願いを叶える、その為に   作:こまつな

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 冬木市の郊外、地元の者からは迷いの森と呼ばれることさえある森林の更に奥。

 そこ建つアインツベルンの拠点となる、日本の土地には場違いな古城にて。

 

 アインツベルン一行は帰国の為の荷造りに精を出していた。

 

 まずもってアインツベルン本家は聖杯戦争がまだ続いていると考えているだろう。

 過去の例から見るに、サーヴァントが出揃ってからの戦闘期間は一週間から一ヶ月程度。

 三日目の昼に戦争を投げ出して離脱するなど彼らが想像するはずもない。

 

 故に、その隙を突いて強襲する。

 彼らの元から愛娘であるイリヤスフィールを救い出す為に。

 

 キャスターを単独で送り出しても口八丁でイリヤを連れ出してきそうな妙な信頼感はある。

 だからといって彼女に手放しで仕事を任せられるかと聞かれれば、その信用度はかなり微妙なラインだろう。

 

 献身的に尽くしてはいるし、危険な役も買って出てくれている。

 しかし、どうにも胡散臭さは拭えないのだ。

 あの口先を最初に向けられたのは彼らであるが故に、信じるのではなく疑いながらも運用するといった方針になってしまったのは無理もないだろう。

 

 だが、城の内部構造を把握している上に現代魔術がほぼ通用しないセイバーもいる。

 なんなら対城宝具の一撃でもって、城の防衛機構を悉く吹き飛ばすことすら可能だろう。

 

 彼女は未だ、願望機の獲得を諦めてはいない。

 キャスターの告げた聖杯ならぬそれの探索には乗り気である。

 

 現世への楔がなくては留まることの出来ないサーヴァントの身である以上、マスターの都合に合わせるのも否はない。

 

 元より御三家はサーヴァントを騙して生贄に捧げようとする輩。

 囚われた姫を助け出す、と銘打たれているため心証も悪くはなく、襲撃計画は問題なく実行されるだろう。

 

『切嗣、セイバーを呼んで警戒を』

 

 そんな折、城外で警戒を任されていた舞弥から無線で連絡が入る。

 

「何があった」

『サーヴァントを名乗る少年が対談を持ちかけています』

 

 その異常に一瞬だけ思考が止まる。

 

 昼は聖杯戦争における交渉の時間帯。

 それを散々キャスターが利用してきたのであれば、相手も同様に振舞うのは不自然なことではない。

 

 御三家は聖杯戦争において拠点が最初から存在するという利点と、その場所が判明しているという欠点を併せ持つ。

 交渉自体の有利不利はともかく、ルールを定めた格の高い魔術師、無事に帰還が可能であるという意味でも安定感のある相手だろう。

 

 だが少年のサーヴァントに該当者がいないのだ。

 英霊は既に七騎全てが確認済みであり、能力の詳細は不明でも外見の情報は出揃っている。

 可能性があるとすればバーサーカーの中身だが、狂化が付与された身で交渉など出来るとは思えない。

 

「――分かった。応接間まで案内してくれ。セイバーとアサシンにも同席するよう、こちらで伝えておく」

『危険ではありませんか?』

「残念だが避ける選択肢はない。情報にない未知の相手を放置しておく方が不安要素が強い」

 

 何らかの理由で正気に戻っているバーサーカーならセイバーが顔を見れば分かる。

 

 アサシンは姿が見えない状況にあるほうが厄介だ。

 彼女が招き寄せた線も否定できないが、そもそもアインツベルンを狩るつもりであれば単独でもマスターの暗殺は出来る以上、可能性は低いだろう。

 何よりあちらにメリットがない。

 

 同時に、アサシンの残留自体が他陣営のモノとはいえ不正の証拠であるのだ。

 相手が過剰に警戒してくれるのなら儲け物。

 情報や戦力を固めている間に悠々と脱出してしまえばいいのだから。

 

 アサシンもまた、キャスターの計画を聞かされている。

 が、それ自体には別段興味を持っているわけではない。

 

 彼女自身の展望もアインツベルン陣営と共有しているわけではなく、ただ故郷の地で果てるとだけ伝えられている。

 

 彼女の望みは人格の統一を以って完璧なハサンと成ること。

 だが、冷や水をかけられ熱病が冷めた今となっては、もはやこの世の全ての贅ともいえる願望機を求めるなど、どうしても忌避感が勝る。

 

 マスターを殺害し楔も抜けた今、退場するのも時間の問題。

 聖杯の影響の及ばない土地で朽ちることは既に決めている。

 冬木の地を離れるのであれば、言峰親子から剥ぎ取った令呪が尽きる前に、最後のハサンとして自らが治めた地の現在を見届けたいとも。

 

 その結果、霊廟に座す尊き御方に処断されようと、その価値すら無しと見做されようと、受け入れるべきであると。

 それほどまでに、願いを抱いて聖杯戦争に参戦したという罪は彼女にとって重過ぎる。

 

「えっと、誰なのかしら?ライダー達はまだみたいだけど……」

 

 英霊の魂をその内に納め、やや不調に傾いているアイリスフィールに対し、久宇舞弥はこう告げる。

 

『――英雄王ギルガメッシュ。彼はそう名乗りました』

 

 黄金の君は、未だ舞台の上に立つと。

 

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