お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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主人公の戦士√の話。

お兄さまに健康的な愛情を持っているアウラちゃん。追い詰めて曇らせるけど抱いてるのは家族愛のみ。


IF√[何かが欠けている戦士(あの子)
「せんし」にっ、おれはなる!


 戦士になる宣言をし、ジークに頬を叩かれたアウラは、「ぐふふ………あ兄様の怒り顔、ぐふふ」と安らかに()き、そのまま一ヶ月もの間高熱を出した。

 

 ジークはその間、罪悪感で苦しんだ。しかしトム・クサヴァーが精神的な支えになってくれたことにより、彼は妹へ謝る決心をする。

 そしてアウラが回復した数日後、両親の目がない時にそっぽを向く妹に頭を下げた。

 

「……ごめんね、アウラ。頬を叩いて」

 

「フン! おにーたんなんか……フンッ!!」

 

「こんなの言い訳にしかならないと思うけど…僕、アウラが羨ましかったんだ。僕が頑張っている時に、アウラは父さんや母さんにいっぱいかまってもらえてて…」

 

「………」

 

「でも、……ふえっ…だからって、うぅ、おまえのことたたくなんて………ぼく、サイテーだ…っ!!」

 

 ボロボロ泣くジークは顔をぐしゃぐしゃにして、訓練帰りの汚れた袖で涙を拭った。自責の念から、青い瞳にはとめどなく雫がにじみ出る。

 

 ジッとその表情を見つめていた幼女は、フゥーと、息を吐いた。

 

 

「わたち、すっごくいたかった」

 

「ごめん……」

 

「でも、おにーたんもいたかったなら……ゆるしまちゅ!」

 

 アウラはポケットからハンカチを引っ張り出し、鼻水で悲惨になっている兄の顔に押し当てた。

 ちーん、と舌ったらずな口で要求すると、大人しく少年はズビビッと、鼻をかむ。目元は泣いた影響で腫れぼったくなっている。

 

「……おにーたんはおにーたんじゃなくて、アウラのおとーちょみたい」

 

「……!? 僕はお前の弟じゃないもん! お兄ちゃんだもん!」

 

「きょうからアウラがおねーたんになりまちゅ!」

 

「ダメ! ダメったらダメ!」

 

「じゃあ“せんし”ならいーい?」

 

 アウラが戦士に。そのことは妹が寝込んでいる間、ジークが考えていたことだった。

 

 ドベの少年は両親の期待に応えられずにおり、精神的にも限界に来ている。その時に幼女の「戦士になる(ニチャッ)!」発言があり、とうとう彼の我慢が爆発したわけである。ただでさえアウラ・イェーガーは、両親にそれぞれの理由から溺愛されているというのに。

 

 心身ともに疲れきった今のジークは、戦士の使命を放棄することを考えていた。

 

 妹が戦士になるというなら、それでいいのではないか。家で何時間も暴れ続ける少女の身体能力は、幼いながらに目を見張るものがある。

 

 なら少年は妹の使命を引き受けて、我の子種をくれてやろう(フリッツ家の血を残せばいい)

 

 

「……いいよ。アウラならきっと、戦士になれると思うから」

 

「ほんちょ!? …おにーたんはいいの?」

 

「僕じゃなれないよ。でも、目指すならその前に知っておいて欲しいんだ。アウラが知らない戦士のこと」

 

「なぁに?」

 

「パパとママはお前に黙っているけど、戦士には「任期」ってものが──」

 

 しかしジークの言葉は、ギィと部屋の扉が開いたことで遮られてしまった。

 買い物帰りでバスケットを手に提げたダイナが、驚いた様子で二人を見ている。

 

「あらジーク、今日は早い帰りだったのね?」

 

「う、うん。アウラと話したいことがあったから…」

 

「ふふっ。その様子じゃ、仲直りできたみたいね。そうねぇ……じゃあせっかくだし、今日はお母さんが腕によりをかけて、晩ご飯を作っちゃおうかしら!」

 

「わ…わぁい! やったねアウラ!」

 

「おとーたんのぶんまでアウラがたべちゃう!」

 

「ぼっ、僕も食べちゃう!」

 

「それじゃお父さんが困っちゃうわよ」

 

 クスクス笑うダイナに、娘と息子も笑う。

 ジークの方は会話を聞かれたのでは? と内心ドキドキしていたが、幸いダイナの耳には入っていなかった様子である。

 

 

 それから服を着替えたジークとアウラが夕食の手伝いをして、親子三人の温かい時間が過ぎていった。

 

 ちなみに仕事が長引き遅い帰りになったグリシャのその日の夕食は、四割減になった。

 

「グリシャ、見てくださいよ」

 

「何だい?」

 

 手招きしたダイナにネクタイを緩めながらグリシャが息子の部屋をを覗いてみると、思わず破顔する。

 よだれを垂らして寝る、ジークとアウラ。

 

 いっぱい食べた二人は、手を繋ぎながら同じベッドでぐっすりと寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「にんき」って何だ? 人気? いや……任期? 

 

 と、兄の発言が気になっていたアウラは、両親に尋ねた。しかし二人にはぐらかされ、「にんき」についてわからないまま日が経ち、祖父母に探りを入れようと思っていたタイミングで、事は起きた。

 

 

 雑用をしている中、マーレ治安当局員の話を偶然にも聞いてしまった兄のジーク。

 エルディア復権派の尻尾がつかまれ、両親がその組織の一員だとバレるのも秒読みの状況で、彼はクサヴァーの提案を呑んだ。

 

 その結果、イェーガー夫妻は息子に復権派であることを告発され、その他複数が楽園送りとなったのである。

 

 その代わりに妹や祖父母は楽園送りを免れた。

 

 アウラはこの時連れて行かれる両親の後を追うか迷ったものの、瞬きすらせず両親を姿を見つめるジークに内心ときめき、安心させるようにその手を握ることにした。

 

 

(曇らせたいけど、心を完全に壊したいわけじゃないしなぁ)

 

 

 予想よりも早く仲直りしたこの状況で、兄より両親を選ぶメリットがない。

 これが仲直りしておらず、関係が最悪の状況だったらまた違ったかもしれない。

 

 それに何より、「アウラ・イェーガー」に目覚めた「××××××(アウズンブラ)」は、その時点から成熟した精神を持ち合わせている。

 

 それゆえ、年端のいかない兄の姿に愛らしさを覚えると同時に、本当に自分の弟のように感じ始めていた。

 

 

 ────突き放して、縋らせて、依存させて、曇らす。

 そして自分だけの(おとうと)になったら、どれだけ可愛いらしいだろうか、と。

 

 

「よちよち、だいじょーぶだよ、おにーたん」

 

「……アウ…ラ」

 

「おにーたんにはアウラがいるよ。おじーちゃんもおばーちゃんも。あとめがねのひとも」

 

「……クサヴァーさん」

 

(くちゃ)(ばー)しゃん?」

 

「トム・クサヴァーだよ。ジークの話には聞いていたけど、会うのは初めてだね、アウラちゃん」

 

「くちゃいばーしゃんもいるから、おにーたんはだいじょうぶ!」

 

「………」

 

 幼女のとんでもない間違いを訂正するか否か一瞬考えたクサヴァーは、黙って二人を抱きしめることにした。

 アウラが兄の手を握ったり、重い空気の中で突拍子もない言葉を言ったのは恐らくだが……と、彼は幼女の白銅色の瞳をのぞき込む。

 

 ジークは妹の顔を見ていないが、アウラの瞳は潤んで、唇はかすかに震えている。

 

 両親が連れて行かれた状況で、不安にならないはずがない。オマケに父と母が捕えられたのは、ジークが告発した後だ。

 幼女はそんな一部始終を見て、何が起きたのかわかったのだろう。その上で兄の心に寄り添おうとしているのだ。

 

「大丈夫。大丈夫だよ……ジークも、アウラちゃんも」

 

「クサヴァーさん…っ」

 

「くちゃいばーしゃん……」

 

「君は…君は悪くないよ、ジーク。アウラちゃんも優しい子だね」

 

 

 悪いのはすべて、君たちの両親だ────。

 

 

 直後、少年の瞳から一滴の涙がこぼれ落ち、幼女は火がついたように泣き出した。

 

 アウラは「幼女ちゃんの演技も大変だな」と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 アウラ・イェーガー(4ちゃい)は激怒した。必ず、私利私欲の両親に相応の報いを与えなければならぬと決意した。

 

 彼女の腐った精神にもいっぺんの人間性がある。その心で両親が楽園送りにされたことに悲しんでいた幼女は、「任期」とは何かトム・クサヴァーから教えられ、知ることになった。

 

 

(巨人の力を継承したら、寿命が残り13年になる? ……ハァ?)

 

 

 戦士の13年を「寿命」ではなく、あえて「任期」と表現するあたり、マーレがいかにエルディア人の命を“道具”扱いしているか察せることだろう。

 

 戦士を目指す子供たちが親にどう教えられているかはそれぞれだが、「誇り高い任務」と考え、マーレに尽くすことが過去に罪を犯したエルディア人に科せられた贖罪である────と、認識している者が多いに違いない。

 

 これが一般的なエルディア人が親から教えられる、「罪」の考え方だからだ。

 言うなれば、洗脳である。

 

 

 マーレにとっては戦士は「兵器」であり、道具。

 

 その点はまだ、アウラも仕方ないとは思った。

 

 けれども寿命の限りを知って、両親が本当にエルディア帝国を復権するための“道具”としてジークを利用していたのだと改めて理解させられた時、激しい怒りに駆られた。

 

 愛する兄が死ぬかもしれないトリガーが押されたので、その怒りは殊更に凄まじかった。

 

 

 

「おじーたんもおばーたんもとめてよ! おにーたんしんだらアウラやだっ!!」

 

「アウラ……」

 

「…おばあちゃんね、アウラの気持ちもよく分かるわ。でも、それはできないの」

 

「なんでちゃっ!」

 

 アウラだってわかっている。楽園送りにされた人間のいる家系だ。ジークの行いで彼女や祖父母が免れただけで、世間の目は彼らに白い目を向ける。

 これがマーレ人だったらまだしも、同じエルディア人にさえ敵意を向けられる。

 

 この現状から脱するには、例えば命をかけてお国に尽くす“戦士”になるしかない。

 

 その点で言えば、ジークはこれ以上ない存在だった。

 

 

 両親であれど密告した、マーレへの忠誠心。その行為は皮肉にもドベだった少年を再評価するきっかけとなった。

 これに“獣の巨人”のトム・クサヴァーの後押しが加わったことで、少年の戦士候補生の座は固いものとなりつつある。

 

「ジークも私たちの今の状況をわかって、お国に忠誠を尽くしているの」

 

「そうだ、アウラ。戦士になるのはエルディア人にとって、とても名誉なことなんだよ。だからもう泣くのはおやめなさい」

 

「いやだっ────!!!!!」

 

 腹の底からデカい声を出し、数軒先まで轟くほどの爆発を見せたアウラは、兄が帰ってくるまで暴れ倒し、すでに歳な祖父母を大いに疲労させた。

 

 

「ただい…………泥棒でも入ったの? おじいちゃん、おばあちゃん?」

 

 

 紙や布がビリビリになり、家具がひっくり返っている。部屋の荒れ具合に呆然としたジークである。

 

「アウラが“せんし”なればいいもん! アウラつよいもん!! アウラはクチャバーちゃんにもかてるもん!!」

 

「お前まだ「戦士になる」って言ってるのか…」

 

「おにーたんだって、アウラが“せんし”になってもいい、っていってた!!」

 

「僕が戦士になるから、お前は自分のなりたいものになればいいよ」

 

「だからなりたいものがせんし!!」

 

「おばあちゃん、おじいちゃん、僕も片付け手伝うよ」

 

「ありがとう、ジーク」

 

「やだやだやだっ────!!」

 

 

 聡い孫息子と、活発な孫娘。その姿は祖父と祖母に、かつての記憶を思い出させた。

 

 利発だった息子と、元気いっぱいだった娘。その二人はもういない事実に、祖母は思わず顔を手で覆う。

 

「……どうしてグリシャ、どうして、あなたまで私たちを置いて……う、うぅ…!」

 

「………あの子が楽園送りにされたのは、グリシャがあの道を選んでしまったのは、私が厳しく教育し過ぎたからだ…。もっと優しくしていれば、フェイと壁の外に出ようなどと思わなかっただろう」

 

「あなた……」

 

「私が、私が全部悪いんだ……私が…ッ!!」

 

 

「………じいちゃん、ばあちゃん」

 

 床に転がる紙クズの一つを摘んだジークは、祖父母の会話に唇を噛んだ。

 

 違う、悪いのは二人ではない。悪いのは両親だ。祖父母の教育の仕方がどうであれ、復権派になったのはグリシャや母の意思だ。そして戦士の使命を押しつけられたのが、息子の、ジーク・イェーガー。

 

 しかしどうしても少年は、「密告した自分が一番悪い」という考えを、捨て去ることができなかった。

 

 そして地獄のような三人の片隅で、床に転がっている幼女はというと。

 

 

(ふっふっふ…「戦士」ネタはまだ当分擦れそうですねぇ!!)

 

 

 なんということでしょう(劇的ビフォー◯フタ-)

 

 ギャン泣きしながらその中身は、いつも通り外道真っ盛り。兄の曇り顔にニチャっていた。

 

(でも真剣にジークお兄さまの戦士の件をどうにかしないと…。お兄さまは絶対に自分から辞めないだろうし、周囲に圧力をかけて辞めさせるのも難しい。どうしたら……)

 

 兄がいなければ、アウラは生きられない。

 水がなければ人が死ぬように、兄がいなければ彼女の心は死ぬ。

 

(……やっぱりこれを打開するには、私も戦士になるのが手っ取り早いよね。もしお兄さまが戦士になっても、同じ地位なら寿命を解決できる方法を探れると思うし)

 

 ジークは自分の意思で戦士になることを決めた以上、妹まで戦士にさせる気はない。

 

 祖父母も首を横に振っているが、息子(グリシャ)に強要する生き方をさせたことで悲惨な結果を招いたことから、ごり押ししまくれば勝機はある。

 

(クサヴァーさんは何というかまだ、距離感が掴みきれてないし…どの道戦士の募集は5歳から7歳の子供だから、まだ少しの期間がある)

 

 そこでふと、公開訓練の時におっかなくジークを叱っていた教官の男ならばどうかと、アウラは思った。

 

 

(あのコワモテ男にこのかわゆい幼女ちゃんパワーを使い、戦士になるアピールをするのです!)

 

 

 正直に言ってアウラにも、現状を打破する策が見つからない。

 ゆえに当たって砕けない範囲で、彼女は色々と手を回すことにした。

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