お兄さま曇らせIF√ 作:栗鼠
今回は短め。イフ枠だから、もうガールズタグ付けてユミちゃんとイチャイチャルート開拓しようか悩んでます。
声がした。泣き叫ぶものとは違う、激痛を歯で噛みしめて殺す悲鳴である。
マーレから威力偵察にきていた男はそこで文字通り、言葉を失う。
目の異様に大きな巨人につかまれている人間の女。その下半身は腹まで口の中に収まり、今まさに食われようとしている。
青白い顔は死人のようで、人形のように整った容貌は痛みに歪んでいた。
白銅色のまなこが、大きく見開かれたその二つが、彼を────獣の巨人をとらえている。
色素の濃い髪が、ギョロ目の巨人が動いたことでさらさらと揺れる。
いや、正しくは動かされた、か。
伸びてきた獣の巨人の手につかまったギョロ目は胴を握りつぶされ、飛び出た目が女の顔にベチィン、とぶつかった。その衝撃で女は地面に落ちる。
右足は膝の少し上から欠けて血がしとどに流れ、腹もじんわりと赤色が服に染みていく。
「ハッ、ハッ………ゴホッ!」
荒い呼吸が聞こえる。その合間を縫って、風が撫でるように吹いた。
あともう少し獣の巨人が動くのが遅かったら、女の上半身だけが地面に転がっていただろう。
彼の、ジーク・イェーガーの目の前で。
「……っ!!」
女は混乱しており、死にかけの虫がもがくように立ちあがろうとしては失敗して、倒れる。
無理に動けばその分、地面に広がる血の海も広がっていく。
『………』
巨人からすれば小さな体をつかんだジークは、限りなく鈍っている思考で「あー……」と声を出し、女の名前を尋ねた。
これではナンパだ。威力偵察に来たはずだというのに。
けれどあまりにも女は、男の脳裏にある幼女と似ていた。特にその白と青を混ぜた不思議な瞳の色が。
「………」
『喋れないわけじゃあ、ないでしょう?』
「……ぁ」
ずっと小さく震えていた女の体は獣の巨人が答えを催促するように、手に軽く力を込めた瞬間、一瞬大きく痙攣して動かなくなった。
『エッ』
ぐったりと動かなくなった女に、ジークの顔がたちまち蒼白する。
カオナシのような言葉しか発せなくなった男は妹を想起させる存在に気を取られ、背後から接近する存在に気がつくのが一歩遅れた。
「──────アウラァ!!」
馬から飛び退き、獣の巨人の片手を切り離したミケは、地面にアウラの体が転がるよりも先に抱き留めた。
そのままミケは建物にアンカーをかけ、前方に駆けていた馬に飛び乗る。
当然それを獣の巨人が逃がすわけがなかった。
『その男だけ殺せ。女の方は傷つけずに連れて来い』
獣の巨人の命令を受け、その場にいた複数の巨人がいっせいに動き出した。
一つだけ言えるのは、この場でジーク・イェーガーが大反省会をするのはまだ、許されていないということである。
無論、どれだけその心が死のうとも。
⚪︎⚪︎⚪︎
神は………神はいた!!
いえ、その
申し遅れました、私はアウラ・イェーガー。お兄さまと出会い最高の最期を迎えられたと思っていた、傾国の美少女(22歳)です。
あの感動の出会いの時、この愚か者は熱と痛みのダブルパンチで思考がままならず、混乱してしまいました。
お兄さまが目の前にいらっしゃったというのに!!
えっ、巨人状態でどうしてお兄さまってわかったかって? あのレベルのイケメンは、この世のどこを探してもお兄さましかいないからですわよ!!
「あの「ギュッ」は、私を握りつぶす「ギュッ」だと思ったんだけどなぁ…」
朗報がジークお兄さまと出会えたことなら、悲報は死ねなかったことです。
名前を聞かれたような覚えがあるので、ジークお兄さまも私に気づいたはず。最高かな?
その上で「敵ならば殺すしかない……!!」と葛藤しながら妹を殺す。そして、血に汚れた手を見て盛大な賢者タイムに入るのがッ…! ……理想のエンディングでしたのに!!
ちなみにユミルちゃん情報では、私の体はマーレにあります。
ただ肉体の方が目覚めることもできない程に弱っているらしく、オッハー!(激寒)できない以上は、ユミルちゃんの世界で遊んでいるしかありません。もちろん今後の作戦会議もしながら。
現在のお兄さまやライナー、ベルトルトくんやアニちゃんの情報などもざっくりとですが聞いている。始祖(座標)ではないエレンくんの捕獲作戦は大変ですね。壁内の情報はエレンくんがそこにいて、生きていること以外は知りませんけど。
この間に、間接的に妹の足を奪う原因になった件をお兄さまがどれだけこじらせるか、とっっても楽しみだね、ユミ太郎!
「しっかし私をマーレに送ったのは、どんな理由があれお兄さまの私情で、戦士長としては褒められたものじゃないよねぇ…」
「何だ、アンタも今マーレにいるのか? しかも兄貴が戦士の「
「えぇ。…………ん?」
そばかすのイケメンがあぐらをかいて私の隣に座っている。はわわ……「ユミル」がすげ変わっている。
先ほどまでいたユミル「ちゃん」の方は、バケツを持ち、舌打ちをこぼして去って行った。
『あのクソ猿…』って脳内に聞こえた気がしたけど、もしかして例のお兄さまの“叫び”だろうか。
王家の命令でできた巨人だから、ユミルちゃんが制御できなくてお兄さまにバチクソキレてた例の…。
いえ、それにしたってなぜユミル「くん」なんだい?
「私が死んだからじゃねぇの? 暇つぶし相手になれ、ってよ」
「あ………捕まったとは聞いてたけど、とうとう美味しくいただかれたのね」
「何かその言い方はアレだが…つーか、アンタの素って
だってユミルくんは、もう儚くなりあそばせなんでしょ? なら猫をかぶっても意味がないでしょう。
それから女子トークをしながら、途中で私が王家と知ったユミルくんの脳が止まったり、「あぁ、だから始祖様と似てるのか…………いや、それにしても似すぎだろ…?」と、楽しく過ごした。
ユミルくんの過去も知れて大満足です。
死んで色々と吹っ切れたらしい彼女は、思ったよりも簡単に話してくれた。話終わった後は土の上に大の字になって、賢者タイムに入っている。
「つまりユミルくんは80歳近いんだね」
「巨人になってた期間は入れないだろ」
巨人になっている間の年齢が止まるなら、お兄さまも──と思ったけれど、これは無知性巨人の話だけで、巨人化能力者は歳をとっている。
13年の寿命の打開策にはならなさそうだ。
いやでも、ユミルちゃんがユミルくんをここに召喚したなら、死後のお兄さまも召喚できるのでは?
「バカだなぁ……死んだら意味がないでしょう…」
「そうか? ヒストリアのことは心残りしかないが…案外、開放的なもんだぞ」
「あなたに言ったわけじゃない。その…人の腰に手を回すの、やめてもらっていいですか?」
「善人のツラ貼り付けてない時は可愛げがあるんだなぁ、アンタ」
「ちょっ………え、何で押し倒…………ユミルちゃーーーんッ!!!」
「その反応、もしかして処女か?」
「いやああぁっ!!」
絶対に彼女、クリスタ……じゃなくて、ヒストリアちゃんに似ているからという理由で私を手籠にしようとしている。この娘、目がちょっと座っているもの。
胸は触られましたけど、慌ててきたユミルちゃんに私は助けられたのでした。
今度召喚するなら、もっと曇らせがいのある、吹っ切れていない人間にしてほしいです。
ひとまず目覚めた後は、ライナーやベルトルトたちが伝えた私の情報を踏まえて、その事実確認が行われるでしょう。
向こうがすでにそのことを知っている前提で聞いてくるか、隠して進めてくるかはわかりません。
仕方ないのでそこは状況に応じて対応することにして、生存率を上げるように「戦士の味方をしました」アピールをして、それを「ジーク・イェーガーに会いたかったから」という超絶お兄さま愛を絡めて話しましょう。
イかれ野郎のレッテルを貼られますが事実なのでね。痛くも痒くもございません。
無理を通して私をマーレに送ったお兄さまの地位だけは、なるべく危ぶまれないようにしたい。
迷惑になるならむしろ喜んで殺されるので。というか殺してほしい早く。
以上、今日も元気なアウラちゃんがお送りしました。
【補足】
ミケ→巨人に食い散らかされて死亡。最後まで“仲間”を助けようとした。
ユミル→ウドガルド城にいたアウラを守る要因で強化されたイベントが消滅。ジークの巨人でユミルちゃんが操作できないから、慌てて行われたテコ入れでもあった。顎はポルコに継承された。
ナナバ&ゲルガー→死亡。
アニ→( ˘ω˘ ) 当分先までおやすみ中。
始祖様→いつも見守る側だけどかなり荒れて、アウラに慰められた。ジークへの好感度が底辺を下回った。
アウラ→「やった! お兄さまに会えたし死んだ!! 第三部完!!」とはいかなかった。
・アウラが連れ去られたことは壁内側は知らない。ミケと同様に巨人に食われて死亡した扱いになっている。もれなくエレンの心が死ぬ。深い悲しみがのちに激しい怒りへ変貌する。
ライナーもウドガルド城にいた時に心配していて、その後にジークが持ち帰って生きていたことを聞いて安堵した。ベルトルトとエレンが座標である可能性を話していた時、戦士長の顔がびた一門も動かなかったので心配している。右足の件はまだ知らない。ここで追い討ちとばかりに「妹さんに会えて、本当に良かったですね…!」って言ってくれる。さすが僕らのライナー・ブラウン。マーレに帰った時事実を知ったら、それが自分を追い込む弾丸の一つになるなんて……芸術だぁ…!!
ベルトルトはジークの顔見た瞬間、「あっ、この人ヤバいぞ」って気づいたけど、何も言わなかった。