剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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邂逅

 城での一件を終えて、適当に安そうで雰囲気も良さげな飲食店に入ると...

 

「ほらナオフミちゃん乾杯ー!」

 

「飲まねぇって言ってんだろ!」

 

「むぐむふ」

 

 一際目立っている集団が居た。尚文一行とナディアさんだ。いつの間に出会ってたんだ...?

 

「うへ...」

 

 これからの目的を考えれば、既に集ってくれているのは大変都合がいいはずなのだが...

 城下町飯を一人で楽しんで、英気を養ってから行こうと思っていたのにこれは酷い。

 

 一瞬別の店に行こうかと思ったが、声をかけられてしまう。

 

「あらー?コウヤちゃん?偶然ねー。こっちおいで!」

 

 ナディアさんが酒の入ったジョッキを振って来る。

 

「は?......コウヤ?」

 

 尚文が目を点にして驚いていた。

 なんかちょっと面白いな、猫みたいで。

 ラフタリアはきょとんとしていた...尚文に散髪もしてもらっているらしく、食べ方はちょっとまだ覚束ないけど、それ以外は概ね非常に可愛らしい子供といった感じだ。装備もきちんと買ってもらっているようで、慣れ親しんだロリタリアの姿だ。

 良かった。あんまり奴隷らしい格好してたらナディアさんがアウト宣言する可能性あったし。

 

「久しぶり、尚文」

 

「あ、あぁ...久しぶり」

 

 俺は席に座ると店員さんに料理を注文する。外に貼ってあったメニューで気になったやつだ。

 

「それで...これはどういう集まりで?」

 

「...俺が聞きたい。なんなんだこの女は...!酒瓶片手に急に話しかけてきたと思ったら奢ってやるから一緒に飯を食べようとしつこく迫って来やがる...!挙げ句の果てにはアルハラだぞ!お前の仲間だって聞かなかったら無視してた所だ」

 

「コウヤちゃんから聞いてた特徴にぴったりだったから声をかけたのよー。ボサボサ髪で盾を腕に引っ付けてる男の子...ね?」

 

 十中八九ラフタリアを見て声をかけたんだろうけど、一応俺との約束を守るつもりはあるらしい。自分の正体は明かしていないようだ。

 

「ほらコウヤちゃんも!カンパーイ!」

 

「か、かんぱい...」

 

 ナディアさんはいつの間にやら酒を頼んでいたらしく、俺に差し出して来るのでそれを受け取って飲む...

 完全に迎え酒だなこれ。でもまぁエールなのでまだ軽い。

 

「なぁ、真っ昼間から呑んだくれてるような奴なんで仲間にしたんだ?」

 

 尚文が心底理解できないという顔で聞いてくる。

 

「成り行きで...というか仲間になってからまだ一日も経ってないし、まだ良し悪しの判断も出来てないな」

 

「はぁ?...こんなアルハラ女俺だったら即刻クビだぞ。さっさと捨てたほうがいいんじゃないか?」

 

「やーん。ナオフミちゃん酷いわー」

 

「棒読みがすぎるだろ...はぁ、まぁこんな奴はどうでもいい。俺も会いたかったぞコウヤ。言いたいこと、聞きたい事、山程あるからな」

 

「はは、お手柔らかに...」

 

「まずはまぁ...感謝させてもらおうか。お前が裏でちょこまか俺の為に動いてるらしい事は聞いた。親父には色々と便宜を図って貰えたし、こいつも...まぁ、素直に助かった」

 

 尚文がポンポンとラフタリアの頭を撫でた。ラフタリアは不思議そうな顔をしている...かわええ。

 あぁ...心が浄化されるようだ...これだよこれ。やっぱワイルド尚文とロリタリアのこの関係がええんじゃ...若干尚文が軟化してて尚良い。

 

「どういたしまして」

 

 意外にも尚文は真摯に感謝の念を伝えて来た。

 てっきり感謝はするがどうのこうのと文句が続くと思ってたのに。

 なんの説明もせず、やる事やって消えたからな...尚文からしたら意味が分からないだろう。まぁあの時の俺が無暗に近づいたら邪魔されたり色々あったろうししょうがない。

 

「あの時も完全に俺の味方は...まぁあの場でするのは無理だっただろうし、ああやって言ってくれただけで心底助かったのは事実だ。最初の夜から俺に色々気を配ってくれているお前の事だけは、全面的に味方と思っていいと考えている...あの件でお前にも迷惑がかかってるみたいだしな」

 

「いいよ別に。したくてやった事の結果だし、そう思って貰えたならなによりだから」

 

「あぁ。感謝してるさ...けどなぁ、ちょっとは説明してくれても良かったんじゃないのか?」

 

「説明...?」

 

「思えばお前は最初から俺に優しかったし、同情的な目を向けていた...あの寃罪の後も城を出て迅速に俺の支援の為の行動をしている。お前は、俺がああなるのを知っていたんじゃないのか?」

 

「....」

 

 やはり来たか。まぁ当然の疑問だよな。

 

「私も知りたいわねー。コウヤちゃんのヒ・ミ・ツ」

 

 ナディアさんが尚文に便乗して俺の頬を指でつんつんして詰問してくる。やめてくれよ...!今までの人生でこんなことされた事ねぇよ!堕ちそうになるだろ!

 

 まぁ、そんな童貞心は一旦置いておくとして...だ。

 まぁなぁ...正直全部ぶっちゃけても良いのかもしれないなとも思うんだけど、盾の勇者の成り上がりって本読んでましたーなどと言い始めたら俺はもう全部ゲロってしまうだろう。

 

 そうなったらラスボスを君達に倒してもらう為にこそこそ動いてました。だからこの世界の為に神の如き力を手に入れて下さい、なんて言って信じてもらえる自信は無い。

 

 後、君は主人公で君はヒロインなんだよーなんて言って二人の関係が拗れたら真剣に死にたくなる。てぇてぇだろこの光景...!これを守りたいんじゃないのかよ!

 

 後はまぁ、原作の事を言うことによる尚文や世界への影響が正直全く読めない。

 今の所は強化方法とか諸々をちょっと時短させてるだけで槍直しで見てた改変の範疇だからある程度流れが読める。

 メルロマルクの王城付近だけだからってのもあるけど。

 

 なら、言い逃れ出来なくなってからでよいのでは無いだろうか。俺の手に余る事態...具体的には霊亀以降か?それくらいまでは別にわざわざ要らない事を言う必要も無いんじゃないか?

 今はとにかく自分達の強化に集中して欲しいしな。俺も含めあんまり先々の事ばかり考えてると足元掬われてもおかしくない...

 

 とまぁ、こんな風に言わない理由ならポンポン出て来るんだが、言いたい理由が言ってしまって楽になりたい...くらいしか出てこない辺り、多分まだ言いたく無いんだろうなぁ。

 

「正直に言うと、俺はこうなるかもしれないと知っていた。他にも色々と知ってる、と思う...けど、情報源については言いたくない...今はまだ」

 

「言いたくない...か。分かった、今はこれ以上追及しないでおくとしよう。必要な事は教えてくれるんだろ?なら、今はそれでいい」

 

 尚文がガリガリと頭を掻きながら言う。

 

「悪い...ありがとう」

 

「ふん...それじゃあ次だ。今のレベルはいくつだ?」

 

「31だけど」

 

「さん!?...くそっ、たった一週間で俺はそこまで出遅れてるのか...となると元康達はもっとレベルが上なのか?」

 

「さぁ?あーっと...逆に尚文はレベルいくつなんだ?」

 

「11だ。こいつは10。一応お前の言う通りの強化は弄ってるし、細かく素材を吸ったり解体したりでボーナスは稼いでる...まぁ、お前の言った通りまともに攻撃は出来ないがダメージを受けた事は無いな。防御特化なのは良いが、そのせいで最初の数日はまともにレベリングも出来なかった...で?それがなんだってんだ?」

 

「実はな...この世界、海の方が経験値が多いんだよ」

 

「海の方が...?どうして?」

 

「そういうものだから...としか言えないかな。そんで、俺はこの一週間ずっと海でレベリングしてたわけだ」

 

「なるほどな。一応効率的なレベリングってやつはやってたわけだ...例の手紙に書いてくれりゃ良かったのに」

 

「経験値が高いって事はそれだけ強い魔物が生まれやすいって事だ。確かに同じ経験値の魔物で比較するなら海の方が弱い魔物だと言えるだろうけど...」

 

「その中で食物連鎖してる奴らは当然、効率よくレベリング出来てる訳ね」

 

「そ。割と近海でもレベル40クラスがうようよしてる...低レベルで、それも攻撃手段も無しに入るのは自殺行為だ」

 

「それでレベルを聞いた訳か...で、どうなんだ?」

 

「一応、強化もしてるならレベリングを始められるだけの最低限はあると思う...けど、海中での戦闘はかなり勝手が違うからな。お前が受け止めてその子が攻撃するって流れにするのは少し難しいかもしれない」

 

「そうか。水中では全方向から敵が来る可能性があるもんな...おまけに相手は水中で自由に動き回れるプロって訳か。ままならないな」

 

「えぇ。海の魔物の経験値が多い事は皆知ってるけど、うまく倒せないから結局地上でレベリングする事になるのよねー」

 

「まぁ、普通はそうなんだけどな...折角の出会いだし、ここはひとつパワーレベリングといかないか?」

 

「パワーレベリング?」

 

「あぁ。ナディアさんに二人が海に連れて行ってもらって戦うんだ。尚文はその子をしっかり守ってれば良い。後は全部ナディアさんがやってくれる...どうだ?」

 

「どうだって、そりゃあやってもらえればちょっとは今後が楽になるだろうが...お前らにメリットが無いだろ」

 

「あらー?私はやっても良いわよー?ラフタリアちゃん可愛いもの」

 

「えっと、あの、うぅ...」

 

「俺はまぁ...そうだな。尚文が強くなってくれると俺にも良い事があるんだ。だからそこらへんは気にしなくていい」

 

「...お前はどうするんだ?勇者は近くに居ると反発して経験値が貰えないんだろ?」

 

「俺はまぁ、ここしばらくずっと海中の魔物しか吸えてないし、この機会に森の魔物を色々吸っておくよ」

 

 対ガエリオン戦の練習として、森の奥のドラゴンとかグリフォンと戦うのも良いかもしれない。どれくらい苦戦するか分からないけど。

 

「そうか...なんか悪いな。正直助かる」

 

「良いって良いって」

 

「それで?海って言ってもどこに行くんだ?最寄りの海は...ここになるんだろうが」

 

 尚文が地図を広げて指を差す。

 そこはルロロナ村のすぐ傍だった...それは、あんまり良くないな。今のラフタリアを刺激するのはダメだろう。

 それを言うなら海自体NGかもしれないが、まぁそこは行ってみないと分からない。ダメだったら地上でレベリングしてもらおう。

 

「いや、街道を使った方が早いからこの港町付近が良いだろうな。物資の補給もできるし」

 

「ふーん...まぁ、お前がそういうならそうなんだろ。生憎この辺りから出た事が無いからな、距離がどうこう言われても分からん」

 

「そうだよな。まぁ俺もこの町と城下町くらいしか知らないけど...」

 

「変わんねぇじゃねぇか...まぁいい。それじゃあ早速出るか」

 

 尚文が立ち上がろうとする。

 

「えっと、俺の飯がまだなんだけど....」

 

「あ、いや、すまん...」

 

「あいよ、ヌーピグ定食お待ち!」

 

 ジャストタイミングで料理が俺の前に運ばれる...若干気まずい...

 

「そ、それじゃ、いただきます...あぁ、でもあれだぞ?どうせ俺は単独行動だし、あれだったら三人で先に行ってて良いけど」

 

「いや、もう少し話したい事も聞きたい事もあるからな...待っておく」

 

「そうか...」

 

 俺は定食に手をつける。豚のような肉に不思議な味のソースがかかっていて、思いのほか美味かった。

 

「あの、ご主人様...海に行くの?」

 

「あぁ...あそこの酒女と三人でな。コウヤの仲間だ、何か参考になる動きとかもあるかもしれん。一応しっかり見ておけよ」

 

「はい!」

 

「よし...」

 

 はぁ...てぇてぇ...

 ふと、横を見ればナディアさんが慈しむような瞳で二人を見つめていた。

 同士がここに居たか。

 

「なぁ、明日は予定あるのか?」

 

 ふと、尚文が予定を聞いてきた。何かあるのか?

 

「いや、親父さん所で防具と武器を作って貰ってるから、それが完成するまではこの辺りに居るつもりだけど」

 

「そうか...いや、一旦良い。今日の狩りが終わってから考える」

 

「?...分かった」

 

 何かやりたい事あったのか?尚文の頼みなら全然構わないけど...まぁいいか。尚文の言う通り今日の狩りが終わってから聞こう。

 

 そして食事を急いで終わらせた俺は、三人と一緒に港町へと向かった。

 

 ────────────────────

 

 道中、ふと気づいた事があったので俺はナディアさんに小声で声をかける。

 

「あっ、そうだナディアさん。ちょっとレベル下げても良いですか?」

 

「レ、レベルを...?えっと、どういう意味かしらー?」

 

「武器の能力の一つに資質向上ってのがあって、レベルを下げる代わりに素質を上昇させて次に同じレベルになった時に能力がより高くなるように出来る力があるんですけど...ナディアさん今レベル40ですし、経験値そのまま消えるのももったいないですから、どうですか?」

 

「んー、まぁ確かにそうね。それじゃあせっかくだし5レベルくらいお願いしようかしらー?」

 

「分かりました...ありがとうございます」

 

 俺は剣の力を使ってナディアさんのレベルを素質に変換していく...まぁ、無難に魔力の素質で良いか。

 

「あらー?本当にレベルが下がるのねー。ほんと色々な事が出来るのね、勇者様の武器は」

 

「はい。まぁこれはちょっと特殊な強化方法ですけどね」

 

 俺はパーティ編成画面を呼び出して、ナディアさんを外す。

 

「はい。それじゃあ俺はそろそろ分かれるつもりなんで、尚文とパーティ組んでください」

 

「分かったわ。二人の事は私に任せて。ちゃーんと守ってみせるから」

 

「お願いします」

 

「えぇ!...はーい、ナオフミちゃん!パーティ組みましょー?」

 

「はいはい...って、レベル35かよ...コウヤが負けただけの事はあるか」

 

「いや、俺なんかレベルが上がってるだけで中身スカスカだからな?」

 

「力任せで魔物みたいな戦い方だったわー。暴れん坊さんだったけど、ちょっと技を使えばすぐに押さえられるわね」

 

「俺達も今からその中身を伴わないレベリングとやらをする予定なんだが...」

 

「まぁそこは後からでも良いしな。俺もナディアさんに技術を指導してもらう予定なんだ」

 

 まぁ実際にそうなるかは分からんけど...ナディアさんが尚文達に予想以上に馴染んだら、最悪そっちに行ってもらってもいいと思ってる。

 ナディアさん的にもラフタリアちゃんの隣は嬉しいだろうしな。

 まぁ恋のライバルとしては強敵かもしれんが...

 その場合は俺の指導はお預けになるだろう。

 

 まぁいい。その分尚文が強くなれるならどんとこいだ。

 

「へぇ。こいつ本当に強いんだな。酒カスのくせに」

 

「ひどーい!コウヤちゃんなぐさめてー」

 

「全然悲しそうじゃないですけど...」

 

「はぁ...腕はいいんだろうが疲れそうだ。言っとくが!レベリング中に酒を飲んだら許さないからな」

 

「えー」

 

「えーじゃない!大体酔っ払いが海に入るんじゃない」

 

「あらー?私まだ酔って無いわよ?」

 

「どうみてもシラフには見えないが...っと、コウヤはそろそろか?」

 

 尚文が俺の方に振り向く。

 

「あぁ。それじゃあ俺はそろそろ分かれるよ。皆、頑張って!」

 

「あぁ。また夜に会おうぜ」

 

 尚文が俺に手を振ってくれたので俺も振り返す...

 そうして、だんだん三人の姿が遠くなっていった。

 

「....さて、久々の地上戦だ。気を引き締めないとな...!」

 

 俺はちょっとだけ寂しいと思うこの気持ちを剣に乗せて、森の方へと突撃した。

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