尚文達と別れてから更に数日、いつも通り空き時間に海でレベリングをしている時だった。
サディナさんが魔物を釣って来る事無く戻ってきて、俺に浮上するように合図してきた。
「っぷは!どうしたんですか?」
「海底にダンジョンを見つけたの。中はちゃんと空気があったし、もしよかったら皆で攻略したらどうかと思ってねー」
「ダンジョン...そういえば攻略した事無かったですね」
「えぇ。あんな場所にあるからお宝があれば手つかずだと思うし、どうかしらー?」
「折角ですからみんなを連れていきましょうか。ダンジョンまでの空気はまぁガエリオンちゃんの魔法と俺のスキルがあればどうとでもなりますし」
「わかったわー。それじゃあみんなを迎えに行きましょうか」
みんなに待機してもらっている船の方に戻って、ダンジョンを攻略する事を説明した。
「おぉ!ダンジョンなんて初めてだな!」
「うん...強くなる為とはいえ、みんなには船に乗って貰ってるだけだから、体を動かす意味も含めて皆に攻略してもらうかなと思って」
「へぇ、ずっと退屈だったし悪くないわね」
「きっとお宝たくさんなの!」
「ゆう...コウヤ様は一緒に戦ってくれる...?」
ニーナちゃんが上目遣いで不安げに俺を見つめて来る。
そういや尚文達と会ったあの日から俺の事コウヤ様って呼びたいって言いだしたんだよな。まぁ呼びたいように呼んでくれたら良いんだけれど、何かまた心境の変化でもあったのだろうか...?子供の成長は早くて驚かされるな。
「うーん。今回は基本後ろから見てるだけにしようかなと思う。もちろん!みんなが危なくなりそうだったらすぐに助けに行くし、ずっと見てるから心配しなくていいよ?」
「でも...ううん、分かった...頑張る!」
「おっ、偉い偉い...それじゃあ、みんなで潜ろうか!」
サディナさん、俺、ガエリオンちゃんと三人はかなり泳げるから残りのメンバーを分けてしがみついてもらおうかと思ったのだが、ガエリオンちゃんやニーナちゃんが俺にしがみつきたいと言い出して色々と難航したので結局俺がほとんどを引っ張る事になった。
右脇にガエリオンちゃん、左脇にニーナちゃん、オミットさんは持ち手のある剣を背中に引っ付けて掴んでもらう事にした...動きにくい。
「あらーコウヤちゃん大人気ねー」
「えぇ...嬉しいですよ。はは...」
キール君とウィンディアちゃんはサディナさんの背中に乗っている。
「それじゃあ、出発しましょうか!」
いつもの数倍動きにくいのを無理矢理膂力でなんとかして、ずんずんとサディナさんの案内にしたがって潜って行った。
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ダンジョンというよりは海底神殿と言った方が近いような外見の廃墟を通りすぎ、大きな扉をくぐると突然水が無くなった。
「うわ!!」
とっさにガエリオンちゃんとニーナちゃんを抱え込み体を半回転、急回転で俺の剣から手を滑らせたオミットを足で挟んで支え、体をVの字に曲げる。
「んぐっ!!」
オミットを地面と衝突させないためにかなり無理な体勢でおしりから地面に落ちたので、かなりの痛みが伴なった。珍妙にして滑稽な体勢で墜落する羽目になってしまった...
「み、みんな大丈夫か...?」
「も、申し訳ありません!!私が下敷きになるべきところを...!!!」
「あぅ...えへへ、うん」
「サプライズハグなのー!」
「あぁごめん。突然の事だったから強く抱きしめちゃったね」
「あ...」
「むしろもっとしてほしいなの。バッチ来いなの!」
「はいはい...そろそろこの体勢きついからはやく降りて」
何故か名残惜しそうに二人が降り立ち、オミットが俺に必死に回復魔法を詠唱している...別に怪我はしてないので手でもういいと指示しておく。
横を見ればサディナさんが二人を抱えて華麗に着地していた。
...そういやちょっと中覗いたんだからこうなってる事を知ってたわけだよな。
サディナさんに抗議の目線を向けるとテヘとウインクされた。
ちくしょう、かわいい。それで許しちゃう自分が恨めしい...
「さてと、それじゃあ今日はコウヤちゃんの言う通り皆の連携の確認をしましょうねー」
「「「はーい」」」
「前衛にキール君とニーナちゃん。中衛にガエリオンちゃんとウィンディアちゃん。後衛はオミットさんの陣形で行こうか。キール君が敵をかく乱して、そこをニーナちゃんや魔法部隊が攻撃する形で!ガエリオンちゃんとウィンディアちゃんは状況を見ながらキール君とニーナちゃんのサポートとして前衛に出て来て欲しい。オミットは冒険者の先達として、全体を見ながら皆を指揮してもらえれば」
「神の思し召しのままに...!!」
「なんかカッコいいなー!兄ちゃん!俺もおっちゃんみたいに兄ちゃんの事神って言っていいか?」
「ぜっっっっったいにやめてね?」
「お、おう...そんなに嫌ならやらないけど」
なんか気が抜けそうになりながらも、ダンジョン攻略はつつがなく進んでいった。
キール君はかなり動きが良くなっているし、ニーナちゃんも少し怖がりながらもしっかり敵を倒せている。
ガエリオンちゃんがかなり好戦的で前衛に出すぎな気もするけど、まぁ魔法組の魔力温存を考えればいい動きと言えるだろう。
角待ちやトラップの警戒などはオミットが優秀だった。なんでもいくつかダンジョンは攻略した事があるらしい。
そんなこんなで俺とサディナさんが戦うことなく、それなりの距離を進んだ時だった。
「なの!?...なんでか今まで気づけなかったけど、竜帝の気配がするなの!向こうも多分ガエリオンの竜帝の欠片に気付いたなの!」
「竜帝...?ここはドラゴンが管理するダンジョンだったのか」
道理でトカゲっぽい魔物が多いと思った。
「なのー。すごく強そうだから、大きな竜核と財宝が期待できるなの!」
「ガエリオンちゃんが強そうと思うくらいか...というか、それを感じて浮かぶ感想がそれなのね」
「どうせコウヤより強い事は無いなの。だから全部ガエリオン達の物になるのは確定してるなの」
「あくまで今回は皆の連携の確認がメインだからね?本当に危なかったら俺達も出るけど、基本は皆に戦ってもらうから」
「問題ないわ。ドラゴンが居るってなら私達の今の力を試すいい機会よ!ガエリオン、しっかり倒して竜帝の欠片をゲットするわよ!」
「なの!」
「おぉ、やる気満々」
ここのドラゴンの欠片でクラスアップ法を覚えてくれたら嬉しいな...出来れば三勇教と袂を分かつ前にはクラスアップを終えておきたい。
そんなこんなでやる気を出した二人の奮戦もあり、あっという間に最奥と思われる広間にたどり着いた。
どこかから浸水しているのか、くるぶし程まで水が溜まっている薄暗い空間に大きな影が見えた。
「あれがここの主か」
俺達が近づくにつれて、地面に伏せていた巨大な影が起き上がった。
「...おぬしらが我が悠久の眠りを妨げし痴れ者共か。人の来れる領域ではあるまいに、何故に我が領域を犯すのじゃ...?」
広間に光が満ち、その姿が露になった。
翼を持たない、蒼い鱗に覆われた巨体の竜がそこには居た。手足は水を掻きやすいようにかガエリオンちゃんや他の地上の竜に比べて肥大化しており、大きな尾にもひれのような物が付いている。
水棲の竜種のようだ。それにしてもかなり大きいな。レベルは...280!?
「皆下がって!!俺が相手してる間に...!」
「もう遅いわ」
ドラゴンが魔力を放つと、出入り口に結界が生み出された。俺が本気で斬れば破る事は出来そうだけど、それをする暇を与えてくれるかは分からない。
「くっ...サディナさん!ガエリオンちゃんとウィンディアちゃんとで魔法詠唱お願いします!障壁魔法で皆を守って!!」
俺は剣を戦闘用に切り替えて、スキルを放つ準備をする。
「ほう?懐かしき気配がすると思うたが...おぬし、剣の勇者か?」
「そうだと言ったら...?」
「再びその精霊具を目にする事になるとは...因果な物よ」
そう言うと目の前の竜が突然輝きだし、その姿を大きく変貌させていく。
光が落ち着いた頃には、竜は人の姿を形どっていた。魔法で姿を変えたのだろう。
青く長い髪をした、東洋風の妖艶な雰囲気の女性に変貌した...
「な、なぜに変身を...?」
「なに、つい懐かしい気分になったものでな...我も久方ぶりにこの姿になろうかと思っただけのこと。我が主様もよくこの姿を好んでおったからの」
目の前の竜から急速に敵意が消えていく。どういう事だ...?主?
「今代の剣の勇者よ。我が名はシュオン、この地にて朽ちるのを待つのみの生きる屍であり、主様...在りし日の剣の勇者の伴侶であった者じゃ」
「なっ!?」
剣の勇者の...伴侶!?というか先代だったとしても何年前の存在なんだ!?
「カカ!そう驚いた顔をするでない...竜帝は不滅の存在、寿命による終わりは存在せん。斯様な事もあろうよ」
「それで...シュオンさんはどうするおつもりですか?不思議な縁があったものですが、あなたが過去の剣の勇者の伴侶だったというのなら、この剣で斬るのは忍びない...不幸なすれ違いだったという事で俺達に何もせず解放してくださるなら互いに傷つかず済むと思うのですが」
「不幸...?いいや、此度の出会いはこの上なき僥倖よ。ついにこの日が訪れたのだからのぅ」
シュオンさんがひたひたと水音をさせながら俺に近づいてきて、俺の剣の切っ先をつかみ取り自分の喉へと導いた。
「さぁ、その剣で我が生に終わりをもたらすがよい。その剣の糧となれるのならば、我のこの無為な余生にも些かの価値はあったと言えよう」
「は?い、いや!ちょっと待ってください!」
俺は急いで剣を引いて離れた。
「...手が切れてしもうたではないか」
「あ、すみません...けど!いきなり殺してくれなんて言われても困ります」
魔法でシュオンさんの手を治療する。
「ふむ...どうせ終わる命ではあるが、治療には感謝しようかの」
「どうも」
俺は警戒するように剣を遠ざけた。戦いの末命を奪うのであれば覚悟は出来ているが、殺してくれと言われて無抵抗の相手を殺すのは流石に躊躇いが強い。
「まぁ、いきなり殺せなどと言われても困惑するのが道理ではあるの。随分と心優しい...いや、貴様の場合小心者、と言うべきかのぅ?」
カカ、とバカにするように笑われる。
「我はお主の剣に殺されたい訳じゃが、どうすれば我が願いを聞き入れるくれるかの?ここにある財宝でも、この身に宿る竜帝の欠片でも、なんならお主がチラチラと見ておるこの肢体でも...好きな物を差し出してやるぞ?」
片足を前に出す事で中華風の衣装に入ったスリットから眩しいふとももが露になる。
「な...は!?みみ、見てませんけど...!?」
「カカ、冗談じゃよ。お生憎と、我が身は主様に捧げておるのでな...少しからこうてやろうかと思ったのじゃ。あまりにも予想通りの初心な反応が見れて面白かったぞ?」
「この...!はぁ。楽しそうでなりよりです」
「そう睨むでない...すまんの。久方ぶりの会話で興が乗ったのじゃ、許せ剣の勇者よ」
「もういいですよ」
「さて...折角の出会いじゃ。こうしてにらみ合っていてもどうにもなるまい。そこの者らもちこうよれ!確か我が蒐集品に酒があったはずじゃ、まずは酒を酌み交わし交流を深めようぞ」
「あらー。随分話の分かる竜帝さんね。お姉さん興味あるわー!」
いつのまにやらサディナさんが俺の隣に来ていた。酒に釣られたのか...?そりゃ釣られるか。大昔の竜の財宝の酒なんて俺も気になるし。
「黙って襲い掛かってワザと倒されるというのも考えたのじゃがな、貴様等を見ていて少し思う所があっての...それに、どうせ終わるのならば最後にこの奇縁に盃を交わすのも一興かと思うてな」
そういうシュオンさんの視線はガエリオンちゃんに向いている気がした。
なんだろう...同じ勇者の仲間のドラゴンとしての事だろうか?
「とにかく、我についてくるが良い。歓迎してやろう」
そういってシュオンさんは奥に向かっていった。
「えぇっと...」
キール君達を見ると不安そうに俺を見ていた。
「とりあえず、ついて行こうか。敵意は感じないし、どう転ぶにしても話を聞いておいて損は無いと思うしね」
「えぇ。あの大きなドラゴンがため込んだお酒、楽しみだわー」
「うぅ...なんか、すごく見られてた気がするなの。何もしてないのに、なんで目を付けられてるなの...?」
「同じドラゴンだから意識されてるんじゃない?ガエリオン気持ちで負けちゃだめよ!」
「が、頑張るなの...」
ガエリオンちゃんが怖がってるな...実力は未知数だけど、勇者の眷属だったなら単純にレベルで測る事は出来ない。下手すれば今の俺でも苦戦する可能性はある。
「大丈夫、もし襲われたって俺が守ってみせるよ」
ガエリオンちゃんの背中を撫でて落ち着かせる。
「ありがとうなの...」
「むぅ」
ニーナちゃんが俺の服の端を掴みながら頬を膨らませていた。おぉ、なんか珍しい反応だなぁ。
「ごめんごめん。ニーナちゃんも、みんなの事ももちろん守ってみせるよ」
俺が頭をポンポンと撫でると、一瞬嬉しそうにしたけどすぐに元の機嫌に戻ってしまった。
「そうじゃない...!」
そういうとそっぽを向いてしまった。
「え、えと...ごめんね?」
「.....」
返事してくれない。悲しい...服は摘まんだままだから嫌われてる訳では無いんだろうけど、どういう事だ?
サディナさんの方を見てもため息をついて首を振られただけだった。
「???」
ますます分からない。反応的にサディナさんは分かってそうなんだけどなぁ。
「兄ちゃん、しっかりしろよなー」
「えぇ?キール君まで...?」
キール君には背中を叩かれる始末。ほんとに何したのか全然わからん。
釈然としないながらも、ニーナちゃんがどうすれば機嫌を直してくれるか考えながら俺達は奥へと向かっていった。