「貴様は余に何を求めておる?」
「おや、疑わないので?」
「ここまで突き抜けた与太を大真面目に語るのは愚者か賢者かだ。謀るつもりならもっとマシな嘘を重ねるだろう」
昨晩の戦いを間近で見ていたからこそ、ウェイバーにはキャスターが何を以ってライダーに択を迫っているのかが見通せない。
「だが降伏という言葉は好かん!――同盟だ。我らライダー陣営は貴殿らとの同盟を所望する」
「ご決断、ありがとうございます、ライダー様」
連れまわされて空を飛び、ランサーと切り結び、不覚にもバーサーカーの襲撃を受けたが辛くも帰還した。
その神話のような経験が、いきなり現れた変なのに覆されようとしている事実が、彼を納得から遠ざけている。
「……なあ、それでいいのかよ」
「よくはない。――が、状況は既に詰んでおる。もはや利益をどれだけかき集められるか、それを考える段階だ」
「でも、こいつ攻め込まれるのを嫌がってたじゃないか。聖杯の話だって口で言ってるだけだ!何の証拠もない!令呪も乗せて一気にケリを付ければ……」
「こやつは逃げるぞ」
ライダーの言葉に虚を突かれ、思わず押し黙る。
「一時的撤退などではない。聖杯戦争という儀式から、こやつは逃げる」
そして考えてしまう。目の前のこいつははたして逃げるだろうかと。
――間違いなく逃げるだろうと、素人目にも想像が付いてしまうのだ。
「先ほどのやり取りはこちらへの説得もあるが、自分はこう考えていると宣言するのが主なのだ。我らがそれをどう捉えるかはさほど重要ではない」
キャスター陣営は、冬木の聖杯で願いが叶うなどとは考えていない。
だからこそ逃亡に忌避感を抱かず、わざわざ殺し合いになど乗る理由もないのだと。
「聖杯戦争は、英霊達が冬木に集い、聖杯の争奪戦を行うことが大前提なのだ。一騎でも逃げ出した時点で詰むだろう。こやつひとりでも手を焼くというのに、アサシンが逃げに回ってみろ。そうなればどうやっても見つけ出せん」
それこそが同盟の中にアサシンの名を出した理由だろう。
ウェイバーでも知っている情報が正しいのなら、アサシンとして召喚されるのはハサン・サッバーハだとされている。
個々人で暗殺に用いる絶技こそ異なるが、それは例外なく暗殺教団の教祖の名。
脱落を偽装したのであれば監督役である聖堂教会とやらと組んでいたはず。
彼らの掲げる教義とは本来対立が不可避な相手だ。
キャスターの手にかかれば離反させるのは容易なことだろう。
「そもそも我らサーヴァントが殺し合いなんぞに興じておるのは、そうせねば願いが叶わんからだ。そうすれば願いが叶うからだ。万能の願望機でもなければ叶えることが出来ん、願いがあるからだ」
そんなものが何故か召喚に応じているという事実に、今まで気付いていなかった自分自身の変調に、ライダーの意識はようやく向けられる。
「……だがな、美味いものを食いたい、故郷をもう一度この目で見たい、そういったありふれた願いを持っておらんというわけではない」
彼が趣味で集めている戦略ゲームや図鑑も、ある意味ではその一端と言えるだろう。
ライダーが聖杯に望むのは受肉。現世の生物として今一度生を受けること。
だがその先にある、身一つで世界に挑む準備もまた、彼の望みに違いはない。
「奇跡の一端を受けてこうして現世に舞い戻ったのであれば、願望機などただの幻想なのだと知れば。そちらを叶える為に動く者も少なからずおるだろうよ」
大真面目に話すライダーの顔は、嘘を騙るそれではない。
メープルクッキーに舌鼓を打っている少女が、否定の言葉を吐くこともない。
「で、そこまでを見抜いてイイように動かしておるのがこやつだ」
「いやぁ、そんなに評価していただけるなんて流石に照れますね」
征服王はガシガシと頭を掻きながら、少女は本当に照れくさそうに髪先を撫でながら。
対照的な二人の賢者の対談は、終始穏やかなままに終わりを告げた。