お兄さま曇らせIF√ 作:栗鼠
リクエストありがとナス!今回は以前いただいた戦士時空アウラのアウ+ライな話。糖分は控えめで暗さはいつも通りです。
ジークお兄さまと旅を始めてから随分と経った。地鳴らしの爪痕が残った中でも世界は少しずつ前に進んでいる。
方やマーレの裏切り者で、方やエレンくんと組んで地鳴らしを起こした戦犯。
そんな私たちが自由の身でいられるのは、マガト隊長があれこれと手を回してくれたからでした。いやまぁ、すでに「隊長」じゃないもっと上の立場なんですが。昔の名残でつい「隊長」と言ってしまう。ちなみに手回しにはアニちゃんたちも協力してくれた。
罪人はやっぱり死ぬべきだと思うんですけどね。ジーク・イェーガーの場合はエルディア人を絶滅させようとしていたので、世界基準で見ればむしろ大いなる“善”です。悪いのはこの、わ・た・しっ(氷河期の到来)
旅の最中に試行錯誤しているんですが中々死ねません。大抵犯行前に見つかってしまいます。
幸せなんですけどね。でも、たまにあの世へ行きたくなる。
まぁそんなスリリング(主にお兄さまの胃が)な日常を過ごしていたある日。
訪れた街で観光していたら、偶然ばったり車椅子の男と出会った。
「「ギャアアアアアアッ!!!」」
顔を見た瞬間、兄妹仲良く逃走しました。ですがあの男が顎でクイッと付き人に指示すると、熟練の動きで囲まれました。
待てよ君、ライナーくんのいとこのガビちゃんじゃないか?「了解ですボス!!」って、調教済みなのか…?
「久しぶりじゃねぇか、クソヒゲにクソ…………貧乳女」
「よかろう戦争だ」
車椅子とは別途で常備してある松葉杖を装備した。ただ両方使って体を支えるため殴れない。仕方ないので口で「チビチビ」言いました。
「旅をしているとは噂で聞いたが、こうして会うとはなぁ…ジーク」
「俺たちは会いたくなかったよ……」
リヴァイ・アッカーマンに捕まってしまったお兄さまは、露骨に顔を青くしながら話し始めた。
私の方はというとガビちゃんと少年が来た。数年前に戦士候補生だった子供たちとは面識こそあれ、ほとんど会話していない。私が名前を覚えているのもガビちゃんくらいだ。
「えっと…俺前に自己紹介したはずですけど……」
「ごめんね。私の記憶力はゴミなんだ。うーん…ハトポッポくんだっけ?」
「ブハッ!!は……ハトポッポ!!」
「ちょっ、笑うなよガビ!」
名前はファルコくんらしい。二人はリヴァイやオンニャノコポン……じゃなくてオニャンコポンらと一緒に世界各国を回って復興活動の支援を行っているそうだ。このバックにはマーレが関わっている。
アニちゃんやライナーくんも今は連合国大使として忙しく働いている。一方でピークちゃんやポルコくんはマガト隊長の部下を勤めている。本当に私だけこんなのんびりしてていいのかなぁ………。
「……ねぇガビちゃん、あっちのお店連れてってくれない?ほら、坂の方の…」
「え?あぁ、いいですよ」
車椅子を押してもらって露店に来た。ガビちゃんやファルコくんの分を含めて三つ買う。一つをファルコくんに渡して、ガビちゃんにも渡した。
うんうん。この位置どり、この角度、完璧だ。
「アウラさんも食べ────えっ?」
数百メートルに及ぶ下り坂。下はレンガの壁である。
これは間違いなくボーナスタイムだ。頭の中のユミルちゃんも「いつ死ぬの?今でしょ!」とジェスチャーしている。
「アウラさんッッ!!!」
暴走列車と化した車椅子はしかし途中で止められた。
数十メートル下ったタイミングで車椅子が急停止し、私の体は地面に投げ出された。クッソ〜、と内心悔しがっていたら、目の前で長身の女性が息を荒くして立っていた。
「ジークに見ておくよう言われましたが、まさか、本当にっ……」
イェレナという女性にお姫様抱っこされ、私はお兄さまの前に突き出された。ガビちゃんなんか泣いてたで?いったい誰が泣かしたんだ……?
地獄みたいな空気でみんなに見つめられる中、アウラちゃんは「てへっ☆」と舌を出した。
***
アウラ・イェーガーの精神がまた落ち込んできている。日常を共に過ごすジークはそれを感じ取っていた。
旅を始めた初期も精神的に不安定な時期が続き、刃物や紐の類は側に置かなかった。一人になる時間もなるべく作らせなかった。何せ風呂場を血の海にした前歴がある。
アウラの中で始祖ユミルがいなくなったことは大きなダメージになっていた。一緒のベッドで眠るジークはよく、すすり泣く声とともにその名を聞いた。
「アウズンブラとユミル」についてはざっくりと話を聞いている。
それでも放浪を続けたのは、それがアウラの願いだったからだ。
『
アウラは彼女なりに
旅に兄妹以外の同行者はいない。二人とも望まなかったし、マガトも今更ジーク・イェーガーがマーレに仇なす存在になるとは思っていない。またマガトは翻弄された人生を送ったイェーガー兄妹に、“元”上司として束の間でも静かなひと時を与えたかった。
ただジークは元戦士長として顔が割れている。恨みを持つ輩が襲ってくる可能性もある。
だがヒゲを剃り、茶髪のヅラをかぶっているとまったく気づかれなかった。まぁリヴァイには秒で気づかれたわけだが。
話を戻そう。
アウラの精神が再び悪化し始めた理由。時期として、ちょうどパラディ島の和平条約の話が新聞でも伝えられた頃だ。その時からみるみるうちに以前の精神状態に戻ってしまった。
その理由にジークは一つ、心当たりがある。
リヴァイ一行と出会した夜。泊まった宿泊所でジークは妹に尋ねた。
「…もしかして、エレンのことが心残りなのか?」
「………」
アウラはベッドに仰向けの状態で、じっと天井を眺めていた。
これはジークも同様だが、彼女はゴタゴタの中で死んだ弟に立ち会えなかった。あの時はアルミンやミカサたちが生首のエレンの周囲にいたため、仕方なかったとも言える。
「エレンくんの顔安らかだったなって、思い出して」
「……アウラ」
「ユミルちゃんも最期は安らかで」
「アウラ」
「私も、行きたいなって」
「………」
濁った目に白い肌で、老婆みたいな白い髪で、おまけに両手も胸の上で祈るようなポーズで。
まるで本当に死人みたいで、ジークは咎めるように手を握ってその形を崩させた。体温さえ、冷たい。
「お前はどうしたいんだ?死にたい以外で」
「……………エレンくんに会いたい」
「婉曲的な「死にたい」もなしだ」
「……お墓」
「エレンのお墓?」
アウラは小さく頷いた。ジークはどうしたものかと耳をかく。
マガトを頼れば同行も可能かもしれない。だがそれはアウラに限った話で、パラディ島で多くのヘイトを稼いだジークは絶対歓迎されないし、“和平”条約が目的な以上まず無理だ。
となるとアウラは兄と離れる必要がある。
思い返してみよう。アウラ・イェーガーが兄と離れるとどれだけ精神が危なくなるかを。ただでさえ今のメンタルがガガンボより
「仮にお前が行けたとしても、俺は無理だ」
「お兄さまの腕一本だけでも持って…………いけ、ない…!?」
「もう治らないからな」
ただ、それでもアウラは墓参りを望んだ。兄の目をまっすぐに見る。
「私はあの子に、さようならも言えていないの」
ジークはぐっと息を飲み込んで、うなだれるように息を吐いた。
⚪︎⚪︎⚪︎
船での長いような、短いような旅。
私の世話というか監視にはマガト隊長が派遣したピークちゃんがついた。さすがに胸はもう成長してないみたいだな。
パラディ島出身のみなさんはうろ覚えなので軽く流す。ミカサちゃんはいなかった。彼女は現在パラディ島で暮らしているらしい。エレンくんが生きてたら二人は幸せに暮らしてたのかな……。
「どうしたのアウラさん?辺りを見渡して」
「…いや、何でも」
舌を噛めばワンチャンある。でも自由を求めていたユミルちゃんに舌がなかったこととか考えたら、この方法は彼女に申し訳なさを感じる。何かないかなぁ、何か、何か何か。
「……ん?ピークちゃん何見てるの?」
メモ帳を見て私を見て、「静かな時ほど危険か……」とブツブツ話すピークちゃん。四六時中一緒だけど、寝るよね君?「数徹は慣れてるし、限界が来たらアニに交代するから」って嘘でしょ?私のチャンスタイムはいつ来るんだ?
────いやいや、エレンくんのお墓参りに行くんだった。
そう思い出したのは海にダイビングしかけた後で、見張りにアニちゃんも増えてしまった。ピークちゃんもアニちゃんも大人っぽくなったねぇ。……えっ、私は全然変わってない?それを言ったらお兄さまは10歳以上若返ってるよ。
というかライナーくんも若返ってたね。ちょうど部屋から出たタイミングで手紙の匂いを嗅いでいるのを見たけど、ライナーくんは既婚者に劣情を抱くんだね。アニちゃんがまるで汚物を見る目で「きっっっしょ……」って言ってたよ。その後慌てて席を立ったライナーくんはこちらに近づこうとしてアニちゃんに蹴られ、気絶した。このアウラの目をもってしてもその蹴り技を視認することができなかった……。
そんな楽しい(意訳)道中も終わり、パラディ島に着いた。
出迎えた女王様にときめいてしまったのはユミルちゃんと似ていたからだろうか。
それから移動した後、元上司が襲来した。まだ生きてたのかこの人。しかも現役。髪に白髪が混じっていましたが、相変わらず元気そうだった。一応「あなたの甥にこんな体にされたんです…」と愚痴っておいた。笑って流されたが。
「そういうオメーさんも生きてたんだなぁ」
「えぇ、まぁ……」
お兄さまも私の死にたがりモードをよく見ていますが、実はこのおじちゃんの方が見ていたり。
顔を見に来ただけらしいおじちゃんはさっさと去って行った。
それから自由に動けるようになったタイミングで弟のお墓に行った。
大使のメンバーも大きな仕事が終わりどっと疲れている様子だった。メンバーはそれぞれ家族や友人と会いに行っていた。アニちゃんも元同僚の子に会いに行ったようだ。一方で中心的立ち位置の巨人大好きメガネやアルミンくんはまだやることが残っているようで、多忙を極めている。
ただちょっと困ったことにエレンくんのお墓は舗装されていない丘にあった。車椅子だと移動しにくい。松葉杖だと私の体力が持つかわからない。戦士ではなくなったので鍛える必要性が無くなった以上、今の私は輪をかけて体力がない。
ならばピークちゃんにもらうしかないか──という話をしていたら、手が上がった。アニちゃんの代わりに見張りを買って出たボーイから。
「その……俺が連れて行きましょうか?」
「お姫様抱っこで?」
「………え゛っ!?」
「…アウラさん、もしかして私にお姫様抱っこさせる気だったの?」
「うん」
ガビちゃんでも私をお姫様抱っこできたんやで?こんなかわゆい美女を雑に運ぶのはお兄さまと元上司だけで十分です。丁重にお姫様抱っこしてください。
「まぁおんぶでもいいよ」
そう言った私を背負おうとしたライナーくんは、こちらが体重を預けた瞬間に突然固まった。ピークちゃんが「アニ蹴りカウンター
一度私を下ろしたライナーくんは今度お姫様抱っこに持ち変えた。その時も一瞬固まり、「アニ蹴りカウンター」がプラスされた。
***
穏やかな天気に誘われ、眠気が限界に来ていたピークはライナーにアウラを託し、草原の上で眠り始めてしまった。20分だけ眠らせて、とのことだ。
いい感じに緩衝材になっていたピークが抜け、場はしん…としている。アウラは下ろしてもらうと松葉杖をつき、献花した。街で子供から買った花だ。そして墓石に触れようとしたが途中で手を止める。ライナーはその行動に首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「……私が触れちゃダメかなって」
墓には『最愛のあなた』とある。アウラはエレンを愛しているけれど、それ以上に弟を愛する人間がいる。刻まれた文字からして、この墓はその人のものなのだと考えた。
手を戻したアウラはじっと墓を見つめた。ライナーはその様子を斜め後ろからうかがう。
彼女はポツポツと弟に思い出話をしているようだった。
ライナーたちはアウラ・イェーガーの過去を知っている。前世は始祖ユミルと双子であったり、不遇な死を遂げて生まれ変わったり、ジークを救うためにユミルから教えられたとおりに行動していたり。
「………アウラさん?」
そこでライナーはふと、アウラが泣いていることに気づいた。蛇口から少しずつ流れるように涙が静かに頬を伝う。
焦点は墓をとらえているようでとらえていなかった。短い間でも彼女の“死にたがり”の部分を体験したライナーは拳を握る。
何か、何か声をかけなければならない。だが上手い言葉が見つからない。道中だって柔らかい肌の感触と何かすごくいい匂いにちいかわみたいな言葉しか出なかったのに。
「………ェ、レンのこと、
ちいかわからギャルに絡まれたオタク男子に進化したライナーがどうにか話しかける。
「えぇ。ジークお兄さまと違ってすごくかわいい弟だった」
「かわいい……?」
「お兄さまに可愛げがあったのは17歳ぐらいまでかな。その点エレンくんは最後までかわいい弟に見えた」
何でだろうね、とアウラは続けた。
「君たちには色々と話していったのに、私だけ何にもないんだもの」
一人一人と座標で会話したエレンはジークとも話した。しかしアウラには戦いが終わった後、それらしい記憶は蘇らなかった。そこにモヤモヤとした感情を感じるし、もっと純粋に「代わりに死んであげたかった」と思っている。
ジークが生き残る前提でエレンがミカサたちと幸せになれるなら、アウラは汚れ役にだってなった。世界の悪役になってよかった。
でもそれすべて引っくるめてエレンの決断だったのだから、とやかく言うことはお門違いなのかもしれない。
「私に前世があったんだから、せめて来世は幸せになってほしいよ。エレンくんにも…………ユミルにも」
「………」
「ハァー…ちょっとはモヤついたものが消えるかと思ったけど、ダメだね」
空の雲のようにパァッと消えたい。幼少期思った願いが今のアウラに残り続けている。
幸せになればなるほど、その感情が浮き彫りになるような気さえしてしまう。
「……俺も死にたいと思ったことがある。何度も…何度も」
「人を殺した罪悪感で?そこら辺の感情は私にはよく分からないやぁ」
「…でも、こんなクソ野郎な俺でも生きてます」
ライナーは運が良かった。それはアニ然り、ピーク然り。ライナーは特に何度死地に放り込まれても、まるで神に愛されたように重傷こそ負っても死ななかった。その分苦しみ続けてきたが。
「ギリギリのところでいつもポルコやガビ、ファルコが掬い上げてくれた。………俺が生きる理由には、あなたも含まれてる」
アニも何だかんだでライナーの尻を蹴ってくれた。言い換えれば尻だけ蹴っていた。ストレス発散のついでで。
「ふぅん。何だか告白みたいなこと言うんだね」
きょとんとした顔で発したアウラの言葉に、ライナーが「え?」となる。直後慌てふためいて弁明した。
「あぁ大丈夫だよ、わかってるから。君はヒストリア女王が好きだものね」
まぁ人妻な上に身分の差だ。噂で聞くとヒストリアの夫は平民らしいから、そこはワンチャンあるかもしれない。というかこの女も血統だけ見れば女王の資格がある。
「……………俺はアウラさんが好きですよ」
「ん?何か言った?」
「……いえ、何でもないです」
顔中汗でびっしょりのライナーにアウラはこてんと首を傾げて見せる。ちょうどその時一匹の鳥が頭上から飛来し、アウラの目前にある木の枝に止まった。
その一匹はすぐに羽を広げ飛び立っていく。ヒラヒラ落ちる羽をアウラがつかんだ。一瞬体が硬直し、重心を支えていた方の松葉杖が手から離れる。
「!!」
とっさにライナーが間に入ったことでアウラは転倒せずに済んだ。
「大丈夫ですか?顔色が…」
「………いや、大丈夫。ちょっとくらっと来ただけ。ぞれより…そろそろ戻ろうか」
白い手が、ぎゅっと羽を握りしめる。
ライナーはアウラを視界に入れつつバックで下がり、熟睡中の女を起こした。むにゃ、とピークは瞳をこする。
「あと5分…」
「その手が利くのはポルコだけだぞ」
「あっ、そうだライナーくん」
「はい?」
「私の好みというか、ぐっとくるのは多分可愛い弟タイプでさ」
「………はい?」
「愛することは知っていても、好きになる感情はまだ知らないんだ」
ピークの目がぱっちり開き、ライナーの目もぱっちり開く。
「君が頑張ってくれるなら、私も恋の感情を知ることができるかもしれない…とは、言っておくね」
ライナーが震える。聞こえていなかったんじゃなかったのか。いや、バッチリ聞こえていたけれど、聞こえていないフリをされただけだった。
真っ赤になったライナーの顔を見て、小悪魔風にアウラは微笑した。
鳥が上空で旋回している。
果たして大遅刻の鳥が何をアウラに届けたのかは彼女のみぞ知る。
でも、もう少し前向きに生きてみようとアウラ・イェーガーは思った。
みっともなく生きた先で、新しい何かが見つかるかもしれないから。
【補足の補足】
・ポルコ
最終話で描写し忘れてたので補足。シガンシナでの戦いに参加し負傷。マガトがコルトにファルコやガビのことを任せた時には意識を失っている状態だった。そのため生還してる。マガトもまた生存してマーレを率いているのでその部下としてポルコ、ピーク、コルトたちは活動中。ピークが抜けた分はハンジが連合国大使として酷使されてる感じ。
・ライナー
いったい誰の寵愛のおかげで死ねなかったのか(すっとぼけ)。ここから頑張ってアウラにアタックし、結婚する未来になる……かも。アウラもユミルに子供がいたから、子孫を残すことには割と肯定的でいる。
・アウラ
抜け出せない死にたがり。でも前よりは前向きに生きようと思えるようになった。ジークの嫁リストに考えてたピークがポルコといい感じになったので、イェレナに目をつけ始めた。女なら誰でもいいってわけじゃない。
・『クソ貧乳女』
特徴的な部分がそこしかなかったのでクソ「貧乳」になった。
・『オンニャノコポン』
女の娘ぽん?(違う)
・『アニ蹴りカウンター』
後日ライナーの*が死んだ。報告はかなり盛られた数。
・白い鳥
「ぽぽぽぽぽ」