お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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アニメ最後なのが辛いのと、if√が書きたすぎて、120パーの私欲で新たに枠を作りました。本編の方に投稿するのは少し憚られたので……ユルシテ…。

最初は表に置いておき、そのうちチラ裏にひっそりと移動しようと思ってます。
なるべくさっぱり風味を目指したい。

今√は本編40話からの分岐視点。主人公があの時点でマーレに行ってたら、な話。
相変わらずジークは曇らせます。


IF√[獣との邂逅]
イモイモイモモ。


 女型捕獲作戦から一夜明けた早朝。まだ夜の気配が色濃く残っている時間帯。

 

 そんな中、動く一人の人影があった。

 

 部屋を出たその人物は、ルパンさながらの忍び足で廊下を進む。

 昨日の今日でほかの人間はまだ熟睡している者が多い中、その人物はある部屋の前にたどり着いた。

 

 

「ぐふふ……」

 

 

 怪しげな声を漏らし、よだれを垂らしながらその人物が手に取ったのは、サツマイモ。

 イモはイモでも、蒸して食べるととんでもなく甘くなる食材である。

 

 新兵がこの建物に私服で待機することになってから、彼女はどさくさに紛れて食料庫の場所とそこに保管されている食料を把握し、人目を盗んでありつく気だった。

 

 イモ女は……いや、サシャ・ブラウスは、新聞紙と桶も用意して外に向かう。

 

 104期生の同期に普段バカにされる彼女でも、食に関しては「こうするとさらに美味くなる」という知識を持っていた。

 

 たまに食べてはいけないものを食べてしまう時もあるけれど。

 

「濡らした紙でイモを包んで、落ち葉を集めて燃やせばいいんですよね…」

 

 外に出て、人目のつきにくい場所に移動したサシャは、箒を片手に意気込む。

 

 上官に見つかれば、貴様は何をやっとるんだ、な案件。しかも持ってきたのは木箱まるまる一つである。

 

 

「……何を………やって、いるんだ…?」

 

「………っ!!」

 

 

 突如背後から声をかけられたサシャは、箒を構える。

 

「何だ、ライナーですか」

 

「便所から戻る時に物音がして、気になってみれば………いや、それよりお前は何を…」

 

「これから焼きイモを作るんです」

 

「今からか…? そもそもその新聞の上にあるサツマイモは、食糧庫から盗ってきたのか?」

 

 中々寝つけず、トイレに行ってからもう一眠りしようと思っていたライナーは、サシャの奇行にすっかり目が冴えてしまった。

 さらに無言で手渡された箒を見て、言葉を失う。まさか。

 

「一人じゃ大変ですし、さすがに木箱いっぱいのイモは私も食べきれないです」

 

「勝手に焼いて食うのはまずいだろ…」

 

「みんなで分け合えばいいんですよ! それなら多分……そんなに怒られないと思います!」

 

「サシャお前、「分け合う」って言葉がどんな意味か知ってて言ってるのか……!?」

 

「失礼ですね。それくらい知ってますよ」

 

 こと食べ物に関しては人類の誰よりも強欲そうな女が、分け合おうとしている。

 

 これは絶対に夢に違いない。

 ライナーは頬をつねった。痛かった。

 

「……ハァ、言ってもお前はやめなさそうだしな。しょうがない、手伝ってやるよ」

 

「あっ…ありがとうございます!!」

 

 走ってもう一本の箒を取りに行ったサシャを見て、ライナーは小さく笑う。

 

 ()()のために、これくらいはしてやってもいいだろう。

 それにがめつい女を一人にしておいて、建物に火が燃え移った、なんてことになったら最悪である。

 

 

 

 それから落ち葉を集めていた二人に、もう一人金髪美少女が加わった。

 

 ライナーと同じくトイレから戻る途中、ガサガサ、という音が気になって現れたクリスタ。

 

「こんなことしちゃダメだよ!」

「嫌です!!」

「ダメだよ!」

「嫌ですッッ!!!」

 

 ────という口論の末に、サシャがみんなと焼きイモを食べたい旨を聞いたクリスタは、驚いたのち、少し悩んでから自分も手伝うことにした。

 

 旅は道連れ世の情け、と言うように。

 

 芋も道連れ、屁の情けだ。

 

 

「二人だけ叱られるのも可哀想だし…。もうっ、ライナーもちゃんと止めなきゃダメだよ!」

 

「す、すまない……(結婚しよ)」

 

 プンプン怒りながら落ち葉を集めるクリスタは、可愛かった。

 

 

 そして落ち葉がある程度集まり、蒸し蒸しパーティーが始まる。

 

 炎の周りを囲って座る順は、左からライナー、サシャ、クリスタだ。

 ライナーはさり気なくクリスタの隣に座ろうとしたが、その間を猛獣が如きまなざしで陣取ったイモ女により、阻止された。

 

「でも、サシャも「分け合う」って言葉を知ってたんだね」

 

「……? さっきライナーにも同じことを言われました」

 

「(クリスタと意見が合うとは…。やっぱり俺たちお似合──)」

 

「確かに、みんなで食べたら美味しいよね」

 

「はいっ!」

 

 火炙りに処されたサツマイモに釘づけだったサシャの視線がふと、遠くを見つめる。

 その芋女らしくない表情に、クリスタが肩をつつく。

 

「大丈夫、サシャ?」

 

「大丈夫です。だいぶ眠いですけど……」

 

「………もしかして、アウラ副分隊長のことが心配なの?」

 

「……はい」

 

 アウラ・イェーガー。第五班の副分隊長である女は、先日の骨折と疲労の影響で高熱を出し、寝込んでいる。

 エルヴィンらはエレンを王都へ引き渡しに向かっており、そのほかがこの場へ待機…といった流れだ。

 

「サシャは訓練兵の時に言ってたよね。副分隊長のことを尊敬してるから、調査兵団を目指してる、って」

 

「トロスト区の一件で、憧れが一番の入団動機ではなくなりましたけど…」

 

「……色々、あり過ぎたもんね」

 

「………」

 

 暗くなった場の中で、ライナーは静かに二人から視線をそらした。

 パチパチと、静寂の中で音が鳴る。

 

 

「実は焼きイモの良さを教えてくれたのは、アウラさんだったんです。彼女の記憶が戻った後に、お腹を空かしていた私に焼いてくれて……」

 

 

 その甘さと美味しさに、幼い頃のサシャはほっぺたが落ちる思いだった。

 そして残りの焼きイモをすべて我が物にしようとしていた少女に、女は言ったのだ。

 

「「みんなで食べた方が、もっと美味しくなるよ」────そう言われて、信じられませんでしたけど、確かにあの時両親もいっしょに食べたイモは、とても美味しかったです」

 

「それは…肉よりか?」

 

「肉の方が美味しいです」

 

 それは、どうなのだ。感動的なエピソードに余計な茶々を入れてしまったライナーもライナーだが、即答で肉を選ぶ女もどうなのか。

 

 結局がめつさには勝てないサシャに、クリスタが笑う。

 

「私、わかったよ。サシャが焼きイモを作ろうと思ったのは、アウラ副分隊長に食べてもらいたかったからだね」

 

「はい! 高熱で食べられるかわかりませんけど、無理だったら私が食べるので」

 

 三人で話をしていれば、クリスタが戻っていないことに気づいたユミルが訪れ、やがて漂う美味そうな匂いにつられたコニーも現れる。

 その後とうとうナナバにバレ、そのことがミケにも伝わることになった。

 

 

「ゲルガー! あんたは何で普通に新兵に混じってるんだよ!!」

 

「だって美味そうだったからよぉ」

 

 上官の一人であるゲルガーがちゃっかり途中で混ざっていたことや、新兵らの大多数が犯行に及んだことにより、焼きイモ騒動はなぁなぁの形でおさまった。

 

 

 ちなみにベルトルトはそのことに気づかず、ライナーに起こされるまでぐっすり寝ていた。

 どんな時でも安眠男である。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「──というわけで、新兵が朝からイモを焼いていた。主犯はコイツだ」

 

「すみませんでした……」

 

 病人がいる一室。朝食を終えて、サシャは焼きイモを渡すべく、ミケの同伴で部屋を訪れた。

 ほかの新兵はお叱りを受けて終わったが、主犯はきっちりナナバからげんこつをもらった。

 

「………は、はぁ」

 

 そしてそれを起きて早々に聞いたアウラは、元々濁っている瞳をさらに濁らせる。

 

「あの、アウラさんにも作ったんですけど、食べられそうにないですよね! というわけでこれは私がいただ…」

 

「まだ本人は何も言ってないだろ」

 

 ミケに首根っこをつかまれたイモ女。

 苦笑いするアウラはお礼を言い、「でも喉に通らなそう」と断った。

 

 サシャはそれに悲しむと同時に、歓喜する。このイモは私の物だ、と。

 はじめこそ焼きイモを作ったのはアウラのためだったが、食欲には勝てない女だった。

 

 ホクホク顔の彼女はアウラに話があるミケに追い出され、部屋を後にする。

 

 

「それで……ミケ分隊長、エレンくんは?」

 

「エレン・イェーガーについては現在その身柄の引き渡しのため、エルヴィンたちが王都に向かっている。新兵の一部はここで待機中だ。この場の指揮は俺が執っている」

 

「エレン、くんが…」

 

 エレンの護送に人員が多く使われたのは、再び現れる可能性のある女型の巨人から守るためだろう。その脅威は巨大樹の森の件で知れた。

 

 だがなぜ病人である彼女は病院ではなくここにいるのか。

 熱でぼんやりとする頭を動かし、アウラは女型と内通者の可能性がある者の“監視”だと思い至った。

 

 

 であれば自分(わたし)はすでに、エルヴィン・スミスに疑われている────。

 

 

「お前のことは病院に連れて行くべきなんだが、エルヴィンに仲間の目がある場所で見張っておくように言われた」

 

「………」

 

「作戦が終わった後、お前には生気がなかった。放っておけば死ぬかもしれん……と、エルヴィン()に言われてはな」

 

「あっ………」

 

 アウラには精神病院に入院した記録がある。それも過去に実の母親を失ったトラウマによって。

 エレンを失いかけたことにショックを受けたのだろう、という考えだ。

 

 だが実際の理由はもちろん、裏切り者である可能性の高い女の“見張り”である。

 

 本当の理由を悟らせぬよう、ミケはあくまで平静を装う。

 内側では「裏切られた」可能性を目前にして、煮えたぎる想いを潜ませる。

 

(俺はまだ信じられない、エルヴィン……)

 

「……? ミケ分隊長、どうされま……ゴホッ!」

 

 アウラは何度か咳き込んだ後、横に置いてあった容器に吐いた。

 

「おい…ッ、大丈夫か?」

 

「みず……替えの、水を……」

 

「わかった。少し待っていろ」

 

 流行病にかかった当時のことを思い出しながら、アウラはベッドに撃沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 壁の内側で巨人を複数確認。

 

 ウォールローゼが突破された可能性アリ。

 

 現地に残留していた調査兵団のメンバーは、ミケ・ザカリアスの指揮のもと、近隣住民の避難誘導と壁の穴の確認を進めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 緊急事態に建物にいた非武装の新兵も馬に乗り、現場に駆り出される。

 立体機動装置をつける時間すらなかった。巨人はすでに建物から見える位置に来ていたのだから。

 

 ミケは屋根から巨人の数を確認する。

 その隣に先ほど新兵に異常事態を伝えたナナバが戻ってきた。

 

「新兵に急いで馬に乗るよう伝えてきた。…イェーガー副分隊長の方はどうする、ミケ?」

 

「あの状態では動くのもやっとだ。だが彼女を見張る兵士を残しておく余裕もない」

 

「じゃあ……」

 

「仕方ないが、体重の軽い者の馬に同乗させて連れて行く。一人建物に残っている間に、無理やりにでも逃げられては元も子もない。逆に、縛りつけておいたら巨人に食われた……なんて事態になってもな」

 

 小柄で体重の軽そうな者はクリスタ・レンズだろう。

 何なら彼女とアウラの体重を合わせても、ミケの体重より軽い。

 

 しかし当のアウラは部屋におらず、外でスタンバっていた。

 

 熱で意識がふわふわ漂っていた彼女は「壁内に巨人が出現した!」と語るナナバの声を聞き、30秒ほど思考してから飛び起きた。

 

 

(お兄さま!!!)

 

 

 壁を突き破る方法を持つのは超大型巨人。その可能性があるのはベルトルトとライナーである。

 その二人がここにいるのは、ライナーが彼女を心配して部屋に来たので知っていた。

 

 よって二人以外で壁を破る……もしくは巨人を()()()()()のは、巨人の脊髄入りの注射器を有するマーレと考えられる。

 

 そこからアウラは別の戦士が来た可能性にたどり着き、「ジーク(お兄さま)が来ているかも……いや、絶対に来ているアウラちゃんにはわかるもんね!」────となった。

 

 そこからの行動は早い。

 

 立体機動装置……は新兵がすでに外に向かっていることに気づきつける暇がなく、コッ! コッ! と松葉杖を鳴らして外に出た。

 

「早く馬に乗せて、ライナーくん!」

 

「いや、その熱じゃ……」

 

「おねがいっ…!」

 

 己の可愛さを理解している女の上目遣いと二の腕タッチは、ライナーに効果抜群だった。

「待て、俺にはクリスタが……」と、ナイスガイの脳内は一人相撲を始める。

 

 アウラは固まったライナーを諦め、ベルトルトに接近して逃げられた。

 

「………アウラ・イェーガー副分隊長。貴様はその足と熱で出る気か?」

 

「はい。足手纏いになれば置いていってもらって構いません、むしろ非武装の新兵の囮役としてちょうどいいでしょう」

 

「……ッ」

 

 白銅の瞳は、真っ直ぐにミケをとらえて離さない。

 その、ほんのうっすらと青みを帯びた、雲のようにつかめない色。

 

 その色に隠される彼女の真意とは何なのか。その口から発せられる言葉は真のものなのか。

 

 アウラ・イェーガーは本当に、長きを共にした仲間を売ったのか。

 もし本当に売ったのなら、何が彼女をそこまで動かしたのだろう。

 

 そのすべてを知るのは、アウラ・イェーガー本人だけだ。

 

「……お前はたとえこの場で死んだとしても、いいんだな?」

 

「ちょ、ミケ…!」

 

「………? 死ぬ覚悟はとうの昔からできていますよ。それが今日でも、私は後悔しません」

 

「…そうか」

 

 絶対に譲らない意志がアウラにはある。それを汲み取ったミケは深いため息をつき、同行を許可した。

 

「ただしその状態で、単身の騎乗は容認できない。この場の──そこの小柄な新兵と相乗りしろ」

 

「一人で問題ありません」

 

「言ったはずだ。この現場の指揮は俺だ。命令には従ってもらう」

 

「お断りします」

 

「……アウラ」

 

「それ以上しつこくすると、女性兵士にあなたがいきなり匂いを嗅いできた報告をまとめて憲兵団に被害届を提出しますよ。ちなみにこれは脅しではありません。純然たる事実を、白日のもとにさらすだけの行為です」

 

 思い当たる節のある数人が「あっ」という顔をした。

 ミケは長いような、実際はほんの短い沈黙の後、「それはちょっとやめてくれ…」と返した。

 

「………わかった、許可しよう。これ以上揉めている暇もないしな」

 

 これならばまだアウラをベッドに縛り付けておいた方が良かったかもしれない。

 

 だが今は、後の後悔より先の心配が必要だ。

 

 巨人は目と鼻の先まで来ていた。馬を走らせ、彼らはそれぞれのチームに分かれて散開する。

 

 早速囮として独断で馬を飛ばした女に、ミケも手綱を引いて後を追う。

 ふいに彼は、彼女を馬に乗せた時に小声で話したことを思い返した。

 

 

 ────俺はお前を、()()()()

 

 

 まるで率先して囮になる様は勇敢でこそあれ、自殺行為に等しい。

 

 昨日の今日でアウラのその行為は、ミケに「仲間を裏切った罪悪感で死のうとしている」と思わせるのに十分だった。

 

 死ぬ気か、と思わず大声で問うた彼に、気色の悪い顔が振り返る。雫が宙をいくえにも舞う。

 

 

 アウラは泣いていた。

 

 ミケはいよいよ頭が痛くなる。

 

「信じたい」と言った手前、アウラの反応がこれだ。それはもう黒確定と言っているも同然で、ますます無茶のするこの副分隊長を死なすわけにはいかなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 アウラは巨人を引きつける囮となり、ミケがその後を追う巨人のうなじを狙うことになった。

 万が一彼女が巨人に捕まれば死ぬだろう。

 

 しかしこの方法が今は一番巨人を駆りやすかった。

 

「ハァッ!」

 

 馬のスピードを上げたアウラは、点々と木々が並ぶ森の中へ入る。

 

 森の危険は彼女も熟知している。突然死角から巨人が出てくる可能性があるからだ。

 だがこのフィールドが立体機動の生きる場でもある。

 

(知性巨人なら行動や特徴で判別できる。お兄さまがここにいなかったら、ミケ・ザカリアスをまいて探しに行かなくちゃ…)

 

 ゼェハァと、森の中を縦横無尽に突き進み、後方からしていた立体機動装置の音も、ミケの「待て!」という言葉を最後に聞こえなくなった。

 

 激しい揺れに脳内がシェイクされた彼女は、本日何度目かの胃のものをさよならキラキラグッバイさせる。

 

「どこに、いるのっ…」

 

 兄を探すアウラは森を出て、気づけば元いた建物付近に戻っていた。

 立体機動装置があれば移動の幅が利く。

 

 中にある装置を取りに行こうと馬から降りたその時、視界が歪んだ。

 ぐわんぐわんと揺れて、咄嗟に馬にしがみつく。内容物のない胃はまた収縮して、胃液をこぼした。

 

「これ、正確に何度……おえ゛っ、あるん………ッ」

 

 とうとう倒れ、それでも地面に這う這うで扉に向かう。

 寝起きで人間が多重影分身していた時点で限界で、「お兄さま♡」の気力だけで彼女は動いている。

 

 その時だった。ギョロ目の巨人が、アウラの足をつかんだのは。

 

 接近に気づけなかったことに彼女が驚いた直後、あーん、と大口を開けて、ギョロ目がその右足に食らいつく。

 

 

「ぎい゛っ…………ゃ、ぁ゛…!!」

 

 濁った悲鳴を漏らし、切り離された女の体は地面に転がる。

 荒い呼吸が聞こえる一方で、グチャグチャと肉の咀嚼音が辺りに響いた。

 

(死ぬなぁ、コレは)

 

 どこか他人事のように思うアウラの体が持ち上がる。今度は上半身を両手でつかんだギョロ目が再度口を開いた。

 

 唾液と血が混じるその色。お世辞にもいい匂いとは言えない巨人の口臭が混ざって、おぞましい激臭となった。

 

(お兄さまに後でユミルちゃんがこの光景を見せてくれるなら……まぁ、もう、いいかな…)

 

 抵抗しようと巨人の顔をつかんでいた手が、だらりと下がる。

 

 最後に空を見ようと顔を上げたアウラは、視線を動かした先で数十メートル先にいたモノと目が合った。ちょうど向こうも悲鳴が聞こえて気づいたらしい。

 

 それは、ミケではない。

 

 体毛に全身を覆われた獣の如き巨人が、アウラを見ている。

 

 

「………!!!」

 

 

 直後ギョロ目の巨人の歯が、彼女の腹に食い込んだ。

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