剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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カース

 帰りもひたすらに移動と海でのレベリングを繰り返し城下町に到着した。

 ...帰り道で盗賊退治をしたり、魔物に困っている村を手助けしたりしたとはいえ、一個のクエストに往復で8日か。資質向上は限りが無いからそろそろ一旦終わりにして、クエストの消化を優先した方が良いかな?

 

 いやいや、ひとまず今日城下町で済ませなきゃいけない事だ。

 まずはクエストの報告に行ってから武器屋の親父さんの所に行って、要らないドロップの武器防具を売る。ついでにみんなに必要そうな武器防具があったら買いたいな。

 

 その後素材屋で積んでる魔物の素材を売り払って、強化に必要な素材があれば買い取り、魔法屋でまだ適性を見てない子達の魔法適正を調べて貰って、ついでに魔法書も購入して...あぁ、皆の文字習得と娯楽の為に絵本も買うか。後は旅の消耗品も確保して...金、足りるか?

 

 そんで用事を済ませてから最後に三勇教の所に行って、紹介するとかいうスパイを受け入れて、対価にライ君ノーラちゃんの二人の奴隷紋に登録させてもらおう。

 

「やる事がいっぱいだな」

 

 気が遠くなるが、やるしかない。

 荷物が重くなったせいで動きが随分と鈍ってしまった馬と一緒に馬車を引いてやって城下町付近の街道に突入した。

 

 ────────────────────────────────────────

 

 流石に城下町に入ったら御者に戻って馬だけに引かせてるよ。教皇にも言われてるしね。

 

 サクッとギルドに行ってクエストの報酬を貰ってから、親父さんの所に到着した。

 

「よぉ剣のあんちゃん!2週間ぶりくらいかって...おいおい、随分大所帯になったなぁ。しかも亜人の奴隷ばっかり...あんちゃんもこの国に染まっちまったってか?」

 

「違いますよ!ちょっと色々あって仕方なく格好だけの為に首輪をつけてもらってるだけで、俺はちゃんと同じ立場の仲間として接してますって」

 

「まぁ、奴隷っつー割には身綺麗だし、目も死んでない...第一、剣のあんちゃんはそういうタイプじゃないしな。分かってたぜ?」

 

 ニヤリとドヤ顔をかましてくる。

 

「じゃあ染まったとか言わないでくださいよ...」

 

「いやぁしかし、実際の所どうなんだ?盾のあんちゃんとドンパチやったとか聞いたが...仲良さそうにしてたのにどうしたんだ?」

 

「あー...ここだけの話ですよ?」

 

 俺は親父さんに小声で何があったかを話した。

 

「そうか...そんな事がなぁ。俺が言って何になるわけじゃないが、悪かったなぁこんな国でよ」

 

「いえ、上層部はそうかもですけど、親父さんみたいな人が居るんですからまだまだ捨てたもんじゃないですよ」

 

「ハハッ、そりゃそうだ!」

 

「まぁそうですね。謝罪は要らないですけど、その代わりちょっとまけてもらっちゃおうかな?」

 

「言うねぇあんちゃん!ま、見た所ドロップとやらで全員最低限装備は整えていそうだが?」

 

「そうなんですけどね...ただフル装備って訳じゃないし、やっぱり親父さんの武器や防具の方が信用できるので、何か追加出来そうな物が手頃な価格であったら買っておこうかなと」

 

「嬉しい事言ってくれるねぇ。そんじゃゆっくり見てってくれよ!どうせドロップ品も売却するんだろ?防具見てる間に鑑定してやるから持ってきな」

 

「お願いします」

 

 それからみんなでドロップ品を手渡し、皆の...特に急成長しているニーナちゃんに足りてない装備を補った。

 

「まいど!それじゃあまた次もよろしくな、あんちゃん!」

 

「はい!こちらこそ!」

 

 諸々差し引き、銀貨200枚のプラスとなった。なんか親父さんの所に行くたびにお金貰ってる気がするな...いや、諸々売り払った差引額だから問題ないのは分かってるけど。

 親父さんの所を後にして、素材屋の方向に馬を誘導する。

 

「よし、次は素材屋の所に行くからみんな荷下ろし手伝ってね!」

 

「はーい」「うん...!」「なの」「はいはい」「おう!」

 

 うーん見事にバラバラ。個性が出てていいね。

 早速いつも使っている素材屋の近くに馬車を止めて、素材を売却するべく皆と一緒に荷下ろしをしている時だった。

 

「...なんて美しいんだ!」

 

「え?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえたので横を見れば、元康が居た。

 サッと血の気が引く感覚がする。

 

「美しい貴女...それにキミも、名前はなんて言うの?」

 

 元康がサディナさんとニーナちゃんの手を握る。

 

「あらー?」「ひっ...だ、誰!?」

 

 ニーナちゃんが嫌がっているが、固く握られた手が離せないようだ。顔から血の気が引いてきた。奴隷の時にされた所業で知らない男の人が苦手なはずだから、助けてあげないと。

 

「俺は元康って言います。槍の勇者なんだ...それで?キミ達は?」

 

「元康!二人を離してくれるか?嫌がってるだろ」

 

「痛...!何しやがる...って鋼也?」

 

 俺は二人の手を握る元康の手を無理矢理剥がして二人の前に立った。

 

「何のつもりだ...?俺は今そこの二人に話しかけてるんだ。さっさとどいてくれ!」

 

「どかないよ。二人は俺の仲間なんだから...それに、顔くらい見てくれるか?二人とも嫌がってただろ」

 

「そんな訳ない!俺は選ばれし槍の勇者なんだ...!嫌がられるはずあるもんか!」

 

「あるもんかって...」

 

 不味いな。ゲーム気分にプラスしてしっかりカースの影響を受けてるみたいだ。欲しい物はなんでも手に入るとか思ってそうだな...

 

「さ、二人とも...こんな邪魔な奴は放っておいて、俺と楽しい夜を過ごさないかい?」

 

「うぉっと!」

 

 元康が俺を突き飛ばして、二人に声をかける。

 

「あらー、ごめんなさいね。お誘いは嬉しいけどコウヤちゃんとの先約があるからー」

 

「勇者様...!大丈夫?」

 

 ニーナちゃんが少し姿勢を崩した俺を心配して腕に抱き着いてくる。

 サディナさんに女性としての嗜みを諸々を教えて貰って接触は減ったはずなんだけど...俺に何かあるとすごく心配して忘れてしまうようだ。心配してくれるのは本当に嬉しいけど新しい問題が増えるから勘弁して欲しい。

 

「...勇者ってこんなのしか居ないの?」

 

「コウヤは違うなの!こんなにガツガツしてないなの」

 

「でもニーナちゃんにくっつかれてデレデレしてるじゃん。変態よ変態」

 

 地味にウィンディアちゃん達の会話がグサグサと刺さって来る。

 

「と、とにかく!二人は今日忙しいから、元康は自分の仲間達を食事に誘ってあげなよ!な?」

 

「鋼也、お前...!」

 

 元康がゆらりと槍を構える...おいおい、嘘だろ!?俺は反射的に戦闘用の剣に変更する。

 

「皆さん避難して!!みんな、一般人を守って!!」

 

「え?え?」「...とにかくコウヤちゃん達を囲んで!人を遠ざけて!」「わ、分かった!」

 

 俺の声に困惑しながらも、皆が意図を汲み取って野次馬になりそうな住民たちを守るために散らばってくれる。

 

「よく見たら、首輪なんか付けさせてるじゃないか...お前、さては彼女たちを奴隷にして無理矢理隷属させてるんだな!!」

 

「そ...れは...」

 

 否定する材料は特にない。隷属させてるつもりは無いけど、そんなの言って聞くわけ無いもん。

 

「彼女たちはお前に無理矢理俺の誘いを断るように躾けられてるんだ...!そうに違いない!」

 

「違うって...!そんな事してない!」

 

「誰がお前の言葉を信じるか!!...せっかく仲間キャラになったと思って許してやってたのに、尚文に洗脳されてようがいまいが、結局お前は最低野郎だったって事か!!」

 

 元康の槍からおぞましいオーラが溢れ出る。

 

「こんな事はこの槍の勇者が許さない...!二人を解放しろ!!鋼也...!!」

 

 二人だけかよ!!他の皆はお眼鏡に叶わないから無視ってか!?

 そんなツッコミを入れる間もなく、元康が槍を突き出して来た。

 

「っっ...!!」

 

 ガキリと槍と剣で鍔迫り合いになる。

 この威力から言って、多分俺が負ける事は無いだろうけど...周囲に被害を出さずにってのはちょっと難しいかもしれない!

 

 クソ!城下町でウロウロしてりゃこうなる事くらい想定できただろうに...!やっぱり俺はダメダメだ...!

 

「乱れ突きⅡ!!!」

 

 元康がスキルを発動する。

 

「くそっ!!」

 

 俺はそれらをなんとか防ぎきり、周囲に飛び火しないように地面に槍を叩き込んだ。地面がバキリと砕け散り、余波で周囲の店の商品が吹き飛んだ。

 好きにさせちゃダメだ!今すぐ意識を飛ばすしかない...!

 

 俺はスキルを終えて、そのまま突きを放った元康の槍を掻い潜り懐に飛び込んだ。

 そのまま、顎先に向かって思いっきりアッパーを叩き込む。

 

「グハッッ!!」

 

 元康が吹き飛んで、倒れ込む。これで終わってくれたら良いけど...むくりと立ち上がった。

 

「...俺が鋼也なんかに負けるはず無いんだ...」

 

 槍から一段と大きなオーラが溢れる。

 

「カースエクストーション!!」

 

 元康の槍が怪しく輝き、神速の突きが放たれる。それをかろうじて受け止めると、俺の体を槍のオーラが包み込んで、力が抜ける感覚があった。

 

「なんだ...!?」

 

 ステータスが下がった!?

 

「これが俺の...俺だけの力だ!!お前のステータスを奪ってやったぞ!」

 

「なんだって!?」

 

 憤怒の盾のセルフカースバーニングに当たるスキルか...?そこまで奪われる量が多い訳じゃないけど、このまま受けに回ってステータスを奪われ続けるのは不味い。

 

 周囲に配慮してる場合じゃない...!!

 

「エアストバッシュⅤ!!」

 

「ぐぉっ!!」

 

 スキルで槍先を吹き飛ばし、無防備になった元康の腹に剣を叩き込む。もちろん刃を横にして平打ちにしたけど。体をくの字にしておもちゃのように吹き飛ぶ。

 

「危ないわ...ね!」

 

「...がっはっっ!!」

 

 目線をやって合図してからサディナさんの方向に吹き飛ばすと、サディナさんが吹き飛んだ元康を蹴って再びこちらに吹き飛ばしてくれる。

 

「ふん!!」

 

 再びこっちに飛んで来た元康の顔面に剣の腹でフルスイングし、空中で元康はグルンと一回転して後頭部を地面に叩きつけられた。

 

「ごはっ...!!て、め...!!」

 

 絶対に意識は持って行ったと思ったのに、異様に耐久力が高いな...!

 

「パラライズソードⅤ!!スリープソードⅤ!!」

 

 ブスブスと状態異常スキルでデバフ漬けにして、ようやく元康は意識を失ってくれたようだ。

 奪われたステータスも戻って来た。一時的に奪うだけのスキルだったようだな。

 

 剣から取り出したヒール軟膏で元康の顔面を塗りたくっておく。これで自慢の顔は元通りになるだろう。

 

「ふぅ...みなさん、すみませんでした!!やむを得ないとはいえ、この辺りを滅茶苦茶にしてしまいました!!片づけを手伝いますのでどうかご容赦下さい!!」

 

「ふざけんな!!うちの商品どうしてくれるんだ!!」

 

「すみません!弁償致します!!もちろん壊した物の修理もしますので!」

 

「最初から見てたから剣の勇者様が悪い訳じゃないのは分かるけど...流石に、ねぇ?」

 

「本当にすみませんでした!!」

 

 俺は住民の皆さんに頭を下げる。

 ほんと...とばっちりも良い所だよな。勇者同士の私闘に巻き込まれて売り物がダメになるとか、物がぶっ壊れるとか...

 

「まぁ....弁償してくれるってなら、それでいいけど。勘弁してくれよ、こんな町の往来で!」

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

「ハァ。もういいよ、剣の勇者様。やることやってくれたら文句は言わないから、頭を上げな」

 

「ありがとうございます!!本当にすみませんでした!!」

 

 俺はもう一度深く頭を下げてから、みんなと一緒に片づけを始めた。

 

「何の騒ぎだ!!」

 

 時間が経ってから騎士の奴らが数人現れる。遅いっての...

 

「剣の勇者です。先ほど急に槍の勇者に襲われて、仕方なく応戦したのでこの場が荒れてしまいました。俺はこの辺りの片づけをするのでそこで伸びてる槍の勇者をさっさと治療院にでもぶち込んでおいてください」

 

「なっ...!どういう事だ...ですか!?もう少し詳しく...!」

 

「...槍の勇者が俺の奴隷達をナンパしようとしたから、断ったら急に怒り出して槍で攻撃してきたんです。それに応戦して、気絶させたは良いけど周囲はこの有様という訳です」

 

「ぬ...なるほど...?詳しくは後に住民たちにも聴取いたしますが、事情はわかりました。勇者殿はお行きください。この場は我々が受け持ちます」

 

「いえ、俺が壊したようなものなので少なくとも片付けだけは最後までやらせてもらいます」

 

「そ、そうですか?それでは、まぁ...」

 

「じゃあ俺は片付けがあるので...すみません、これはどこに置けばいいですか?」

 

「それはこっちの箱に入れておいてくれ!」

 

「はい!」

 

 そうして、ある程度まで壊れた物を片付け、周囲を掃除して、賠償金を言い値で支払った。

 くそ...まだまだ買いたい物もあったのに、稼ぎが吹っ飛んだぞ。元康の奴こんな街中でスキルまで使って襲い掛かるとかふざけるなよなぁ。

 いやまぁ、元康がおかしくなったのは元をたどれば俺のせいだから、これは俺のやった事が回りまわって来ただけと言えるかもしれないけどさ。

 

「はぁ...」

 

 なんかあちらを立てればこちらが立たずって感じで、いっつも何かしらの問題が起こって上手く行かないな。

 

 最後に町の皆に謝罪をしてから、俺達は次の予定の為に出発した。

 

 ────────────────────────────────────────

 

「大変だったわねーコウヤちゃん」

 

「まさかあんな町の往来で襲って来るなんて思いませんでしたよ...」

 

「槍の勇者ってやべーやつなんだな」

 

「うん...目が怖かった。勇者様が、助けてくれなかったら、うぅ...」

 

「どっこいどっこい...って言いたいけど流石にアレは無い。あんなのが勇者とかやってやれないわね」

 

「なのー。コウヤとナオフミがかわいそうなの」

 

「ハハ...ハァ」

 

 街の皆さんにとんだ迷惑をかけてしまった。おまけにこの事件のせいで俺達の評判は間違いなく下がっただろう。

 そんな事してる場合じゃないってのに...!

 

 俺は焦りを誤魔化すようにぐっと拳を握りしめた。

 最低限のフォローはしたけど、そんな事でどれだけ効果があるのやら...

 これでルロロナ村の皆を救う作戦が台無しになったら、絶対元康の奴許してやらないからな。村人たちの命がかかってるのに、好き勝手しやがって...

 それは俺にも刺さるのか。クソ、起こった事はもういい。

 とりあえず素材を売り払ってから消耗品だけ買い付けよう。余裕があったら魔法屋には寄ってみるか?

 

 それから最後に三勇教の教会に行って教皇に今回の事件の弁明か...

 なんか、疲れた...。

 気合を入れなおさないといけないのは分かっているが、項垂れてしまった。

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