願いを叶える、その為に   作:こまつな

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 結局のところ、英霊とマスターを結び付けているのは利害関係に過ぎない。

 

 英霊にとって、マスターは現世にしがみ付く為の依り代。

 マスターにとっての英霊はもっと分かりやすく、手駒にして下僕だ。

 

 無論、真に信頼関係を築き上げることも不可能ではないだろう。

 共に命を懸けて戦い抜き、背を預けるに足る戦友として聖杯戦争を駆けることもあるのかもしれない。

 

 だが、衛宮切嗣という男に限って言えば、そうはならないだろう。

 純粋に使い魔としてしか認識しない一般的な魔術師の視点とはまた違う合理性が、彼の中に存在しているからだ。

 

 たとえ名目上の味方であれ、彼にとってキャスターの部屋を訪ねるというのは、敵地に赴くに等しいこと。

 もはや彼以外は彼女に一定の信を置いているのだとしても、それは変わらない。

 

 

 固有時制御。

 それは彼の魔術刻印に記された、魔法に近しいとさえ称えられる大魔術。

 

 セイバーの尊い犠牲を元に判明した、キャスターの吟唱には何の魔術的効果も付与されていないという事実。

 情緒に乏しい世話役のホムンクルスたちでさえ思わず手を止め聴き入ってしまうような代物だとしても、本質的には芸術的に積み上げられた(うた)に過ぎない。

 

 つまるところ、音の羅列をほんの少しずらしてやるだけで容易に瓦解するということ。

 たったの1%、あるいはそれ以下、彼女の発した音が僅かに早回しで、あるいはゆっくりと認識することが出来るのであれば、それはただの環境音と化すだろう。

 

 衛宮切嗣という魔術使いは、キャスターの天敵と言っていい。

 

 

「おやキリツグ様。そろそろいらっしゃる頃だと思ってました」

 

 キャスターは椅子に座ったままこちらを出迎えた。

 手元には書きかけの資料、その周囲には無数の本が積まれており、その様子からも性格がうかがい知れる。

 

「奥様達に何か仕込みをしていないかを聞きに来たのですか?それともワタシの求めた情報に疑問を抱いたので?あるいは、ワタシが本当にハーメルンの笛吹き男なのかの確認でしょうか?」

 

 先手を取られたことに鼻白む。

 

 やはりというか何と言うか、情報戦においても相手が上手。

 しかし同時に、信用してはならない相手だという確信も得られる。

 

 それは既に予想していたことだった。

 彼女の本領は吟唱などではなく、むしろ情報を取り扱う技術だということに。

 

 

 目の前の少女はハーメルンの笛吹き男を名乗った。

 だが男でなく女であり、色とりどりのつぎはぎの服などではなくドイツの民族衣装を纏っている。

 

 彼女が正しく伝承に語られる笛吹きなのだとしたら。

 何故影も形もかすりもしない人物像が、伝承に語られてしまったのかという疑問に辿り着く。

 

 彼女はハーメルンの笛吹き男には見えない。

 何故なら女性であるのだから。

 

 彼女はハーメルンの笛吹き男には見えない。

 何故なら色とりどりの奇抜な服など着ていないから。

 

 彼女はハーメルンの笛吹き男には見えない。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これは純粋な心遣いとして受け取っていただきたいのですが……キャスターの拠点に足を踏み入れるのなら、もっと警戒して然るべきかと。令呪を抱えていらっしゃるのは奥様なのですから」

「間桐、遠坂の養子縁組。何故そこに目をつけたのか、何故それがあると思い至ったのか、話を聞かせて欲しい」

 

 どうぞと促された椅子には目もくれず、彼は当初の疑問を投げかける。

 

「ここでは出来ません」

「…………ここでは、か」

「キリツグ様にお伝えすることに否はありません。奥様にも、イリヤちゃんにもです」

 

 言外に、アインツベルンに伝える気はないと。

 彼ら夫婦が本家とは目的を異にしていることさえ察していると。

 

 その上で、手を貸すのは自身のマスターに対してであると。

 

「分かった。力を貸して欲しい」

「もちろんです。……あぁそれと、聖杯への贄となることには同意した上で現界しています。ワタシを焚べることに関しては裏切りとは思いません」

「憶えておく」

 

 言って、踵を返す。

 

「聞かないのですか?ワタシが何を裏切りと感じるのかと」

「無意味だ。歌や語りを禁ずること、などと返されたら手が付けられない」

「よくお()かりで」

 

 くすくすと鈴の鳴るような声が響く。

 少女の姿をした人型は、意味深な笑みを浮かべたままその背中を見送った。

 

 

 聖堂教会の監督役から七騎全てが出揃ったと伝えられるのは、その直後のことだった。

 

 


 

マテリアルが更新されました

 

クラス:キャスター

 

保有スキル

 吟遊詩人:A+

 彼女の生きた時代、生きた世界において比類なき歌声を披露した。

 その唄は、演奏は、あらゆる人々を魅了し、知性なき獣でさえも我を忘れて聞き入るほど。

 

 吟遊詩人は中世のマスメディアとされ、情報の拡散や編纂も一挙に引き受けた。

 情報の流入に乏しい時代において、その正誤を判断することは極めて困難である。

 彼女は紛れもなく一流の詩人であり、語り手でもあるのだから。

 




・補足
 キャスターがこのタイミングで召喚されているので原作より七騎が揃うのが早いです。
 リュウノスケェ!!は聖杯戦争参加者ではなく一般通過猟奇殺人鬼となります。
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