剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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ストック切れたのでこれから...というか前回から週1投稿にさせていただきます。
火曜日の夜7時に投稿予定です!


聖域

 次の日、俺は皆を乗せた馬車を引き全力で街道を駆けていた。

 通り過ぎる人達のバケモノを見るかのような視線も慣れたものだ...いや、城下町に通じるメインの街道だから人が多くて普通に恥ずかしいけれど。

 

 まぁ仕方ない。俺以外引ける人間が居ないんだからな...いや、そもそも人間が引くなと言う話ではあるんだけどね。

 

「よし...ついた」

 

 三勇教会の前にたどり着いた。

 

「お、お待ちしておりました。剣の勇者様...早速準備出来ておりますので、中にお入りください」

 

 俺は意識を、対メルロマルク用のクズ人格モードにシフトする。

 

「ふぅ...あぁ。動けない奴らをいちいちここから運ぶのも面倒だ、馬車ごと中に入るが構わないか?」

 

「馬車ごと...ですか?いえ、まぁ...そういう事でしたら」

 

 えっほらと馬車を教会の中に入れた。

 

「....お待ちしておりました。剣の勇者様...馬車を勇者が引いていると風の噂で聞いたことはありましたが、まさか事実だったとは思いませんでしたよ」

 

「俺は細かいステータスにも気を使っている。トレーニングの一環なんだ。敏捷性とスタミナが向上する」

 

「そ、それは素晴らしい事ですが、できれば今後はお控え願いたい。馬などは我々でも用意できますので」

 

「....教皇がそう言うのなら、控えておくとしよう」

 

「えぇ、ありがとうございます...」

 

 教皇がハンカチで汗を拭っている。馬車を引いてるからってそこまでドン引きしなくても良いだろうに。

 

「ゆっくりとお話していたい所ですが、勇者様の呪いを解除する事を最優先と致しましょう...皆の者、儀式魔法『聖域』の準備を!」

 

 教皇の声に、三勇教の信徒達が各々詠唱に入る。

 流石にこれだけの人間に囲まれると壮観だな...いずれこれが全て敵に回る可能性が高いのだ。そう思うと少し恐ろしい物があるな...

 

 俺は皆を馬車から降ろして床に寝転ばせる。馬車の中だから魔法の対象に出来なくて効果が無かったとか言われたら困るしな...

 

 やがて、全ての準備が整ったのか魔力が周囲に満ちる。

 念のため軽く警戒していたが、攻性的な魔力ではない事から恐らくきちんと聖域が使われるだろう。

 

『『力の根源たる私達の神が命ずる。真理を今一度読み解き、奇跡として呪いを浄化してください』』

 

「高等集団浄化魔法『聖域』!!」

 

 周囲が白い光に包まれて、俺の体内に巣くっていた呪いがじわじわと剥がれていくのを感じる。

 

「おぉ...!体が動く!!」

 

「なの!!」

 

「すごい...」

 

 光でうまく見えないが、みんなが立ち上がっているのを感じる。良かった、これでみんな呪いから解放される。

 俺の方の呪いも、どんどんと剥がれていって...ただ、何か核のような物が残っている感覚がある...まぁそれも聖域の力で完全に休止しているようだが。

 聖域でもダメなのか...?どれだけしつこい呪いだよ!

 

「やったー!動ける!!ありがとうみんなー!!」

 

「ありがとうなのー!!」

 

 キール君達がはしゃいでいる。

 

「おい、あまりはしゃぐな。ここは神聖な教会なんだからな」

 

「あっ...そうだった。えと、ごめんなさい。剣の勇者様...」

 

「ごめんなさいなの」

 

 二人が俺が事前に打ち合わせていたように、剣の勇者様を主として敬っているような演技をしてくれる。覚えていてくれてよかった...呪いが解除された嬉しさで打ち合わせを忘れたかと思った。

 

「うるさくてすまなかったな。ようやく動けるようになって興奮したんだろう。子供のやった事だ、許してやってくれ」

 

「えぇ、神は慈悲深いものです。そのような無礼もきっとお許しになるでしょう...神の慈悲に感謝するのですよ」

 

「あぁ。感謝する...ほら、お前たちも」

 

「感謝します」

 

「感謝するわ」

 

「感謝しまーす」

 

「するなのー」

 

「ありがとう...ございます」

 

 一部メンバーが若干怪しいけどみんな頭を下げてくれる。

 

「さて...と。約束通り聖域での治療をしてくれて感謝する...まぁ、俺の呪いは完全には解除出来ていないようだが、手抜かりがあったようには見えないから仕方ないな」

 

「なに...?いえ、確かに未だあなたの中に呪いが残っておりますね...もう一度聖域を発動なさい」

 

 教皇の声でもう一度聖域が発動されたが、それも効果が無かった。

 もはや儀式魔法ですらどうこうできる代物じゃないのだろう。

 

「もういいぞ。この呪いはそう簡単に解除出来る物じゃ無いんだろう...ステータスが回復してるだけでも充分だ」

 

「...申し訳ありません。我々の力不足だったようです」

 

「気にしなくていい。それよりどうだ?一日あったんだ、元康と樹の能力は確認できたか?」

 

「えぇ。今までとは比較にならない程の力を振るっているとの報告がありました」

 

「そうか。なら...これで取引は成立だ。これからもお互い、良い関係で居たいものだな」

 

「えぇ。神のお導きに感謝いたします」

 

「それで?もう特に用事が無いのなら俺達はすぐにでもギルドに向かうつもりだが?」

 

「そうですね...では一つ。この国では奴隷以外の亜人は認められておりません。奴隷紋の他に、はたから見て分かりやすいような装飾があると良いでしょうね...」

 

「細かい体裁を気にするもんだな...ふん、分かった。首輪でも付けておいてやる」

 

「それが良いでしょう...また、勇者様には奴隷などではなく優秀な手足となるお仲間が必要でしょう。ギルドなどで冒険者をお雇いになるのはいかがですかな?」

 

「良い奴が居たらな...なんなら、そっちで用意してくれて構わないぞ?まどろっこしいのは嫌いでな。俺の監視をさせたいならそう言ってくれた方が俺は嬉しいんだがな?」

 

「そのような事はございませんとも。純粋に勇者様に仲間が居ない事を憂いただけでございます...ですがまぁ、そういう事でしたらこちらの方で信頼できる者をご用意いたします。一度クエストを終えて城下町に戻った際にご紹介させていただいても?」

 

「好きにしろ。別に何でもいいんだが、そうだな...回復の魔法が得意な奴が欲しいな。俺の適正ではその辺りが少々足りていないんだ」

 

「承知致しました」

 

「それじゃあな...みんな、馬車に乗ってくれ」

 

 みんなが粛々と馬車に乗り、俺が引こうとすると司祭の一人が俺の前に立ちはだかった。

 

「勇者様...もう少しお待ちください。ただいま牽引用の魔物の用意をしている所ですので...」

 

「...そういえばそんな話もあったな。外で待ってるから連れて来ておいてくれ」

 

 それから俺はついに、馬車馬の勇者から解放されたのであった。

 

 ────────────────────────────────────────

 

 パカラパカラと馬を走らせ、魔物商の所に到着する。影は居ても俺達の声は聞こえないくらいの距離だろう...ここなら多少騒いでも問題無いな。よし...

 

「ちぇ...にしてもカンジわりーよなぁ。俺達はちゃんと兄ちゃんの仲間だってのに!」

 

「これが剣の勇者が言ってた亜人差別なのね...どいつもこいつも見下してきてムカつく!!」

 

「しょうがないわー。あそこは亜人差別の総本山だもの...お姉さんもいい気はしなかったけどねー」

 

 みんな不満たらたらのようだ...そりゃそうだな。あんだけ汚らわしい物を見る目で見られたら腹立つに決まってる。

 そんな皆にお願いするのは申し訳ないけど...やるしかないな。

 

「みんな...本当にごめん!!悪いんだけど、これから首輪をつけてくれるかな?なるべく邪魔にならない物を選ぶし、人が居ないときは外せるようにするからさ...!」

 

「首輪...まぁ、勇者様の仲間じゃなくて奴隷だっていうパフォーマンスをさせたいんでしょうねー。みんな、ルロロナ村のみんなを助ける為と思って我慢してくれる?」

 

「嫌な奴らの所に居た時を思い出すからあんまり付けたくは無いけど...ま、兄ちゃんのお願いだからしょうがねー。いいぜ!」

 

「私も...はい」

 

「い、や!!」

 

「お姉ちゃんワガママ言わないなのー」

 

「私は剣の勇者の奴隷になった覚えは無いわよ!」

 

「わかった、基本は無理強いするつもりはないよ。付けると言ってくれた二人も普段付ける必要は無い...だけど、城下町にいる時だけは付けて欲しい。この通り...!!」

 

 俺は頭を下げる。

 

「...わかったわよ」

 

「ほんと!?」

 

 俺が頭を上げるとウィンディアちゃんがいたずらっぽい笑みを浮かべていた。

 

「本当は嫌なのを我慢するんだから、その代わりあんたも我慢しなさいよ」

 

「が、我慢とは...?」

 

「いつも付けろとは言わないから、私が言った時はあんたも首輪を付けなさいよ。そんでその時は私の命令に絶対服従!」

 

「な...!」

 

 こ...この歳でなんて事を考えるんだこの幼女は...!流石は将来の鞭の勇者といった所か...才能あるんじゃないか?

 

「わ...分かった。確かにみんなに付けさせておいて俺は付けないのは道理に合わない。その時はみんなの命令に忠実な奴隷になるとしよう」

 

「お姉ちゃんナイスなの!!これでコウヤを好き勝手出来るなのー!!」

 

 急にガエリオンちゃんが騒ぎ出す。

 

「いや、あまり好き勝手されても困るんだけど...」

 

「一度吐き出した唾は呑みこめないなの!コウヤはガエリオンの思い通りなの!!」

 

「うーん...兄ちゃんに何でも命令出来るのかぁ!何頼もっかなぁ...!」

 

「あらー。お酒いっぱい買ってきてもらおうかしらー?」

 

「お手柔らかにお願いしますね...いやマジで」

 

 まぁ、俺が奴隷になる事でみんなが楽しそうにしてくれるなら...いいか。差別で嫌な気持ちになってるよりはずっといい。

 

「それじゃあ、色々用事済ませてくるからみんなここで待っててね」

 

「コウヤちゃん、私もちょっとあそこに用事があるの。一緒に行ってもいいかしらー?」

 

「もちろん構わないですけど...うーん。まぁ、教皇に協力するって言ってる今なら問題ないか。それじゃあ俺とサディナさんで魔物商の所に行くから、なるべく馬車から出ないように!なにかあったら大声で呼んでね」

 

「わかった!」「なのー」「ハイハイ」「...うん」

 

 各々が思い思いに返事してくれる。個性が出て良いな、なんか。

 

「それじゃあ行きましょうか」「えぇ」

 

 ───────────────────────────────────────────────────

 

「これはこれは剣の勇者様...!先日はお越しいただいたのに挨拶も出来ずに申し訳ない!」

 

「いえいえ、急に訪ねたのでお気になさらずに」

 

「そう言って頂けると幸いです、ハイ...それで、本日はどのようなご用向きでしょうか?」

 

「前回の伝言の確認と、それに伴う費用の追加支払い...後は奴隷用の首輪を5つ購入したいんです。なるべく戦闘の邪魔にならないもので」

 

「ほうほう...伝言についてはきちんとお聞きしておりますです、ハイ!ルロロナ村の奴隷達で、特に国外に出ているものはその場に待機させております。国内に居た者も、少なくとも城下町には置いておりません...これでご満足ですかな?」

 

「えぇ。ありがとうございます」

 

「いえいえ、何があったかは聞いております。伝言が無くともそのように対応させていただきましたとも...!顧客の要望には最大限答えるのがモットーですので、ハイ!」

 

「それ相応の金銭を支払えば...ですよね?」

 

「モチロンでございます!我々商売をしておりますからね、ハイ」

 

「という訳で、追加の資金です。銀貨2500枚あります。これでどれくらい凌げますか?」

 

「そうですなぁ...剣の勇者様がご満足される最低限の衣食住に購入資金を合わせると、現在ご購入いただけた奴隷が14人で平均しておよそ銀貨80枚程度の価値となり、銀貨1200枚程。一人の維持費に一日銅貨10枚ほどとなりますので...しばらくはこれで充分でございます...今後奴隷の追加があるにしても数か月は凌げます、ハイ」

 

「そうですか。まぁ、値段が上がった奴隷が居たり病気にかかったりなんかもあるでしょうから余裕を見ておきます。またある程度纏まった資金を手に入れたら渡しますね」

 

 もう村の子が14人も集まったのか...流石の手際だな。とはいえ、その人数は流石に面倒見ながら戦いは出来ないから...やはり今しばらく預かってもらうしかないな。村の皆には我慢してもらう他ない。

 

「かしこまりましたです...そうそう!お預かりした財宝の換金も終わったのですよ。こちら、金貨70枚分少々となります」

 

「おぉ...」

 

 親リオンの養育費は金貨70枚になったのか...これだけあれば普通に生活する分には全く困らないな。

 

「とりあえず、そのお金はそのまま預かっておいてください。信頼して預けるんですから、手は付けないでくださいよ...奴隷の買い付け状況や報告を聞くために定期的にここに来て、その時に確認しますから...もしもその時に満額無ければ、わかってますね?」

 

「えぇ!モチロンでございます!我々、信頼第一をモットーとしております。剣の勇者様は上客でございますからね、その信頼を損ねるような事はいたしませんとも!」

 

「まぁ、そういう点では俺も信頼してますよ。それじゃあ首輪を...」

 

「コウヤちゃん、ちょっといいかしら?」

 

「サディナさん?」

 

「私を、コウヤちゃんの奴隷にして欲しいの」

 

「え...サディナさんを!?そんな事できませんよ!!」

 

「この国の...これからコウヤちゃんが相手をする人達がどういう思考をしているかは今日の事でよーくわかったわ。奴隷じゃない亜人を連れているのはリスクでしょ?例外はウィンディアちゃんだけにしておくべきだわー」

 

「それは...そうかもしれませんけど」

 

「それに、あの様子なら人前で奴隷紋を使わないといけない場面も出て来ると思うの...その時、できればキールちゃんやニーナちゃんじゃなく、私に奴隷紋を使って欲しいのよ」

 

「でも、それらは可能性の話でしょう?自ら奴隷になるってのは...キール君達だって問題が解決して奴隷紋の解除薬が用意できるようになったら解除しようかと考えてるくらいですし...」

 

「でもそれは今じゃなくて、少なくともしばらくは私達皆は対外的にコウヤちゃんの奴隷としてやっていくでしょー?その代表として、一番矢面に立てるようになっておきたいの」

 

「サディナさん...」

 

「それに、勇者様の奴隷は特別な成長を出来る...私はもっと強くならなきゃ。前みたいに、簡単にやられるようじゃダメ。コウヤちゃんをしっかりと横で支えられるように...置いて行かれないようにしたいの」

 

 サディナさんの真剣な瞳が俺を貫く。

 

「.....わかり、ました。そこまでの覚悟なら、契約しましょう」

 

「えぇ、ありがとうね」

 

「こちらこそです。なんでもするって言ってたのに、まだ覚悟が足りてなかったみたいですね...俺」

 

「それがコウヤちゃんの良さだと思うからそれはそれでいいと思うけどねー。けど、私には遠慮は要らないわ。村を復興する為ならどんな事だってやってみせる。その覚悟はあるつもりよ」

 

「はい!サディナさんの覚悟に応えてみせます」

 

「お願いするわー」

 

「...という訳で、この人の契約も追加でお願いします」

 

「かしこまりましたです、ハイ!自ら奴隷になりたいと言うように仕向けるとは...剣の勇者様もかなりの手腕をお持ちのようですな!私少々ゾクゾクしてまいりました!!」

 

「違うけどまぁそれでいいです...奴隷紋の契約費と首輪代も銀貨2500枚から出しておいてください」

 

「ええ!なるべく邪魔にならない首輪となると...こちらのエアウェイク加工の首輪となるでしょうな!一つ辺り銀貨20枚となりますです!」

 

「それなりの出費だな...まぁ、クエストで稼げばいいか。じゃあそれでお願いします」

 

「ハイ!それでは早速準備致しますので、少々お待ちください」

 

 魔物商は奥に引っ込んでいた。

 まさか、サディナさんが俺の奴隷になる事になるとは...いや、もちろん奴隷として扱うつもりは一切無いけどね。やましい事なんて何も考えてないけどね!てか、あれだけの覚悟を見せられてやましい事考えるのは失礼すぎるだろバカか...!

 サディナさんをチラリと見ると目が合った。

 

「逆らえないからって、イケナイ事しちゃイヤよ?」

 

 ウインクしながらにっこりと凄い事を言って来る。不味い、顔に出てたか...!?死ね!俺!!!完全にからかわれてるじゃないか!!

 

「勘弁してください...」

 

 サディナさんがどうなろうと俺がサディナさんに勝てる事は無いんだろうなぁ...

 そう思い知らされる一幕となった。

 

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