「セイバー様はああいうのもお好きなのではありませんか?お相手して差し上げては?」
「流石に裏の事情を知っている身では……その、いささか滑稽に映ってしまいます」
キャスターの提案に、セイバーはやや気まずそうに否定を返す。
騎士として名を馳せた彼女ですらそうなのだ。
他の面々が勝負に乗るのはまず以ってありえないのではなかろうか。
そんな疑問さえ湧いて出る状況である。
「しかしまあ、正々堂々名乗りを上げるとは――この御人、聖杯戦争の如何すら理解しておらぬ様で」
「暗殺者と魔術師が敵に回ることは確定してますからね。というか不慮の事故ならともかくバトルロイヤルで最初に消耗するのは悪手中の悪手では?」
「いえ、わざと自身の戦力価値を落とすことで他者からの優先順位を下げる戦術も確かにあります。割に合うかは状況次第ですが、硬直した場を動かす一手には違いないでしょう」
「ふむ。……にしても、誰かが釣れるまでじっと待ってるつもりなんでしょうか?」
燃えるような赤髪の偉丈夫は虚空に向かって猛々しく演説を続けている。
だが残念ながら彼の呼びかけに応える可能性があるのは既に槍兵と狂戦士だけだ。
残りの四騎はもはや戦争から降りているに等しく、わざわざ戦闘行為に及ぶ意思は欠片も見られない。
「みんな、紅茶が入ったわよ!」
そして使い魔から送られてくる映像を肴に、アインツベルン一同、プラス、やけに馴染んでいるアサシンは家主より振舞われた茶を嗜む。
髑髏の仮面がカップを傾けるのをキャスターは意味深に眺めているが、その程度で暗殺者がぶれる事はない。
教主としての教養を見せ付けながら音もなくソーサーに戻す様を見届けると、魔術師の少女もにこやかに語りだす。
「いやぁ、この時代っていいですね!何を食べても、何を飲んでも美味しいです!」
「同感です。この国の食文化は特に秀でています。出前というのはこの城まで届けてくれるのでしょうか?」
「水や食料が豊富というだけでも我らには夢のようだ。何でも桶いっぱいの湯に浸かる文化もあるとか。それが贅などではない民の日常となれば、探求してみるのも一興ですな」
こと食事という一点において、世界に名だたる英雄達は一様に高い評価を与えていた。
食糧事情の乏しい時代、地域で生き抜いた者もいる。
豊かな現代に向ける意識は、概ね好意的なモノであるのだろう。
「……奥様、申し上げにくいのですが、これ薄くないですか?」
「あら、分量を間違えたのかしら……?」
「アイリ、気にしなくていい。それは彼女が甘党なだけだ」
別の卓で現代の人々がどのような感想を出しているのかはさておいて。
そうして進展のないまま観察することしばし、騎兵がつまらんと冷めて帰還を選ぼうとした頃に、状況は動く。
現れたのは二槍を携えたランサーだ。
さっそくと言わんばかりにライダーは勧誘を掛けるが、ランサーは当然の如く否を唱え、彼のマスターであるロード・エルメロイもライダーの主を糾弾する。
「さて」
そして、その瞬間にキャスターが可愛らしく頬に指を添え、表情を変える。
「盤面は出揃いましたね。ロード・エルメロイがランサー。彼の生徒にしてその研究室から聖遺物を盗み出した超人、ウェイバー・ベルベットがライダー。なら自動的に残った間桐はバーサーカー」
元より大半のマスターの情報は事前に得ていた。
表面上に留まるとはいえ、七騎の情報もまた、既に彼女の手中にある。
「ワタシたちアインツベルンの二騎と、アサシン様たちフリーの二騎は積極的に参戦する理由がありません。あとぶっちゃけバーサーカーは相性最悪なので触りたくないです。なので残りの二つに潰し合ってもらいましょうか。仲も悪いようですし、ね?」
その口元には実に楽しそうな笑みが浮かんでいた。