お兄さま曇らせIF√   作:栗鼠

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ブレオダでミニキャラのライナーが短髪の(メス)っぽいよな、って呟いた次の日に、単発でライナーが来ましてね。つまり………そういうことなんだなぁ、って思いました。


ヤマアウラ

 女型、鎧、顎、車力、超大型、その五つを継承する人間が決まった。

 アウラ・イェーガーはその中で、顎の巨人の継承権を得た。

 

 鎧の巨人はポルコ・ガリアードにするか、ライナー・ブラウンにするかで終盤まで話し合われ、最終的にライナーに決まった。

 

 ライナーはマルセル・ガリアードが死んでから自分を責め続け、訓練にいっそうその身を投じた。

 ポルコも同様に訓練に明け暮れたが、最後に選ばれたのはライナーだった。

 

 軍の決定を受けてポルコは黙っていたが、ハァーと息を吐き、両手を頭に当てる。

 

「俺がドベのお前に負けるなんてなぁ」

 

 皮肉の混じった言葉をつぶやいて、ポルコはライナーを見た。

 てっきり大喜びするかと思いきや、ドベだった少年は下を向いて震えている。

 

「な、何だよお前…」

 

「……俺で、本当にいいのか? 俺が鎧を…」

 

「………ハァ?」

 

「だって、だって俺は……!!」

 

 ライナーは過去のことを思い出すたびに、「どうしてあの時伏せられなかったのか」と、後悔し続けてきた。

 

 ポルコは、兄がドベの少年に継承権が向くように印象操作を行っていたことを、誰にも伝えていない。この先、誰かに話す気もない。

 だから罪悪感でマルセルがライナーを助けたことも、ライナーは知らないのだ。

 

 ただ印象操作は何年も前の話で、ライナーは自分の実力で戦士の座を勝ち取った。

 

 

「テメェ……ライナー、それは俺の兄貴への侮辱か?」

 

「違うっ!! 侮辱なんかじゃない! マルセルが助けてくれなかったら、俺が死んでたんだ……いや、あの時本当に死ぬべきだったのは…」

 

「…ッチ、そうだよ! 兄貴はお前のせいで死んだんだッ!!」

 

「………ッ」

 

「でも、そのおかげで今お前はこうして生きて、戦士になったんだろ!! だったら……だったら、もっと胸張って誇れよッ!!!」

 

 ポルコはライナーの胸ぐらをつかみ、その勢いのまま頭突きをかました。その衝撃でふらついたライナーは、壁にぶつかる。ポルコも後ろによろけて尻餅をつき、フゥーフゥーと、獣のような息を吐いた。

 

「ライナー、ポルコ…」

 

 二人の光景を固唾を飲んで見守っていたベルトルトは、この中で年長の女に助けを求める。

 視線で訴えかけると、それに気づいたアウラは手を振った。

 

「男の子は殴り合って成長するんだよ。ほっとこう」

 

「ライナーがポルコに実力で勝ったとはねぇ〜」

 

「お祝いに女子三人で甘物でも食べに行こっか! アニちゃんは何がいい?」

 

「……アイスクリーム」

 

「いいねぇ。違う味を頼んで、みんなでシェアしよう」

 

 女子三人組は、いつも通りな空気である。

 居場所を無くしたベルトルトはシュンとし、肩身を狭くした。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 ついにいよいよ、私も巨人の力を得る日が来た。

 

 お兄さまの力の特異性に目をつけた上層部が、その血縁である私を選ばないわけがないと思っていましたが、やはり選ばれましたね。

 

 これで私にも特別な力が目覚めたら、王家(フリッツ)の血筋を疑われる可能性も出てくるかもしれない。

 まぁその時はその時だ。どの道、今持っている注射器は打つしかない。

 

 うおおおっ!! 私は人間をやめるぞ、お兄さまぁぁぁ!!! 

 

 という感じで、私は注射器を腕に突き刺す。その瞬間、意識がなくなった。

 

 

 

 

 

「……えぇ?」

 

 

 そして目覚めたら巨人の力を得ていた──ではなく、一度来たことのある場所にいた。

 

 あの子が、ユミルちゃんがいる世界だ! 

 

「くっ……また枷が! 拘束プレイなんてお呼びじゃねぇ!!」

 

 首と手足にそれぞれ枷がついていて、伸びた鎖が地面に固定されている。立とうにも、中途半端に腰を上げる体勢で終わってしまう。

 

「おーい、ユミルちゃんやーい! この美少女アウラちゃんが来たよ──!!」

 

 大声で叫んでいたら、遠くからユミルちゃんらしき人影が、バケツを持って歩いてきた。

 彼女は私の前に立ち止まると、バケツを置いて飛びついてくる。アッ、今私の中で母性の鐘が鳴った。

 

「久しぶりだねユミルちゃん。大きく……なってないな?」

 

 しばらく私のたわわな胸に顔を突っ込んでいたユミルちゃんは、離れて土とバケツの水を使い、何か作り出した。

 

 その間、私は長いこと山を作ったりして遊んでいた。

 

 

 それで、ユミルちゃんが作ったのが、100メートルを超える巨人である。彼女曰く「おそろっち」だそうだが、何がおそろっちなんだろ。

 

「へぇ、これが私の巨人化する姿か。………ん?」

 

『?』

 

「いや………うん、ユミルちゃん、顎の巨人って知ってる? 小柄でね、歯や爪が鋭くて、すばしっこいの。奇襲に向いてるんだ」

 

『(コクン)』

 

 コクンじゃないよ。爪も歯も鋭くないし、デカすぎるし、顔は骸骨だし、マーレ政府もビックリして腰抜かしちゃうよ。こんなん王家の血の疑惑直行案件じゃん。正気かい? 

 

「あの、ほら……ただでさえジーク・イェーガーくんがさ、目立ってるから…。もうちょっと地味めにお願いしたいなぁ…って。フリッツの血があるってバレたら、アウラちゃんもお兄さまも大変なことになっちゃうよ…」

 

『………!』

 

 あっ、みたいな顔をしたユミルちゃんは、巨人を作り直し始めた。

 

 次に出来上がったのが、小柄で爪も牙も鋭い顎らしい巨人体である。

 後頭部のの途中から尾骶骨あたりにかけて、大量のハリのようなものはあるんだけど。

 

「……このハリ目立たない? 大丈夫? 職人(ユミル)の腕を私は信じていい? というか、巨人ってユミルちゃんが作ってたの………!?」

 

『(コクン!)』

 

 まっかせなさい! とのことなので、信じます。

 

 あと、ここに来れたので13年の寿命の件も尋ねた。始祖様ならどうにかならないだろうか。

 その答えは首を横に振るもので、何だか、一気に地獄に突き落とされた。目覚めたら死のう。

 

『…! ……!!』

 

「え、方法はあるの?」

 

 ものすごく複雑な過程を踏めば、何とかなる方法があるらしい。

 

「私にできることがあるなら、何だってする! 何でも、何でもするから……お兄さまを、助けたいの」

 

 そんなにお兄さまが好きなのか聞かれたけど、好きに決まっている。アウラちゃんは、アウラ・イェーガーは、お兄さまが泣いているところから始まったからね。その顔が私の(こころ)を育てる雨になって────だから、私はお兄さまの曇り顔が大好きなのかもしれない。

 

 

「でもでも、幸せになってもほしいんだ。お兄さまが心の底から笑って、苦しめる世界にしたい!」

 

 自分で言っててもビックリするほど矛盾している。しかしそれがアウラちゃんなのであった。

 

「ユミルのことも、幸せにしてあげたいよ。ここに一人じゃ寂しいでしょ?」

 

 彼女を抱きしめてあげたかったけど、私が動ける範囲より外にいるから、できなかった。

 

 ユミルちゃんは嬉しそうに、でもどこか悲しげな表情で近づき、私の両頬を小さな手で包む。冷たい手だ。

 

 その温度で彼女が生きてはいないのだと実感させられて……いや、そもそも今の私には肉体がないのか。

 ならこの冷たさは、私の心が感じ取っているのだろうか? 

 

 

(────それが、アウラの望み?)

 

 

 頷けば、彼女はうっそりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 新たに五名が戦士入りを果たし、その実用性を確かめるために十全な操作訓練が行われた。

 

 今回はその中でも、対戦地を想定した大規模な演習である。

 

 女型は打撃で攻撃対象を吹き飛ばし、鎧は我慢強く砲弾を防ぐ。車力は装備した機関銃と狙撃手の組み合わせなど、作戦に幅を広げる。さらに超大型は出現するや否や、周囲を更地にした。

 

 一方で顎は、素早さと強靭な歯と爪で次々と目標ターゲットをえぐり、食らいつく。

 

 

「ジーク・イェーガーは特殊な力を発現したが…、妹の方は姿に特徴が出たか」

 

 

 軍部の上層部の一人である男は、望遠鏡を片手に高台から戦士たちの様子を眺めていた。その隣にはテオ・マガトもいる。

 

 通常の大きさは約5メートルほどと、これまでの顎の巨人とさほど変わらない。

 頭部は本来の顔の上に動物の頭蓋骨をかぶったような形状をしている。鋭い歯と爪は従来通りだが、一点、特異な部分があった。

 

「まるでヤマアラシのようだな」

 

 鋭い無数のトゲは、広がると上下左右に10メートルほど開く。迂闊に近づけば、針のむしろになることは確実だ。

 

 その針が生えている皮膚の部分は硬く、常時硬質化で覆われている。

 しかし針はそこに完全に固定されているわけではなく、むしろ抜けやすくなっている。

 

「あのハリは、硬質化をまとわせることも可能です」

 

「獣の巨人のように、巨人を操作する力はなかったと聞くが、それは確かか?」

 

「はい。あの頭蓋骨の下は同様に骨の頭をしており、発声は可能ですが、ハッキリとした人間の言葉を発することはできません」

 

 ジーク・イェーガーほど…とまでとはいかずとも、アウラ・イェーガーにも特殊な点が発現した。

 彼らの血に何らかの特異性があることは十分に証明されたわけだ。

 

 二人が王家の血を継ぐ人間かもしれない、とまで疑問が発展することは、幸いなかった。まさか彼らもその血を継ぐ子が100年経った中で、突然現れるとは思わないだろう。歴史では、当時の王はパラディ島へ逃げたことになっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 これは大規模演習があった、少し前のことである。

 

 いよいよマーレは、パラディ島制圧作戦の大詰めに入った。

 

 作戦に参加するメンバーは四名で、そのほか二名のジークとピークは、他国への牽制目的を含めて本土に残ることになった。

 

 顎と女型が交代しながら走って壁まで向かい、その間に女型が巨人を呼び寄せる。その後、超大型で外壁を壊し、その次に鎧が内門を破壊する。

 

 

「……フゥー…」

 

 長年にわたって計画されてきた作戦が某日、決行されることになる。

 テオ・マガトは己が指導した子どもたちが地獄に突き進むことに、静かに瞳を閉じた。

 

「ただ普通に、あの子たちが生きられれば……」

 

 どんなにいいことか──と続けようとした言葉は音にはならず、その代わりに紫煙があたりに漂う。

 男が感傷に浸っている中、遠くからマガトを呼ぶ声が聞こえた。

 

「……何事だ、騒がしいぞ」

 

「あぁ! ここにいらっしゃったのですね、マガト隊長!」

 

 アウラ・イェーガーは走っていたせいか、息が荒い。

 

「実は相談がございまして!」

 

「……何だ?」

 

 この少女の「相談事」が今までろくなものがなかった男は、眉間に深い、それは深い皺を作る。

 また素っ頓狂なことを言おうものなら、久しぶりに一発殴る気でいた。

 

「私の顎の巨人なのですが、巨人に対してどれほど通用するのか実験してみたいのです!」

 

「それはどういったケースを想定してのものだ?」

 

「はい! 制圧作戦につき、パラディ島の壁外は巨人の巣窟となっております。もし彼奴(きゃつ)等に襲われた場合を想定して、行いたいのです」

 

「なるほどな。ハリの有用性についてはまだあまり討議されなかったからな…まぁ、いいだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 アウラは通常状態と、硬質化状態のふた通りで比較する案を出す。

 またハリの強度が鎧の硬質化にも通用するのかどうかの話になり、ライナーも参加させる流れになった。

 

「通常の巨人を想定したサンプルは、女型のアニで構わないな? そうと決まれば…」

 

「ジーク・イェーガーで」

 

「アニ・レオンハートでいいな」

 

「獣の巨人のジーク・イェーガーでお願いしますマガト隊長」

 

「貴様………今度は何を企んでいる」

 

「私はただ自身の巨人化の特性について綿密に把握しておきたいだけです」

 

「………」

 

 まぁ、女型でも獣でも、通常の巨人とその肌の強度はさほど変わるまい。

 

 問題はある意味あるのかもしれないが、その問題は毎度のことイェーガー兄妹の間で起こり、そして終わることなので、実験内容自体は正鵠を射たものだと判断したマガトは許可した。

 

「あっ…ありがとうございます! マガト隊長!!」

 

 アウラ・イェーガーは、とびっきりの笑顔だった。




【補足】

・アウ子の枷
 王家の血筋によるものではなく、彼女自身の無意識が作り出しているもの。偉大なるグロス曹長が起こした覚醒イベントがなくなり、世界のしがらみに縛られた窮屈な人生を歩むことになった結果の産物。王家のジークが枷を外せたのなら、逆に自分で付けることも可能だろうって考え。

 ユミルちゃんは最初、枷を外してあげた。でもアウラ自身が再び付けてしまった。お互いに縛られた奴隷仲間ってこと…?(トゥンク)
 アウズンブラちゃんの精神世界にあった回遊魚(アノマロカリス)と無数のアウズンブラの死体を見て、ユミルに会うためだけに不幸しか付きまとわない無限地獄の転生を味わされた末に、もう自分が誰なのか、誰に会いたかったのか、というか思考すらできないただの歩く肉塊になり果てた双子の片割れに、始祖様の精神が崩壊しかかった。
 でもユミルちゃんの気配を感じたことで目覚めたアウズンブラちゃんが「アウラ」として生き始めて、絶対に幸せにしてあげようと思った。
 そう思ったのに結局どこまでも「死にてぇな…」な精神のアウラに、だんだん始祖様のヤンデレゲージが上がっている。
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