剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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未来の英雄達

 あの後も尚文と色々な話をした翌日、寝不足で少し辛かったが朝食を豪華な食堂で食べる。

 

 卵となんかの肉が出て来たのだが...これ多分フィロリアルなんだよなぁ。

 まぁいいか、食用フィロリアルを食べないのはそれはそれで命に失礼かもしれない。

 

 口に入れると、思い描いていた味とは少しずれるが、それでも十分に美味しいと感じられるものだった。

 ありがとうフィロリアル。美味しかったよフィロリアル。

 フィロリアル育てたら多分食べれなくなる気がするから、魔物枠なんかは欲しいと思ってたけどフィロリアルはやめておこうかな...

 

 それから俺達は再び客室に戻されて、謁見の間に呼ばれる時を待つ。

 

 ....いよいよだ。

 これから盾の勇者の成り上がりが始まる。

 一応、尚文に強化方法を共有する事が出来た。俺のステータスという意味でも、尚文の強化という意味でもやって良かったとは思う。

 

 けど、後々良く考えるとこれカーススキルなんか発動してしまった暁にはとんでもない事になるのでは?

 俺以外じゃまともに止められないかもしれない。

 

 やはり軽率だったか?

 うぅ...なんかお腹痛くなってきたかもしれない。ほんと勘弁してくれよ...

 

「勇者様方、王が謁見の間にてお待ちです。他にも勇者様の手足となる優秀な冒険者達も集っております。ご案内しますので、ご同行の程よろしくお願いします」

 

「来たか!」「いよいよですね」「あぁ!」

 

 俺以外の三人はワクワクと目を光らせて部屋を出ていく。

 

「すぅ...ふぅ...」

 

 深呼吸を1つ、俺は少し遅れて歩き出した。

 

 ────────────────────────ー

 

「勇者様のご来場」

 

 謁見の間への扉が開かれると、昨日のメンバーに加えて12人の男女が居た。

 おっ!あれが燻製か、ふてぶてしい顔してやがる...そんでもって諸悪の根源、作中全ての悪の一片というべき女も居た。

 

 うわー、事前情報無しだとただの滅茶苦茶美人な女の子だなぁ...うげ、にっこり微笑まれた。

 更に視界の端で観察していると尚文にもにこりとほほ笑んでいるのが分かった。

 

 ほんと勘弁してくれよな...いくら作中でとんでもない事をしでかす奴だって分かってても、殺すとか考えたくもない。大人しく王城に引きこもっててもらいたいもんなんだが。

 

「先日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ...さぁ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 クズの掛け声と共に目の前の冒険者達が歩き出す。

 さて、錬の仲間達は良くも悪くも普通の人達だったはずだし、問題児は粗方元康や樹が受け入れてくれるはず...いや、燻製は最初剣の勇者の所に来るんだったか?

 

 来るな、来るな...ほっ!樹の方に吸い込まれてくれた!良かった!

 ただ、ついでに錬の仲間になるはずのチャイナ服の女の子も元康の方に吸い込まれていった...

 俺の後ろには三人、野盗っぽい斧のおっさんと、魔法使いっぽい気難しそうな本のおっさん、レンジャーっぽいナイフのイケメンが来た。

 むさ苦しい...これからこの面子でずっと旅するのか。でも、問題行動を起こすようなメンバーじゃないはずだからある意味安心はできるな。多分この中で一番良いチームかもしれない、剣の勇者が俺な点を除けば。

 

 元康、5人。樹、4人。俺、3人。尚文、0人。

 

 俺のせいで多少ずれているが、一応ある程度原作沿いの面子ではある。

 

「ちょっと王様!!」

 

 尚文が叫ぶ。

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

 

「人望がありませんな」

 

 けっ、白々しい。いかにも困惑してますって顔してるが周りの奴らは嘲笑してるのが丸わかりだ、胸糞悪い。

 周囲を囲っている奴らの一人がクズに耳打ちする。

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか...」

 

「何かあったのですか?」

 

「実はの...勇者殿の中で、盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

 

「はぁ!?」

 

「伝承において、勇者とはこの世の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 

「なんだよそれ...」

 

「昨日の雑談、盗み聞きされてたんじゃないか?」

 

 元康が小声で尚文に言う。

 

「盗み...!?なぁ元康!お前5人も居るなら一人くらい分けてくれよ!!」

 

「そうは言われてもなぁ、本人達の意思が大事だと思うし...な?」

 

「世界の理っつっても、俺は鋼也に強化方法も教えて貰ったし!そりゃあ元康や樹みたいにはいかないかもだけど他の情報だってすぐに集められる、いくらなんでもこれは酷いじゃないか!なぁ!?」

 

 尚文が俺の方を見つめて来る。うぐ...こっちに振るなよ。庇いたくなるだろ...

 

「あー...そうだな。理云々言うなら俺もあんまり変わらないです。正直、俺は尚文に知ってる情報はいくつか渡してるから似たようなもんだし、仲間として戦うなら盾の勇者の方が優秀だと思うん、ですけど...」

 

 俺は後ろを見る、三人がブンブンと首を振る。

 まぁ、ここで尚文の所に行ける奴なら最初から行ってるよな。

 

「...っ!!樹、どう思うよ!これって酷くないか!?」

 

「そうですね...しかし無理矢理分けるのは士気に関わりそうですし...」

 

 あ──!!見てられない!!辛い!!どうやって助けたらいいんだ俺は!!?

 でも下手に動いたら俺も尚文も命が危ないし!!どうする...!?まじでどうすればいい!?

 

「じゃあ、なんだよ...俺は一人で旅立てってか!?」

 

 尚文の顔にどんどんと怒りで皺が寄っていく。

 見てらんねぇよ。

 

 俺は顔を手で覆う。

 

「あ、勇者様!私は盾の勇者様の下に行ってもいいですよ」

 

 元康の列からビッチが声を上げた。ギリっと奥歯を噛みしめる。

 言いたい。糾弾してやりたい。こいつはビッチだと、こいつは世界の害悪なのだと...

 

 でも、そんな事言ってもまだこいつは何もやって無いし、女王が来るまではまともに裁く事も出来ない。それをできる実力もまだ俺には無い。

 

「ほ、ほんとか!?」

 

 尚文の顔がぱぁっと明るくなる。

 

「はい」

 

 ビッチがにっこりとほほ笑む。気色悪い...

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?...しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

 クズがそう締めくくる。

 とんだ茶番だ...最低だよ。そして、それを尚文に伝えない俺も最低だ。

 

 分かってる。今は苦しいけど、これから尚文には良い仲間がいっぱいできて、少しずつ信頼を稼いで...

 その為にはここは必要な儀式なのは分かってる。

 それでもいざ目の前のやり取りが行われると、我慢ならないと思ってしまう。

 

 槍直しでは元康もうちょい堪えろよとか思ってたけど、実際に眼前で繰り広げられるとこうも醜悪なのか。

 周囲の嘲ったような笑い顔が嫌に目につく。

 

「それでは支度金である。勇者達よ、しっかりと受け取るのだ」

 

 俺達の前に四つの袋が配布される。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚を用意した。これで装備を整え旅立つがいい」

 

「「「は!」」」

 

 俺以外の勇者はクズに敬礼して、謁見が終わった。

 今は勇者と仲間達がそれぞれ自己紹介をしている時間だ...

 

「様...あの、勇者様...?」

 

「はい?」

 

「いえ、その...よろしければ自己紹介をさせていただきたく...」

 

 魔法使いっぽいおっさんが少し不安げに俺に声をかけてくる。

 はぁ...一旦切り替えないと。これから俺はこの人達と旅に出るんだ。それに、この人達は別に悪い人達じゃない。カルミラ島での仲間交換では尚文に謝っていたはずだ。

 俺の勝手な怒りでこの人達に迷惑をかけるのは違うだろう。

 

 俺はバシンと自分の頬を叩いて気持ちを切り替えた。

 

「すみません。俺は剣の勇者の剣崎鋼也です。これからよろしくおねがいします」

 

 なるべく笑顔を心がけて自分からあいさつした。三人は露骨にほっとしたような顔をしていた。

 

「よろしくお願いします剣の勇者様。それでは僭越ながら私から...私はオミット=エーデルハイムと申します。水と火の魔法を得意としておりますので、勇者様を後方から魔法で支援させていただきます」

 

「よろしくお願いします、オミットさん」

 

 俺はオミットさんと握手する。

 

「そんな恐れ多い。是非、オミットとお呼びください」

 

「いえいえ、目上の方を呼び捨てというのは少し...ま、まぁ慣れてきたらという事で」

 

「かしこまりました...それでは次は貴様だ」

 

 オミットさんが斧野盗さんに視線を向ける。

 

「わかっとるわ...俺はボルドー、見た通り斧使いだ。よろしくな、剣の勇者様」

 

「よろしくお願いします、ボルドーさん」

 

「貴様!剣の勇者様に失礼だとは思わんのか!?」

 

「あぁん?別に勇者様は拒んでねぇだろが、お前に文句言われる筋合いはねぇな」

 

「なんだと!?」

 

「あはは...」

 

「すみません、剣の勇者様...この人達元は同じパーティみたいで、ずっとこんな感じなんですよ。ま、戦闘になったらちゃんと協力できるんで許してやってください」

 

「はぁ...そういうあなたは?」

 

「おっと失礼...俺はフィート。見た通りレンジャーやってます。武器はこのナイフ二本で、奇襲が得意です。他にも罠だったり、森に関しては任せて欲しいですね」

 

「なるほど...お願いしますねフィートさん」

 

「いやいや、多分同い年くらいですよね?俺は呼び捨てで構いませんよ?」

 

「あー...まぁ、おいおい」

 

 フィートさんが少しわざとらしく肩を竦める。悪かったな、いきなり他人を呼び捨てに出来るほど勇者メンタルしてねぇんだよこっちは。

 

 でも、なんかちょっとだけ肩の力が抜けた気がする。これなら上手くやっていけそうだ。

 

「俺の事は気軽にコウヤって呼んでください。まぁ剣の勇者様でも良いんですけど」

 

「かしこまりましたコウヤ様」「あい分かった」「分かりました」

 

 各々了承の意を示してくれる。

 

「えっと、それじゃあ早速出ましょうか」

 

「はい。まずは装備を整えましょうか」

 

「そうですね...それじゃあここらで有名な武器屋とかあったら案内してもらってもいいですか?」

 

「了解です。この国一番って言われてる武器屋があるんでそこを紹介しますね」

 

「ありがとうございます」

 

 多分、エルハルトの武器屋だろう...ウェポンコピーもさせてもらうのが良いだろうな。一応了承は貰っておこう。

 

 フィートさんに先導されながら謁見の間の出口に向かっていく。

 

「おっ、鋼也!」

 

 尚文に声をかけられた。う、今はちょっと気まずい...

 

「これからお互い頑張ろうな!」

 

「あぁ...頑張ろう」

 

 俺は尚文に手を振ってすれ違う。碌に顔も見れなかったな...

 うぅ...明日には冤罪事件だ。分かってる、中立くらいの立場の意見を言うのが一番マシだとは思う。

 けど、本当に俺はそんな事が出来るのか?今日でさえこんなに心を揺れ動かされたのに、本当に...?

 

 くそっ、頭が痛くなってくるな。

 

 そこから俺はなんとか仲間達には平静を装いながら武器屋へと向かった。

 

 

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