一進一退とはとても呼べない形で戦況は進んでいた。
優位に見えるのは宙を自由に飛びまわり、雷鳴と共に飛来するライダーだ。
クラス補正で敏捷に秀でているランサーとはいえ、空中にいる相手には明らかに分が悪い。
「ライダーが圧倒的に有利ですよねこれ」
「いえ、消耗の度合いはライダーが上です。あの速度での飛行に雷光の放出。対してランサーは身体能力と技量のみでそれを捌いている。互いにまだ全力は出していないのでしょうが、拮抗が続けば先に魔力が尽きるのは彼の方だ」
攻め手に欠け、されど凌ぐことは出来ているとセイバーは語る。
こと戦闘という単位における戦術眼は、キャスターより彼女に軍配が上がる。
「ランサーの狙いは戦車を曳く牛、長槍が雷をかき消しているようにも見えます。相手が騎乗の英霊であればこそ、足を挫かれれば容易に戦況は覆るでしょう」
はえー、と気の抜けた声を漏らしながら、頭脳派の魔術師は賓客へと意見を求める。
「アサシン様はどう見ます?」
「あれは相当な難物ですな。流石に我らも空を飛ぶ手段は乏しい。加えて戦闘中も手元に置かれてはマスターを排除することも至難の一言。交戦時にマスターと離れるランサーの方が付け入る隙を見つけやすいかと」
アサシンから見ればどれだけマスターを無防備に配置しているかに重点が置かれる。
もとより正面戦闘においては不利を負うクラス。そもそもの考え方が他のサーヴァントと重なることはない。
「キャスター、貴女の視点ではどうですか?」
「イスカンダル大王の死因は病死、祝宴の最中に突然熱病で倒れたそうです。状況的に家臣に暗殺されててもおかしくはありませんけど、主従関係で見るとマスターが上なのでそっからは崩せません。熱病系の呪いなら刺さるかもくらいです」
「ランサーは意匠を見るにケルト系で二槍の使い手、容姿で目立つのは頬の黒子。ディルムッド・オディナでしょうか?雷光を打ち消してるのはおそらく
キャスターの視点はむしろ歴史家や研究者に近い。
逸話による攻略を試みるのは聖杯戦争の基本戦術だが、それに特化するのもひとつのあり方と言えるだろう。
「つまりセイバー様がひたすら命乞いをしながら斬りかかれば簡単に倒せるかと。狙うなら後者ですね」
「やりませんよそんなこと!?」
「じゃあ交戦することになったら声かけはワタシがやりますね!アサシン様も女性個体がいるのなら是非に!」
だがそこから出力されるやり口はあまりにも惨い。
騎士道とか正々堂々とかそんなものは欠片もない。
そうすれば勝てるというのは分かる。彼女であれば実際にやるだろうとも。
「あと、まともに戦ってる時点で聖杯戦争の裏仕様には気付いてないです。そこを突いて内側から崩壊させるのも手かと」
話術と洞察力だけで陣営を解体するのは先ほどのランサーへの対処とどちらが悪辣なのだろうか。
おまけのように付け足された言葉でアサシンの視線は遠くに向かった。
そうしている間にも戦況は推移を続ける。
誰も知らないうちに二陣営が戦闘放棄、二陣営が事実上崩壊をしているとはいえ、聖杯戦争自体はまだ二日目。
この場で真名を晒すことは後の不利になると判断したのか、ランサーは弾かれるに任せて大きく距離を取り、
背後から迫った漆黒の騎士に強かに打ち据えられた。