特級呪霊『鬼人正邪』   作:天邪鬼

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3話 顛倒

 

 

「──逆符『鏡の国の弾幕』」

 

 

瞬間、どっと内側から妖力が削り取られる感覚。

 

手応えあり、ぶっつけ本番だったが何とか成功したらしい。傍から見ても困惑している様子がよく伺えた。その相貌に思わずニヤリと口角が上がる。

 

スペルカード"逆符『鏡の国の弾幕』"は画面の左右を反転させる技、即ち自機の操作を右左逆さまにするという性質を持つ。これを現実に当て嵌めればどうなるのか、その答えが目の前にあった。

 

下手に動けばそれだけで隙を生じることが分かっているのだろう、奴は身動き1つ取ろうとしない。正確には、したくてもできないでいる。

なんせ唐突に"視界が左右反転"した訳だ、即座に適応しろという方に無理がある。

けれど私にとってそんなことはお構いなし。

 

すかさず右手を奴に向け、妖力弾を放つ。

1発や2発じゃない。10、20の弾幕を相手の周りで弧を描くようにして駆けながら撃ち込んでいく。

原作のように空中から弾を発生させる、なんてやり方はまだ分からない。それ故に、移動しながら数を撃ち込むだけのなんちゃってスペルカードだ。

 

意外にも奴はそれを跳んでは伏せ、退けては進み、前後上下という縛られた動きのみで辛辛に避けていく。縦スクロール画面ではできない、三次元空間だからこその躱し方。土壇場にしてはよくやる。

 

いっそのこと慣れられる前にこのまま近接戦闘へ持ち込んだ方がいいか。そう判断し弾幕を撃つのを一旦止め、今度は急速に距離を詰める。

更に、踏み込むと同時にひらり布から或るアイテムを取り出した。

『打ち出の小槌(レプリカ)』

反則アイテムの中で唯一変わった特殊効果を持たないシンプルな鈍器。ただし、どんな物質にも引けを取らない頑丈さを持つ。

 

これに妖力を込め、相手の脳天に叩き込む。

 

ズドンッという轟音と共に、奴のいた所へ小さなクレーターができた。

 

咄嗟に後ろへ跳び退かれたか。

 

「逃げだけは一丁前だなぁ!」

 

戦闘中の煽りは忌みキャラの十八番。

容姿が容姿なので若干ブーメランな感じは否めないが……、まあ今回チャレンジャーは相手だ。

 

2撃目を放つため再び開いた距離を詰め、それから横腹に小槌を勢いよく叩き込む。先程の一撃より強く、速く、打ち込んだそれは奴の体を容赦なくなぎ飛ばした。

 

その体は幾つかの木々を砕きながら進み、最後の木にめり込む形で漸く止まる。

 

そこに追い打ちを加えるため更に近付こうとしたその時。

 

「──七海ィ!!」

 

やっと来たか、お仲間のお出ましだ。

 

後ろから現れたのは好青年とも言える見た目をした黒髪の妖怪だった。仲間を識別する為なのか、コイツもまた学生服のようなものを着ている。

 

「……ぃ原、撤退です! コイツは、準2級案件なんかじゃ…ない!」

「ああ! 分かってる!」

 

あれだけ盛大に吹っ飛んでおいてまだそんなに喋れるのか、妖怪ってやっぱりタフだな。

 

いや、それよりも……準2級、何の等級だろうか。それにブロンドは案件ともいった。何かしらの御役目のもと赴いた訳か? 考えても仕方ない、とっ捕まえて聞き出すのもありか。

……私が捕まえる側になるなんてこれまた奇怪な話だが。

 

残りの妖力は体感7割程度、弾幕は妖力効率が悪い。かといって能力を連発するのも消費が激しい。

とどのつまり物理が一番って訳だ。

 

瀕死の患者はさておき、まずは黒髪から。

 

妖怪にも一丁前に仲間意識はあるらしい。ブロンドの有様を見て苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。だが。

 

他者(ひと)よりまずは自分を心配しなきゃ、なぁ!」

 

口を動かすと同時に肉薄し、小槌を横に大きく振りかぶって()つ。が、頭を伏せて躱される。丁度蹴りやすい位置に顔を置いてくれた。矢継ぎ早妖力を込めた足で顔面を蹴り飛ばす。クリーンヒットだ。

 

黒髪はそのまま後ろに倒れ伏した。

起き上がる前におもむろに近づき頭を踏みつける。それから相手を侮辱するかのようにグリグリと足を遊ばせてやる。

 

「無様だな! 雄が地べたに這いつくばる姿は!」

 

あまり戦い慣れしていないのだろう、ブロンドよりかは弱い。奴よりこいつを捕らえた方が楽そうだ。

 

「すま…ん、七海! 後は頼んだ……ッ!」

「クソ…ッ」

 

ブロンドは最早諦めたらしい。私に歯向かう気概は見受けられない。苦渋の表情を浮かべ私を()めつけた後、森の奥へと消えて行った。

 

さて、この黒髪をどうしてやろうか。

 

 

────

 

 

……失敗した。

 

灰原は、きっともう助からない。

なにか他に打つ手は無かったのか? そんなタラレバばかりが脳裏を駆け巡る。

 

灰原の死を無駄にしない為に、呪術師として今己がすべきこと。それは呪霊の情報をできるだけ早く正確に持ち帰ることだ。

 

今はそれだけを考えろ、それだけに意識を注げ。

そう何度も自分にいい聞かせる。

 

奴の生得術式は十中八九、視界の反転。単純だが厄介極まりない術式だ。しかし非一過性ではない、何らかの制限があるのか今では通常時に戻っている。ならば攻略法はあるはず。

 

この情報をすぐにでも高専に伝えなければ。

 

 

それだけを胸にただ駆ける。

後ろを向かず、前を見て走り続ける。

 

 

嗚呼、これだから呪術師は

 

クソなんだ。

 

 

 

 




ちょっと短め。
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