「……だがそれでも、勝者が出ないのであればドローのはずだ」
「そこが以前言葉を濁した、間桐、遠坂間の養子の話になります」
苦し紛れに漏らした切嗣の言葉にも、キャスターは律儀に反応を返す。
「端的に言ってしまえば、その子供、間桐桜、旧姓遠坂桜は、両家が共同で製作した小聖杯なのかと。アインツベルンの施した細工は既に突破されています」
そして彼女が放った言葉を咀嚼し、噛み締め、
「そんなっ、ありえないわ!聖杯の鋳造はアインツベルンの秘術なのよっ!?」
アイリスフィールは感情に任せるまま立ち上がり、悲鳴のような声を上げざるを得なかった。
「前回、第三次が失敗に終わったのは小聖杯の破損が原因です。――欠片ひとつ残さず回収出来たのですか?あるいは、誰が破壊をしたのか、把握していますか?」
淡々と、客観的事実を並べ立てるその姿に一層の恐怖を覚える。
あの橙の瞳は、頭脳は、一体何をどのような姿で捉えているというのだろうか。
「それにワタシたち、このお城を掃除しましたよね?」
「え?」「は?」
そして、話題が斜めに飛んだことで、その意識に空白が訪れる。
「アインツベルンは前線基地にさえ人員を配置していません。この管理体制が今回だけなのかどうかはちょっと分かりませんけど、街のほうにも人はいませんでした」
それもまた客観的な事実。
彼女たち自身が目にしてきた、否定することの出来ない現実だ。
「……秘伝の儀式の管理を他家に任せてまともに監視も置かず180年放置するって、それで問題がないと考えてるのはいくらなんでも擁護できません」
此度の戦争は、第四次聖杯戦争。
それはつまり、過去三度に亘りこの儀式が執り行われているということ。
聖杯の励起が五十年から六十年に一度である以上、相応の時間が経過しているということに繋がる。
「今回の勝者は間桐になるでしょう。両家が手を結んでアインツベルンを出し抜いたとしても、先程も言った通り、遠坂を先に勝たせては間桐の丸損ですので」
「間桐のマスターは、まともに研鑽も積んでいない、三流の……」
「戦争の勝敗など重要ではないのですよ。この儀式の勝利条件は、
だから、理解してしまう。させられてしまう。
彼女の言葉に矛盾はなく、誰が聞いても否定し切れない要素を積み上げている。
そのために彼女は、そのように言の葉を食んでいる。
「そして」
その言葉が論理的であるからこそ、聞いている側にも先の言葉も予測が出来る。
「奥様はもうお気づきかもしれませんが」
出来て、しまう。
「聖杯戦争は、
アイリスフィールの呼吸が止まり、ソファーへすとんと崩れ落ちる。
元より夫のために尽くすつもりだった。
それでも、アインツベルンの娘としての誇りもあった。
「今回で間桐、次回で遠坂が勝利し、願いを叶えたのなら、その次はありません」
もうやめてくれという懇願も、その口から出ることはない。
「アインツベルンの悲願は、聖杯に託す願いは」
出たところで意味はない。
「もう叶わない」
彼女が何を言いたいのか、自分自身が既に理解してしまっているのだから。
「ドイツで説明を渋ったのはこれが理由です。彼らがどんな反応を示すのか、ちょっと予想が出来ませんでしたので」
最後にそう締め括り、あとには誰も語らない沈痛な空気だけが残されていた。