お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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アニメ良かったです。久々に号泣しました。ジークもユミルもエレンもみんな安らかな最期だったなら……………あぁぁ。

今回は短編。ウェブボありがとうございました!そちらでいただいた「エレンにブラコンなアウラ」の話です。


どけぇ!!!私はエレンくんのお姉ちゃんだぞ!!!!

「うわぁぁぁぁん!!!!」

 

 母の温もりを感じていた幼子は、官憲の男に抱かれると火がついたように泣き出した。

 

 この幼子は少年が指を差す意味も、拘束された両親が何をしたのかもわかっていない。まるで赤ん坊のように泣くことでしか感情を表現できない。四歳ほどの少女がだ。

 

 暴れる幼子の拳が、足が、官憲の男に当たる。どうしたものか、と悩む彼に、恰幅のいい上司は一緒に連れていくよう命じた。

 

「ですが……」

 

「あとで祖父母の元に引き渡せばいいだろう。こうも泣かれてはうるさくてかなわん」

 

 幼子の兄は今にも飛び出しそうな勢いで、戦士の男に止められている。このひっ迫した状況で下手に動けば、何らかの制裁を受ける可能性もある。

 

 男は絶望に染まった青い瞳から逃げるように視線をそらす。上司の命令どおりに母の腕の中に渡すと、幼子は安心したように眠り出す。かわいらしい顔の子供が指をしゃぶる光景はアンバランスで、暗闇にぽつんと浮かぶ月のような、妙に目を引きつける。

 

 

「アウラ……やだっ、行かないで!! アウラァァ!!!」

 

 

 眠る少女の耳に、その言葉は届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 官憲の男は気が重かった。祖父母の元に届けられるはずだった少女は今、男の腕の中にいる。

 場所はパラディ島。これから罪人たちは巨人にされ、この楽園で終わりのない地獄を過ごす。

 

「俺だって、これまで多くのエルディア人がバケモノになるのを見て来たさ…」

 

 絞首台に立った死刑者のボタンを押す者の気持ちは、なってみなければわからない。国に仇なした者だと大義を掲げる奴もいれば、罪悪感で表情が一切変わらなくなったり、まぁ人それぞれだ。

 彼もまた最初は苦しんでいた。無関係な子供の背中を蹴って落とした時なんかは、その子供の最後の顔が夢に出てきて吐いたこともあった。

 

 しかしだんだんとそういった感情は麻痺していく。

 

 上官がエルディア人で()()()()も、「奴らは悪魔の民だからな」と罪悪感から逃れる術を作る。

 

「お前は他の奴らが戻ったタイミングでガキを連れてこい。いいな?」

 

「……了解しました」

 

 幼子はぬいぐるみの手を咥えて、よだれまみれにしている。

 

「あうあう」

 

「いいか、お前はこれから死ぬんだ。両親の罰を知らしめるために、お前は殺されるんだ」

 

「うーう」

 

 もみじのような手が男のヒゲをつかみ、引っ張る。加減などない。いでで、と呻いた官憲の男の顔が下に向く。

 ぱっちりとした幼子の目の中にはその内側を現すように濁って、さらにその中には悲痛に歪む顔がある。

 

 それが、男の“罪”を浮き彫りにしているかのようだった。

 

 助かるはずだったこの子供の命は、上司の「お楽しみ」のために使われる。そして上司の命令に逆らえずここまで連れて来てしまった男もまた、同罪なのだ。

 

「せめて……せめて苦しまずに死んでくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 地平線に、傾く夕陽がある。

 

 男の腕の中に抱かれる小さな体を見たグリシャは、絶望した。

 母親を見て「あーい!」と無邪気に笑う娘を見たダイナは、人目も憚らず泣いて、地面に額をこすりつけた。

 

「お前たちには死ぬ前に、しっかりと“罪”を認識させてやろう」

 

 タバコを咥える「グロス曹長」と呼ばれた男が、少女の頭に手を置く。壊れ物を扱うように撫でるその手つきに、グリシャはあらんかぎりの声量で叫んだ。

 

「おねがい、おねがいします…。娘だけは……アウラだけは殺さないでくださいっ…!! おねがいします、おねがいします……」

 

 グロスは少女を抱き、靴音を鳴らして二人の側に立つ。片方の手には注射器があった。

 

「娘を巨人にして母親に食わせるか…それとも、母親を巨人にして娘を食わせるか……」

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

「……フム。よし、決めたぞ。コイツに母親を食わせよう」

 

 グリシャの顔は真っ赤で、目は血走り、血管が破裂さえしそうな有様だ。対しダイナは堤防の隅に漂っている魚の死骸のような目で、もう泣くこともしなかった。

 

 これがマーレに謀反をなした二人の罪だった。

 

 両親が娘を眠らせる時、いつも決まってシャツをよだれまみれにした。「ぱぱ、まま」と呼ばれることはなかったけれど、ハイハイで懸命に向かってくる姿が愛おしかった。

 何よりその花のような笑顔がかけがえのない宝物で。家族四人で過ごした日々が、彼らにとっての「楽園」だった。

 

 その「楽園」を捨てたのはいったい、────否、壊したのは。

 

 

「あ、あぁ、あああああぁぁぁ!!!!」

 

 

 ダイナは狂ったように絶叫する。

 

 家族の幸せを奪ったのはグリシャで、彼女だ。息子に戦士の使命を負わせて、娘に「フリッツの血を残さねばならない」という重責に囚われていた自分と重ねて、ささやかであれど、それでも幸福だったあの時間は戻って来ない。

 

「は、ははっ……ははは」

 

「ダイナ…!? ダイナッ! しっかりしてくれ!!」

 

「はははははは、は、ひひっ」

 

「おお! 女の方は()かれちまったみたいだな」

 

 曹長の男はこの状況で、心底感嘆する。母親の愛というのはやはり素晴らしい。図書館の隅で物静かに本を読んでいそうな美人の女が、顔という顔から体液を流して笑い続けている。

 

 これこそ平穏で、つまらない人生にスパイスをもたらす人間の愛憎劇だ。すばらしい。実にすばらしい────。

 

 

「じゃあな、お嬢ちゃん。すぐにお前の両親も行くからな」

 

 

 注射器を刺され、蹴られた少女の体が宙に飛ぶ。ぬいぐるみが小さな手から離れ、砂の上に落ちた。その直後、まばゆい光が辺りを覆う。骸骨頭の10メートル以上ある巨人がその発光源の中心に現れた。

 

「ぁ、あ………」

 

 拘束されているグリシャは、手を伸ばすこともできなかった。妹と同じように、彼の選択が二人を殺した。

 

「よぉく見とけよ。嫁さんが娘に食われる様をな」

 

 グロスの足がドンと、ダイナの背を蹴る。笑い続ける女は、下で待ち構えていた娘の口の中に入った。閉じられる直前で出ていた腰から下が地面に落ちる。

 

「…ぇ……な」

 

 肉を、骨を咀嚼する音が響く。

 

「…ごめんな……アウラ、ダイナ…ジークッ………」

 

 そして、静寂が訪れる。

 

 

「ごめんな……ごめんな……」

 

 

 グリシャ・イェーガーはただ、謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 さくりと踏むと、沈んだ足の形に沿って跡ができる。一定の間隔で続く足あとの先には一人の少女が歩いている。見上げれば暗闇の中に川の中を泳ぐ絹のような帯が絶え間なく変化し、その色を変える。夜空のカーテンだ。うごめく一つ一つは光の柱を形作って、その世界がヒトの世界ではないのだと知らしめる。

 

「うぅー」

 

 ジタバタと、砂の中で沈む感覚に悪戦苦闘している小さな影がある。

 少女は幼子を抱き寄せて、背を叩いた。慈愛に満ちた顔は母親のようだ。幼子の瞼は次第にゆっくりと落ち、コクリコクリと舟を漕ぐ。

 

 

 ────アウズンブラ。

 

 

 白銅色の瞳が大きく、大きく見開かれる。

 

 少女は愛おしげで、けれど静寂の中にポツンと取り残された古巣のような匂いがある。

 小さな手が涙の伝う頬に触れた。また、アウズンブラ、と呼ぶ声がした。

 

 

 

 

 

 ある時、一人の幼子がより深く“道”と繋がった。その子供は少女が気になり、時折こっそりと見ていたかつての片割れに似た存在だった。

 

 幼子の「心」に触れたユミルは、そして知る。

 

 

 おかえり。

 そう言おうとした声は、上手く音にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 私のママは人間じゃない。

 いや、正確に言ったら「人間だった」が正しい。

 

 ママは不思議な世界で目覚めた私に、これまで私が体験したことを教えてくれた。私は「アウラ」って言うんだって。でもママは「アウズンブラ」って言ってた。

 

「ママ、わたちはアウズンブラじゃないの?」って聞いたら、ママはとても驚いてた。その後、ユミルは私の“ママ”になってくれた。姿も少女から大人の女性になった。

 

 本当のお母さんは私が食べちゃって、お父さんはまだ生きてるみたい。お母さんを殺したのは面目ないと思うけど、まぁ向こうが悪いことをしたから仕方ないね。

 

「アウラ、おとーたんに会ってみたい!」

 

 それは純粋な好奇心からだった。私と兄を作った人がどんな人間が知りたい。けれど、巨人になった私はどうすれば人間に戻れるのだろう? 

 

 “ママが何とかしてあげる”

 

「本当!? ママすごぉい!!」

 

 兄のことも気にはなるけど、「楽園送り」にされた状況じゃ会うのは難しいからいいかな。

 

 

 “ごめんね、アウラ。ママお仕事が入ったから行くね”

 

「そんなぁ…」

 

 “………大丈夫。すぐに帰って来るから”

 

 ママはダッシュで走って、途中で転んでもまたダッシュで行った。

 その間、私はどこまで砂を掘れるかという遊びに挑戦した。脱出不可能になってギャン泣きしていた頃に、ママが帰ってきた。ドレスみたいな服がボロボロになっている。

 

「大丈夫? ママァ……」

 

 “大丈夫よ……!! ”

 

 

 それからママとしばらく過ごして、私はおやすみすることになった。

 

 ママが解決策を講じるまで、かなりの間が空くらしい。この世界と現実の流れは違くて、向こうの数年がここでは気の遠くなるような時間がかかる。アウラが退屈してしまうから、とママは言った。

 

「ママはひとりで寂しくない?」

 

 “アウラがいるから寂しくないわ”

 

「そう? えへへ……ママだぁーい好きっ!!」

 

 ママは心臓を押さえて倒れた。

 

「じゃあおやすみ、ママ。またすぐに会えるよね?」

 

 “……うん、また会えるよ”

 

 ママの腕の中で、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 そこにあるのは温かな暗闇。

 瞼の裏に仄かな闇を感じるような微睡(まどろみ)

 

 それは夢のようだった。何かが触れる。そこにいるのは誰だろう。

 触れたのは手だ。ぎゅっと握ると、向こうも握り返す。

 目を凝らせば、ぼんやりとした輪郭の中に顔がある。

 その色は例えるなら、何色なのだろう。暗くてわからない。

 

 

 そしてすべてが、あやふやに溶けていく。

 

 

 

 

 

 その色を知るのは、目覚めてからだった。

 ビビり倒しながらも巨人に運ばれてはじめて見た青空。きっと私が見た色はこれだ。どこまでも済んでいて美しい。まるで何者にも縛られることのない、自由の色だ。

 

「不思議な夢だったな…」

 

 “どうしたの?”

 

「……うわっ! ビックリした、ママか」

 

 隣にはいつの間にかママがいた。現実だとママには触れないらしい。軽くショックを受けている私にママは笑いかける。あ、と思った。

 

 

 “おはよう、アウズンブラ”

 

 

 ママの瞳の中にも、空の色があった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 ウォールマリアが突破された。

 

 

 馬が地を蹴やる。跳ねた泥が宙に舞った。

 心臓がドクドクと不可思議に脈打つ。医者の男は家族の無事を祈る気持ちでいっぱいだった。夜道を照らすランプが右へ左へと不安定に揺れ動く。その明かりが丸渕のメガネを反射した。

 

 明るい。

 

 頼りない光源が直に太陽の光を見た時のような、鮮明な戦慄を男にもたらす。記憶が、フラッシュバックする。男の足に潰されて薄く、平たくなった子供。骨と肉が潰れる感覚はおぞましいものだった。

 手が真っ赤に汚れる。血を吹いて、握りつぶされたその人間の目は一瞬にして命の輝きを失う。

 

 全部、グリシャがやった。

 

 殺した。

 

 どれだけ罪を、重ねれば。

 

 

 人を救うはずの男の手は、罪の色で汚れている。

 落ちることはない。どれだけ償おうとも。

 

 それが、グリシャ・イェーガーの始めた物語。

 

 

 

 

 

 息子たちがいる避難所がある街に着いた男は、人の波に逆らうようにして前へ前へと進んだ。

 妻は、息子は、義理の娘は今、どうなっているのか。罪悪の苦しみはその時ばかりは泡沫のごとく消え去る。そんな時。

 

「えっ」

 

 路地裏に続く細道。押し寄せる人の雪崩の中で、小さな姿があった。大人の腰よりも──いや、下手したらもっと低い。ほんの一瞬見えたその姿にグリシャの足が止まる。ぶつかった男に文句を言われようが、足を踏まれようが、微動だにしない。

 

「アウ、ラ……?」

 

 暗闇へ誘われるようにして人気のない路地裏にたどり着いた男は、あぁ、と声を漏らす。

 頭上から差し込む光が、幼子をぼんやりと映し出す。服は楽園送りにされた時そのままで、10年以上の時が経ってなお何も変わらない。

 

 これは海の泡沫のような、夢か、幻覚に違いない。夢ならばどれほどいいだろう。罪のない子供たちを殺したことや、壁が壊されたことが偽りだったならどれだけいいだろう。だからこれは彼が生み出した、優しいまぼろしだ。

 

「ごめんな、ごめんな、ごめんなぁ……っ!!」

 

 まぼろしの幼子には体温があった。あまりにも小さくて、腰を下ろしてようやくその瞳と目線が同じになる。

 

「おとーたん?」

 

「………っ!! あ、あぁ、………あぁぁ…」

 

 男が願っても願っても、ついぞ聞けなかった言葉だ。本当に、なんて優しいまぼろし────、

 

 

「え?」

 

「おとーたん、鼻水と涙でお顔がきちゃないよ?」

 

「………!!!??」

 

 撫でる。焦げちゃ色の髪がグリシャとそっくりだ。

 つつく。もちもちの天使ほっぺだ。

 触る。これは小さい天使だ。

 抱きしめる。天使だ。

 

 

「何を………して、いるんだ?」

 

 

 グリシャの背後に、ドン引きする長身の男が立っていた。彼の友人であるこの男は、人混みの中に見知った姿を見かけて追いかけたはずだった。だというのに、何故だろう。何故キース・シャーディスは憲兵がらみの案件に出会してしまったのだろう。彼は調査兵団の人間なのに。

 

「このような時に…! この、けだものめェ!!」

 

「………!!!? ち、違うっ!! 私の娘なんだ!!!」

 

「………ハ?」

 

「だから、私の娘で……」

 

「……〜〜き、貴様ッ!! カルラが居ながら他の女と浮気した挙句に子供までこさえていたというのかッッ!!!!!」

 

「違う!! あっ、いや違わなくは………とっ、とにかく拳を下ろしてくれ!!!」

 

「この不埒者がァァァ!!!!」

 

 あわやサスペンス劇場が開幕する寸前。少女が男たちの壮絶な表情にビビって泣き出したことで止まった。キースは完全に殺す顔だった。

 

「……すまない、キース。私は息子たちの元に行かなければならないんだ。この子を預かってくれないか?」

 

「一緒に連れて行けばいいだろう。この人間のクズがッ……!」

 

「………頼む」

 

 腰を折って、深々と頭を下げるグリシャ。子供たちも混乱しているであろう中、ただでさえ今も飛び散った火種で泥沼になったというのに、娘を連れて行くわけにはいかない。何故生きているのかは、おそらく巨人化能力者を食ったからだ。

 

 疑問は多い。この小さいけれども温かい存在だって、ずっと手放したくない。でも、グリシャは進まなければならない。

 

 

「…わかった。だが、後で洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「っ、本当にすまない…!」

 

「………貴様は、謝ってばかりだな」

 

 

 キースに抱かれた幼子の姿が遠ざかっていく。最後まで少女は手を振って、「おとーたーん!!」と言っていた。

 優しいまぼろしではなかった。本当に娘は生きていた。

 

「ゔ、うぅ、あ゛ぁぁ……!!」

 

 だからこそ別れを予感するグリシャは泣いた。子供がするみたいに、感情を剥き出しにした。今日だけで一生分泣いたかもしれない。さようなら、は言わなかった。言えるわけがなかった。

 

 

「愛じ、てるよ゛っ……アウラ……」

 

 

 グリシャが次の朝日を見ることはなかった。

 

 

 

 

 

 森の中、一人倒れていた少年はキースの手によって戻される。

 

 少女の方は一度別の安全な元に預け、キースは愛した………否、今でも想いを寄せる女の安否を知るため、避難所に向かおうとした矢先に、息子を連れながら号泣する男の姿を見たのだ。

 

 遠方で光ったその正体は不明である。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 みんな、聞いて欲しい。私のパパのことを。

 

 本当のお父さんの方は行方不明になったらしい。キースおじさんからその話を聞かされた私は、少し困った。私にはママがいるけど、パパがいない。号泣していたお父さんに抱きしめられたら、「お父さん欲しいなぁ…」と不覚にも思ってしまったんだ。

 

 だから望み薄でパパの友人らしいおじさんにお願いすることにした。

 

「キーチュおじちゃん、パパになって」

 

「……何?」

 

「パパになって!」

 

「母親は?」と聞かれた。ママは金髪の長い髪で、頭に白いバンダナをつけてる。瞳は青空できれい。でも生きてる人じゃない。死因は分からないから、そっちは本当のお母さんの方を答えた。「母親」のことを聞かれたんだから、嘘は言ってない。

 

「……だが、お前の親はグリシャだろう」

 

「でもアウラ、パパと一度も会ったことなかったの。アウラには視えないママしかいないの」

 

「あの………あのクズ男がァ──ッ!!!!」

 

 おじさんの拳を食らった机はバギィ、とものすごい音を立てて割れた。すっご。怖っ。でも泣くのは我慢しなきゃ。泣き喚いてウザがられたらパパになってくれないかもしれない。

 

「ふえっ……おじちゃ、おじちゃパパに………」

 

「…!? わ、悪かった。泣かせたかったわけじゃないんだ……」

 

「じゃあパパになって…」

 

「………はぁ、わかった」

 

 

 

 こうしてキースおじさんがパパになったのだった。私一人ではこの世界で生きられないから、どうしても親代わりになってくれる人間は必要だった。

 

 パパは調査兵団っていう組織の元団長だったらしい。壮絶な仕事だったのか、辞めた反動であっという間に毛根が死滅した。ペチペチ叩きがいがあるから結構好きだよ、ハゲ。

 

 それで、無職というわけにはいかないから、パパは兵士を育成する教官になった。駄々をこねて職場に連れて行ってもらったことがある。パパに肩車される私を見た少年少女は開いた口が塞がらない様子だった。

 

「なっ、何だ!? あの小さくてかわいい生き物は………!!」

 

「こ、ども? 教官の?」

 

「何が起こっているというの………?」

 

 パパは結構訓練兵に恐れられていると知った。確かにパパの顔は怖い。しつけもしっかりしてる。

 でもノーマルな怖い顔がさらに怖くなることはほとんどない。よく預けられるパパの知り合いの飲んだくれおじさんが、「お前が親バカ……だと……?!」って言ってたくらい。奥さんは素敵な人だよ。

 

 

 そうして過ごすうちに、私の関心は家族というものに引かれていく。兄には会えないからね。パパに息子がいるらしいのは知ってたから、会いたくなった。私の弟だね。歳は向こうの方が上だけど。

 

「パパ、アウラ「エレンくん」に会ってみたい!」

 

「……だが」

 

「おねがぁい!」

 

 目をキラキラさせれば一発だ。ふっ、チョロいな。

 

 パパはエレンくんに直接会うのは気が引けるというので、途中まで連れて行ってもらって、そのあと憲兵の人に弟が住む場所に連れて行ってもらった。話がこじれるから、私が腹違いの子供だということは言わない約束になっている。ちなみにママも同伴だ。

 

 エレンくんは汗を垂らしながら土を耕していた。まくった袖の下には細い腕がある。手や服が泥まみれだ。髪の色が私と同じで、翡翠の目がキラキラしていた。

 

 いや、全身がなんかキラキラしている。発光してね? 

 

 胸が、胸がなんか変だ。

 

 

 “どうしたの?”

 

「……ママ、アウラね。なんかドキドキする」

 

 “それは……”

 

 

 

「────ッ!!」

 

 その時、エレンくんが鍬を投げ捨てて同年代の子供の胸ぐらをつかんだ。隣にいた金髪の少年がその子供にぶつかられて転んだらしい。それで、謝りもしないからエレンくんがキレたと。

 

「まっ、待ってエレン! 僕は大丈夫だから!! ミカサもダメだ……というか、君はやり過ぎるからダメだッ!!」

 

「止めんなよ、アルミン!!」

 

「そう。これは教育……」

 

 そんな三人の会話の間に、襟首を離された子供が殴りかかった。

 

 

 胸が、高鳴る。これは、この感情は──────!! 

 

 

 

 

 

「どけぇ!!! 私はエレンくんのお姉ちゃんだぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 これが、私とエレンきゅんのはじめての出会いだった。

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