願いを叶える、その為に   作:こまつな

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「魔術師じゃないだって……?」

「ええ、現代の分類に照らし合わせると、よくて魔術使い、というところですね」

 

 白亜の城の片隅、キャスターに宛がわれた客室にて。

 そこでは正体不明のキャスターの調査が行われていた。

 

 

 ハーメルンの笛吹き男。

 それは1284年6月26日に起きたと記録されている史実であり、伝承だ。

 

 当時のドイツ、ハーメルンの町でネズミが大繁殖していた。

 そこに訪れた一人の男が、報酬と引き換えに鼠を退治してみせると持ちかけた。

 男が笛を吹くと町中のネズミが彼の元に集まり、そのままヴェーザー川へと誘引、一匹残らず溺死させた。

 ――そして報酬を渋った町への報復として、子供達を笛の音で誘い、洞窟の奥へと消え去った。

 

 

 だが実際に現れた少女とは目に付く差異はいくらでもある。

 

 まず性別。伝承でははっきり男だと明言されているが、見るからに女性だ。

 だがアーサー王が女性だったのと比べたら誤差では?と言われては返す言葉も見当たらない。

 

 また伝承では色とりどりの布で作った衣装を着ていたとされている。

 だが彼女の装いはドイツ国民にとって見慣れたものであるディアンドルだ。

 わざわざ馴染み深い民族衣装をそのように言い換える理由もないだろう。

 

 

 加えて、先の問答。

 キャスターであるにもかかわらず、魔術師ではないと自称している。

 

「ワタシは生前、吟遊詩人として旅をしておりました。魔術師を指すのであればスペルキャスターと綴るのが正しいでしょう。キャスターだけであれば、それは放送者。伝えるもの、発信するものという意味合いです。現代で言うマスメディアの役割も果たしていましたし、ワタシのような者が混じっても不思議ではないかと」

 

 英霊召喚の術式には謎が多く、外部から招かれた切嗣は全てを把握しているわけではない。

 同席しているアイリスフィールであっても、間桐の持ち込んだ英霊召喚という術式を詳細に理解しているわけでもなく。

 

 精査が可能かはアインツベルン本家のさじ加減次第。

 そういうこともあると言われてしまえばひとまず脇に退けて話を進める他ない。

 

「……わかった、ひとまずは置いておこう。重要なのは二点。君は何を求め、何が出来る?」

 

 吟遊詩人のサーヴァントなどと言われたところで、すぐに活用法など頭には浮かばない。

 

 伝承が宝具に昇華されているのならば話が早いが、それは同時に報復の逸話も再現されていることになる。

 扱うには十分な注意が必要になるだろう。

 

「まず、ワタシが聖杯に求めるものは特にありません。聖杯戦争そのもの、というか、現世に招来されることが目的と言えば目的となります」

「……詳しく聞かせてくれる?」

 

 それは、彼らにとってあまりにも都合の良過ぎる回答だった。

 

 聖杯ではなく聖杯戦争という闘争を求めて、という英霊は過去にも居たという。

 目の前の少女の望みもそれに近く、現世に現れることそのものであると。

 

「ここでこうしているワタシは英霊の座から切り離された影のようなもの。ここでの体験は本体にとって、物語を読んでいるかのような他人事の記録に過ぎません。ですが、ワタシにはそれでいいのです」

 

 アインツベルンは事故とはいえ二騎を抱えることとなった。

 戦力として考えるならそれ自体は申し分ないだろう。

 

 だが、聖杯戦争の本質は願望機の奪い合い。

 二騎を抱え込むのはそのまま内部分裂の危険性を孕むということ。

 

「つまりは記録を記録として持ち帰る分には何の問題もないのですよ。ワタシより後の時代、現代に伝わる英雄譚を蒐集したい。それが召喚に応じた理由となります」

 

 キャスターの語った内容に違和感はない。

 ただ一点、ハーメルンの笛吹き男の伝承からは一切予想が付かなかったものだという点を除いて。

 

 

 だが、疑おうと思えばいくらでも疑えるのだ。

 理由を求めて、それを聞いて、信じられないと返すなど、それこそ不和を招くことになりかねない。

 

 現状としては、その言葉を信じるしかない。

 

「それと得意なこと、であればやはり歌でしょうか。楽器の演奏から叙事詩の吟唱。貴人の歓待なんかも得意分野です」

「歌魔術、と言うやつか。あれは射程は広いが隠蔽には向かないはず。セイバーを前衛に置くなら支援役として配置するのも……」

「え、あの、そういうのじゃないです」

「……何?」

 

 魔術師の英霊として呼び出されているのであれば当然戦闘にも長けているという考えは、本人の口からあっさりと否定される。

 

「えーと、ワタシの使える魔術ってこういうのでして」

 

 しゃらんと小さく音がなったかと思えば、彼女の細い指には氷細工が握られていた。

 

 それは芸術品のような、全てが氷で出来たフルート。

 キャスターは慣れた手付きで口元に構えると軽く吹き鳴らしてみせる。

 

 本人としては軽いつもりなのかもしれない

 にもかかわらず、門外漢の切嗣が不覚にも心を振るわせるようなあまりにも美しい音色。

 

「氷で楽器が作れます。管楽器の他にはグロッケンなんかも出せますよ」

 

 にこりと笑みを浮かべる目の前の少女は確かに伝承足りえる存在だと、彼の心に刻み込まれることになった。

 

 


 

マテリアルが更新されました

 

クラス:キャスター

 

クラススキル

 劇場作成:D

 陣地作成の互換スキル。聴衆が落ち着いて詩を聞ける場を整える技能。

 魔術師としての陣地や物理的な建築技術ではなく、あくまでも心地よい場を整えるスキル。

 

 楽器作成:C-

 道具作成の互換スキル。魔術によって演奏のための楽器を作成できる。楽器自体に特別な力はない。

 

保有スキル

 吟遊詩人:A+

 彼女の生きた時代、生きた世界において比類なき歌声を披露した。

 その唄は、演奏は、あらゆる人々を魅了し、知性なき獣でさえも我を忘れて聞き入るほど。

 

 以下詳細不明

 

 魔術:C-

 キャスターは氷の魔術を扱う。ランクは低いが一応これでもクラス補正で強化されている。

 主な用途は簡易的な楽器の生成、演奏中の演出など。戦闘にはほとんど使用できない。

 

 

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