやれば納得するかもしれない。
どうせ好き勝手利用するんだ。俺も好き勝手言わせてもらおう。
「これは王と教皇直々に認めて貰った強化法で、間違いなく安全なんだが...実は俺が洗脳されてた時に言ってた強化方法と同じなんだ」
「は...?でも、あの時は出来なかったし...貴様ぁ!!この期に及んでまだ俺達にチートを隠すつもりか!?」
「ち...違うって...!!ちょっと王様!?」
「う、うむ!モトヤス殿!コウヤ殿の言葉は真実じゃ!どうか信じて欲しいのじゃ!」
「えぇ、モトヤス様...!どうかあの盾の悪魔を討伐する為にも、剣の勇者の言葉を信じてあげて...!」
「ぐぬ...二人がそこまで言うなら...」
「ふぅ...」
よくやったクズとビッチ。初めてお前らがまともに役に立ったな。特にビッチ、今世でお前なんかに感謝する日が来るとは思わなかった。
「......分かりました。分かりましたよ、元康さん、鋼也さん」
樹が急に声を上げる。
「詐欺師は真実の中に不都合な嘘を混ぜる...尚文は強化方法を教えると言う真実の中に、洗脳の力を隠したのです...!だから、チートを使った鋼也さんは盾の悪魔に洗脳され、チートをあの時受け入れなかった僕達は洗脳されなかったんです!!」
樹がドヤ顔で俺に確認を求めて来る...いや、知らんがな。どんだけ妄想逞しいんだお前は。
「そ...そうじゃ!そうに違いない!流石はイツキ殿!!」
クズは良く分かってないなら同意すんな。
「でも...それじゃあ俺達がチートを使ったら尚文のクソ野郎に洗脳されるんじゃ...」
「それはもう問題じゃないんです!洗脳され、悪魔となった鋼也さんの口からでは洗脳効果もあったのでしょうが...今は完全に支配から解放された仲間キャラの鋼也さんからの口伝ですから、強化方法という真実だけを受け取る事が出来るのです...悪魔の力を浄化して、悪魔の力をもって悪を懲らしめる...そういう強化イベントなんですよこれは」
「...なるほど。それなら納得できるな」
何が納得できるんだ。ダメだ...ついていけねぇ。
これは真剣に不味いかもしれない...俺、女王が帰還するまで...いや、こいつらのカースが解除されるまでこれの相手をしないといけないのか...
シラフで!?...早速挫けそう。
「現に...僕は既に元康さんの槍の強化方法を解放出来ましたよ」
樹が俺が波の時に渡した紙をひらひらとさせながらドヤ顔をする。
昨日の事とはいえ律儀に持ってたのか...いや、ポッケかなんかに入れて捨て忘れたとかだろうな。
にしてもそのドヤ顔をやめてくれ...殴りたくなって来た。
「なっ...クソ...!俺にも見せろ...!!信じる...信じる...ラフタリアちゃんの為に...出来た!!!」
「次は鋼也さんの強化方法ですね...!」
「じゃあ俺は尚文のだ...!悪魔の力だろうと、俺は自在に操ってみせる!!」
二人はやんややんや言いながら強化方法を実践しだした。
俺の...俺と尚文の努力は一体何だったんだろうか...
一度懐に入っただけでこうも容易くなるか。なんて単純な奴等なんだ...
「よし!これで俺も...いや、俺が最強だ!!この力ならあの悪魔をぶっ殺せる!!」
「ふっ...元康さんにこの難解な強化方法を上手く利用できますかね?僕こそが最強の勇者になったのです」
「なんだと!?」
「やりますか?今の僕には誰も敵いません!!」
「おいやめろ!!二人とも...!!!」
俺は強引に二人を引き離す。
「喧嘩なら頼むから後でやってくれ...」
「チッ。命拾いしたな」
「そちらこそ」
「はぁ...」
拝啓、尚文様...そちらは順調ですか?こちらはとんとん拍子に地獄へ向かっているかもしれません。
二人の命を...ひいてはこの世界の楔を守るためにと決断しましたが、これが世界を滅ぼす原因にならない事を切に願います。
敬具
「って言ってる場合じゃないよなぁ」
尚文に敵になってもらっている以上、俺がこいつらの手綱を握らないといけないんだ。
こいつらを...!?
尚文があんなに苦労してたこいつらを...!?いや、俺が居る時点で一人減ってるから楽になってると考えるべきか。代わりに強化方法の共有で手強くなってるけど...
ダメだ!...弱気になるな!尚文は全てを...俺すら敵に回してまで俺の味方をしてくれてるんだ!こんな事で挫けちゃダメだ!!
「二人とも、ひとまず予定通りに援助金を受け取ろう。早速その力を試したいだろう?終わらないと城を出られないぞ?」
「...まぁ、そうだな。早く試し斬りがしたいし」
「ですね。この新たな力で倒すべき悪がまだまだこの世界にはのさばっています。時間を無駄にするわけにはいきません」
「ようやく終わったか...」
それから、あっけに取られていたクズが佇まいを正して式が始まった。
「オホン...それでは、今回の波までに対する報奨金と援助金を渡すとしよう。それぞれの勇者達に」
クズの号令を受けて大臣かなにかが俺達に金袋を渡す。
本当は受け取りたくない所だが、そんなバカな真似をするつもりはない。毒を食らわば皿までだ。
「モトヤス殿には活躍と依頼達成による期待に合わせて銀貨5000枚」
「次にイツキ殿...貴殿の活躍は国に響いている。よくあの困難な仕事を達成してくれた。銀貨4500枚」
ふたりに追加の金袋が渡された...原作よりもだいぶ増額されてるな。
樹が元康を睨んでいるので間に入って樹の視界から元康を隠す。
「最後にコウヤ殿...あまり活躍は無かったが、難度の高いドラゴンの依頼の達成...また、盾の悪魔の洗脳から解放された事によるこれからの期待と今まで出来なかった支援の補償を込めて銀貨3000枚じゃ」
俺にも追加の金袋が与えられる。
...屈辱を感じるが、背に腹は代えられない。俺はこいつらの陣営になったんだ。それに金に貴賤はない。精々ルロロナ村の皆の為に精々使わせてもらおう。
「それでは勇者達よ。次の波でも活躍を期待する...これにて式は終了じゃ」
王の言葉を聞いた瞬間に、樹と元康が我先にと出ていった。
...何かやらかさないか監視した方がいいだろうか?
「コウヤ殿、少し時間を貰えるか?」
後ろを振り向いた俺に王からの声がかかった。
「.....はい」
嫌な予感がしながらも、俺は振り返った。
「ひとつ、どうしても清算しておかなければならぬ事があるのじゃ」
「清算...ですか」
「うむ。無論、コウヤ殿が盾の洗脳の力に囚われていた事が発覚した今、問題にする事ではないのは重々承知しておる...しかし。我等も王族故、沽券に関わる問題であり、ひいては国の問題ともいえる...どうか、形式だけでもよいのじゃ、マルティに謝罪をしていただけぬか?」
はいはい、どうせこう来ると思ったよ。チラリとビッチの方を見れば、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている。
俺は奥歯をギリと噛みしめながらビッチの方に頭を下げた。
「あの時は...申し訳ありませんでした。俺が間違っていました」
心にもない事を言う事がこんなに不愉快だとは思わなかった。
足音が聞こえて...ビッチが俺の方に近づいてきた。俺の肩に手を乗せて来る。
「えぇ...えぇ。謝罪を受け入れますわ、剣の勇者様...私は分かっております。全てのあの盾が悪いのですから...さぁ、顔を上げて?」
促され顔を上げれば、ビッチが嫌らしい笑みを浮かべていた。
「これからはあの悪魔に立ち向かう同志として、是非...仲良く致しましょう?」
「....はい........マルティ王女様」
俺は声が上ずりそうになりながらもなんとか絞り出した。
「ふふ...あはは!!」
ビッチはそれはそれは嬉しそうに高笑いする。
「うむ!これにてコウヤ殿の過ちは完全に清算された!以降、コウヤ殿のありもせぬ噂や罪を吹聴するものは許さぬ!全ては盾の策略であったのだと知れ!」
「「「は!」」」
「...それではコウヤ殿も行ってよいぞ。これからの活躍を期待する」
「はい。失礼します」
俺はなるべく表情を表に出さないように気を付けながら謁見の間を後にした。
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「お疲れ様でした、剣の勇者様」
城を後にしようとしていたのに、通路の途中で教皇に声をかけられる。
そういや話の続きをする約束だったか。出来れば一時間...いや1日くらい休憩させてほしい。
「...早速だけど、少々予定が狂った」
「えぇ、見ておりましたので承知しております」
「順番は前後するが...俺はあいつらにきちんと強化方法を共有してやったぞ。まぁ、あれを渡していたことを忘れていた俺にも責任はある。ひとまず共有の報酬として治療はしてもらう...そしてあいつらが強くなっている事を確認したら、俺の計画への協力をしてもらう」
「えぇ...それでよいでしょう。一声おかけいただければいつでもご用意できますので、お好きな時にどうぞ」
「そうか。それじゃあ明日の朝がいいな。さっさと解放されたいんだ」
「かしこまりました。明日の今頃に教会にいらしてください。その呪いを消し去って差し上げましょう」
「頼むぞ...で?俺はこれからどうしたらいい?盾の勇者を捕まえに行けばいいのか?」
「いえ。盾の勇者は国を出るどころか、この周辺から出る事すら出来ていない様子...まぁ、移動手段が徒歩しかないのなら当然と言えるのかもしれませんがね」
教皇が嘲るように笑った。
「フッ...所詮は盾。防御力だけはあった所でまともに攻撃が出来ないのでは自由に探索する事すら出来ないのでしょう...であるならば、盾の事は今は放置しておいても構いません」
俺と言う最大戦力が手に入った事、元康と樹も大幅に強化される予定なのもあってかなり尚文を下方修正しているようだ...見事に舐めてくれて助かるよ。
「まぁ...そうだな。正直、俺の呪いさえなんとかしてもらえれば盾の勇者は問題にならない...昨日の戦闘を見ただろ?今の俺のステータスはおよそ3割ほど呪いで減少している...それで対等だったんだから、呪いさえ無くなれば完封できるさ。元康と樹が育てば猶更な。いつでもできるあいつの討伐をいつするかってだけの話だ。三人に勝てる訳ないさ...所詮盾なんてその程度だ」
「えぇ。我々が来るべき聖戦の舞台を整えておきましょう...となると今必要なのは剣の勇者様の名声です...次の波までの期間はギルドで我々の斡旋する仕事に従事して頂きたい」
「そんな事か。もちろん、請け負おう...ただし、こちらにも予定がある。多少選り好みはさせてもらうぞ?どうしてもやってもらいたい物があるなら事前に伝えておいてくれ」
「そのようにいたしましょう」
「奴隷共については、今すぐやれとは言わないがなるべく早く頼むぞ。貴族共の道楽でガキが減れば俺の楽しみが減るからな。ルロロナ村の事だけやってくれればこの俺を自由に使えるんだ。安いもんだろ?」
「そうですね。我々が所有している亜人用の収容所の一つを空けてそこを利用する予定となっております。セーアエットの娘に関してはこの後王に進言する予定ですので...」
「そうか。それじゃあ早速してくると良い...それ以外にも、色々と話す事があるんだろう?」
「えぇ。それでは明日、お待ちしております...神のご加護のあらんことを」
「そっちもな...あぁそうだ。これは親切で言ってやるが...盾の勇者に下手な刺客は送らない方がいいぞ」
「...それはどういう意味ですかな?」
「なに、いくら盾の勇者と言えども勇者には違いないと言う話だ。襲撃させるだけ無駄になる...むしろあいつの事だ、装備を剥がして小銭稼ぎでもするだろうさ。貴重な戦力を無為に潰すのは得策じゃないだろう?勇者の事は勇者に任せると良い...ま、あくまでこれは助言だ。好きにすれば良いけどな」
「ご忠告、感謝いたします」
俺に軽く頭を下げて教皇が去って行った。
「ふぅ」
これで今日の城下町での予定は終わりかな...まずまず悪くない滑り出しなんじゃないか?
明日治療を受けてから、改めて教皇と話を...恐らくそこで何かしらの枷をはめようとしてくるだろう。
それは甘んじて受けるとして、代わりに何を貰うかだな。
よし、さっさと拠点に戻って皆に会って癒されよう...今日はもう疲れた。
俺は転移スキルで城下町を後にした。