お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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白色道化(まっさらぴえろ)

 マルセル・ガリアードの死。

 上層部はこれに「戦士候補生に一人につき、いったいいくら金をかけていると…」と、苦言を呈した。

 

 しかし、それまでだった。まだ候補生は七人いるのだから。

 

 今回の件は発狂したエルディア人兵士により引き起こされたものであり、その当人も直後アウラ・イェーガーに射殺された。

 現場で彼女が出した指示や行動は適切であったと判断された。

 

 ライナー・ブラウンもまたあの場が初の戦場であることを加味すれば、とっさに動けなかったのも仕方ないものだった。

 

 そして、作戦を乱し厳重注意を受けたポルコ・ガリアードもまた、兄の死があった。

 

 

「ハァ…」

 

 

 本国に帰還し、報告を終えたテオ・マガトは頭を押さえた。

 

 戻りの列車内で候補生は一言も喋ることがなく、特にライナーとポルコの精神状態が危うかった。対し二人と同班だったアウラ・イェーガーは、表情がなかった。普段の男女平等に接し、慈愛に満ちた姿がまるで嘘のように。ただぼんやりと、車窓の景色を眺めていた。そこにマルセルが死んだことへの悲しみは、一切感ぜられなかった。

 

「その片鱗は前々からあったが…」

 

 幼き幼女が発した「兄が死んだら自分も死ぬ」という内容。

 閉鎖的な人間性の中で、ごく一部の相手に対してのみ感情を揺さぶられる。

 

 しかしマガトも彼女が成長するにつれ、(ジーク)への依存が残っているものの、その閉鎖的感情は軽減されたものだと考えていた。

 

 

 だが違った。アウラ・イェーガーが()()()()()()()のが上手かっただけで、何も変わっていなかったのだろう。

 

「奴をはたして……戦士にしてよいものか」

 

 あの共感性の異常なまでの薄さは、いつ何時仲間うちに不和を招くかわからない。現に今もその影響が続いている。

 

 アウラもまた本性が知れてしまった以上、隠す気をなくした様子だった。

 

「上は“兵器”としてはこの上ない人材だと、言っていたがな…」

 

 戦場で必要なのは、最善手で任務を成し遂げるウデだ。

 そこにマルセルのような仲間への想いや、ライナーのような恐怖心、ポルコのような仲間の死を悼む心は邪魔である。

 

 マーレの兵器となる彼らに、感情は不必要だ────というのが、上層部の言い分だ。

 

 もちろん悪魔の民とはいえ人間である以上、その考えは理想論でしかないのだが。

 

「………」

 

 さまざまな感情をぶつけるように、ドンッ、とマガトは壁を殴った。

 

「ッハ…不甲斐ない上司だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 実戦を終えて月日が経ち、正式に獣の巨人の継承がジーク・イェーガーに決定した。

 

 他の戦士候補生はバラついており、アニは一人、ベルトルトはライナーと共にすることが多く、ポルコは誰とも群れなくなった。以前はライナーと喧嘩することが多かったが、実戦での一件以来、言葉はおろか視線すら合わせようとしない。

 

 ピークはジークの後をちょこちょこ付いていくようになり、アウラはまるで、機械のようになった。話しても無機質で、唯一兄が関連している時にのみ、感情を見せる。

 

 その異質さに、歳下の候補生たちは近づけずにいた。

 

 

 

「どうしたの、お兄ちゃん? 眉間に皺を寄せて」

 

「………」

 

 訓練施設の隅っこで、キャッチボールをする兄妹。

 投球技術のセンスがなかったアウラは、毎度殺人球(デッドボール)を繰り出すので、ボールをキャッチすると下に転がす。

 

「…いいのか、アニちゃんやピークちゃんたちと仲良くしなくて?」

 

「んー? もうバレちゃったからいいでしょ。笑うのって結構疲れるし」

 

「本当にアイツらには何とも思って…いや、何にも思えないのか?」

 

「うーん…。例えば死んだら、「死んじゃったなぁ」とは、思うかな。もしお婆ちゃんやお爺ちゃんだったら「どうして死んじゃったの?」って思う」

 

 アウラも長年共にいる祖父母には、それくらいの情を抱くようになった。

 

 彼女に全く心がない、というわけではない。ただ、彼女の“大切なもの”が少ないだけだ。

 それ以外のものにほとんど関心が向かなくて、感情も動かされなくて、いてもいなくてもどうでもいい「そのほか」の認識なだけだ。

 

 でも、だからこそ、そこがアウラ・イェーガーの非人間性である。

 

 

「お兄ちゃんが戻せって言うなら、元の設定に戻すよ」

 

「……設定とか言うんじゃないよ」

 

「元のジーク・イェーガーを実の弟と信じてやまない美少女お姉ちゃんに戻るよ」

 

「俺のこと歳下扱いしてるのは割と本気だろ」

 

「あれれぇ、バレてた?」

 

 クスクス笑って、アウラは受け取ったボールを転が──す前に思わず投げてしまい、あさっての方向へ飛ばした。間もなく遠くから「う゛っ」と、悲鳴が聞こえた。

 

「てぇへんだ、誰か死んでしまったみたいだ!」

 

「言ってる場合か!」

 

 顔を青くして駆けて行ったジークに、アウラも続く。これが偶然通りかかったマーレの偉い人であれば、二人の首が飛ぶ。

 

 倒れていたのは、赤い腕章をつけた中年の男だった。頭から血を流している。

 

「よかったぁ! クサヴァーさんだったら問題ないね、すぐに治……痛ッ!!」

 

「………」

 

「何で殴るの!? イェーガーくんサイテーッ!! 暴力男ッ!! 黒目黒髪の少女趣味ッ!! 美男子ッ!!」

 

「うるさい貧乳」

 

「私は貧乳じゃないッッ!!! まだ栄養が行き届いていないだけだ!!!!!!」

 

「イタタタ……」

 

 起き上がったクサヴァーは幸いすぐに傷が治り、地面に転がるデッドボールを見て、何が起こったのか理解した。

 

「ちょっとジークと話がしたくてね。探してたんだ」

 

「そうなの? じゃあアウラちゃんはクールに去るね。ごめんね、クサヴァっち」

 

「おい生意気妹、クサヴァー「さん」だ」

 

「気をつけて帰るんだよ、アウラちゃん」

 

「うん! バイバイ、クサヴァっち!」

 

 トム・クサヴァーに対しては幼少期からの付き合いもあり、アウラはこのように柔らかい表情を見せる。

 

 

 そうだ。時間と、そして他人の歩み寄りさえあれば、アウラ・イェーガーの心も多少は動く。まだ戦士候補生になった少年少女とは付き合いが浅いのだ。

 

 これからか──と思ったジークは、クサヴァーとキャッチボールを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 トム・クサヴァーからジーク・イェーガーへ獣の巨人が継承された。

 

 クサヴァーさんは羊だったけど、お兄さまは猿だった。獣の巨人は体は他の巨人と比べて少し大きいけど、軍事運用が難しいと聞く。実際クサヴァっちもそうだった。

 お兄さまはしかし、投擲技術を武器にして破竹の活躍を見せた。

 

 ジーク・イェーガーくんは獣以外にも、クサヴァーさんからメガネを継承した。

 

 あと、何か私に隠している。それを告げるかは考え中のようだ。私が正式に戦士になるかどうかで決めるのだろう。まぁそれまでは待ちますよ。

 

 

「今日で、4623日……明日は4622日…」

 

 

 私は起きてから13年の残りの日数を数えるようになった。

 お兄さまは軍人として家から出て行ってしまい、急速にアウラちゃんの心が大大ピンチなのである。

 

 いつも夜寝る前に人生との決別を果たすべく訓練用のナイフを首に突きつけるんですが、一時間くらい悩んで、「寿命の問題がまだ解決してない」と、思いとどまります。

 

 こんな生活を毎日続けてたらそろそろ祖父母にバレそうなので、まずいですね。まぁバレたらバレたで、お兄さまに伝わるからいい曇らせになる。でも心労をかけ過ぎて、そのせいでお兄さまが戦場で死んだらどうしよう。

 

「…アウラ、大丈夫?」

 

 朝、お婆さまが辛そうに私に声をかけた。ご飯はちゃんと食べていますのに、どうしたのでしょう。

 

「あなた、髪……最近、白くなってるわよ?」

 

「え?」

 

「……気づい…て、ないの…?」

 

 お婆さまに洗面台へ連れて行かれて、鏡を見た。本当だ。アウラちゃんの髪が白髪混じりになっている。

 いつも自分の顔は見てるはずなんだけどな? 

 

「……あぁ! だから最近やたらと人がジロジロ私を見てたんだ!」

 

 なるほど。いつも通り私の美貌にうっかり惚れちまったのかと思っていたら、そういうことだったのか。

 いえいえ、女性も私に釘付けだったので、とうとうアウラちゃんの美しさが同性まで魅了するようになったのかと、てっきり。

 

「心配をかけてごめんなさい、お婆ちゃん。仲間が死んで、お兄ちゃんも家を出たから……かなり疲れているみたい」

 

「無理…しちゃダメよ。あなたがこれ以上自分を追い詰める必要はないわ…」

 

「ありがと。……あっ、そうだ! 最近また前髪が長くなってきたから、お婆ちゃんに切ってほしいなぁ」

 

「…ふふっ、いいわよ。いつもみたいに切ってあげるわね」

 

 お婆さまが私の前髪をはじめて切ったのはいつだったか。確か幼女ちゃんだった頃かな。

 眉毛より上まで切って、その出来がおばさんの写真とそっくりだったのを覚えている。

 

 そうして見ると、私の髪の色に合わせて、おばさんと似た雰囲気になる。

 

「お婆ちゃんは、アウラのこと好き?」

 

「…えぇ、大好きよ」

 

 そうやって彼女は私をフェイ・イェーガーに重ねる。祖父も。父親も。

 私は本当は、ユミル(あの子)に似ているのに。

 

 彼女は今、どうしているのだろう。また、会いたいな。

 

 

 その数日後、私はうっかりお風呂場で手首を切ってしまい、病院に運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

「アウラ、イェーガー」

 

「はっ、はい…」

 

 起きて間もなく訪れたマガト隊長に、自然と自分の背筋が伸びた。

 隊長は腕の包帯を見て、さらに眉間に皺を寄せる。

 

「ちょっと顔の産毛をカミソリで剃ろうとしましたら、手が滑ってしまったんです」

 

「縫う程のケガをか」

 

「それで、あらまぁ大変と思いまして、でもちょうど夜で眠くなっ」

 

「貴様が一応使用認可は出ている、睡眠作用のある薬物を服用しているのは知っている」

 

「………」

 

 今までにない程、マガト隊長から怒りのオーラを感じる。走り込みで最下位を連続で記録していた時だって、ここまで怒らなかったのに…! 

 

「ジークか、問題は」

 

「そっ、そうなんです!! お兄さまが家に最近帰って来なくて……あれ? …っあ、軍の住居に引っ越したんでしたね。いけませんね。私最近どうも寝不足で」

 

「アウラ・イェーガー」

 

「…はい? 何でしょう、マガト隊長」

 

「貴様はしばらく入院させる。現在使用している薬物は今後一切服用するな。認可は一応されているが、色々と副作用の話を聞く」

 

「……? なぜマガト隊長は私が、その…薬を使っているのをご存知なのですか?」

 

「よく聞け」

 

 

 ────戦士になりたいと言うならば、一度休め。それからよく考えろ。

 

 

 マガト隊長はそうおっしゃった。

 

「奴と共に生活したいなら、貴様は候補生だが、戦士の住居へ住まえるよう手配してやる」

 

「お兄さまが最近家に帰って来ないのは、戦士になられたからですか?」

 

 それって、それじゃあ、お兄さまはあと13年しか生きられないんじゃ。

 ど、どうすれば、どっ、どうすればいいの。私は何の手がかりも、まだ何も、何も分かってないのに。

 

 どうしよう、ど、どうし、どうしようどうしようどううしようどうしよう

 

 

「ゔ…うぅ、ううぅ」

 

「……自分を傷つけたところで、その痛みは己に返ってくるだけだぞ」

 

 

 マガト隊長は腕をかきむしる私の手をつかんで、あやすように背中を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「やっほー」

 

 訓練所に、久しぶりの少女の姿があった。

 一番最初にアウラに駆け寄ったのはピークで、その次が「風呂場で倒れたって聞いたけど…」と、声をかけたアニだ。

 

 二ヶ月ほどアウラ・イェーガーは心身の問題を理由に休んでいた。その前から身体的な異常であったり、言葉が時折噛み合わないなどの異変が見受けられた。

 

 戦士志願者の募集要項にあるとおり、彼らには“健康的な”が、求められる。

 第一は肉体。第二に精神。

 

 テオ・マガトはアウラ・イェーガーを戦士候補生から外すことも検討していた。自傷行為──否、自殺未遂までされては、戦士としては不適格だろう。

 

 だが、上は彼女の手綱を外す気は毛頭なかった。

 

 それも致し方あるまい。兵器運用としてさまざまな試行錯誤がなされる中、偶発的にジーク・イェーガーの()()()()が発見されたのだから。

 

 彼の脊髄液を摂取した人間を“叫び”によって巨人化させ、意のままに操ることのできる能力。

 

 これまでの戦士に現れなかった力がジークに発現した。そうなれば必然とその血に秘密があるのではないか? ────という話になる。

 

 ゆえに、血縁の妹にも何かしらの力が出現する可能性を示唆されているのだ。

 

 これは次の戦士の枠に、アウラが組み込まれると決まったようなものだった。

 

 

「ごめんねー、ちょっと疲れ過ぎちゃったみたいで。ベルトルトくんも元気? アレ…なんか、身長伸びてない?」

 

「そ…そうですか?」

 

「うん、伸びた伸びた! ライナーくんは……大人っぽくなった気がするなぁ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 ライナーはチョロかった。

 

「そしてポルコくんはぁ……」

 

 最後に一人離れて木陰にいたポルコに忍び寄ると、横からひょっこり顔を出す。少年は一瞥しただけで、すぐに舌打ちしてその場から去ろうとする。

 

 

「ガキっぽくなった!!!」

 

 

 プツンと、ポルコのこめかみから音が聞こえた。

 踵を返した少年は、吠える。

 

「俺をガキ扱いすんじゃねェェェ!!!」

 

「おっ、私と勝負する気? いいよ、受けて立とう!」

 

 歳の差がある戦士候補生の戦いに、四人の子供たちが好奇心を向ける。

 普通に考えればポルコの方が分が悪いが、アウラは二ヶ月休んでいたハンデがある。

 

 だがそこは年長者、ポルコの攻撃を最小限で躱し、最後は一本背負を決めて草むらの上に投げ落とした。

 大の字に転がったポルコに、ベルトルトとライナーが近づく。

 

「大丈夫、ポルコ…?」

 

「大丈夫だよ、こんくらい…。ドベは来んじゃねェ!」

 

「なっ……! 俺は、心配して…」

 

「はいはい、喧嘩しない。それとも二人とも、喧嘩せずにはいられないほどそんなに相手のことが好きなの?」

 

「「誰がコイツなんかっ! ………俺のマネすんな!!」」

 

 息ぴったりの二人は、結局ケンカし出した。オロオロするベルトルトの横でアウラはケラケラ笑い、少女二人の元へ歩み寄る。

 

「今日はさ、午後の訓練が終わったら、みんなで遊びに行こうよ。男の子が混じったことってないでしょ?」

 

「あのバカ二人も一緒なの?」

 

「意外と楽しいかもよ? まぁ物は試しで、っね、アニちゃん」

 

「……まぁ、いいけど別に」

 

 アウラはすっかり、以前の姿に戻っていた。その姿が彼女本心のものでないとみな分かっていたが、あえてその皮を剥がそうとする者はいない。

 

 彼ら彼女らも戦士になる前のジークに、「(アウラ)の事情」というのを聞いたのだ。

 

 兄以外にはとんと興味が薄く、精神的な問題を抱えているのだと。

 それを普段は「優しいアウラ・イェーガー」という人間像で固めて、表に出さないだけ。

 

「ふふふ、好きなもの頼んでいいよ? 私が奢ってあげちゃうからね」

 

「……もしかして」

 

「そうだよピークちゃん。戦士様からお金を盗……賜ってきたのです!」

 

 

 わいわい騒ぐ候補生たちはその日、六人で露店を回った。

 

 

 マルセル・ガリアードは、亡くなってしまったけれど。

 

 ジーク・イェーガーもまた戦士になり、その場にはいないけれど。

 

 

 少年少女はその時間を、穏やかな流れの中で過ごした。そこだけ切り取ってみれば、彼らが地獄の中で生きているなんて、想像できないくらいに。

 

 そしてその最中、ポルコと二人きりの時間を作ったアウラは、陰りを引きずっていた彼にマルセルの件を話す。

 

 

 マルセル・ガリアードが弟にどんな想いを抱いていたのか。

 

 弟に戦士になってほしくなかった彼が、密かに何を行っていたか。

 

 そしてマルセルはなぜ、ライナーをあの時助けたのか。

 

 

 

 ひと通り話したアウラは、瞳を伏せる少年を静かに見つめる。

 

「……それを俺に話して、どうしろってんだよ」

 

「知らないよりは、知っていた方がいいでしょ? ポルコくんのためにも、きっとマルセルくんのためにも」

 

「………どんな気持ちでアンタはそれを、俺に話したんだよ」

 

「…さぁ、わからない。わからないけど、話さなきゃいけないと思ったから話した」

 

「……そうかよ」

 

 ポルコは何度か口を開閉して、結局何も言わず少年少女の輪から離れた。帰る、とだけ言い残して。

 だがその前に、帰る少年のその手をアウラがつかんだ。

 

「何だよ」

 

「奢った私にお礼は…?」

 

「奢ってくれたのは実質ジークさんだろ!」

 

「何でお兄ちゃんには「さん」をつけてるのに、私は名前すら呼んでくれないの……?」

 

「あぁもう、ウゼェなアンタ!!」

 

 ポルコが騒いでいれば、ほかの露店を見ていた四人が戻ってきた。アニは少し口角を上げてアイスクリームを食べている。

 

「どうしたのー、ポルコ?」

 

「この人がッ! ……いや、何でもない…」

 

「アウラさん、あんまりポルコのこといじめちゃダメだよ?」

 

「ピークちゃんがそう言うなら、今日はこのくらいで勘弁してあげようかな」

 

 ポルコは結局帰るタイミングを逃し、そのままもうしばらくの時間、六人でぶらぶらと歩いた。

 

 それからみな別れ、帰路についた。

 

 アウラは来た道を戻る形で戦士用の住居に向かう。ほぼ往復する道のりなので、時間はすっかり暗くなっていた。

 部屋の明かりはすでについており、ジークが玄関の前に立っている。

 

「ただいま、お母さん」

 

「お前のような生意気な娘を産んだ覚えはない。……って、冗談は置いといて、どうだった?」

 

「アイスクリームが美味しかった」

 

「味の感想を聞いてんじゃねぇよ」

 

 兄への手土産を渡したアウラは、二ヶ月ぶりの大移動で疲れきったのか、そのままソファーとお友達になる。ワンツースリーで夢の世界に旅立つ前に、サムズアップした。

 

 

「ありがとねー」

 

 

 そして本当に眠ったアウラに、ジークはため息をついてその体に毛布をかけた。

 

 戦士候補生との仲は上手く回復したらしい。

 それに安堵する青年の心は、すぐに別の感情に流される。

 

「……ごめんなぁ、俺のせいで」

 

 ()()()()()()()少女の髪に触れ、ジークはポツリと呟いた。

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