剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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クエスト

「はい、それじゃあ皆ごめんだけどこれを付けてね」

 

 俺は人数分の首輪を配る。見た目はゴツくてそこそこ重そうだが、エアウェイク加工されているので付けてもほとんど重みは感じなかった。もちろん実体験済だ。

 

「おぉ?兄ちゃんこれ全然重く無いぞ!!?」

 

 キール君が早速着用してくれた。

 

「なるべく邪魔にならないように高いの選んだからね。これなら付けてても辛くはないでしょ?鍵もかけないから、ここのロックを外せばすぐに取れるし...」

 

「ふーん。これならちょっと首が動かし辛いだけで楽だなー」

 

「えっ!?サディナさん奴隷になっちゃったの!?」

 

 キール君と喋っていると横から大きな声が聞こえた。

 

「えぇ。みんなを守る為にはこれが一番だと思ってねー。もちろん、コウヤちゃんは反対してくれたわよー?でも、私が決めたの」

 

「でも、それじゃあ私...」

 

 ウィンディアちゃんが自分だけ奴隷じゃない事に不安になっているようだ。

 

「気にしなくていいのよー。奴隷なんて本来なるべきものじゃ無いんだから。ウィンディアちゃんはそのままでいいのよ?むしろ、そのままで居るべきだわ」

 

「そうそう。ウィンディアちゃんを奴隷にしたなんて言ったらお父さんに呪われるかもしれないしね...本来なら皆の奴隷紋を解いてあげたいくらいなんだ。皆がなってるからなる必要なんて全くない...むしろなるべきじゃない。サディナさんはそれなりの覚悟で俺に奴隷紋を預けてくれた。ウィンディアちゃんには奴隷にならなきゃならない理由は全く無いでしょ?...というか、禁則事項付けてないから他の皆も実質的には奴隷って訳じゃ無いしね」

 

「...分かった。そうね、というかそもそも剣の勇者の奴隷とかゴメンだったし!!...解けるようになったら皆の奴隷紋ちゃんと解いてあげなさいよね!約束だから」

 

「アハハ、うん。もちろんだよ」

 

「よし...それじゃあ、今からギルドに行ってクエストを受注してくるから...久々に皆で戦おうか。ニーナちゃんは...サディナさん、今回はお願いします。流石にこの人数で戦闘するなら俺の手は空けておきたいですし、ニーナちゃんもその方が安心するでしょうから」

 

「わかったわー。けど、その必要は無いと思うわよー?」

 

「え...?」

 

「ほら、ニーナちゃん。頑張って!」

 

 サディナさんがニーナちゃんの背を優しく押して俺の前に連れて来る。

 

「えっと...その。怖い、けど...何もできないのは嫌だから...私も、勇者様の役に立ちたい...から、今日こそ...頑張ります。私も、戦えるように、なりたい...皆を守れるように、なりたい!」

 

「ニーナちゃん...うん。分かった、それじゃあ一緒に頑張ろうか!ちょっとづつ慣れていけばいいからね?まずは俺や皆の戦いを見ながら、魔物に慣れていこう!ニーナちゃんの頑張りは絶対に報われる。俺が居れば君は絶対に強く...ううん、なりたい姿にきっとなれる。それがどんなものでもね。だから、一歩一歩頑張ろう!今日からはキール君も、ウィンディアちゃんも、ガエリオンちゃんも、サディナさんも...もちろん俺も、みんな一緒だから、いっぱい頼っていいからね」

 

「うん...!」

 

 ニーナちゃんの頭を撫でると嬉しそうにしてくれた。

 なんて...なんて健気な子なんだ...!おじさん泣いちゃいそう。教皇共とつるんで荒んだ心が潤っていくようだ...

 

「それじゃあ出発!」

 

 ────────────────────────────────────────

 

 冒険者ギルドに行くと、この前めちゃくちゃ態度悪かった職員にペコペコ頭下げられながらいくつかのボードに貼り付けていない、恐らく勇者専用のクエストを見せられた。

 態度の豹変が凄いな。まぁ、彼も色々と大変なんだろう...同情しないでもない。

 

「波による環境変化で異常発生した魔物の討伐と、悪徳貴族の調査依頼...」

 

 報酬が美味しくて、今受けられるのはこの辺りになるだろう。

 悪徳貴族は悪徳と言う名の、この国に都合の悪い貴族をわざと悪のように見せて潰したいという可能性もあるし、原作みたいにその悪徳が必要悪...というか、やらざるを得ない悪の可能性もある。そんなの俺だけじゃ正確な判断は難しいだろう...確実に被害を出していて、単純明快な魔物討伐を選ぼう。倒したことない魔物だから剣の解放にもつながるし。

 

「それじゃあこっちの依頼でお願いします」

 

「かしこまりました。それではどうぞよろしくお願いいたします...!!」

 

「あの...前回の態度は、あなたの立場を考えれば当然の物でしたし、充分に謝罪はいただきましたし、あまりお気になさらずにね?」

 

「きょ、恐縮でございます...!!」

 

「ハハ...ハァ。それじゃあ行ってくるので」

 

「ご、ご武運を...!!」

 

 なんか、色々やりづらいなぁ。

 

 ──────────────────────────────────────────────────ー

 

 それから3日かけて、依頼を出した村へとたどり着いた。もう少し早く到着できたけど、普通に向かえばそれくらいかかると言われたので充分だろう。

 そうそう...今回気付いたのだがニーナちゃん、海での魔物の狩りは割と問題が無かった。

 基本船で浮いてもらっているのもあるけど、漁村だけあって魚の死体は見慣れていたらしく、陸の魔物と比較すると抵抗が少なかった。

 サディナさんと俺の全力のレベリングによって短時間でみんなのレベリングはみるみるうちに捗り、何度も何度も資質向上をかけていく。

 依頼達成も大事だが、レベリングも大事だからな...ある程度進んで宿を取ったら、ポータル登録してルロロナ村に飛んで海でレベリングというのを3日間で繰り返した。

 

 お陰でみんなのステータスはかなりの上昇を果たしている...これでクラスアップすれば、勇者クラス以外に勝てる奴はいなくなるだろうな。

 ただ、クラスアップはドラゴンの特殊なクラスアップをする予定なのでまだしばらくできない。どこかのタイミングでドラゴンの核石狩りに集中しないとだ。限界突破のクラスアップはタクトの所の龍の竜帝の欠片が必須だけど、通常のドラゴンのクラスアップなら竜帝の欠片を集める事で増えていくドラゴンとしての技能で出来たはず。

 

 そんなこんなで現在、問題の依頼にあった魔物の討伐に来ている。

 ビック・ホッパーと呼ばれる大型のバッタ型の魔物だ。ありとあらゆる植物を貪りながら増殖しているらしく、今は村近隣の森で猛威を振るうだけで済んでいるがそろそろ人里にまで被害が及びそうらしい。

 

「うへぇ...こんなにいっぱい居るのか...」

 

 キール君が獲物の剣を構えながらドン引きしていた。

 俺も引いている。森の中の木と言う木に大型のバッタが止まっているのだ。気持ち悪い事この上ない。

 

「で、でも...ち、血が出ない、虫さんなら...!」

 

 ニーナちゃんはドロップで出た大剣をステータスの暴力で背負いながら俺にしがみつく。今日が初めての魔物との戦いの挑戦だ。確かに真っ赤な血が出ない虫型の魔物は初挑戦にはぴったりなのかもしれない。

 色々と武器を試し振りしてもらったのだが、大きな剣が一番安心できるらしい...なんか、たった数日ですごく逞しくなっちゃったな。ルスタイ種の種族特性も力持ちが自慢らしく、サディナさんからも太鼓判を貰って適性のある武器らしい...後なんかレベリングのせいでグングン成長している。既に幼女を超えて少女を超えかけている。

 一度拒否しようとして泣きそうになったから耐えてるけど、これだけ成長した女の子に抱き着いて甘えられると辛い物がある...

 ルスタイ種なのでね。色々とね...俺の頬は自分で殴りすぎて真っ赤超えて真っ青な痣を作りまくっている。

 

 サディナさんに助けを求めて視線を送っても、呆れたように首を振られるだけだ。むしろ俺が困ってるのを楽しんでいるまである。

 そしてウィンディアちゃんからの視線は絶対零度に届きそうだし、ガエリオンちゃんも対抗して甘えて来て暑苦しい...

 

 あぁ、キール君だけが癒しだ。いや、ある意味これだけニーナちゃんに信頼してもらえてるのは勇者冥利ではあるのだろうけど、肉体相応の慎みを持ってもらいたい...でも、つい一昨日までごりっごりの幼女だったニーナちゃんにそれを求めるのは酷だろう...つまり俺が鋼の精神で耐えるしかない!!

 

「よ、よし!ニーナちゃん。早速だけど頑張ってみよう!俺達がついてるから安心していいからね!!」

 

「うん...!」

 

 ニーナちゃんが重さを感じさせない程に軽く剣を構えて、じりじりとビック・ホッパーへと近づく。

 

「え、えい!!」

 

 ニーナちゃんが目を瞑って力いっぱいに剣を振るい、グバシャ!!!とビック・ホッパーが止まっていた木ごと一緒にぐしゃぐしゃにへし折られた。

 

「や...やった...できた!...できたよ勇者様!!」

 

 ニーナちゃんが俺に抱き着いてくる。

 

「う、うぉ...!うん!よ...よくできたね!!ニーナちゃん...!!」

 

「うん...!できた!私にもできた...!」

 

 ニーナちゃんがぎゅうっと抱き着いてくる。ぐ、ぐわぁぁぁあ!

 

「ほら、ニーナちゃん。コウヤちゃんが困ってるわよー?それに、魔物も音に反応していっぱい来てるから、構えないとねー」

 

「サディナお姉ちゃん...うん!私、もっと頑張る!」

 

 そういってニーナちゃんは俺から離れて、キール君と一緒に魔物に向かって剣を構えた。

 

「うぅ...すみません。ありがとうございます、サディナさん」

 

「えぇ。普段なら面白がって終わりで良いけど戦闘中は流石にねー。ニーナちゃんには今晩お姉さんが色々と教えておくから、コウヤちゃんはひとまずどんどん魔物を倒しちゃって。私もすぐにみんなのフォローに向かうわー」

 

「は、はい!行きます...!」

 

 サディナさんに呆れられた...!畜生!!チェリー剣崎にどうしろっていうんだこんなの!!

 俺は頭から煩悩を消し飛ばす為に無心で剣を振るう。

 

「兄ちゃん遅いぞ!もう俺、10匹も倒したぜ!そうだ...倒した数で勝負だ兄ちゃん!スキルは無しな!」

 

「キール君...!いいよ。よし、それじゃあ今からスタート!ニーナちゃんはここでサディナさん達と一緒に魔物と戦う練習をお願い!」

 

「ガエリオンも参加するなのー!」

 

「あ...勇者様行っちゃった...ウ、ウィンディアちゃん。一緒に、戦ってくれる...?」

 

「ガエリオンも行っちゃったし...良いよ。私が魔法でフォローしてあげるから、サディナさんと一緒に魔物と戦ってみて?」

 

「うん...!ありがとう、ウィンディアちゃん!!」

 

「別に、仲間なんだから当然だし」

 

「あらー。それじゃあお姉さんも張り切っちゃおうかしらー!」

 

 そうして俺達は、バッタの魔物を全力で狩り尽くした。

 

 バッタに混ざって襲って来る獣の魔物は、まだニーナちゃんは自分で斬って血が噴き出すのを怖がって倒せなかったけど、倒した魔物の死体から血が出てるのを見るのだけは耐性がついてきたみたいだ。

 資質向上もどんどん進んでいるし、順調にニーナちゃんの願い通り戦えるようになっていっているだろう。

 

 キール君は敏捷に特化した奇襲回避型の前衛アタッカー。ガエリオンちゃんとサディナさんは魔法も近接戦闘もこなす万能中衛アタッカー。ニーナちゃんは火力特化の前衛パワーアタッカー。ウィンディアちゃんは後衛で魔法によるアタッカー兼バッファー...そして俺はスキルと魔法と近接の万能前衛アタッカー。

 やはり若干後衛が不足している。回復は一応龍脈法でガエリオンちゃんとサディナさんとウィンディアちゃんが。後ついでに俺ができるけど、適正はあまりないので回復量がそこまで大きく無い。

 

 中衛のメンバーが多いので後衛に回せばバランスの良いパーティになるだろうし、なんなら中衛が多いのは対応力が高い事を意味するのでこのままでも悪くないと思うけれど、本当に強いていうなら専門のヒーラーが不足しているな。

 

 要望通りなら教皇がヒーラーを用意するとか言っていたけど...スキルを強化しているのとアイテムブックの強化項目で転送剣の限界人数が増えているからまだメンバーを増やせなくはないけど、これ以上増えると経験値が減少してしまうから後一人が限度だろうな。

 まぁ、三勇教側の人間をずっと仲間にするつもりも無いし臨時で増えるだけと思えば問題は無いか。

 あまり慢心するつもりは無いけど、正直今の俺達のパーティで大けがする事ってあまり無いしな。

 強いていうなら海がやばいけど、サディナさんが海中では強すぎる。平気でレベル100とかの魔物をものの数分で死体に変えるからな...

 

 ...なんか、色々と上手く行ってないからこうも順調だと不安に駆られるな。

 まぁ不安がっても仕方が無い。討伐した証の右の触角の山を村長に渡して、クエスト完了の印を貰ったら行きと同じようにレベリングしながら城下町に帰還しよう。

 

 

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