『え、ランサーもう落ちたんですか?』
『もしかしたらアーチャーかもしれないけど、一騎落ちたのは確かよ。ライダー陣営じゃないってアサシンは言っているし』
場所は新都に聳え立つハイアットホテルから移り、深山町の住宅街、その一角。
次なる目的地へと歩みを進めながら、キャスターはアイリスフィールからの念話でそんな報告を受け取っていた。
『……貴女の仕業じゃなかったの?』
『仕込み入れましたけどこんな早々に結果が出るのは想定外です。不和が起きるにしても二、三日かかると思ってました』
『それでも数日なのね……』
引いた様子の主の声を脳内で聞きつつ、からからとトランクを引きながら少女は住宅街を歩いている。
手元にある紙面に度々目を落とし、何かを探している様子――を周囲に見せつけながら。
キャスターの姿は客観的には外国人の旅行者、といったところだろう。
セイバーやランサーのように人目を引く容姿でもなく、アーチャーのように一目でわかるオーラを発しているわけでもなく。
道行く人を捕まえて拙い日本語で道を尋ねる純朴な少女は、人に警戒を抱かせるような存在では、決してない。
『もうこの際、今日中に終わらせちゃいましょう。十中八九落とせるとは思いますけど、駄目だったら賓客として城にお連れします。歓待の用意をお願いしますね』
『気付かれる前に離脱しちゃえばいいんじゃ……』
『いえ、ライダーには飛行能力がありますし、マスターの能力もキリツグ様が高い評価を下すほどです。海上で襲撃されるようなことがあれば目も当てられません。最低でも脱落させるかこちらに引き込まないと危険が大き過ぎます』
程なくして目的地、その近辺にて、帰宅途中であろう荷物を満載した二人組が視界に映る。
燃えるような赤髪の偉丈夫と、それに引き連れられている気弱そうな青年。
ここからでは何を話しているかまでは聞き取れないが、豪快に笑う筋肉に対し青年が呆れたようにしぶしぶと文句をつけているようにも見える。
昨夜の戦闘でも姿を見せていた、征服王イスカンダルとその主。
ロード・エルメロイから聖遺物を掠め取り、歴戦の傭兵である切嗣からも優れた戦術眼を以って潜伏先を選定していると評された人物、ウェイバー・ベルベット。
『あ、見つけました。これで最後になれば楽なんですけどね』
『――ちゃんと帰ってくるのよ?』
『駄目だったらそのまま逃げてください。ワタシの分も合わせればセイバー様の維持に必要な魔力は十分でしょう。枠が空けばアサシン様との一時契約も視野に入ります。彼女たちがまだ残っている以上、海を渡るまでは協力せざるを得ない理由があるはずですから』
念話を終えたキャスターは青年に目を向けると、ぱっと花の咲いたような笑顔を周囲に振り撒き、
「ウェイバーくーーーーーんっ!!」
初対面であることを誰にも悟らせない喜色に満ちた声を上げながら、元気にその手を振ってみせた。