「三騎目」
キャスターが淡々と数を重ねる。
だが送られてくる映像は不自然なまでに不明瞭なもの。
消去法でバーサーカーであることに予測が付いても、見えているのは人型の黒い靄に過ぎない。
好機と見たライダーは態勢を崩したランサー目掛けて突撃を。
バーサーカーも同様に、隙を晒した目の前の獲物に追撃を。
然しもの勇士たるランサーはそれでもなおと迎撃のために二槍を構え、
直後、膨大な魔力の奔流と共にその姿は掻き消える。
そして想定を外され意識が逸れたライダーの戦車に、狂気に呑まれたが故の揺るぎない一撃が叩き込まれた。
如何に宝具と言えど、同等の神秘による攻撃は有効なのだろう。
明らかに速度の鈍った戦車は高度を上げ、アスファルトを叩き砕いたバーサーカーの投石から逃げるように飛び去っていった。
程なくして、対象を見失ったバーサーカーも露と消える。
あとにはライダーの戦車とバーサーカーの容赦のない攻撃に蹂躙された倉庫街が残された。
「最後のアレ、宝具ではなさそうですよね?
「おそらく令呪による強制離脱でしょうな。真名解放、という雰囲気ではなさそうだ」
いつも通りの魔術師と、いつの間にか相談役のポジションに納まっている髑髏は風景しか流さなくなった映像を見据えたまま情報を交換し始める。
「アサシン様、ライダーとバーサーカーのマスターの居場所を特定できますか?」
「既に追っております。しかしながら、ただ働きとは行きますまい」
「では聖杯戦争の裏側を看破した我々の、今後のプランへの同行、なんてのはいかがでしょうか?」
「ふむ、しばしお待ちを。合議を取りますので」
「多数決は必ず割れますし、付いて来たい人だけでいいですよ?」
「我々にも距離の制約はあるのですよ。最初に呼ばれたひとり、百貌のハサンの核たる者がおりますが故に」
「――それ、ワタシに伝えちゃって大丈夫です?」
「はっはっはっ――さて、私やもしれませんなぁ?」
朗らかに笑い合う二人。
どちらもその道に通じる者である以上、相性がよいのだろう。
「まさか、いえ、そんなはずは……」
バーサーカーの出現から黙りこくっていたセイバーの口から呟きが零れる。
「セイバー様?あのバーサーカーに心当たりでも?」
「……いえ、おそらく気のせいでしょう」
「ならランスロット卿ですね」
「っっっ!!?」
思考を射抜かれたことにギョッとして視線を向けるも、それは予想を補強する材料にしかならない。
「貴女が絶対に狂気になど囚われるはずがないと信じる騎士。理想の騎士であるランスロット卿か聖者と称されるギャラハッド卿かの二択でしょう。その上で後者には狂気に呑まれるような逸話などありません。であれば彼です」
淡々と、情報を抜き取った以上は既に興味がないとセイバーから意識を外す。
「映像の不明瞭さは正体不明、変装して仕事をしてた逸話から来てるのかな?拾った木の枝で戦う逸話もあるから投石にもそれで強化が乗っていた。有効そうな逸話は不貞くらいで死因は餓死。寝返らせようにも正気じゃないし……あれ、弱点はどこ……?」
情報を整理しながら聞かせるように独り言を呟く姿に、セイバーは今更のように確信を覚えていた。
おそらくキャスターの中には明確な線引きがある。
そして自身はその外側に配置されているのだとも。
彼女の知る一番の魔術師ははっきり言ってクズである。
有用ではあるが間違いなく信用も信頼もしたくない相手。
人間であるかのように振舞うヒトデナシ。それが魔術師という人種だ。
「おや、セイバー殿はかの円卓の関係者でしたか」
「敵の看破には必須でしたのでその程度であればお持ちください。円卓関連の女性ってだけで相当絞られるから困るんですけども」
「暗殺者の手は必要になりますかな?」
「時機を見て、と言いたいんですけど相場が分かんないんですよ。だって貴女達は暗殺者であって殺し屋ではない。暗殺はあくまでも信仰を守るための手段。金銭が目的ではないのですから」
「――よく学んでおいでだ」
なんでもないかのように誤情報を忍ばせつつアサシンにすら取り入ろうとする貪欲さはいっそ清々しい。
味方であってさえ警戒に値する少女と敵として相対するなど、たとえ暗殺者であれ一定の敬意を感じざるを得ない程に。