剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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めちゃくちゃ難産だった...


決断

 それからしばらくの間、俺はひたすらに剣を振るわされ続けた...

 

 ちょ...ちょっとは手伝ってくれてもええんでないですか?

 そんな気持ちを込めて睨むも、頑張って下さいとジャスチャーを貰うだけだ。

 

 こりゃ明日は筋肉痛で死ぬかもしれない...

 飲み水はオミットさんが魔法で用意してくれるので困らない。

 逆に言うとそのせいで戦いか休憩以外何もない。

 ひたすら歩いて走って、魔物を殺して解体する時間が過ぎていく...

 

 今はウッドソードも開放されたので、次に弱いカッパーソードに変更している。

 この武器、なんとスキルが付属していた。

 

 スラッシュというただ斬撃を放つだけのスキルだけど、普通に切るよりも威力に高い補正がかかるし、消費SPも大した事ないのでどんどん利用している。

 

「キャンキャン!!」

 

 モプシーと呼ばれる子犬のような魔物が3匹で俺に飛びかかってくる。

 

「スラッシュ!!」

 

 3匹が横並びで飛びかかったので俺は真ん中の一匹を下からの切り上げで倒し、空いた隙間に体をねじ込んだ。

 

 通り過ぎたモプシーと俺は同時に振り向き、すぐに距離を詰めて右側の一匹を蹴り飛ばした。

 

「キャイン!!」

 

 もう一匹はかろうじて俺の脇腹に噛みつく事が出来ていたが、防具に阻まれてダメージは無かった。

 

 噛みついてる方に向かって剣を突きおろし、息の根を止める。

 最後に蹴り飛ばされて痛みで暴れている一匹にもトドメをさした。

 

「ふぅ...」

 

 今やレベル5だ。尚文がどれだけハードモードで戦って来たのか良く分かるな...

 

「かなり進みましたね...さっきの魔物はレベル5ではもう少し苦戦するはずですけど、一撃で倒せていますしまだ余裕がありそうですね」

 

「流石は勇者様って所か?」

 

「そうですね...普通なら剣の性能と自分の能力でダメージが決まるんでしょうけど、俺は能力解放による装備ボーナスも加算されてるんで、攻撃力にはもうちょっと余裕があるかもしれません」

 

 一応能力解放する武器は攻撃力の装備ボーナスがあるものを優先にしているからな。

 レベル4つ分のステータスの伸びより、能力解放の伸びの方が大きい。

 

「こりゃあうかうかしてたらすぐに追いつかれちまうな」

 

 ボルドーさんがガハハと笑う。

 

「流石は剣の勇者様です」

 

 オミットさんがドヤ顔で褒めて来る...なんであんたがどや顔するんや。

 

「とはいえそろそろ暗くなってきますね...城下町に戻るにしても、近隣の村に行くにしてもそろそろ準備した方が良いですね。一応村の方が近いですけどどうします?」

 

「いや、今日は城下町の宿に泊まりましょう。城下町の方が色々な店があると思いますし、朝はあまり時間を取れなかった分色々と見て回りたいですし」

 

「わかりました。それじゃあ来た道を戻りましょうか...帰り道は我々にお任せください!コウヤ様は休んでいてくださいね」

 

「そ、そうですか。お願いします...」

 

 それから来た道を戻って行ったが、皆手で虫を払うみたいに魔物を倒していっていた。

 俺の苦労はなんだったんだ...

 

 ────────────────────ー

 

 城下町に戻り、宿を取ってから魔法屋やら薬屋やら色々と見回った。

 

「...そういえば、俺この世界の文字が読めないんですけど勉強に使える子供用の教材みたいなのってあったりします?」

 

「えぇ、もちろんございますよ。あちらの本屋に売っていると思われますが...」

 

「じゃあ、買ってきてもらってもいいですか?」

 

「分かりました。しかしどうして?」

 

「えっと、魔法を覚えたいなと思いまして。魔法文字を読む為にも勉強が必要ですよね?」

 

「そうですか。良い事です。水晶も王より配布されるでしょうが、ゆくゆくは水晶で覚えた魔法も魔法書で覚えなおすのが良いでしょう。昔は私も手早く数を覚えた方が良いだろうと水晶集めに躍起になっておりましたが、やはり魔法書で覚えた魔法の方が圧倒的に取り回しが良いです。急がば回れ、というやつですね」

 

「やっぱりそうですよね」

 

「とはいえ、魔法を使えるというイメージを明確にする為にも最初は水晶を利用するのは決して悪い事ではございません。物は使い様ですね...それでは教材を買ってきますので少々お待ちください」

 

 しばらく待っているとオミットさんが帰って来た。

 

「お待たせしました。こちらが教材と、絵本になります」

 

「絵本?」

 

「はい。まずはこの絵本を自分一人で読めるようになるのを目標にするのが良いと思います。分からない所があればなんでも聞いてくださいね」

 

「はい!ありがとうございます」

 

 俺は本数冊を受け取った。

 それから、いくつかの場所を三人の紹介で観光し宿に戻って食事をした。

 

 ────────────────────ー

 

 今は食事も終わってお休みの挨拶をすませ、各々の部屋に分かれた所だ。

 一応全員個室を取っている。

 

 最初宿代払おうと思ったら、自分たちのお金があるからそのお金はコウヤ様が自分の為にお使いくださいとか言われたんだよな...一応チームのリーダーとして自腹切らせるのはどうなんだろうか。

 

 個室の部屋で机に向かって教材を広げる。

 

 えぇっと...これがこうでこうだから...む、か、し...あぁ、絵本で良くある語り口か。昔昔、あるところに...って。だからこれがあるところに、になるのか?いや、それだと読みがおかしいな...えぇと、そ、の、ま、た、むかし...か。

 

 たった一ページに尋常じゃない時間をかけながら読み進めていく。

 なんだこれ?どう読めばいいんだ?...明日オミットさんに聞くか。

 

 明日...ね。

 

 そう、勉強で現実逃避していたが明日はいよいよ冤罪事件当日なのである。

 一応、今出来る強化はやり尽くした。鉱石を取り扱う店で強化用の素材を買い、手持ちの剣の中で一番ステータスの高い、アイアンソードに鉱石強化と精錬をかけ、アイテムエンチャントとスピリットエンチャントをかける。ついでに肉体改造で一個だけ出た攻撃力のピースをはめておく。

 

 さっきつかってたカッパーソードの2倍くらいステータスが上がってるな...

 

 攻撃力の装備ボーナスの剣に変更して睡眠の妨げにならない位置に貼り付けておく。

 変化させているだけだから溜まりは遅いけど、それでも起きる頃には能力解放されているだろう。

 

 ベッドに倒れて目を瞑る。

 

 大丈夫、出来る事は...全部とは言えないけどそれなりにやった。

 このイベントは目を背ける事が出来ない。いや、正面から向き合うべきだ。

 

 だってこれはある意味俺の罪そのものだ。何が起きるかを知っていながら、それを尚文に伝えず、尚文の為だと救いの手を差し伸べない。

 

 あぁ、なんて傲慢なんだろうか。原作知識があるからと目の前で苦しむ事が分かっている人間を見捨てるその罪の重さよ。

 

 ...それでも、そうすると決めたんだ。

 俺は死にたくない。正直言うと戦いたくもない。人との殺し合いなんか以ての外だ。

 さっさと元の世界に帰りたい。この世界をただの空想の世界に戻したい。

 

 それでも、今こうなってしまっている以上...それをやるしかない以上は一番の目的だけを遂行するべきだ。

 俺は死なない為に戦う。俺は死なない為に尚文を利用する。俺は死なない為に強くなる...

 

 ただ、それだけだ。それだけでいいはずなんだ。

 だってのに....

 

「くそ...胃がキリキリする...」

 

 俺は少し身を縮こませて目を閉じた。

 

 ────────────────────────────────ー

 

 ドンドンドンと部屋の扉が叩かれる音に目を覚ました。

 

「あえ...?」

 

「勇者様!こちらにいらっしゃいますか?」

 

「あ、あ゛ぁ?...はい!ここにいます。」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら返事する。

 

「王から城に勇者様方を招集するよう命令をいただいております。朝早くに申し訳ございませんがご同行いただけませんか?」

 

「えっと...わかりました。用意するのでちょっと待ってて下さい」

 

「了解致しました!宿の外で待っておりますので鎧を来た兵士に声をかけてください」

 

「了解です...あ、仲間は連れて行った方が良いですか?」

 

「いえ。勇者様お一人でお願いします」

 

「分かりました...」

 

 どたどたと扉の前からさっきの人が去っていくのが分かった。

 俺は机に置いてある鎧などを装備して、剣をアイアンソードへと変更した。

 

「....行くか」

 

 昨日用意した水を一気に飲み干して俺は扉を開けた。

 

 ──────────────────────────

 

 兵士の案内の下、俺は王城へとたどり着いた。

 

「王が謁見の間でお待ちしております。ご案内は必要でしょうか?」

 

「いや、一人で大丈夫です。それで、他の勇者は来てるんですか?」

 

「はい、槍の勇者様も弓の勇者様も既にご到着されております。残すは剣の勇者様のみです」

 

「...盾の勇者は?」

 

「あ、いえ...盾の勇者は今回は招集されておりませんので」

 

「なんで...いや、もういいです」

 

「はぁ...それでは失礼いたします」

 

 兵士は訝しむような顔をしながら去って行った。

 なんで俺が盾の勇者なんか気にしているのだろうかとか考えてるのだろうか?

 

 今から俺がこいつらの悪行に加担すると思うと鬱屈とした感情が頭にこびりつく。

 俺は階段を一歩一歩、八つ当たりするように踏みしめながら登った。

 

 ...................

 

「おっ、来たか鋼也」

 

 尚文の鎖帷子を着た元康が俺に話しかけて来る。

 

「....あぁ」

 

「なんだよ機嫌悪いな...まぁこんな朝っぱらから呼び出されちゃ苛立ちもするか。でも悪いな、それどころじゃない問題が起こったんだ」

 

「なんだよ」

 

「今から説明するさ...な、マイン」

 

「はい!モトヤス様」

 

 ビッチがきゃぴっと擬音でも出てそうな雰囲気で元康にしなだれかかる。

 こいつ今から俺達の前で強姦されそうになったって言いだすんだよな?本当に騙す気があるのか?

 

「ふむ...勇者達よ、朝早くからの招集に応えてもらい感謝する。此度の招集はモトヤス殿きっての願いでな、どうしても共有せねばならん問題が起こったからなのじゃ...モトヤス殿、冒険者マイン。他の勇者殿に事の次第を説明せよ」

 

「はい...私、昨日は盾の勇者と同じ宿に泊まったんです。あ、もちろん別室ですよ?そうしたら、酒に酔った盾の勇者が私の部屋に押し入ってきて....ひぐ...突然私に迫って来て...ひく...無理矢理服を...ひぐ!」

 

「マイン!無理に思い出さなくていい!!...大丈夫、俺がついてる」

 

「モトヤスさまぁ...ひぐ...」

 

 ビッチが嘘泣きして、それを元康が慰める...三文芝居を見せられてるような気分だ。

 それにしてもあれだけ瞬時に涙を流し、悲しんでる雰囲気を出せるのはすごい気がする。すごく無駄な技能だ。

 

「なんと!...嫌がる国民に、それも自らの仲間に無理矢理性行為を強制しようとは...!!とんでもない外道ではないか!!...冒険者マインよ、よくぞ勇気を出して声を上げてくれた。我々は断じて盾の勇者を許さぬ。奴は人の道理を外れた悪魔だ!」

 

「あぁ!異世界召喚なんかされちまったから変な勘違いしちまったんだな。勇者だからってなんでもやっていいと思ってるんだ!俺達も絶対に許さない。なぁ二人とも!」

 

「...ですね。ナオフミさんはやってはいけないことをしました。それも仲間がいないからと手を差し伸べてくれた優しいマインさんの善意に付け込もうとして、許されざる狼藉です。これは懲らしめないといけませんね」

 

「.....ちっ」

 

「ありがとうございます...王様、モトヤス様、イツキ様、コウヤ様...どうか、盾の勇者に...グス、私以上の苦しみを与えてください...!」

 

「当たり前だ!何倍にもして返してやるさ!」

 

 下らないショーを冷めた目で見ていると、謁見の間にノックの音が響いた。

 

「盾の勇者が到着した模様です。現在我々で拘束しておりますのでご安心下さい。どうか皆様ご準備を...」

 

「ふむ。では盾が到着次第、奴に沙汰を言い渡す。その際もう一度奴の罪状を語ってもらう必要があるが...頼めるか?冒険者マインよ」

 

「もちろんですわ。どうか、あの男により深き罪を...!」

 

「分かっておる」

 

 さっきから罪だの苦しみだの、尚文を苦しめる事しか考えてねぇな...本当にただただ人が苦しむ様を見るのが好きなんだろうな。心底理解できない。

 

 俺は剣のグリップを強く握りしめた。

 

 ────────────────────────

 

 しばらくすると、槍で拘束されている尚文が謁見の間に現れた。

 

「ぐっ...だから、何なんだよ...ってマイン!」

 

 尚文がビッチに向かって叫ぶ。

 最初は嬉しそうな顔だったが、だんだんと不安げな顔になっていく。

 

「な、なんだよ。その態度」

 

「本当に身に覚えがないのか?」

 

 元康が尚文に槍を突き付ける。

 

「身に覚えってなんだよ...って、あー!!お前が枕荒らしだったのか!!」

 

「誰が枕荒らしだって?お前がまさかこんな外道だったなんて思いもしなかったぞ!!」

 

「外道?何のことだ!!」

 

 尚文が叫ぶが誰も答えない。

 

「ふむ...自首でもするのならば少しは減刑してもよいと考えておったが、その最後の情けすらも無為にするか...もはや貴様にかける情状酌量の余地は存在せんな...哀れな冒険者マインよ。すまぬが再び盾の勇者の罪状を我々に教えてはくれんか?」

 

「はい...盾の勇者様は、お酒に酔った勢いで突然私の部屋に入ってきて...ぐす、「まだ夜は明けてねぇぜ」と言って私に迫り無理矢理服を脱がそうとして...!!」

 

「はぁ...!?」

 

「私、怖くなって...叫び声を上げながら命からがら部屋を出てモトヤス様に助けを求めたんです!」

 

「何言ってんだよ...昨日、飯を食い終わった後は部屋で寝てただけだぞ?」

 

「嘘を吐きやがって、じゃあなんでマインはこんなに泣いてるんだよ!」

 

「なんでお前がマインを庇ってるんだよ...というか、それじゃあその鎖帷子は何処で手に入れたんだ?」

 

「ああ、昨日一人で飲んでたら酒場で出会ってな、しばらく飲み交わしているとマインが俺にプレゼントってこの鎖帷子をくれたんだ」

 

 尚文の反応と、そのセリフから自ずとその鎖帷子の出どころがわかりそうなものだけど...まぁそれで納得するならこうはならないわな。

 

「っ...!そうだ、王様!俺、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました!どうか犯人を捕まえてください!!」

 

 尚文が縋るような顔で王に訴えかけるが、返って来るのは無情な拒否の言葉だった。

 

「黙れ外道!!嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行!勇者でなければ即刻処刑物だ!!」

 

「だから誤解だって言ってるじゃないですか!!なんで...そうか...お前ら、援助金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!!最初からグルだったんだ!!」

 

「はっ、強姦魔が好き勝手言いやがる...いくらなんでも無理があるとか思わないのか?俺とマインは昨日の夜会ったばかりだぜ?」

 

「被害者がこれだけ泣いているのです。もはや同情の余地はありませんね」

 

「なっ...ぐぅ...!!」

 

 尚文が拳を握りしめる...

 そして、ふいに俺と目が合った。

 

「な、なぁ鋼也...お前は、信じてくれるよな...?なぁ...なぁ!」

 

 尚文が怒りと困惑と悲哀でぐちゃぐちゃの顔をして俺に問いかける。

 

「ぁ...っ...」

 

 口を動かそうとしたが、言葉が出てこない。

 さっきまでこうなった時なんて言うか、いっぱい考えていたのに、頭が真っ白になったように何も言えなくなる。

 

「お...前も...お前もかよ...畜生...」

 

 尚文が僅かに目尻に涙を零し、顔を顰める...

 その顔を見た時、俺はもうダメだった。

 人一人を絶望に叩き落とす覚悟なんて俺には到底無かった。

 原作知識がこうだから、なんて軽い気持ちで弄べるほど人の心は軽くなかった。

 

 俺の覚悟なんか、この現実に比べれば塵芥みたいなもんだった。

 俺は剣を地面に振り下ろして轟音を鳴らした。周囲から少し悲鳴が聞こえる。

 

「へへ...変な話だよな...そこの女の言葉には違和感があるのに、尚文の言葉を信じれば全部すっきりするじゃないか...」

 

 俺は喉を震わせながら口を開いた。

 

「...どういう意味だ?」

 

 元康が怪訝そうに問いかけて来る。

 

「鎖帷子を元康にプレゼントしたのがどのタイミングかは知らないが...その出処はどこなんだ?最初から持ってた?仲間の尚文はわざわざ武器屋で買ってるのにか?渡せば良かったじゃないか!その鎖帷子とやらを...まぁ尚文の買った鎖帷子なんだろうし無理だろうがな。それに、朝まで待って騎士を呼ぶ?おいおい強姦されかけた女が随分と呑気な事だな...すぐに兵士に引き渡すなり通報するなりしろよ。逃げられるとか思わなかったか?また襲われるとか思わなかったのか?...それとも眠かったからやめといたのかよ。そうでもないなら、こうやって俺らの前で尚文を断罪するためか?」

 

「は?...お前、何を言って...」

 

「尚文もそうだ。強姦しようとして失敗した癖に、呑気に宿で爆睡ってか...?そんで朝っぱらから連行されるとかどんだけ神経図太かったらそんな真似出来るんだか。ついでに装備もお金も盗まれた?とんだ災難だな...!鎖帷子も見事になくなってる訳だ。そして同じ日の夜に元康は鎖帷子を手に入れている。二人の共通点はそこの女...!鎖帷子が見事に右から左へ流れてるようにしか見えないなぁ!」

 

「さっきから何を言ってるんですか鋼也さん!まさか、尚文さんを庇うつもりですか...?彼が罪を犯したのは事実なんですよ!?」

 

「事実...?何の証拠も無しに?少なくとも俺の中には...そこの女だけの策略なのか元康と手を組んだのかは知らないが...尚文を陥れて金銭や装備を強奪した上に、あらぬ罪を被せて他人の心を弄んでいるって筋書きにしか見えてこないけどな...」

 

「剣の勇者殿!いくら同郷の者だからと言ってそのような発言は許される物ではありませんよ!!」

 

「尚文は強姦未遂をしたのかもしれない。でも、俺の言った筋書きを否定出来る材料も無いはずだ...それならその鎖帷子の型番を今から皆で確認しに行こうぜ?それで全部はっきりするじゃないか。もちろん元康はその鎖帷子脱ぐなよ?証拠の改竄なんかされたら敵わないからな!」

 

「...っ!あぁいいぜ!行ってやろうじゃないか!!ただし、これでもし関係無かったら分かってるんだろうな!!」

 

「あぁ、その時は土下座でもなんでもしてやるさ...」

 

「吐いた唾は呑むなよ...」

 

「あぁ。ただし、今すぐ行く場合だけだ。後からの確認なんかは証拠として認めてやらないからな」

 

「いいだろう!襲われて傷ついている女の子をまるでビッチみたいに言いやがって...お前にも絶対にマインを傷つけた報いは受けてもらうぞ!!」

 

 元康がこちらを睨んでくる。ふと横を見ればビッチが親指の爪を噛んでイライラした顔をしていた。

 はっ、ざまぁみやがれ。ちょっとは気が晴れたな。

 

 さて、やってしまった訳だが...本当にどうしようか。

 ふと尚文を見れば、間抜けな顔をしていた。

 

「ふっ」

 

 つい笑みがこぼれてしまった。

 ついついかっとなってやらかしてしまった訳だが...思いのほか後悔はない。むしろずっと頭を覆っていた靄が晴れたような気分だ。思えば俺はこれがしたくて仕方なかったんだろう。

 

 さて、これで俺は下手したら殺されるかもしれないが...なんとか逃げ切れるだろうか。

 無理かな...この世界で死んだら俺はどうなるんだろうか。

 今になって怖くなってきた...でも、あのまま尚文の心を壊すのに比べればマシだと、そう思えてしまった。

 

「そんな必要は無い!!盾は許されざる罪を犯したのだ...!!証拠など無くとも証言者の涙と言葉がそれを十分に証明しておる...!!剣の勇者も!!同郷の仲間が突然罪を犯して混乱しているようだが、言ってよい事とならぬ事がある...!!一度冷静になって考えるべきではないのか!?」

 

「なっ...!!」

 

 尚文が驚愕の声をあげる。

 いくらなんでもこの流れからそれはあまりにも強引が過ぎる。尚文は言いたい事がいくらでもあるだろう...

 でもまぁ、俺はもう言いたい事は言った。後はもうどうとでもなれだ。黙って言葉を受け入れる。

 

「く...もういい。もういいさ!!お前らのやり方はよぉく分かった。それで?どうするんだ?牢屋にでも縛り付けるか?街中に磔にでもするか!?」

 

「....ふん。盾の勇者、貴様への罰は貴様の罪が国民に知れ渡っているという事だ。我が国でまともに生きていけると思うなよ?」

 

「....はっ!証拠を調べる事もしてないのに、国中にとは随分と用意周到な事だな!!それに、極刑だのなんだの言ってた割にお優しい事で!!俺みたいな男さっさと元の世界にでも戻して別の盾の勇者でも何でも呼べばいいだろうが!」

 

 尚文は先ほどの絶望が嘘のように元気に...いや、怒りが勝ってるだけなんだろうけど、言い返していた。

 

「それはできん。勇者の再召喚は全ての勇者が死亡した時のみだ」

 

「....な、んだって?」

 

「そんな...」

 

 元康と樹が狼狽えていた。

 

「そして貴様は腐っても勇者。唯一波に対抗できる存在だ。一か月後の波には招集する。例え罪人だろうと貴様は盾の勇者だ、役目からは逃れられんぞ」

 

「...はっ!いいぜ、よぉく分かった!!ようするに、身柄は拘束しないからレベルを上げて波に備えろって事ね。あーはいはい!よーくわかりました!!ふざけやがって...!!」

 

「ならば即刻去れ!!貴様の顔など見たくもない!!」

 

「こっちのセリフだ!!」

 

 尚文がクズに怒鳴り散らかす。

 

「都合が悪くなったら逆ギレですか。情けない人ですね」

 

「おい尚文!!まだマインに謝罪してねぇぞ!!」

 

「黙れ...!!...はっ!そうだ、これが欲しかったんだろ?慰謝料代わりにくれてやるよ!!」

 

 尚文が盾に隠していた銀貨を投げつける。

 

「うわ!何するんだお前!!」

 

 元康が尚文を追いかけようとするが、ビッチに止められる。

 尚文はずかずかと謁見の間を飛び出そうとして...ふと、こちらに振り向いた。

 

「...ありがとな」

 

 ポツリと聞こえたその言葉だけで救われたような気分になった。

 

 ....さて、これで残るのは俺だけだ。

 突き刺すような視線が痛い。今更極度の興奮で無視されていた緊張と心臓の音が激しく自己主張してくる。

 

「....剣の勇者よ、先程の発言を撤回してはくれぬか?そうすれば此度の事は不問としよう」

 

 クズが俺に問いかけて来る。

 お?これはまだギリギリ耐えてるのか...?

 

「...証拠も何も無いのに好き勝手言ったのはすみませんでした」

 

 尚文が居る時はどうにでもなれと思ったが、流石に一人になってこうなると自己保身に走ってしまう自分が恨めしい。

 一応、素直に謝るのはどうしても気が済まないので、妥協できるギリギリラインの謝罪を行った。

 

「うむ。皆の者、コウヤ殿は突然の出来事に錯乱してしまっていただけだ。此度の失言は全て無かったことにせよ」

 

「「「はっ!」」」

 

 周囲の大臣だのなんだのが返事をする。

 少し離れた所でビッチがぎゃーぎゃー騒いでいるが耳に入ってこない。

 どうせ自分の事を悪く言った罪をどうのこうの言ってるんだろ。

 

 俺は早足に立ち去ろうとする...

 

「おい待てよ鋼也」

 

 元康に引き留められた。

 

「...なんだ?」

 

「お前、本当に尚文の味方をするつもりか?」

 

「...別に尚文の味方はしてない。客観的に考えてそう思っただけだ...聞きたいのはそれだけか?」

 

「お前は間違っている...女の子を傷つけるような奴なんて庇う必要ない」

 

 なんだしつこいな...

 

「じゃあ俺は錯乱してたんだ。悪かったな...それじゃ」

 

 俺は急いで駆けて謁見の間から逃げ出した。

 




最初の死亡ポイントは回避成功しました。
尚文を見捨ててたらそのままカースに飲まれて碌な事になっていません。
ギリギリ回避成功です...
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