お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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新生アウ子ちゃんの出番はない

 とある放課後、図書室の一部のスペースを陣取り人が集まっていた。

 メンバーはクインビーとジョックを中心に、彼らの取り巻きたちだ。

 

 アウラ教師が学校の帰宅途中に行方をくらませてから、早三週間が経つ。つい一週間前からは、同学年のエレンという少年も学校に登校していない。

 

 単純に彼が不登校なだけかもしれないが、この二つを関連づけた話も校内で出回っており、学校に恨みを持つ人間の連続誘拐事件だ──やら、マフィアに二人が巻き込まれて殺された──やら、さまざまな憶測が飛び交っている。

 

 エレンの方は一応、家の都合で休みということになっている。

 

 これについてしかし、ミカサとアルミンはエレンの母親から本当の事情を聞かされていた。

 

 

 エレンは一週間前の夜、母宛に『しばらく帰らない。でも心配しないでほしい。警察には電話しないでくれ』と連絡があったらしい。

 心配する母親は困惑しつつ、息子が事件に巻き込まれたのだと通報しようとしたが、エレンに念を押される形で止められた。『頼む、オレを信じてくれ母さん』と。

 

 だがもし二週間以上経っても帰ってこなかったら、警察に話していいと告げた。

 

 母親は夫や学校に相談し、悩んだ末でその二週間まで待つことにした。

 

 なぜこの決断に至ったのか。それはエレンと同じように行方をくらませた教師の事件に対し、警察が未だ積極的に動いていないことが理由に挙げられる。

 この事件が警察も捜査を渋る“何か”が一枚噛んでいるのではないか、と考えられたのだ。

 

 

 

 

 

 話を戻し、メンバーの中心であるヒストリアは、これまで生徒たちから集めた情報を頼りにアウラ(お姉様)の行方を探る。

 彼女の隣ではゼロ距離で密着するユミル(♂)が、嫉妬を隠さず小さな肩にしなだれがかった。

 

「本当にお姉サマ(、、、、)のことが好きだよなぁ、ヒストリアは。ヤケちまうぜ」

 

「当たり前でしょ! お姉様は私が小さい時からよく遊んでくれたんだから!」

 

「いいなぁ。俺もお前の子供の頃に出会っていたら、色々刷り込んでやったのに」

 

「無駄話はいいから。ライナーの方は進展があった?」

 

「アウラ先生の方は特に……。だが、一つ気になる話を聞いてな」

 

「なぁジョック様、そういや最近お前の腰巾着を見かけねぇんだけど」

 

「ン…? ベルトルトのことか? アイツは近頃女子と一緒に帰って──」

 

「マジかよ!? コレか?」

 

「………ユ、ミ、ルッ!!」

 

「イタタタ! …悪かったよ、大人しくするって」

 

 小指を出して彼女アピールをしたユミルに、ヒストリアは頬をつねって黙らせる。

 女王様は腕を組み直すと、ライナーに視線を戻した。

 

「ほら、同じ学年の……エレンって奴もこの頃学校に来てないって話だろ? それでソイツが登校しなくなる数日前に、ある建物に入る姿を見たって奴がいるんだ」

 

「ある建物?」

 

「調べたら、宗教関連の建物だった。……………ユミル教っていう……名前を聞いたことはあるだろ?」

 

 世界からすれば広く知られてはいないが、一部では過激な信仰心を持つ者もいる宗教である。

 時折その信者が道端でビラを配っている。

 

「フーン。通りがかったことはあるけど、あそこって結構怪しいよな」

 

「信仰する神の名前がお前と同じじゃないか、ユミル」

 

「うっせ!! タックルゴリラは黙ってろ!」

 

「タックルゴリ……!?」

 

「ねぇ、今、話し合い中」

 

 また話が逸れる気配を察知したヒストリアの、氷点下を下回る声が場に響いた。

 

 

「でも、気になるわね、ユミル教と関わっていたエレン(ソイツ)が学校に来てないのは…。ソイツって何で学校に来てないんだっけ?」

 

 取り巻きの一人が「家の都合らしい」と話す。

 

 ヒストリアは持っていたボールペンでノートを小突きながら、うーん…と唸る。

 

 確かな証拠ではないが、ユミル教がアウラの失踪と関わっていることが一つの可能性として浮上した。

 その可能性の信憑性を問うには、エレンという少年の近辺をもう少し詳しく掘り下げる必要がある。

 

「ソイツ……エレンについて知っている人ってこの中にいる?」

 

 みな首を横に振った。ただ、エレンと一緒にいる二人を見かけたことがあると、おかっぱ頭の少年が話す。

 

「片方は黒髪で髪をツインにしているアジア人っぽい女で、もう片方はいかにもオタクなメガネをかけている金髪の男だった」

 

「その二人の名前を知っている人は? 挙手」

 

 ざわ…とした場。少しして、「もしかして金髪のオタクはアイツじゃないか?」と手が上がった。普段は目立たないが、事成績に関してはいつも上位に入る少年。

 

 運動(タックル)はできても、勉強の成績は思うように振るわない男は見覚えがあったのか、その名を告げる。

 

 

「アルミンじゃないか?」

 

「僕がどうしたの?」

 

「「「………えっ?」」」

 

 唐突に横から入った声。彼らが声のした方へ視線を向けると、おかっぱ少年が話した特徴どおりの少年と少女が立っていた。

 

 アルミンは一呼吸おいて、刺さる視線に緊張しながら一歩踏み出す。

 

 

「あの……僕らも友人のエレンを探してて、君たちに話したいことがあるんだ」

 

 

 

 そして、アルミンはエレンが学校に来なくなってから二人の一週間の動向を語る。

 

 アルミンとミカサはエレンの不登校が始まった初日の翌日、彼の母親から連絡をもらった。友達二人が息子のことを心配すると、母親は案じて事情を話したのだ。

 

 それから二人は放課後を使い、エレンが来そうな場所を探った。

 しかし手がかりはなし。

 

 そして昨日もまた同様に探していたところ、アウラの情報を探る女王様の取り巻きの一人と遭遇し、探し人こそ違うが、互いに情報を交換する流れになった。

 

 この生徒がライナーに「そう言えば…」と、エレンがユミル教の建物に入ったのを見かけたことがある人物で、これを聞いた二人は事の重大さを理解した。

 

 その後、ヒストリアたちにコンタクトを取ることを決め、翌日クインビーが集まる場所の情報を聞き、放課後に図書室へアルミンとミカサは訪れた。

 

 

 ────アウラの失踪後から、目に見えて態度の急変したエレン。

 

 ────エレンが関わっているユミル教。

 

 ────未だ所在のつかめぬアウラ教師に、彼女の捜索願が出されているにも関わらず動かぬ捜査機関。

 

 

 アルミンたちは知らないが、アウラが兄に「前から誰かにつけられている気がする…(彼女を崇拝する女)」と相談していたことも警察側は知っており、事件性も十分に考えられる。しかし、向こうに動きはない。

 

 

 

 

「……友人として疑いたくはないけど、エレンはもしかしたらアウラ先生の失踪に何か関わっているかもしれない。もしくは二人ともユミル教の何かを知ってしまって、共に事件に巻き込まれた可能性もある」

 

「なるほど、ね。それでアルミン、あなたはどうする気なの?」

 

「君たちと協力したい。警察はどうもきな臭いから」

 

「……その根拠は?」

 

「考えても見てほしい。ユミル教の規模がどれほどかは知らないけど、中には上に立って社会の軸を回すような、そんなお上の人間たちがいる可能性もあり得ると思うんだ。むしろこの考えは警察に圧力がかかっていると仮定すれば、妥当なものだと思わないかい?」

 

 シンと、辺りが静まった。先まで盛り上がっていた熱が急速に冷える。

 

 警察への圧力。それが真なら一介の高校生がどうにかできる問題ではない。

 取り巻きの数人は、この時点でこの件から降りることを考えていた。

 

 

「…私はエレンを助けたい。力を合わせればきっと、策が見つかるはず」

 

「エレンがアウラ先生のことで関わっている可能性もあるから、そっちは諸手を挙げて賛同できないとは思う。でも数が少ないよりは、多い方がいいだろう? 三人寄れば文殊の知恵ってやつさ」

 

「……そうねぇ」

 

 ヒストリアの方は否定派もいるし、肯定派もいる。中にはわずかに距離を置く者も。

 深く息を吐いた彼女は、まっすぐにアルミンを見た。

 

「その頭は役立ちそうだから、使ってあげるわ。異論はないでしょ、みんな?」

 

 女王が「YES」と言えば、それに賛成するのが彼らだ。

 こうして二つのグループが一時的に一つにまとまった。

 

 

 彼らはその後に意見を出し合い、あーだこーだと揉め、「もはや特攻作戦しかないのでは?」と至ったところでその日は終わった。

 ヒストリアたちと別れたアルミンは、ミカサの横で思い出したようにバッグから名刺を出す。

 

「一応このこと、アウラ先生のお兄さんに話しておいた方がいいよね?」

 

「……エレンにあまり非難が向かないように話してよ」

 

「わかった。気をつける」

 

 エレンの母親の憔悴ぶりを知る二人だ。それより長く失踪しているアウラの兄の心情はどれほどのものか。

 

 カルラの近況を思い出したアルミンは、エレンに対し怒りが湧いた。本当に今頃何をしているのだ、あの友人(バカ)は。

 

「……あっ、お兄さんですか? あの………はい、…はい。僕です、アルミンです」

 

 連絡がつながり、アルミンは端的にコレまでの経緯を話す。

 電話の向こうの声は以前よりも明らかに覇気がなかった。

 

「それで、「みんなで特攻するしかないんじゃ…?」ってところまで話し合ったのが、今日までの流れです。………えっ?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、それが………はい、はい……………み、ミカサ! もしかしたらイケるかも!」

 

「え?!」

 

「お兄さんがテレビ局の人とコネがあるらしくて、それを活用すれば上手くいくかもしれないって!確かに、民衆が怪しい宗教絡みで誘拐が起こったと知れば、警察も動かないわけにはいかなくなる!」

 

「………!!」

 

「でも僕たちを巻き込むわけにはいかない、って話してる」

 

 唇を引き結んだミカサは、アルミンを射抜くように見つめる。彼女が何を言いたいのか、アルミンもわかった。彼もまた、彼女と同じ答えだ。

 

 黙って見ているなどごめんだった。

 友人のためならいくら危険だろうと、見過ごすなんてできない。

 

 

「やります、僕もミカサも。それに、僕らの協力者もきっと同じ答えを出しますよ」

 

 

 電話先からは深いため息が聞こえた。彼らの絶対に曲げない意志を悟ったようだ。

 

 それからまた数分話が続き、電話は終わった。

 アルミンとミカサは顔を見合わせる。

 

 

「…頑張ろう、ミカサ」

 

「うん」

 

 

 二人の表情は平凡な学生ではなく────まるで、兵士のような顔つきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 エレンは異母姉に突き飛ばされた後、部屋の中で固まっていた。

 前世の記憶を取り戻してからグチャグチャとしていた頭がより絡まり、今にも吐きそうだった。

 

 

 前世の幼少期、共に過ごした姉の表情はよく覚えている。あの時のエレンは姉のことが本気で好きで、顔を上げてその表情をまじまじと見ていたから。

 

 よく笑い、弟がツンツンすれば泣くフリをして、また笑う。たまに遠くを見るような、陰った表情も見せた。

 

 でもあれは全て遠境に住まう兄のために存在しただけのまがい物で、エレンのために存在したわけではなかった。そう、なかったはずだ。

 

 排水溝に溜まった汚物よりも醜悪な性格をしていた女はトチ狂っていて、エレンは殺意をたぎらせるほど彼女を憎んだ。

 

 

 けれど。

 

 結局、彼は姉を殺してなお、本当に愛おしげに微笑んでいた女の笑顔を頭から消し去ることができなかった。

 

 嫌いだけれど、嫌いになれなかった。

 

 オマケに地鳴らしで、死んでも償いきれない犠牲を出しておきながら、訳もわからぬまま生き返らされた。

 その本意を知ろうにも本人はちゃっかり死んでいて、滅茶苦茶になった感情をぶつける先はなかった。

 

 他にもアウラの……いや、「アウズンブラ」と始祖ユミルの過去や、突如決戦の地に現れた白い異形の正体────など、例を挙げればキリがないほど色々と知った。

 

 それら丸ごと全部、当事者たちの気持ちを曇らすための女の策に違いないとも思ったが、本当に………本当に、歴史に絶対残してはならない理由になった「史上最悪のクソのような異常性癖」で済ませられるものなのか、最後までエレンは答えを出せなかった。

 

 

 今もわからない。

 

 その答えを得るチャンスがきて、感情で頭がおかしくなりながら、女に逃げ場をなくさせる方法を考えて、アルミンなら何倍も良い方法が思い浮かぶと、どこか他人事のような気持ちで計画を立てた。ボロを探せばきっといくらでも粗は見つかる。

 

 

 ユミル教を選んだのはたまたま勧誘のビラをもらって、後はアウラの側に始祖ユミルの存在がいたから。

 

 アウラもエレンと同様にユミルが見えているようで、これは使えると思った。

 彼らが信仰する神が見える存在が現れれば、必ず囲おうとするだろう。さすれば退路は塞がれる。

 イレギュラーが起こればさしもの女も化けの皮が剥がれるだろう、と。

 

 今世のアウラもまた善性の人間を装っている。裏ではどんな腐れ外道な所業をなしているかわかったものではない。

 

 化けの剥がれた皮の隙をつけば、付け入りやすくなる。

 

 そして本音を聞いた後は自力で女と逃げるか、それが難しいなら警察に誘拐のことを話し、助け出す気だった。それで自分が罪に問われてもいい。エレンは本気だった。

 

 

 

 

 

 その結果、エレンの頭がより一層グチャグチャにかき混ぜられた次第である。

 

 あんな、あんな()()()な表情をするアウラ・イェーガーを、エレンは知らない。

 いや、イェーガー姓ではないのか。…いやいや、それこそ姓なんてどうでもいい話だ。

 

 

「何なんだ……何なんだよッ…!!」

 

 

 まるで前世のことを自分は本当に何も知らないようなツラをして、加害者であった側がさも被害者であるような傷ついた顔をして──────ッ!!! 

 

 

 それが億が一にも本当なら、エレンはとんだ一人相撲をしていたことになる。滑稽ここに極まれりだ。

 

 信じられないし、信じたくもない。だが異母姉の反応の一つ一つが嘘には見えなかった。

 全部本物で、偽物に見えなかった。

 

 だからこそ少年は感情のピークに達して、泣いている。涙と鼻水を垂らして、服の袖を汚しながら、迷子の子供のように泣いている。

 

 

「失礼し…………大丈夫ですか?」

 

「う゛、うぅ………!!」

 

 アウラを部屋に送った男が戻ってきた。ノックをして部屋に入るなり、号泣している少年を見て若干引いた空気を醸している。

 

「……あの方をここへ連れて来たのはあなたなのですよね? それなのに、なぜ泣いているのですか?」

 

「………っ、ねえさ、………」

 

「ハァ……これでも内心かなりキレていたんですが、毒気が抜かれましたよ」

 

「ア゛? ………!!」

 

 男がフードを取る。その顔にエレンは見覚えがあった。今世ではなく前世での話だが。

 

 

「私はイェレナ。どうぞお見知り置きを」

 

 

 ニッコリと笑んだ女のその笑みは、実に悪魔的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 ユミル教のスパイをしている、()()()()()宗教の人間であることをイェレナは明かした。

 その宗教とはもちろん、ごく少数の人間が崇拝する悪魔教である。

 

「その、とある別の…ってなんだよ」

 

「それはお話しできません。私がスパイだとは告げましたよね? 宗教間にも色々と駆け引きがあるのです。歴史で宗教の違いを引き合いに、戦争が起きたことがあるように」

 

「…まぁいい。オレと接触したのは理由があるんだろ?」

 

「話が早くて助かります。どうですか、我々は彼女を救出する気なのですが──あなたも協力しませんか?」

 

「……どうしてオレが? そもそもお前らが姉さ………ん゛んっ!! ………アイツを助ける理由は何だ?」

 

「このまま姉とわだかまりを残して去るのはあなたも嫌でしょう? その逆もまた然りで、彼女も後悔するでしょう。弟のあなたとこのままでいることは」

 

 イェレナはエレンの質問の後者に対して、神の使いが突然いなくなれば、その分ユミル教にダメージを与えられるから──とした。

 いわば、嫌がらせである。

 

「捜査機関に頼れないことももうわかっているのでしょう? ここ最近は権力のある人間がちらほらと訪れていますから」

 

「………もし、だ。オレがお前の話に乗ったとする。その後アイツはどうする? ユミル教の奴らは血眼になって探すぞ」

 

「人の噂も75日と言いますから、時期を見て彼らの手が届かなそうな海外に逃がせばいいのです。彼女の家は裕福なお家柄だそうですので、家族に協力を仰げば資金面も難なく確保できるでしょう。それまでは私たちの方で一時的に彼女のことは預からせていただきます」

 

「………」

 

「その顔は……私を信じられないといった顔ですね。咎めるようなことを言いますが、あなたは信仰心というものを甘く見すぎました。その結果が、今の状況なのでは? あなたが手を貸さないのならそれで構いません。私にも、あなたなら彼女の説得がスムーズに済むかもしれないという打算がありましたから。無理ならば計画はこちらで進めます。どうぞ何なりと、平穏な生活に戻られてはいかがでしょうか。神の色に染まらない日々を、ね」

 

 冷たい言葉だった。

 

 エレンは考える。差し伸ばされた悪魔の手を取るか。

 それとも、一度アウラの中に入ってマジモンの「神のお告げ」をして以来、動く様子のないユミル()に運命を任せるか。

 

 そんなもの、一つしかないだろう。自分でつかみ取ろうとしなければ、望む明日は永久に来ない。

 イェレナの言うとおり、今の事態を招いた自分が…とも思うが。

 

 エレン自身、過去の自分と今の自分で考え方に散らばりができているのに気づけていない。ひどく精神が不安定だった。

 

 

「………わかった、お前に協力する」

 

 

 彼は悩み、そして、悪魔の手を握ることに決めた。

 

 イェレナもまた差し出された少年の手を見つめ返し、力強く握る。

 

「……それで、エレンさん、あなたにお手数をかけてしまうのですが、しばらく私たちと行動を共にしてくださいませんか? なにぶん私たちは存在を極力隠していますので、作戦会議を踏まえて拠点にする場所に頻繁に出入りをされては困るのです。お願いできないでしょうか…」

 

「………」

 

「またそのような訝しげな目で……ユミル()に誓って、法に抵触するようなことはしていませんよ」

 

「………」

 

「本当ですからね?」

 

「……どうだかな」

 

 イェレナの前世(過去)を知る以上、エレンはどうにも彼女を信用することができなかった。

 

 

 

 まぁ、イェレナは嘘はついていない。

 

 エレンを説得役に選んだのはアウラの懐柔がしやすいと判断したからだし、女のこともしっかりとユミル教が近づかぬように保護する。そしてある程度安全になった時期を見て、アウラを国外に逃す。

 

 

 しかしイェレナがエレンを説得役に選んだのは、ついさっきではない。

 

 偶然にも以前(アウラをストーカーしている時に)カフェで女がメガネの男と話している内容を聞き、そこから調べると男に子供がいる情報を得た。

 その時知ったエレンの情報が、今回の悪魔(アウラ)様救出作戦の件に利用できると考えた。

 

 さらに異母姉のことは保護するが、それがいつまで…とはわからない。

 

 そもそもユミル教の人間は神の使徒が現れた際、「世界中の信者に伝えろ」と言っている。

 ならば国外ても、完全に安全が保障できるかわからない以上、逃すことは簡単にはできないだろう。

 

 

 

 エレンが背を向けた時、イェレナは「ニヤァ……」と、底の知れぬ黒々しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 一方、某TV局にリポーターとカメラマンとして勤める知人のコネを得ることに成功した男は、久しぶりに会ったその二人に問答無用で病院に連行され、医者に「鬱ですね」との診断を受け、お薬までもらって帰った。絶賛妹がいない家に。

 

 カメラマンの男の方は付き添いを買って出たが、恋人がいるから、と適当な理由をつけて断っている。

 

 アルミンの情報を機に、男は妹の失踪の件にほぼ間違いなくエレンが関わっていると確信した。

 また、自分と同じように前世の記憶が戻っているのだろうとも。

 

 スラックスにシャツのままベッドに倒れた男は、緩めたネクタイを見つめ、おもむろにそれを輪っかにする。

 

 

「………ちょうどいい、大きさだよなぁ」

 

 

 誰よりも限界のジークは、何の、とは言わないが、ストッパー役としてコッソリと背後霊をしている金髪少女の「ストン」をくらい、眠りについた。

 

 


 

 

【人物】

 

・ヒストリア(クインビー)

 お姉様が大好きなちょっぴり腹黒超絶美少女女王様。

 

・ユミル♂

 元のユミルの髪を少し短くして、胸をなくして、身長を伸ばした感じのほとんど変わっていないただのイケメン。今世はヒストリアと結婚できるよ!振り向いてさえもらえれば。

 

・タックルゴリラ

 実は母親がユミル教で終始後ろめたさがある。いとこもユミル教。というか親族の多くがユミル教。

 

・ベルトルさん

 すっかり青春を謳歌している。

 

・レオンハート

 デートで何をすればいいのかわからない上に、聞ける女友達がいない。

 

・イェレナ

 いよいよ悪魔様をお迎えする時が来たんだぁ。

 

・ユミルちゃん

 髭面男の介護が思った以上に大変だった。

 

・エレン

 重症。

 

・ジーク

 瀕死。

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