特級呪霊『鬼人正邪』   作:天邪鬼

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2話 邂逅

 

 

「……なんだこれ」

 

天を包むようにして広がる黒い蓋。

天蓋と言って差し支えないそれが頭上を覆う。先程の妖怪の仕業、なんてことはないだろう。妖力の気配や質? みたいなものが全く違う。

 

ふと某人食い妖怪の存在が脳裏をよぎる。もしかすると似たような力だろうか。

ともかく、知性の高い妖怪の仕業に違いない。そう結論付けて私は辺りへの警戒を強める。

 

先程からゆっくりと何かしらの気配が近づいてきているのが分かる。気を張りつつ、抱えたひらり布からいつでもアイテムを取り出せるように身構える。

……徐々に気配が濃くなって来た。

樹木が視界を遮ってはいるものの、もう目の届く範囲にいるだろう。

 

「出てこいよ」

 

そう呼びかけるも返事がない。

暫くはにらめっこを続けることになるか──そう思ったが束の間、前方から突如人の形をしたソレが鉈のような得物を手に飛び出してきた。

それをなんとかすんでに避ける。

 

「チッ」

 

続けざま蹴りを入れてくるがそれを右手で払い、逆に胸部目掛けて蹴りを一発お見舞いしてやる。

両腕で防がれはしたものの衝撃までは吸収しきれず、ソイツは後方に吹っ飛んでいった。

受け身を取っている様から明白に知性が伺える。意思疎通も可能か。

 

喧嘩なんて生まれてこの方やったことがない*1が、存外動けるな。動体視力にも反射神経にも自信はあるが、これほどまで自然体に体が動くとは思っても見なかった。まるで体が戦い方を分かっているかのように反射的に動作する。

 

 

改めて目の前の妖怪に目を向ける。

 

男? にしては少し長めなブロンドの髪。それを七三分けにして、どこか生真面目そうな雰囲気を醸し出している。それから、なぜか学生服のような衣服を身に着けていた。

まあ妖力を纏っているから人間ではないはずだ。

交渉しようにも相手にその気はないらしい。今にも迫り来んと得物を握りしめている。

 

が、ものは試し。

 

「やいお前、この空はお前の能力か?」

 

当然のように返答はない。

どうしたものか思案していると、今度は背後からまた別の気配が近づいて来ていることに気がついた。

 

(仲間か…?)

 

妖怪は時に群れる。

主に強い妖怪が弱い妖怪を従える形で、だが。

目の前のコイツは恐らく強い方だな、少なくも私が祓った妖怪なんかよりは数倍。手下を連れていても不思議じゃない。いや、もしかするとこっちが手下の場合もあるのか?

どの道2対1は不利だ、逃げるべきか。

 

……いや、力試しもまた一興。

最悪私には反則アイテムがある、自分の実力を試すいい機会だ。

そう考えた私は再び臨戦態勢を整えた。

 

 

 

 

 

────

 

 

その日は、窓から報告のあった準2級呪霊の討伐任務で██県██市に赴いていた。広い森だ。準2級程度なら私と灰原どちらか一方でも祓える。その考えから二手に分かれて呪霊の捜索に努めることにした。

 

これが大きな間違いだった。

 

森に入ってまず目にしたのは倒木した幾十もの木々。その全てに呪力の痕跡、残穢がこびりついている。それもかなり濃いものが。

 

これを頼りに進んでいくと、その先に強い呪力を感じる場所があった。恐らくは呪霊本体。

 

辿り着いた先で待ち受けていたのは、頭部に2つの角を生やした人型の呪霊だった。

現状木々に身は隠れているものの、当然相手はこちらに勘づいているようで挑発するように声を掛けてくる。

 

コイツが準2級呪霊だと?

そんな訳がない。

 

見るからに人型、加えて高度な意思疎通が可能。これほど人に近い呪霊は過去に一度も見たことがない。恐らく人間に関する根源的な恐怖から生まれた呪霊。少なく見積もって準1級、いや、特級にも届きうる存在だった。

 

最悪なことに今逃げれば灰原が被害に遭う可能性が高い。最適解はコイツをどうにか足止めし、灰原と合流、協力して撤退すること。

 

今、己が出せる最速を振り絞って迫る。

しかし容赦なくそれを躱される。次、腹を目掛けて蹴りを入れるがそれを片手でいなされ逆にこちらが蹴りを喰らう。呪力で固めた体が地面と水平に吹っ飛んでいった。

 

ダメだ、私はコイツに傷一つ付けることも敵わない。

 

すると、コイツの口から奇妙な言葉が出た。

 

「やいお前、この空はお前の能力か?」

 

一瞬何を指しているのか分からなかった。

しかし、そうか。それならば辻褄が合う。運がいいのか悪いのかどうにもコイツは生まれたばかりの赤子らしい。空を包むこの結界、帳のことすら把握していない様子だった。ならば、

 

「……先程の質問だが、これは私の力ではない」

「おお、口が利けるか」

 

戦闘中、それも呪霊と呑気に会話など反吐が出る。

本当は今すぐにでも任務を放棄して逃げ出してやりたい気持ちでいっぱいだった。しかし二手に分かれることを提言したのは他でもないこの私だ。発言には責任が伴う。

私が責任を持ってことの収集をつけなければならない。

 

「……私の力は対象を線分した際、7対3の比率の点を強制的に弱点とするもの。線分は非生物から各部位のパーツにも及ぶ」

「お、おぅ?」

 

術式の開示。ヤツには知る由もない呪いの基本。

 

「──戦闘、再開しましょう」

 

 

 

 

────

 

 

(なんか自分から能力を曝け始めたぞ……)

 

自分語りが好きなタイプなのだろうか。それとも、よほど己の力に自信がある?

どちらにせよさっきの情報が本当ならあの得物を喰らうのは大変よろしくない。常に警戒しておくべきだな。

 

蹴りを受けて分かったが、相手は素の力がそれほど強い訳でもないらしい。私でも十分片手でいなせたことからこれはほぼ間違いない。だが能力、これが厄介だ。鉈でなくとも効果はあるのか? 喰らったときのダメージも未知数。

やはり不用意な接近戦は控えるべきだな。

 

ところで、

 

「私にも能力がある。だが、これまで生物に使った試しがない。故に、その身を以って実験台になってもらおうじゃないか」

 

目には目を歯に歯を、能力には能力を。

今のところ成功した試しはないが、大方やりように目星はついている。原作『東方輝針城』にて鬼人正邪が見せた能力の一端、それは自機の視覚認識を歪めるもの。

ならば少なくともこれくらいはできるはずだ。

 

「──逆符『鏡の国の弾幕』」

 

 

*1
口喧嘩は死ぬほどしてきた

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