剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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ルロロナ村

 あれから、一週間と数日。

 仲間達の衝撃のお別れにショックを受けた俺は半日でルロロナ村までたどり着いてそれからずっとここを拠点にしている。

 

 半壊しているとはいえ寝食を過ごせる家屋があり、海が近いし誰も人が寄り付かない...まぁ魔物は寄って来るけど。

 食べ物は周辺の森で植物も取れるし、魚は取り放題だし、魔物も寄ってくるから肉も食べれるしで剣の調理技能のお陰でなんだかんだ問題なかった。あんまり美味しくは無いけど...毒を持ってる食材も鑑定技能でより分けられるし、いよいよサバイバルが板についてきた。

 

 ここしばらくみっちりとレベリングしていた俺は既にレベル31に到達していた。やっぱり海でのレベリングはバカにならないわ。地上での経験値がバカみたいに見える。

 夜は一人でやる事が一切無いから強化方法も細かく実践しており、今俺が愛用している剣でなら影くらいなんとかなる気がしてきた...まぁ、装備が今は塩水でボロボロだからあんまり防御力は高くないかもしれないけど。

 定期的に最寄りの漁港で魚を売ったり、ドロップしたアイテムや装備を売却して消耗品を回収する。

 廃墟も剣の木工技能で適当に修復しているので今や雨風凌げる家と呼べるものと化している...

 

 正直港町に拠点を移しても良いんだけど、何回も鎧を着て海と陸を行き来する変人と思われたくないし、魚や解体用の魔物を人のいる場所に置いておいて取られたら嫌なので、移動が面倒なのも相まってしばらくここに居てしまっている。

 こう、色々ボロボロで決して過ごしやすい場所ではないんだが...変に愛着が湧いてきているというか...もうずっとここが拠点で良いんじゃないかなとさえ思えてきているのだ。

 飾り付けする余裕すらできて来た。気分は秘密基地だ。

 

「....いい加減装備も新調しないとな。親父さんに海中戦特化の装備を作ってもらうか...素材は一杯あるし、ドロップ品の防具も押し付けて一番良いのを作ってもらおう」

 

 昨日サメのような魔物に噛みつかれて海中に引きずり込まれた時は本当に死ぬかと思った...なんとかスキルを当てる事が出来たので、酸素を生成する専用効果を持つ海藻の剣で呼吸して海中での高速移動スキルを駆使して逃げ切れたが...やっぱり適当な装備じゃこれ以上は難しいかもしれない。

 というか海の生物は全体的に経験値が多いお陰でバルーンに相当する雑魚でもかなりの強さを誇っている。最初は周囲の小魚でレベリングしてたくらいだ。

 そりゃあ大型の魔物になれば苦戦は必至だろう。

 ただでさえ人間には海中戦は不向きなのだ。これ以降はほぼ裸でやっていけるほど甘く無いだろうな。

 

 そんな事を考えていると、俺の家に誰かがノックしてきた。

 

「こんな所に人...?はい!どなたですか?」

 

 俺は能力解放用の剣から戦闘用の剣に切り替えて扉をあける。

 そこに居たのはシャチだった。

 というかシャチの獣人だった。

 

「あらー?村に誰か住み着いてるみたいだから来てみたけど、やっぱりあなたここの村の人じゃないわね?」

 

 特徴的な間延びした喋り方とその姿は嫌でもとあるキャラを彷彿とさせる。

 

「サ、サディっ...!!!!」

 

 俺はついつい名前を言いかけて口を手で押さえる。

 

「どうして私の名前を知ってるのかしらー?」

 

「あ、え...それは...!」

 

「ちょーっとお話聞かせてもらってもいいかしら?」

 

「......」

 

 どうする!?まじでどうする!?こんな所で原作キャラと出会うつもりは毛頭なかったんだが!?

 そうだ、槍直し最後の周回で俺達が召喚された時期からしばらくサディナはこの辺りをうろつくって知ってたじゃないか!!完全に忘れてた!!

 

 この人もラフタリアと同じくかなり勘がするどい設定だった。下手すれば要らない事に気付かれて面倒になるかもしれない。特にラフタリアの所在を知ってるのが不味い。そろそろ尚文の仲間になっていてもおかしくはないから主従関係はあるだろうけど、ラフタリアを攫われたりしたら尚文の貴重な仲間が...!

 逃げるか...?実際の所どんな物かはわからないが、武器の強化も能力解放も着実に進んでいる。逃走するだけなら、あるいは...

 けどこの人レベル40はあるし、レベルリセットされても問題なく動けるくらい素の身体能力高いんだよな...俺もレベル通りのステータスではないけど、正直勝てる気はしない。

 

 俺はサディナを突き飛ばして全力で駆け出した。

 

「きゃ!...あらー?どうして逃げるのかしら?」

 

 その巨体に見合わず、俊敏な動きで俺に追従してくる。

 

「くそっ!」

 

「ちょっと大人しくして頂戴...ね!」

 

「ぐっっ...!!」

 

 サディナが銛を振るって来るので、俺はそれに剣を合わせる。

 ガキィィィン!!と鈍い音が鳴って俺は吹き飛ばされた。

 

 ダメだ!人間と獣人の違いかは知らないが膂力が違いすぎる...!!

 俺は無様に転がりながらもなんとか体勢を立て直す。

 

「しばらく寝てもらうつもりで攻撃したんだけど、結構頑丈なのねー」

 

「はっ...はっ...」

 

 俺は剣を構える。明らかに勝てない相手に相対する事への恐怖で少し手が震える...が、事が始まってしまった以上はやるしかない!!

 

「ふぅん。聞きたい事がいっぱいあるし、ちょっと本気出しちゃおうかしらー?」

 

 俺は剣を構えて突進する。

 何度も斬りかかるが、全て綺麗に往なされる...なら!!

 

「エアストスラッシュⅡ!!」

 

 俺は飛ぶ斬撃を放った。

 ...が、それは避けられる。

 

「魔法...ではないわねー。不思議な技を使うのね」

 

「水斬波Ⅲ!!」

 

 剣の軌道に沿って鋭利な流水の刃が相手に襲い掛かる...が、それも全てひらひらと回避される。

 

「力と技で敵わないから遠距離攻撃...ってのはちょっと甘いんじゃないかしらー?」

 

 そのまま肉薄されて、あっという間に押し倒される。首根っこ押さえられた!!おっっっっも!!見た目通りの巨体は見た目通りの圧迫感を俺に与えて来る...!!

 なんかツルツルムニムニしててすごい感触だ...!!

 

「ぐえっっ!!」

 

「...あなた、随分とちぐはぐねー。能力は高いし特殊な力も使いこなせるのに、技量がダメダメ...仲間にレベルを上げてもらったのかしら?でも、その割には動きは悪くなかったし、まるで魔物みたいな戦い方だったわ」

 

「ご...ま、魔物としか戦ってこなかったもので...!!」

 

「無駄よー。完全に重心を押さえてるから、どんなに力を入れても動けないわよ?」

 

「ぐぅ...」

 

 龍刻の砂剣が解放されてたら転送剣で逃げれたんだが、後もう少しレベルが足りない。

 

「う...わかり、ました...参りました!!」

 

「そう?良かったわ。こちらとしても逃げないなら傷つけるつもりはないから」

 

 サディナが俺の上から退く。

 

「げほっ!げほっ...!!」

 

 くっそ...やっぱりそう甘くは無いか...にしてもこれで俺はもう逃げきれない訳だが、どうしようか。

 

「それじゃあお話させてもらいたい所だけど...折角だしこれも何かの縁と思ってどう?」

 

 そう言うと酒を懐から取り出した。

 げ、こいつはとんでもない酒豪なのだ。付き合わされたら確実に明日が終わる。

 

「いや、俺はそんなにお酒が得意じゃないし...」

 

「そんな事言わずに!ほら?...それとも、私のお酒が飲めないのかしらー?」

 

「う...じゃあ、頂きます...」

 

「はい!乾杯ー!」

 

「か...乾杯...」

 

 一口酒に口を付ける...ヴェ!!これウイスキーより強いぞ!!常温で飲めとかまじか...

 

「そうだ、自己紹介してなかったわね。私はサディナって言うのよ。あなたは?」

 

「鋼也...剣崎鋼也です。あっ、鋼也が名前です」

 

「ふーん、コウヤちゃんね」

 

「ちゃんですか...」

 

「あらー?不服かしら?」

 

「いえ」

 

 なんというか掴みどころのない人だ。おっとりしていて友好的にしているように見えるが、なんとなく警戒の色が見える...まぁ、推定不審者にフリだけでも仲良くしてくれてるだけマシか。

 

「それで?どうしてこんな所で、壊れてる家まで修理して過ごしてるのかしらー?」

 

「う...海で経験値稼ぎがしたくて...」

 

 嘘は言っていない。ただ観光気分もあったのは事実だ。この世界の波と亜人狩りの被害がどんな物なのかこの目で確かめようと思って来た。そしたら思いの他居心地が良くて長居してしまったのだ。

 

「ふーん?確かに海の魔物は経験値が多いけど、それは私達みたいな水生の獣人にとってよね?普通の人間なら上手に泳げないから魔物が捉えられなくて結局地上より効率が落ちるって聞くけれど」

 

「それは...俺は特殊な技が使えるんで、普通の人間よりも深く潜れるし速く泳げるんです」

 

「なるほどねー。まぁ見てたから知ってるけど」

 

「見てたんですか!?...じゃあなんで聞いたんですか」

 

「一応確認よー?それで、どうしてここに?他にも海に面してる場所は一杯あるでしょうに、こんな廃村で過ごす意味は無いんじゃないかしら?」

 

「それは...」

 

「別に経験値稼ぎがしたいなら向こうの港町でもいいはずでしょー?ここには何かしらの理由があって来た。違うかしらー?」

 

「えぇっと...あー...」

 

 俺は返答に窮してしまった。

 

「その迷いがもう答えでしょ?私の名前も知ってるみたいだったし、もしかしてこの村に何か所縁があるんじゃないかしら?」

 

「無い...とは言えないですね」

 

 もうどうにでもなれだ。ほとんどバレてるよなもんじゃないか。

 

「ふぅん...あんまり言いたくないみたいねー。まぁ、悪意を持ってこの村に居ついてる訳じゃなさそうだし、どうせ誰も居ないんだから好きに過ごしてくれて良いわよ?」

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

「えぇ。それじゃあ、腹の探り合いはもうやめて本格的に飲みましょー?」

 

「え゛..俺もう結構来てるんですが...」

 

「そんな訳ないでしょー?場所代と思って今日は付き合って頂戴?」

 

「うぅ...アルハラだ!」

 

「良く言われるわー!けど、お酒を飲むのは楽しいんだから、人と一緒に飲むともっと楽しいでしょー?」

 

「それは...まぁ...」

 

 あの三人との晩御飯を思い出す。まだ知り合ったばっかで互いに探り合っている面はあったが、それでも楽しいと思えるひと時だった。

 俺はサディナが継ぎ足して来た酒に口を付ける。

 

「それじゃあ、お姉さん海におつまみを取ってこようかしら。コウヤちゃんもお家にある食べ物とか持ってきて頂戴ねー?」

 

 そう言うと海の方へと言ってしまった。

 ...今なら逃げれるかな。

 

 そう思ったがあまり乗り気では無かった。

 まぁ、ここしばらく買い物以外では碌に人と喋って無かったしな...タダ酒飲めるって言うなら飲まして貰おうじゃないか。

 思えばここしばらくずっと張りつめていた。今日くらい、もう良いだろう。

 酔いの限界が近づいたら寝かせて貰えば良いだけだ。

 

 そう思いながら俺はふわふわとした状態で家におつまみを取りに行った。

 

 ─────────────────────────────────

 

「んん...ぐぁ!頭痛てぇ...」

 

 体が異様に怠い...まるで風邪を引いてしまったような気分だ。まぁ、ただの二日酔いなんだが...

 

「あらー?おはようコウヤちゃん!」

 

「お...はようございます。サディナさん...」

 

「はい、お水よ?」

 

「ありがとうございます...ってこれ酒じゃねぇか!!」

 

「あらー?そうだったかしら?」

 

「勘弁してくださいよ...」

 

 俺は飲み水置き場で水を大量に飲み込んだ。

 

「ぷはっ...」

 

 人心地ついたな...

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫では無いですけど...まぁ動けはします」

 

「そう?なら良かった」

 

 そういや、普通にこの人俺の家に居座ってるけど...昨日はどうなったんだ?途中から記憶が無いんだが...

 

「それじゃあ、コウヤちゃんが動けるようになったら会いに行きましょうか」

 

「え?...なんの話ですか?」

 

「何を言ってるの?昨日話し合ったでしょー?」

 

「いや、ごめんなさい...本当に何も覚えてないです」

 

 嫌な予感がして、冷汗が背中からどんどん出て来る。

 

「だから、ラフタリアちゃんの様子を見に行きましょ?」

 

「あ...あぁ...」

 

 はい終わったー。酒に呑まれて情報ボロボロ零しまくってんじゃねぇか!!

 え?俺どこまで話したんだ?本当にどこまで話した!?原作知識の話とかシャレにならないぞ...!?

 

「え、えっと...ちなみに俺は昨日何を話しましたか?」

 

「そうねー。コウヤちゃんは剣の勇者だって事、この村出身の子で居場所に心当たりある子がいるって事、そのうちの一人がラフタリアちゃんで今は恐らく盾の勇者の奴隷になってること、奴隷と言えど盾の勇者だから酷使したりはせずにきちんと大切にされているであろう事、盾の勇者には仲間が必要でラフタリアちゃんにとってもすごくいい話だからどうか盾の勇者の奴隷のままそっとしておいて欲しい事、とかかしらー?」

 

 あっぶねー!!ギリギリアウトだけど、絶対言っちゃいけない事は回避してた...!!

 

「そ...そうですか」

 

「だから、まずはラフタリアちゃんの様子を見に行って、それで本当に問題ないと私が判断出来たならそのままそっとしておくって決めたでしょ?」

 

「.....わかりました。行きましょう」

 

「えぇ。それにしても私驚いちゃったわー、私が亜人だって知ってたんだもの。本当に色々な事を知ってるのねー。流石は勇者様なのかしら?」

 

 そういうとサディナさんは体から煙を発して、亜人形態に戻った。

 そこにはとんでもない美女が居た...

 不味い。めちゃくちゃ目のやり場に困る...シャチならなんとも思ってなかったが亜人になられると困る...!

 

「あ、え...な、なんで...?」

 

「ラフタリアちゃんに私だってばれないように亜人形態になって欲しいって言ったのはコウヤちゃんでしょー?他にもラフタリアちゃんにはまだ正体を明かさないで欲しいとか色々と注文受けちゃって困っちゃったわー」

 

「あぁ...なるほど」

 

 納得の理由ではある。問題は俺の好みドストライクな事だ...尚文の事好きになるの分かってる相手に一目ぼれとかまじ勘弁させて欲しい。いや、まだ大丈夫なはずだ。俺はまだ大丈夫。

 

「それじゃあ行きましょうか。城下町の方で良いのよね?」

 

「そ、うですね...多分、近隣の森かなんかでレベリングしてると思います」

 

「わかったわ。それじゃあ行きましょうか!」

 

 サディナさんが俺にパーティ申請を送って来る。

 

「え?」

 

「これも忘れちゃったのー?お姉さん困っちゃうわねー。ラフタリアちゃんの事を教える代わりにしばらくパーティメンバーとして一緒に戦って欲しいって言ったのはコウヤちゃんでしょ?」

 

 何を言ってるんだ俺は...!!

 ちょっと一人が寂しかったからって酒飲んではっちゃけすぎだろ!!

 本当に...何してるんだ...

 

「本当にラフタリアちゃんが無事だったなら、約束はしっかり守るわー。戦闘訓練もつけてあげるし、海中での戦い方も教えてあげる...まぁ、たまにはラフタリアちゃんの顔を見せてもらいたいけどねー。それに、私の目的の為にも勇者様の仲間になれたら色々と都合がよさそうだし、よろしくね?...あ、これから私はナディアって偽名を名乗るから、亜人形態の時はナディアでよろしくねー?」

 

「う...はい。ナディアさん」

 

 俺は目線を逸らしながら答える。

 ほんと目に毒だよこの人...教育に悪いよ教育に...思えば獣人形態もかなり際どい衣装ではあったな。シャチだからあんまり実感わかなかったけど。

 

「それじゃあ出発よー」

 

 間延びした号令を合図に俺達は城下町の方へと歩き始めた。

 ...まぁいいや。そろそろ尚文の様子を一度見ておきたかったし、装備も新調したかった。

 城下町に戻るのも悪く無いだろう...ある程度強くなれたし、俺よりさらに強いサディ...ナディアさんも居るんだ。

 そうだ、ついでにこの人に尚文を一度パワーレベリングしてもらうのも悪くないかもしれない。

 

 なんとか自分を納得させて、俺はナディアさんについて行った。

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