お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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どすこい。


なぁ、お前ら…………相撲しようぜ!!!!!

 お兄さまにぶつかりまくった、元気いっぱいな巨人ちゃんはだぁれだい? 私です。

 

『……なぁ、もういいって』

 

『ガァウゥ!』

 

 私のハリは普通だと後ろに流れていますが、逆立てて丸くなるとウニになります。硬質化させた場合はきらめくウニです。

 

 抜けやすいこれは、人間が一本当たっただけでひとたまりもありません。ゆえに戦士のうなじにうっかり刺さろうものなら、その本体が大ダメージを負います。逆に考えれば、うなじに引っ付いてあげれば簡易的なガードになる。

 

 ちなみに二足歩行もできるけど、四足歩行の方が動きやすい。

 

 

 ハリの有用性の実験ですが、ノーマルのハリは通常の巨人の肌に刺さり、逆に鎧の硬質を突き破ることはできませんでした。

 

 硬質化したハリの場合は引き分けといったところです。刺さりはするけど、深くまではいかない。

 

 一応自分の歯でもかじりついてみたら、見事に鎧の硬質を砕けました。強度最強なのは顎の歯と爪だった。

 

『ァ……』

 

 (ライナー)くんは隅に座って、生温かい視線を寄越している。

 別に後輩に見られたっていいのだ。ここにマガト隊長以上のお偉いさんはいない。

 

 つまり…………アウラちゃんは何も怖くないのである! 

 

『巨人体には痛覚がないからって……』

 

『ガァァ、グワッ!』

 

『いい加減にしろ!!』

 

『ギャワァーン!!』

 

 体当たりしまくった結果、ハリは獣の巨人に夥しい数が刺さっていたり、周辺に飛び散っていたりで、地獄のような有様だ。

 ハリも半数以上抜け落ち、とうとう長いお猿さんの手に胴体をつかまれた。

 

「………」

 

 マガト隊長の方を見たら、疲れきった顔をしている。この実験があまりにも過酷すぎるので、見ている側も精神を削られたんでしょう。他の兵士も似た表情だ。

 

『ガウ』

 

『何だ、その手は』

 

 一番やってもらいたかったことを、身振り手振りでお兄さまに伝える。すごいですよね、巨人化すると三倍も身長差があるんですよ? この手にいつか握り潰されたいなぁ。

 

 なおも「ガウガウ」と言っていたら、折れたお兄さまは長い手でギュッと抱きしめてくれた。

 

『キュワウ』

 

 私は大満足で実験を終えたのでした。

 

 

「貴様の相談事は二度と受けんぞ」

 

 

 そして最後に待っていたのは、マガト隊長のお説教でした。さすがにちょっと私情を出しすぎてしまったような気が…しなくもない。

 まぁ実験の趣旨は十分に果たせたのでいいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 夜。寝巻きのワンピース一枚でベランダに立つ少女は、手すりに肘をついて夜空を眺めていた。

 

 白い服に、白い肌。それに白い髪。それが暗がりの中にぼんやりと浮かび上がる。

 

 見る人によっては幽霊のようにも、はたまた空へ帰れなくなった天使のようにも見えるかもしれない。

 

 

「────」

 

 

 紅い口が誰かの名前を紡ぐ。その音は吹き込んだ風にかき消され、背後の電気をつけた男には聞こえなかった。

 

「風邪引くぞ?」

 

「………」

 

「アウラ?」

 

「………ん?」

 

 肩を揺すられて、そこで彼女はようやく兄の存在に気づいた。

 ジークはメガネの奥で何度か瞳を瞬かせて、「大丈夫か?」と尋ねる。

 

「作戦が心配なのか? それとも…」

 

「いや、作戦のことはそんなに。お兄ちゃんと離れるのも、いずれは帰って来るからそこまで気落ちしてない」

 

「じゃあ…」

 

 ジークが妹が戦士になったタイミングで話した、クサヴァーと約束した件のことだろうか。

 

 アウラはその時、兄の計画を肯定した。

 子どもも欲しがらなかった。子の成長を見届けられずに死ぬからと。そもそも、恋愛の方面で誰かを好きになったことがないらしい。

 

 

「夜空がね、とても綺麗だったから、見惚れてたの」

 

「…確かに綺麗だな」

 

「でも、この光景もいつかは見られなくなるんだよね。人間だって植物にだって、すべてには終わりがあるんだから」

 

「………」

 

「どうして“命”は始まって、終わるんだろう。始まらなければ終わりもしないのに。生きている限り辛いことばかりじゃない。幸せなんて遠過ぎて、つかめやしないじゃない」

 

「……始まりもしなければ終わりもしないのは、「何も無い」ってことだろ」

 

「何も無い方が、よかった」

 

「生きるのが、辛いか?」

 

「そうだね…辛いかも」

 

「……そうか」

 

 ジークは部屋にあった毛布を引っ張り、かつて妹がしたように二人でかぶった。

 身長差があるため、兄の方は少し屈んで隣り合って空を見る。

 

「せめて俺が生きてるうちは、頑張って帰って来いよ」

 

「何言ってるの、どれだけの人間を殺そうが絶対に帰ってくるよ」

 

「笑って言うことじゃないな」

 

「あらやだ、イェーガーくんも人間を巨人にしたり、肉塊にして差し上げてるじゃな……イタタタッ」

 

 問答無用で頬をつねられたアウラは、お返しに何かやり返そうと考え、ジークの髪をむしった。

 ブチブチブチィ、と誇張でも何でもない音が聞こえて、大量の金髪がファサる。

 

()ッ………てェ!!?」

 

「フワァオ、いっぱい取れちゃったぜ」

 

「おまっ、お前これ…! 再生するほどむしられてんじゃねェか!!」

 

「そうだ! もっとむしって任務のお守りに持って行こう!」

 

 髪をむしりたい妹とむしられたくない兄の格闘は五分ほど続いて、注目の的だった星空はいつの間にか蚊帳の外になっていた。

 

 

 その間も秒針は一秒一秒進み、夜がさらに深まっていく。

 

 アウラはあくびをこぼして、床に就くことにした。

 

 

「アウラちゃんはもう眠いのだ…。おやすみ、お兄ちゃん」

 

「おう、おやすみ」

 

 直後ベッドが悲鳴を上げた。

 今のアニでもお姫様抱っこできるアウラの体重では、こうも音はならない。

 

 犯人はすでに、枕を持ち込んでいた。

 

「お兄ちゃんさぁ、戦士候補生だった時より…………太った?」

 

「筋肉だからな?」

 

「ちょっと試しに持たせてよ。私のことを持てるか後輩たちに試練を与えた時みたいに」

 

「後輩に何をさせてるんだ貴様は」

 

 誤飲時に使う腹部突き上げ法の体勢を取ったアウラは、グッ……と腕に力を入れたがミリも浮き上がらず、そのまま兄を引きずって部屋から出し、扉を閉めた。

 

 その扉が再び開く。

 

 

「もしかしたら最後になるかもしれないって日に、それはちょっと……いやかなり…ないだろっ…!!」

 

 

 少し半べそになった(ジーク)に、アウラは瞳を丸くして、小さく笑った。

 

 

「大丈夫。絶対帰ってくるって、言ったでしょ」

 

 

 パラディ島制圧作戦がそして、決行された。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 楽園の中で一人の少女はいつも、動物だけが友達だった。

 

 母も、牧場を営む祖父母も、誰もが少女に無関心で、彼女は孤独の中で育った。

 

 

「……そこにいるのは、だぁれ?」

 

 

 少女がいつも本を読む木陰の下(特等席)に、その日は先客がいた。

 ここらでは見かけたことのない子供。お古の服を着た少女よりも、その子供はよっぽどボロボロの服を身に纏っている。

 

「ぁ……!」

 

 少女はそこで、一瞬足を止めた。怖さが足を竦ませたのだ。ボロボロの服を着た子どもの先の風景が、透けて見えることに気づいてしまったから。

 

 それでも勇気を出して、声をかけることにした。

 

「あ、あのっ…こんにちは!」

 

 すると透明な子どもが少女に視線を向けて、ニッコリと微笑んだ。

 そこに悪意がないことを感じ取った少女は、瞳を輝かせて子供の隣に座る。

 

「私? 私の名前はね、「ヒストリア」って言うんだ!」

 

 ヒストリアも相手の名前を聞き、ニッカリと笑い返す。

 “お姉ちゃん”から教わった文字で、たどたどしいながら、彼女は物語を読んた。

 

「このね、本の女の子はね、いつもほかの人を思いやってる優しい子なんだよ! 私もそんな女の子になりたいなぁ」

 

「…ヒストリア?」

 

 ちょうど二人のがいる木の後ろで、サクッと芝生を踏みしめる音が鳴った。

 

 ヒストリアが木の陰から顔をひょっこりとのぞかせれば、そこにはなんと、“お姉ちゃん”がいるではないか。

 

「お姉ちゃん、遊びに来てくれたんだ!」

 

「久しぶり、ヒストリア! ちょっと大きくなったね」

 

「えへへっ…そうかな?」

 

「そうだよ! ヒストリアはまだまだ大きくなるから、もっといっぱい食べないとね」

 

 “お姉ちゃん”──と呼ばれるフリーダは、持ってきたバスケットの中からリンゴを取り出し、それをナイフで剥いてヒストリアに差し出す。

 わぁっ! と嬉しさに飛び跳ねた少女は、思い出したように木陰へ駆けていく。

 

「あれ? リンゴ食べないの、ヒストリア?」

 

「食べるよ! その前に……あのね、お姉ちゃん! さっきお友だちになった女の子がいるの!」

 

「そうなの?」

 

 ヒストリアは木の後ろでその少女と話している様子だ。

 けれどそこまで遠くない位置にいるフリーダにはヒストリアの明るい声と、風が草木を揺らす音しか聞こえない。

 

 妙なざわつきを胸に彼女が抱いた時、ヒストリアに続くようにして、その少女が現れた。

 

 

「────ッ!」

 

 

 ヒストリアと同じ色の髪に、蒼い瞳。風がヒストリアの髪を撫でれども、その少女の髪が揺れることはない。

 

 フリーダはその少女とここではない場所で、出会ったことがある。

 

「ユミ、ル…」

 

「そう、「ユミル」って言うの! ……あれ? お姉ちゃん、ユミルのこと知ってたの?」

 

 ユミルはフリーダがはじめて出会った時と同じ無表情に、彼女を見つめている。

 初代フリッツ王に縛られた過去の亡霊が、なぜここにいるのか。

 

「ヒストリアに何かするつもりなの…?」

 

 一歩一歩、歩み寄るユミルはフリーダの前にたどり着くと、青ざめたその頬に手を添える。そこに感触はない。だが、本当に触れられたかのような感覚がフリーダの脳を支配する。喉が自然と動いて、蒼い瞳に釘付けになる。

 

 

 ユミルはやさしく、彼女に微笑んだ。

 

 

 その瞬間フリーダは膝から崩れ落ち、恐怖とも言えぬ心臓をつかまれたような感覚に息を荒げる。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 

「う、うん……大丈夫だよ。ちょっと立ちくらみがしただけ…」

 

「ユミルがオバケだからびっくりしちゃったの? あっ…あのね! ユミルは優しいオバケさんだから、大丈夫なんだよ!」

 

「そ、そっか」

 

 結局フリーダは、亡霊であるはずの少女の意思を知ることができなかった。

 

 そしてすっかり「ユミル」を気に入ったらしい異母妹のヒストリアに、その子と友達にならない方がいい──とも、言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 薪の火がパチパチと鳴る。

 夜空の下、その周りを囲む四人の息づかいが静寂の中に響く。

 

「こういう時は……好きな子の話でもしよっか」

 

 そう切り出したのは、四人の中で一番歳上のはずの女だった。

 UMAにでも出会したような表情で、他の三人は固まる。

 

「じゃあまずはライナーくんから」

 

「えっ……!? え、え……」

 

「何、ポルコくんが好きだって? いっつも喧嘩してるけど、なるほどそういうことね、承知した。次、ベルトルトくん」

 

「ちょ、待ってください…!!」

 

 彼らはこれからパラディ島の人間を地獄に落とす作戦の真っ只中である。始祖の巨人(始祖)を奪うという、国から託された超重大な任務であるというのに、その緊張感がまったく女にはない。正気か? いや、この女はノーマル状態がすでに正気じゃなかった。

 

「だってさぁ、三人とも死にそうな顔してるんだもん」

 

「……そりゃあそうでしょ」

 

「あはは、ごめんねぇ。空気読めてないね、私。…で、次はベルトルトくんの番だけど」

 

「えっ、ぼ、僕…!?」

 

「待ってください! 俺は別にポルコの野郎なんか好きじゃないです!! お、俺が好きなのは………あ、ァ………」

 

「うん? なんだなんだ、みんな急に元気になってきたじゃないか」

 

 アウラは温めたミルクをチビチビ飲んで、三人に笑いかける。

 

 重々しかった空気はいつの間にか霧散していた。

 

 

「男子二人は意中の相手を黙秘してしまったようだね。つまらないな。アニちゃんは?」

 

「いない」

 

「そっか。まぁそのうち気になる男の子ができるよ」

 

「……アウラさんは?」

 

「ん? そこ気になっちゃう、ライナーくんは?」

 

「ぇ、う………はい」

 

 アウラは「お兄ちゃんだなぁ」と話した。

 まさかの禁断の方向に三人がまた固まる。まさか、確かに距離は兄妹にしては近過ぎると思っていたが。

 

 

「あと、お友だちの女の子も好きだよ。君たちのことも、「死んで欲しくないなぁ」くらいには思うようになった」

 

 だから────と、彼女は続ける。

 

 

「必ず、みんなで生きて帰りましょう」

 

 

 三人は頷き、持っていたコップを突き合わせた。




【補足】

・始祖ユミル
 アウラが戦士になりたい?じゃあ人選的に考えて…で、エルディア人兵士を操ってマルセルを排除した。ちゃんとライナーの心を砕くことも忘れないプロ。
 顎が居なくなったら「ユミル」が復活しないね!じゃあヒストリアの「ユミル」には私がなればいいね!…で、ヒストリアの前に現れた。
 今後フリーダに精神的に圧力をかけていく。

・年長の女によるパワハラ(候補生限定)
 ベルトルト、ポルコは普通にアウラをおんぶできて、ピークはプルプル震えたけど何とか持てた。ライナーは棄権。最後にアニがまさかのお姫様抱っこを決めて、年長の女がちょっと本気で恋に落ちかけた。ジークだったら俵持ちして、草原にぶん投げて、手をパンパン叩いて終わる。

「ねぇねぇそう言えばこの間、カタツムリを食べてた時に気になって調べたんだけどねぇ、奴らって雌雄同体だから、全個体が恋愛対象になるらしいよ!時代を先取った生き方してるよねぇ〜」……って笑顔で言ってくる女だから、年下の少年たちには美女でも恋愛対象にはならなかった。ライナー除いて。
 親しくなるほどアウラの本性が出てきて、一般的な価値観とズレてるところが分かってくる。顔は本当に可愛いんだけど……。

 あとまな板なのも、少年に希望を与えないから対象外になってる。ライナー除ry
 胸囲格差はピーク〉アニ〉ライナー〉アウラな感じ。
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