「というわけで遠坂陣営は瓦解しました。こちらはお土産のアサシン様になります」
夕刻、連絡役の一体を引き連れて、キャスターは居城へと帰還していた。
普段と変わらぬ笑顔で戦利品の髑髏仮面をさらりと紹介するあたり、面の皮があまりにも厚すぎる。
城主たちからは、出迎えの言葉すら出ない。
たった半日で、戦闘すら発生させずに、同盟関係にあった二陣営を崩壊させた。
彼女の戦果を言葉で表すとそうなるのだ。控えめに言っても尋常ではない。
えげつない話術を用いることは彼らも身を以って理解していたはずだが、まさかここまでの成果を挙げるなど思ってもみなかったのだ。
精々、夜に発生するだろう戦闘で有利に運ぶ何かを持ち帰る程度だと。
「…………令呪の危険は?」
「ありません。アサシン様の契約は既に絶たれています。言峰綺礼、璃正の両名は死亡、監督役の令呪も強奪したとのことなので、しばらくはそちらで食い繋ぐそうです」
切嗣が搾り出したように今更な危機感を訴えるも、用意してあっただろう答えを悠々と返される。
「アーチャーはどうなったのでしょうか?」
「分かりませんけどワタシがアインツベルン陣営だとは先触れでお伝えしてあります。御三家を狙うにしても間桐が優先されるかと。あとその呼び方はちょっとマズイので黄金の君とかそんな感じでお願いします」
城の守りと合わせマスター二人の守護の任についていたセイバーの疑問にも理路整然と答えを返す。
最後に真面目な表情で付け加えられた部分には、誰しも脳裏に疑問符を浮かべることになったのだが。
「他の陣営にはどこまでを把握されているのですか?」
「ワタシが遠坂邸に出入りしたところまでは確定、内部でのことは漏れていないでしょう。アサシン様との交渉も彼らの特性からまともに監視は利きません。それに言峰親子の排除も教会内部でのこと。脱落者の誰かが訪ねるまでバレないのではないでしょうか?外部からの観測では遠坂とキャスターのサーヴァントが何らかの交渉を行った、という以上の情報にはなりません」
やや視点を変えて質問を挙げたのは舞弥だ。
キャスターから返された言葉は――もはや異形だ。
そこまでのことをやらかしておきながら、まともに捕捉すらされていない。
霊体化で足取りこそ誤魔化しているものの、徒歩で往復しただけのキャスターが二陣営を交渉術のみで解体したなど、たとえ情報を得られたとしてもにわかには信じられない話ではあるのだが。
「ねえキャスター、監督役を排除する必要があったのは分かるけど……聖杯戦争の隠蔽ってどうなっちゃうのかしら?」
「実働部隊もいるでしょうから問題はないかと。彼らだって脱落して保護されていたアサシンのマスターがアサシンに殺されたなど、声高には叫べません。元々監督役などいなくても聖杯戦争は廻るのです。実行者不明で警告を投げるのが精々でしょうね。どうせ戦争が本格化する前には高飛びしますし、その期間であれば逃げ切りには問題ないんじゃないでしょうか?」
それらのやり取りで、この場の力関係は正しく把握したのだろう。
「キャスター殿、今後は如何様にされるつもりか?」
誰も淹れてくれなかった紅茶を自分で淹れようとティーポット相手に四苦八苦しているキャスターに、交渉を担当する老獪な貌は語りかける。
「元々の方針通り、静観します。アサシン様を取り巻く状況がこちらにとって最悪だったので無茶を通しただけですので」
アインツベルンの女主人は見るに見かねて茶会の準備を始めている。
素直に感謝を述べつつも、キャスターの視線は髑髏の面へと向けられていた。
「ワタシとしては、敵対しないのであればこのまま分かれてしまっても構いません。可能であれば速やかに冬木を離れていただきたいところですね。後の交渉が楽になります」
「ふむ、聖杯を求めているわけではないと?」
「願望機が欲しいのは確かですが、ここのはちょっと……。はっきり言って胡散臭過ぎます」
「貴女とどちらがマシでしょうなぁ」
「やー、小気味いいですよねこういうの!」
「然り、然り」
くすくすからからと笑う二人を他所に、不眠不休で働き続ける使い魔からは最新の映像が届けられる。
埠頭の倉庫街にて、猛々しく名乗りを上げる騎兵の姿が。
・補足
キャスターと一緒にいる百貌は老獪な交渉担当(ほぼオリキャラ)です。
流石に本体でノコノコ着いてきたりはしません。