願いを叶える、その為に   作:こまつな

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 その後、切嗣が予定していたブリーフィングは再開される運びとなった。

 キャスターの提案を受け入れるにしろ無視するにしろ、序盤の動きに大きな差異は発生しない。

 

 現状、モチベーションの大幅な低下と独演会による時間の浪費というマイナスは発生しているのだが。

 

 特にセイバーの感情の起伏は顕著だった。

 

 彼女は聖杯という名の願望機を求めて召喚に応じている。

 にもかかわらず、聖杯を得ることが限りなく困難であるという客観的事実を突き付けられ、その直後に聖杯ではない願望機を探求するという与太話を提案された。

 

 元より彼女が求めていたのは聖遺物そのものではなく、願いを叶える願望機。

 キャスターの言葉が正しいのなら、何度聖杯戦争に参加しようと、聖杯を得るという儀式である以上、勝率が限りなく落ちることが確定してしまっている。

 

 世界中の伝承の探求など、それが与太話であればあるほど、真っ当な参加者がそちらに意識を向けることなど有り得ない。

 ある意味これが最初で最後のチャンスとなりかねないのだ。

 聖杯が無理なら別の伝承で願いを叶えればいいのでは……?と思考が流されてしまうのも無理はない。

 

 

 それでも事前に配置していた使い魔から情報が送られてくることには変わりはなく。

 

 守勢に入っている彼らが積極的に街に出ることはないまま宵も深まり。

 遠坂邸の玄関前で黄金のアーチャーがアサシンを打ち倒す様子が彼らに届けられた。

 

「――アサシンが落ちたか」

「いやどう考えても罠ですよねこれ!?」

 

 別の希望を垂らされたことで何とか持ち直した切嗣とキャスターという二大頭脳が異なる見解を口にする。

 今までとは異なり明らかに余裕を失った少女の姿に、傭兵は自身の考えを改める。

 

「……アサシンの利点は何よりも隠密性にある。正面から攻め込んでいるのも、まして監視に映りこむなんてことも不自然極まりない、か」

 

 こくこくと勢いよく頷いているキャスターを尻目に、思考を巡らせる。

 

「だが目的はなんだ?確かにアサシンによる暗殺の脅威が去れば聖杯戦争は加速するだろう。だが、英霊を失うというデメリットに釣り合うとは思えない」

「ん、あー……率直に言って、正面からアサシンが突っ込んで脱落したなんて可能性は排除していいです。もしそうなら無駄に考えを巡らせただけの笑い話にしてしまいましょう」

 

 口では軽く言っているものの、そんなことはありえないと表情が語っている。

 軽く手櫛で乱れた髪を直す頃には、彼女の顔には普段より少し硬い微笑が浮かんでいた。

 

「そうでないのなら、アサシンのマスターは言峰綺礼。消滅したのは宝具による分身――いえ、分体ですね。数に応じて本体が弱体化するタイプだと思います。加えて言えば、監督役の言峰璃正、及びアーチャーのマスターである遠坂時臣とも繋がっているはず」

 

 表面的な分析に留まる魔術師殺しに対し、魔術師のサーヴァントは更に踏み込んだ答えを導き出す。

 

「キャスター、君にはどこまで見えている?」

「脱落の偽装を行うのなら監督役との談合は必要不可欠です。ですが逆に、監督役とアサシンが繋がっているのであれば、そんなことをする必要などありません。潤沢な令呪でブーストを掛けてマスターを暗殺していけばいいのですから。そうなっていない以上、更に別の思惑が絡んでいると見て間違いありません」

 

 身も蓋もない発想がキャスターから飛び出るが、それは決して否定出来る戦術ではない。

 

 サーヴァントへの絶対命令権である令呪は第二次から実装された要素でもある。

 

 過去二回で配られた合計は四十二画。

 あるいは、監督役が配備された前回のみ保管されたと考えても二十一画。

 その半数、いや、四分の一も残っていたのであれば、それだけでどんな陣営にとっても抗い難い脅威となるだろう。

 

「わざわざ師弟関係にある遠坂に攻め込んでいるのも露見する可能性を減らすためでしょうね。他陣営の拠点であれば監視はどうあっても使い魔越し、それだけで戦闘における違和感はある程度拭い落とせます」

 

 未確定の情報を、推測する、逆算する。

 既に確定している事象から遡り、未知を既知へと暴き立てる。

 

「偽装を確実にするためには、あの分体はマスターの霊視でもサーヴァントとして判定が出るモノでなければなりません。つまりは分身でありながら、ある種の本物である必要がある」

 

 英霊の宝具とは、伝承として語られる程の何かでなくてはならない。

 

「なら想定できる逸話は二つ。複数の暗殺者がひとりのハサンを演じたか、ひとりのハサンが複数の暗殺者を演じたか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()とは、一体どのようなものであるのか。

 

「無数の暗殺者を抱える教団で、その全てを欺き、ひとりを演じきったのであれば、それは間違いなく宝具足りえるものとして昇華されるでしょう」

 

 夢幻を無限に語り続けた詩人は、かくあれたしと物語を紡いでゆく。

 

「たったひとりの暗殺者が、その御業の全てにおいて別人と見做されたのであれば、それもまた宝具足りえる逸話に違いありません」

 

 それが、美しき物語を識るということ。

 

「どちらにしても、宝具としての機能は同じものでしょう。すなわち別個体としての独立行動。おそらくは数に上限があり、消失は不可逆。分身が持ってる技能の本体からの喪失といったデメリットもありそうですね。単純に総量が減ることによる霊基の減衰も無視できないでしょう」

 

 語ることだけを突き詰めたキャスター唯一の武器が、他の陣営に牙を剥こうとしていた。

 

 


 

マテリアルが更新されました

 

クラス:キャスター

 

保有スキル

 伝承審美:A

 伝承、伝説といったものへの造詣の深さ。またそれを読み解き、情報として落とし込む技術。

 たとえ秘されていたとしても、ほんの僅かな手がかりからそれを読み解き、語り始める。

 

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