剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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狂信

 諸々の準備を整えて、最後の予定の三勇教教会に訪れた。

 皆はちょうど通り道に武器屋があったので親父さんの所で預かってもらう事にした。わざわざ互いに不快な思いをする必要は無いからな。

 

「これはこれは、お待ちしておりましたよ剣の勇者様」

 

「一週間ぶりだな。約束通りクエストを終えて戻って来たぞ」

 

「えぇ。こちらもお約束通り勇者様を支えられる逸材をご用意させていただきました」

 

「精々期待させてもらおうか」

 

「ご満足いただけると思います。しかし、その前に一つお聞きしたい。とある報告が入って来ておりまして...なんでも、街中で槍の勇者様と私闘をしたのだとか?」

 

「その事か...勿論、俺にそのつもりは無かったんだけどな。元康が俺の奴隷をナンパしようとしてきたから、丁重に断ったらいきなり槍を突き付けて襲って来たんだ。不可抗力を責められても困るな。無論、迷惑をかけた住民達には慰謝料も払っている...俺に出来る事は大体やったと思うんだが、何か問題があるか?」

 

「いえいえ、勇者様のご対応は素晴らしい物と思いますよ?ただ...槍の勇者様との間に随分と力量の差があるように思われますが...?」

 

「...そんな事か。俺は召喚されてからずっと全ての強化方法を実施して来たんだぞ?おまけにあいつらがクエストを受けたり遊んだりしている間もずっと自身の強化に努めて来た...一か月もあれば当然力の差は生まれるさ」

 

「つまり、何か他の強化方法を隠している訳ではないと?」

 

「あぁ、これ以上は何を言われた所で無いものは無い。俺はあいつらを強化してやるとは言ったけど、今すぐ俺と同じ実力にすると言った覚えは無いぞ?ここからはあいつらの努力次第だ。精々支援してやればいい。しばらくすれば俺達の間にある差もほとんど無くなるだろうさ」

 

「なるほど...納得できる話ではありますね。召喚から一か月少々で85レベルというその驚異的な数字も努力故と」

 

「あぁ。まぁ強いていうなら海でのレベリングが大きいか。海の魔物は経験値が多いからな...それ以外は同じ条件でやっているさ」

 

「海で...ですか?」

 

「あぁ。ただまぁ、俺も水棲の亜人奴隷が居るから上手く出来てるだけだがな。武器の補正はあるだろうがあいつらに上手くやれる保証はしてやれない」

 

「なるほど。それであの亜人を気に入っている訳ですか」

 

「それもある。あいつの願いが元ルロロナ村の奴隷を集める事でな。良いように使わせてもらっている」

 

「なるほど、かしこまりました...他の勇者様方にも折を見てお伝えしましょう」

 

「好きにすればいいさ...それで?例の逸材とやらは何処にいるんだ?」

 

「そんなに慌てずともご紹介いたしますよ...入りなさい」

 

 教皇の声に、部屋外で待機していたのかすぐにノックで応える者がいた。さぁて、どんな顔してるのか拝ませてもらおうじゃないか。

 

 ギッっと扉を鳴らせて入室したのは、完全に俺の想定から離れた人物だった。

 

「ご紹介しましょう。元冒険者で現在教会にて助祭としてご活躍なさっているオミット=エーデルハイムでございます」

 

「ご紹介に預かりました、オミット=エーデルハイムと申します。以後、お見知り置き下さいませ」

 

「な...?え?」

 

「どうかされましたか?」

 

「い...いや...」

 

 突然の出来事に唖然としていると教皇に訝しげな目で見られた。

 ここでオミットさん!?こんな事あるのか!?

 

「彼は三勇教の敬虔な教徒であり、国からの信頼も厚く冒険者として名を上げている方でございます。一か月ほど前から我らが本教会の籍に入り我らと共に祈りを捧げる信徒として過ごしておられたのですが...剣の勇者様の仲間を募る際に是非にとおっしゃっていたので、実力も充分と判断しご紹介したのですよ」

 

「はい。私は剣の勇者様のお力になりたくて教皇様に願い出ました。是非とも、私の微力を勇者様の為にお使いくださいませ」

 

「そ、そうか...」

 

「ふむ...これから共に歩む事になるのです。互いの理解の為にもするべき話は多いでしょう。私は少々退室しておきますので、お二人で仲をお深め下さい」

 

「わ、わかった」

 

「教皇様、改めてこの度は誠にありがとうございます」

 

「いえ。あなたの篤き信仰が届いたのでしょう。神の祝福のあらんことを」

 

「神の祝福のあらんことを」

 

 教皇が祈りを捧げてから部屋を出た。

 

「さて...おひさしぶりでございます、コウヤ様」

 

「あぁ...久しぶり...です」

 

 混乱冷めやらぬまま返事をする。

 

「どうか、敬語はお外しくださいませ。教皇様には外し私には付けているのでは示しがつきませんので...」

 

「そ、そうか...じゃあ、そういう事で」

 

 確かに今の俺は教皇相手にため口叩いてるからな...一信徒に敬語を使ってたら筋が通らないか。

 

「ありがとうございます...さて、当然コウヤ様は混乱なさっているでしょうから、是非私からご説明させていただけませんか?」

 

「そうだな、それじゃあ頼む」

 

「えぇ。話はコウヤ様とのパーティを解散した後に遡ります...」

 

 そこからオミットさんは今までの事を教えてくれた。

 

 パーティを解散してから、元の冒険者としての活動を再開した事...しかし、やはり敬虔な三勇教の信徒として剣の勇者の力になれなかった事を日々悔やむようになり、冒険者としての活動にも全く身が入らずに結局ボルドーさんともパーティを解散。

 せめて自分に出来る事は神に祈る事だけだと、全てを捨てて教会に籍を置いて祈りを捧げる日々をすごしていた。

 そんな折、教皇が剣の勇者と共に歩む回復魔法の使い手を探しているとの話を聞き、一度裏切った身でありながら卑しくも浅ましいと思いつつも、動かずにはいられずに教皇に必死で懇願した事。

 そして数々の候補者の中から選ばれてこの場所に居る事...

 

「分かっているのです...コウヤ様には私など必要ないと...!しかし、どうか!!今一度だけ!!私にお慈悲をいただけないでしょうか!!!あなた様の為にこの身を捧げる機会をどうか...!!どうか...!!!」

 

 オミットさんが必死に俺に向けて祈りを捧げて来る。

 知らない仲じゃないし、なんか俺とのいざこざのせいでかなりやつれて、冒険者としての生活を失う事にもなっちゃったっぽいからなんとかはしてあげたいけど...

 完全にスパイとして扱うつもりで心の準備をしてたから、オミットさんだってなると肩透かしというか、警戒しづらいというか...

 

 まぁ...いいか。俺だって今はたくさん仲間が居るから薄れてたけど、それでもあの時の事は心残りではあったからな。

 オミットさん達と一緒に冒険する未来だってあったはずなんだ。今一度、やり直したって構わないだろう。

 とはいえ、完全に信頼する訳にはいかない。彼はあくまで三勇教勢力なんだから。俺を監視する為の人員のはずだ。

 

「勇者様...失礼いたします」

 

「えっ!?」

 

 オミットさんが俺の耳元に顔を近づけて来た。急におじさんに近づかれたらびっくりするだろ。

 

「私は今度こそ全てを捨ててコウヤ様の味方となってみせます。例え三勇教の教えに背く事になろうとも...です」

 

 小声でとんでもないことを囁いてくる。

 

「は?」

 

「証拠はここを出た時にお見せいたします。ですからどうか、今一度だけ私にお慈悲を...!」

 

「わ、わかった。これからよろしく頼む...オミット」

 

「はっ!この身、この命全て捧げて貴方様の為に献身させていただきます!!」

 

 オミットさんは最後に見事な姿勢で祈りを捧げてから立ち上がった。

 

「それじゃあ、俺は教皇にもう一つ用事があるから...この部屋で待機しておいてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 オミットさんを置いて部屋から出て、礼拝堂へと向かう。教皇が祈りを捧げていた。

 

「今、少しいいか?」

 

「おや、もうよろしいのですかな?」

 

「あぁ、互いに知らない仲じゃないからな。残りは旅をしながらでも間に合う...それより重要な用事だ。お前らに集めさせている村の奴隷達の奴隷紋に主契約させてもらいたいんだが」

 

「その事ですか...いいでしょう。しかし申し訳ありませんが優先権はこちらの用意している主を上にさせていただきますが?」

 

「もちろんだ。そこまで信頼を稼げているとは思っていない。今まで通り人質として扱ってくれて構わないさ」

 

「そういう事でしたら、ご案内いたしましょう...お伝えしていた収容所の準備は少々時間がかかっておりまして、現在は教会の地下室にて管理しております」

 

「そうか。ちなみに収容所の場所は何処になるんだ?」

 

「パドニア領の亜人収容所を利用するつもりです」

 

「城下町の隣にある貴族領だったか?」

 

「えぇ。彼は信頼できる方ですので、ご理解を示していただけました...清掃が終わり次第移送する予定でございます。詳しい場所は後程地図をお渡ししましょう」

 

「頼む...セーアエットの娘はどうなった?」

 

「王は少々難色を示しておられましたが、奴隷紋による管理を条件に了承いたしました。あなたのお望み通りに奴隷共の管理を任せられるでしょう」

 

「そ、そうか...色々と助かる。相応の物が返せるよう努力しよう」

 

 そうなったか...俺のせいで奴隷になると思うとちょっと申し訳無いけど、今後の動きによっては下手したら死んでしまうし、許してもらうしか無いな。

 

「いえいえ。勇者様のお力になれたのなら幸いでございますとも」

 

 けっ、よく言うぜ。どうせ清掃云々も俺が奴隷達を脱出させようとした時の為の妨害工作をしてるだろうにさ。

 まぁいい。ひとまず魔物商が集められる、売りに出ていた村の子達は大体買い取った。残っているのは未だに奴隷として使役されている子達と、行方不明...あるいは既に亡くなってしまった子達だ。

 どれだけ罠を張られようと、集めてもらうにはこいつらの力を借りるしかない。

 

 コツコツと薄暗い階段を下りて、ジメジメとしている地下室にたどり着いた。

 

「こちらでございます。奴隷紋の管理者もすぐそばにおりますので、今すぐご契約いただけますよ」

 

 俺は教皇に言われて、地下室に入った。

 ドアを開ければ、ライ君、ノーラちゃんの二人の他にも三人の亜人の子供が居た。

 見た所、大きな虐待の痕などは見られない。最低限の扱いはしてくれているようだ...まぁ、見えない所はどうなっているか分からないが。

 

「これは剣の勇者様、お待ちしておりましたよ」

 

 奴隷を管理していると思われる男が俺の方に近づいてくる。

 

「こちら、剣の勇者様がお望みのルロロナ村の奴隷共です。早速ご契約なさりますか?」

 

「あぁ頼む」

 

「それではこちらに血をお願いいたします」

 

 俺はコクリとうなづいて墨の入った小皿に血を滴らせた。

 男はそれを手に取ると筆で皆の胸元の奴隷紋に墨を筆で馴染ませる。

 

 俺のステータス魔法に奴隷の追加が表示される。よし、これで皆を助けるための第一歩だ。

 奴隷達の主の欄を見ると、それぞれに対して二人の主がついているようだ。片方に異常があればもう片方が即座に奴隷紋を起動して殺せるようにしているのだろう。

 やけにすんなり契約させると思ったがそれを見せたかったわけか。まぁ、想定の範囲内だ。二人の名前も把握できた。

 

「無事契約出来たな...苦労をかけるがこれからも頼むぞ」

 

 俺は男にこっそりとチップとして金を渡す。

 

「へへ...いえいえ、勇者様のご命令ですから」

 

 俺はみんなの方に振り向く。

 

「俺は剣の勇者の剣崎鋼也だ。ルロロナ村の奴隷達を集めて、再び村を復興させる為に頑張っている...いつか皆を集められたらここから出してやる。それまで気をしっかりもってな」

 

「.....はい」

 

 奴隷達は覇気の無い声で返事する。大方、あの男にある事無い事吹き込まれているのだろう...見るからに下種っぽい男だしな。

 

「それじゃあまた顔を見せに来る。それまで元気でな」

 

 俺は奴隷達に情を見せないようにしながら退室した。あんまりやりたいように優しく接したら今までの演技がパーになりかねないしな。少し素っ気ないくらいがちょうどいいだろう。

 どうせ疑われてはいるだろうけど、最低限奴隷達を楽しみ為に集めているという仮面は被っておきたい。

 

 こんな事してたら村の子達には信頼されないだろうけど、まぁいいさ。別に尊敬されたくて助けたい訳じゃ無いんだから。

 

「きちんと奴隷共を管理してくれているようだな。感謝する...これを受け取ってくれ」

 

 俺は教皇に金の入った袋を手渡した。

 

「これは...?」

 

「奴隷の管理費用だ。献金として受け取って欲しい」

 

「なるほど...それでは、神のご加護がありますように」

 

 教皇が祈ってから金を受け取った。

 

「それじゃあ用事も終わったし、俺はオミットを連れて再びクエストを受けて旅立つが...何か用事はあるか?」

 

「いいえ。勇者様のご活躍を期待しております」

 

「あぁ。それじゃあまたな」

 

 俺はオミットさんを回収してから教会を後にした。

 

 ────────────────────────────────────────

 

「それではコウヤ様、是非私についてきていただけませんか?先程申し上げました証拠をお見せいたしますので」

 

 教会を出て早々、オミットさんが話しかけて来る。

 

「わ...わかった」

 

 オミットさんの先導に任せて城下町を歩いていると、随分と見覚えのある風景が近づいてきた。

 

「えっと...この路地裏に入る...のか?」

 

「えぇ。私の目的の場所はこの先にありますので」

 

「この先って魔物商の...」

 

「ですね。コウヤ様がよくご利用されている魔物商の店でございます」

 

「まさか...証拠って!?」

 

「ここまで来たら察してしまいますね。私は現在奴隷紋をこの身に刻んでおります。コウヤ様が主となり、私にご満足いただけるまでご質問していただければ信頼していただけるかと」

 

「そこまでの覚悟で...どうして?」

 

「コウヤ様が今、どれだけの苦難の道を歩んでいるのか、その一端でも私は理解しているつもりです...それがどれほどの綱渡りなのかも」

 

 オミットさんは強い意志の籠った瞳で俺を見つめて来る。

 

「ですから、今度こそ...!煩わしい物を全て捨て去り、自由の身となった今度こそ!あの日の罪を贖う事が出来るのです!亜人がどうだとか、盾の勇者がどうだなんて全てがどうでも良い...コウヤ様こそが、私が崇拝すべき真の勇者様なのです...!あなたが善とするならば、どれだけの悪ですらも善となる!!いや、悪という認識が既に間違っているのです!!なぜならあなたは正しいのだから...!!それを私はあの日確信したのです...!!聖なる蒼き光が夜闇を切り裂いたあの日に...!!」

 

「聖なる光...?」

 

「えぇ。第二の波を終えた祝勝会が開かれた日、四聖勇者の決闘が行われたあの日...!私はあの場に居たのです!そして見たのです...!どの勇者をも圧倒するその力を!!あの蒼き光の奔流が示した神威を...!!あなたこそが本物の神...!!剣の勇者様なのだと...!!」

 

「えぇ...」

 

 つまり...なんだ?

 俺の事を支えられなかった後悔に押しつぶされて、宗教に身を捧げる日々を送っている最中に俺のグラム・ジャッジメントを目の当たりにして、神の力だと思ったって事か...?

 この人SAN値直葬してるのか?目がイッちゃってる気がするんだが???

 

「本物の神である貴方様を支える事の出来なかったこの身の大罪...どうか償わせてくださいませ...!!」

 

「わ、わかった...それじゃあ奴隷紋の契約をしてから、あなたの献身を示してもらおうか」

 

「ご随意に!!」

 

 それから魔物商の所に行って契約をし、ありとあらゆる方向から質問をしたが全てにおいて俺の為にこの身を捧げる。その為なら教皇達や三勇教、この国すらも...全てを捨て、裏切っても構わないのだと心底理解させられた。

 この人本物だ。一応奴隷紋はきつめに縛るけど、まじで俺の狂信者になっちゃてる。俺の為なら教皇に嘘の証言とかする気満々だこの人。なんなら、俺の事を縛り付ける悪しき信仰を宿す者だとまで言いやがった。こいつ樹の仲間の方が適正あるんじゃないか?

 

 ...魔物商があまりの狂信者ぶりに大興奮だったのが印象的だったな。

 完全に人を自ら望んで奴隷に堕とさせる天才だとでも思われたなこれ。全然そんな事無いのに。

 

 しかし、予想外ではあったがこれで一つ大きな手札が手に入った。しかも教皇側は味方だと思っている大札が。完全に逆スパイだなこれ。

 

 嬉しいような悲しいような、複雑な感情を抱えながら皆の元へ向かった。

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