二乃の人生二周目フー君略奪大作戦   作:真樹

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10_中間テストの魔物

 高校生に限った話ではなく、学生をしている限り必ずついて回る敵というものが存在する。

 テストと呼ばれるものであり、義務教育の範囲内であるうちは多少不出来であっても親や先生から叱られるだけで済む。

 しかし義務教育の範囲外、つまり高校生以上ともなると途端に話が変わってくる。

 言葉通り学生たちを試してくる"それ"を乗り越えられなければ時には学校に入ることも許されず、入学した後も逆に追い出される可能性が出てくる。所謂ところの入試不合格や退学というものだ。

 前世では二乃もこのテストという魔物にかなり苦戦させられていたが、現代においてはもはや敵ではないと楽観していた。

 そう、自分の場合に限っては。

 その考えは甘く、中間試験のテスト当日が近づくにつれて思わぬ形で二乃へと牙をむこうとしていることに気が付いたのであった。

 

(このままじゃフー君が家庭教師をやめさせられる!)

 

 二乃は非常に焦っていた。

 前世の記憶では、フー君が家庭教師になってから初めてのテストの際に、父のマルオからノルマを設けられていたはずだ。

 五人全員の全教科赤点回避。それが達成できなければ家庭教師をクビにするというものだった。

 前回は結局赤点回避達成ならず、二乃自身の口から出まかせでマルオを騙したおかげで難を逃れた。

 

(でも、今回も同じようにできる保証はないわ)

 

 あの時の言葉は完全に勢いでの発言だった。

 一応、一言一句とまでは言わないが同じような言い訳を話す事はできるが、あの時とは心持ちが違う。

 万が一話し方に違いが出てマルオに疑念を持たれるようなことがあれば一巻の終わりなのだ。

 そのため前回と同じように嘘をつけばよいなどという思惑は、あまりにもリスクから目を逸らした考えだと思っていた。

 まさか二周目であることがネックになる問題が出てくる日が来るとは予想だにしなかった。

 この問題のことを、二乃も忘れていたわけではない。実際、この世界に来て姉妹たちに自分の学力を示してからは、むしろ姉妹たちの方からフー君がいない日は頼られることが多くなってきており、なるべく協力してあげるようにしていた。

 姉妹たちに教えるのはこれが初めてではない。前世での学年末試験のころには得意科目の英語だけは教えてあげていたのだが、あの時とは時期も状況も違う。

 今回の中間テストが近づくにつれ、姉妹たちを赤点から脱出させるほどの学力まで本格的に導こうと試みた二乃の感想は──

 

(絶対ムリだー!!)

 

 という確信めいたものだった。

 あまりにも馬鹿すぎた。それはもう教えているこっちの頭が痛くなってくるほどに。

 これは二乃自身もかつてはそうであったため、身に覚えのある話なのだが五つ子の学力が周囲と比べて劣り始めたのは中学生くらいの頃からだった。

 前の学校、黒薔薇女子に入れたのも半分はマルオのコネだといっても過言ではない。

 よって現在の姉妹たちの学力は中学生レベルに毛が生えた程度であり、テスト範囲はおろか高校生未満のところから教えなければならない。

 そんな数年分のツケが溜まった状態から、たった一ヶ月半で高校二年生レベルのテストで赤点回避、しかも全教科でなど到底無理な話なのだ。

 

(フー君……こんなことやってよく気がおかしくならないわね……)

 

 四人をまとめて相手にしている時など時折、理由もなく叫びたくなる。

 前世では自分も教わる側だったため、前のフー君は五人を相手にしていた。なので今のフー君はむしろイージーモードの家庭教師をやっていることになる。

 問題なのは、イージーでも難易度が狂っていることだ。

 体感であり、二乃の記憶だが確かに前世と比べれば姉妹達の平均スコアは高くなっている気がする。

 前述の通りフー君の不在時は二乃が教えており、実質二名体制であることや、そもそも生徒の数が一人少ないおかげだろう。

 しかし、それでも赤点を回避できる可能性は絶望的であった。

 何が問題か? 

 学力自体足りてないのは間違いない。更に問題なのは意識の方だ。

 

「私、結婚しました! ご祝儀ください!」

 

 テスト勉強期間に入った土曜日、つまりフー君が家庭教師をしに来ている日にリビングにいる姉妹たちはといえば、人生ゲームに興じていた。

 自分も他愛のない用事の外出から帰ってきた後、吐きそうな顔をしているフー君と代わって参加している。

 いつもの勉強会の延長線上の集まりのため、この場に参加していないのは五月だけだ。

 

(マジの人生の方がヤバいというのにこの馬鹿たちは……)

 

 思わずフー君が憑依したかのような口調で内心ぼやく二乃。

 気持ちはわからないでもない。前の学校とは違い、現在通う旭高校は赤点を取っても落第という評価自体なく、退学させられることはない。今の姉妹たちは解放されたかのような気分だろう。自分もそうだった。

 しかし今の学校でもよほどの場合、留年はある。

 そして目の前で、現実でもゲームでも自分より先に結婚していったド派手リボンなどは、その"よほど"なのだ。

 チラリと横目でフー君を見る。三玖ほどではないが基本的に表情の変化に乏しいフー君は何か考えごとをしながら薄い顔を二十面相させている。脳のリソースをゲームに割かなくてよくなった分、試験のことを考えてしまっているのだろう。

 

「フータロー?」

 

 その時だ、三玖がフー君を呼んだ。

 

「なんかいつもより焦ってる……もしかして私達、そんなにまずい?」

(ナイス三玖!)

 

 どうやらフー君の異変に気付いているのは自分だけではないらしい。

 流石は三玖だ。フー君に惚れてるだけはある。

 それにこの後の流れにも覚えがある。確か一花が泊まり込みの勉強会を提案をするはずだ。

 

「それならさ、私から提案があるんだけど」

(ほらやっぱり!)

「今日は泊まり込みで勉強しない? それと、二組に分かれて勉強するのはどうかな?」

「は……?」

 

 二乃の予想通りの提案をしてきた一花であったが、予想外の内容もくっついていた。

 動揺を抑えきれずフー君が声をあげる。

 

「泊まり込みって、お前何を……!!」

 

 確かに普通驚くのは泊まりの提案の方なのだろう。

 しかし二乃が驚いたのは後者の方だ。二組に分かれて勉強する。それ自体の言ってることは分かる。おそらく二乃に時々協力するだけじゃなくて、本格的に教える側へ参加しろということなのだろう。

 だけどそんな話、前は出なかった。

 一花は話してから、目線をフー君の後ろへと向ける。二乃もそちらの方へ一緒になって見れば、いつの間にか五月が立っていた。

 

「五月ちゃんもそれでいいよね?」

「いいわけないじゃないですか! 泊まりって何ですか!?」

「私と五月ちゃんが二乃から、三玖と四葉がフータロー君にって組み合わせで、集中して教わるのはどうかな」

 

 返事を求めた割には五月の反応を意に返さず、強引に話を進めようとする一花。

 組み合わせまで考えているらしい。

 一体どういうことかと思案し、事情を把握しているものがいないかと他の姉妹たちを見まわした時、一花の提案に対して明らかに驚いていない人物が一人いた。

 三玖だ。

 

(もしかして……)

 

 二乃の中で一つの仮説が立つ。もしかして一花と三玖の二人が組んでいる可能性だ。

 考えて見れば、泊まりの提案だって二乃は二度目だから驚かないだけで理由は知らないし、提案自体は突拍子もないことなのだ。

 前世の頃から一花は三玖に協力していた疑惑が二乃の中に浮上する。

 今になって前世の姉妹たちのことで知らないことが出てくるのは、なんとも感慨深いものを感じる。

 とはいえ、前と違う流れになっているということは、二乃の知らないところで違った取り交わしがあった可能性がある。

 それにだ、前回と違い今回は二乃もフー君のことを好きであることは最早周知の事実であるところだし、一花は一度自分に協力してくれたというのに三玖にも手を貸すとは、どういうつもりか。中立のつもりなのだろうか。

 一花自身もフー君を気になり始めている癖にそれでいいのかと聞きたい気持ちにも駆られる。

 次々と気になることが湧き出てくるが、ともかく一花の提案自体は二乃にとっても好都合であった。フー君にとっても同様であろう。

 フー君の反応が気がかりになり様子を見れば、やや困惑をした顔をしていた。未だに悩んでいるらしい。

 

「泊まりって……それに俺は五人分の給料をもらってるのに、生徒のはずの二乃に頼るのも……」

「いいんじゃないかしら。別に学校だって先生のいないところで生徒同士教え合う事だってあるでしょ」

 

 フー君に助け舟を出す二乃。

 

「だが一花の提案は代わりに授業をやらせるようなことであって──」

「あのね、そんなこと言ってる状況じゃないのを一番理解しているのは、あんたなんじゃないの?」

「……わかった」

 

 しばらく思案した後、渋々といった表情でフー君は頷いた。

 かくして、二乃班とフー君班に分かれての勉強会が始まるのであった。

 

 

 

 

 一階リビングはフー君達に明け渡すことにした。

 二乃達は班のメンバーの中で一番部屋が片付いている五月の部屋で勉強することになった。

 一花の部屋以外なら二乃の部屋でもどっちでもよかったが、集中が切れた時に部屋の中を探索されると面倒だったためだ。

 例のノートは四葉に見られて以降、厳重に保管している。ちょっとやそっと家探しをされたところで今の二乃の部屋からボロは出ないのだが、それでも念には念を入れてであった。

 二階へ移動した二乃達だったが、五月に言って先に部屋へ入ってもらう。

 廊下で一花と向き合った。

 一階のフー君達と、扉の向こうの五月に聞こえないよう小声で話す二乃。

 

「どういう事よ! あんた三玖を手伝ってるでしょ!?」

「あははー、バレたか。ちょっとお願いされちゃってさ」

「この前は私の手助けをしてくれたじゃない!」

「もちろん二乃も応援してるよ……でもさ」

「……な、何よ」

「こんな速攻勝負仕掛けてる二乃じゃ、フラれちゃう可能性もあるじゃん?」

「ぶっ飛ばすわよ?」

「それに二乃だけ手伝うっていうのは、不公平だし」

「不公平って、あんたどっちの味方なのよ?」

「二人の味方だよ。その結果がどうなったとしても、そこはフータロー君の責任だし」

 

 あっけらかんと言ってのける一花だが、こういう分野においての話ならば自分が何をやってるのか分からないほど馬鹿ではないだろう。

 むしろ、変にかしこまって説明しない辺り十分熟考した上で行動しているのかもしれない。

 そう考えると、これ以上一花を詰めたところで収穫はないだろうと判断した二乃は諦めるように溜息をついた。

 

「……確認だけど、あんたはいいのね?」

「なにが?」

「組み分けよ。あんたもフー君の方に行かないでよかったの?」

「私がいると三玖も気になっちゃうだろうしね。その点四葉ならフータロー君と一緒にいても安全だろうし」

 

 実際は一番危険なのだが、知らないということは恐ろしい。

 

「それと、あんた自身もいいのね。花火大会の日に公園で聞かせてくれたじゃない、あんたの気持ちも」

「ああ……うん。大丈夫だよ。私のこの気持ちは、まだ好きじゃないから。だから本当に好きになっちゃってる子を応援してあげたい」

「あっそ、後で後悔しないようにしなさいよ」

「大丈夫だって」

 

(大丈夫じゃないから言ってるんだけど……)

 

 と、かつての修学旅行のことを思い出しながら心の中で呟いた。

 

 話を切り上げると五月の部屋へ入る一花と二乃。

 部屋の中では既に五月が足を折りたたむタイプの机を出してくれていた。

 

「狭いので三人で使うのは厳しいですが、私が自分の机でやればなんとか収まると思います」

「五月ちゃん用意ありがとー」

「じゃ、早速始めましょ」

 

 五月の言った通りの体制で勉強会が始まる。

 といっても二乃にはフー君ほどの学力はないため、授業というよりはサポートだ。

 聞かれたことに答えるのと、時々要点を伝える程度だ。

 なので始まってすぐのころは暇であった。

 

 暇の間、二乃は万が一テストの結果がダメだった場合を考える。

 どうにかしてフー君のクビを阻止する必要があるため、保険の作戦を考える必要があるかもしれない。

 例えばだ──

 

 ◆作戦① 直談判

『パパ、お願いがあるの!』

『なんだね』

『私、上杉のことを好きになったの! だからテストがダメでも彼をクビにしないで! 私と彼を引き離すのはやめて!』

『……分かった、上杉君に課したノルマは取り消そう』

『パパ!』

『うちの娘に手を出すような奴は今すぐ解雇だ。彼には二度とうちの敷居は跨がせない!』

『パパァ!?』

 -GAME OVER-

 

(ダメダメ! お父さんは言って聞くような人じゃないし、今は絶対打ち明けるべきじゃないわ!)

 

 ◆作戦② 替え玉受験

『もしもし、先生ですか? 中野……次女の二乃です。実は私以外の姉妹全員が集団食中毒にかかりまして今日は休みたく……試験は復帰した子からすぐに受けますので』

 ~別の日~

 二乃『中野一花です。治ったので受けます!』

 ~別の日~

 二乃『中野三玖です。治ったので受けます!』

 ~別の日~

 二乃『中野四葉です。治ったので受けます!』

 ~別の日~

 二乃『中野五月です。治ったので受けます!』

 ~数日後~

『テストだけは良い点数取っておいて俺の授業だとこの様ってことは……二乃! お前やりやがったな!? そんな悪事を働くやつと付き合えるか! 告白の返事は"ごめんなさい"だね!!』

『ヤダ待って捨てないで、ふぅぐん!』

 -GAME OVER-

 

(テストに合格してもそれじゃあ意味ないわよ!!)

 

 ◆作戦③ 前世の記憶でごり押し

『私たち五人で五科目全ての赤点を回避したわ』

『本当かい?』

『も、もちろんよ』

『はぁ、嘘は分かると言ったはずだがね』

『お願い聞いて、私は絶対に嘘はついてないわ(嘘だけど)……だから、私たちを信じて、パパ……ううん、お父さん』

『……そこまで二乃が言うのなら間違いはないんだろうね。これからも上杉君と励むといい』

 -GAME CLEAR-

 

(まあ、これなら何とか……)

 

 最後の案が唯一可能性があるというか、そもそも一発目の報告でマルオを騙せれば済む話だし、二段階の作戦ということになる。

 作戦③を採用することとした。

 せいぜい、途中で声を上擦らせたり噛んだりして失敗しないよう、練習しておこうと思う二乃であった。

 

 

 

 

 

 二階で二乃達が勉強しているころ、三玖達も勉強に集中……できているわけではなかった。

 三玖は横目で先ほどからチラチラと風太郎を見てばかりいた。

 現在の時間は風太郎が最初に教科書の内容を解説し、今は自分と四葉が問題を解く時間だ。

 分からなければすぐに聞いてもよいことになっているのだが、それまでは風太郎も自習をしている。そのため三玖の視線には気が付いていないようだった。

 

(一花がせっかく作ってくれたチャンス……無駄にはできない)

 

「フータロー」

「どうした、三玖。分からないところがあったか? 見せてみろ」

「う、うん」

 

 流された三玖は後回しにしていた問題を風太郎に見せ、解き方を教えてもらう。

 しかし本当に勉強に詰まっているわけではない三玖の手は、再びすぐに止まる。

 

「またどっかで詰まったか、見せてみろ」

「う、うん」

 

「またか……」

「ごめん……」

 

「おい」

「……」

 

 教えてもらってはすぐ止まる。そんなやり取りが何度も繰り返しているうちに風太郎のイラつきもピークへ達したらしい。

 

「三玖! どうしたお前!? 四葉だってこんなに詰まったりしねえぞ!?」

「上杉さん! 当然のように私を引き合いに出すんですね!?」

「ごめん、フータロー……」

「……どうした、普段ならもっと集中できてるはずだろ。もしかして勉強以外で何か心配ごとか?」

 

 流石の風太郎でも様子がおかしいことに気が付いてくれたらしい。

 今ならば考えていたことを言い出すチャンスかもしれない。

 

「フータローは二乃の告白の返事、どうするつもりなの?」

 

 そう問うと、風太郎は心配そうな表情から一転して困ったようにする。

 

「またその話か」

「また?」

「この前五月にも同じことを訊かれた」

「……そうなんだ」

「ああ」

 

 五月は姉妹の中で唯一、風太郎に対して対立的な立ち位置を示している。

 おそらく三玖とは別の目的で二乃の告白を受けて欲しくないと考えているのだろう。

 風太郎が続けて言う。

 

「五月にも同じように答えたが、あいつへの返事はあいつにすべきだろ。少なくとも最初に聞いていい相手はお前じゃない」

「それは……そうだけど」

「……上杉さん、少し言葉が強いです」

 

 風太郎の物言いに見かねた四葉が、珍しく静かに咎めるように言う。

 指摘された風太郎も四葉の言うことは正しいというように、気まずそうに眉を下げた。

 

「だが──」

「四葉、フータロー、待って」

 

 何か言おうとした風太郎であったが。三玖の言葉が被ってしまった。

 三玖の言葉もあって、風太郎は続きを話さずこちらを見てくる。

 続きを話せというその目に従って、三玖が続ける。

 

「本当に聞きたいのは二乃のことじゃない。だからフータローは答えなくて大丈夫」

「……」

「だけど、二乃への答えを出すのを、少しだけ待ってほしいの」

「待つ?」

 

 予想外であったのだろう。首をかしげる風太郎。

 けれども、誇張も躊躇もなく、それが今の三玖の風太郎に対する本当のお願いだった。

 

 

 

 二乃の告白を目撃した日の翌日、一花と話した日を三玖は思い出す。

 三玖の異変に気が付いた一花は話を聞くと言ってくれた。

 元々一花は三玖の気持ちに感づいていたらしい。自分の気持ちをぼかしながら話そうとしたが、既に別の人間から告白を受けており、時間の猶予がない男性にアピールするためには腹を割って話した方が良いと三玖の恋心を打ち明けさせられてしまった。

 その上で一花にはお願いと、相談をしたのだった。

 一つ目に、お願いというのは三玖が風太郎と話す勇気が出た時、風太郎と話す時間を作ってもらうこと。いつぞやの屋上に風太郎を呼び出した時のようにしてもよかったが、学校に場所が限定されることもありタイミングが難しい。

 二つ目に、相談というのは二乃は何で付き合おうとしていて、自分はどうしたらいいというものだった。

 一花の回答を思い出す。

 

『きっと二乃は、フータロー君のことが好きで好きで堪らないからだよ』

『でも、好きなだけなら一緒にいることは今でもできるし、何で告白しようと思ったんだろう』

『それは、他の人に取られたくないからじゃないかな』

『取られる……』

『フータロー君が二乃のことを女性として特別扱いしてたら、嫌な気持ちになるでしょ?』

『……うん』

 

 言われただけでも胸がズキンと痛む。

 

『逆に、自分をそうやって扱ってもらえたら嬉しいと思うんだ。だからそうしてもらえるように告白するんだよ』

『でも、もし断られたら?』

『凄く悲しいね。もしかしたら気まずくて告白する前にすら戻れなくなっちゃうかも』

『やだね……』

『うん。だから告白するのって凄い勇気がいるし、二乃はそれを覚悟して告白したんだと思うよ』

 

 あの夜のことは突然だったにも関わらず今でも鮮明に思い出せる。

 あの時二乃は凄く落ち着いていたように見えた。けれど、その裏でもしもそんな覚悟を持って告白していたとしたら──

 

『二乃は、凄いんだね。私はまだ……まだ、無理……!』

『最後までできない人だっているんだもん。三玖のその気持ちは普通だと思うよ』

『でも、このままじゃフータローは……』

『落ち着いて三玖。相手はあのフータロー君だよ? きっと答えを決める以前に、今頃どうしたらいいか戸惑ってるよ……それに、それにまだ二乃と付き合うって決まったわけじゃない』

 

 自分を安心させるためだと分かっているが、一花は凄く言いづらそうに二乃のことを言った。

 しかし辛そうな表情は一瞬で、すぐに優しい顔へと戻すと、

 

『だから三玖は三玖なりにできることをしたらいいんじゃないかな?』

『私なりに……』

『うん』

『ありがとう。考えてみる』

 

 

 

 そうして考えた結果、今の三玖が風太郎へできる最大限の申し出というのが、答えを出すことを待ってもらうことだった。

 待ってもらった後、どうしようという考えはまだない。

 もしかしたらどこかで二乃が痺れを切らすかもしれない。

 もしそうなったら、その時こそゲームオーバーだ。

 だから自分はそうなる前に、勇気を持てる何かを見つけなければいけない。

 それが三玖の現状の課題なのだ。

 風太郎が頭を掻く。三玖の申し出をどうすべきか思案しているようだ。

 

「まぁ、俺もまだ考えてるところだ。あいつにもいつまでに返事しろとは言われてないし」

「なら……」

「ああ、お前がどういう理由でそんなことを言ってるのか知らないが、別にそれくらいなら構わ──」

「上杉さん」

 

 風太郎の声を四葉が遮った。

 今まで会話には参加してこず、成り行きを見守っていただけなのに突然の横やりに、驚く三玖。

 そして同時に思う、このタイミングで割り込んで来るのはどういうつもりだ、と。

 

「あまり待たせるのは、よくありませんよ」

「四葉……?」

(何言っているの?)

 

 三玖は率直にそう思った。

 自分のお願いを真っ向から否定するように申し出る四葉に目を見開く。

 そんな三玖に気づかずか、四葉は話す。

 

「二乃は勇気を出して上杉さんに告白したんです。きっと今もずっと、不安になりながら返事を待っているはずです」

「だが……俺は」

「もちろん、答えを出さずに答えるなんてことはできません。ですから、上杉さんの中で返事が決まったら、その時は迷わず答えてあげるべきだと思います」

 

 一見、四葉の物言いは風太郎と三玖の先ほどの会話をなぞっているように聞こえる。

 何も変わらないではないかと、そう見えるかもしれない。

 しかし、三玖には違う意味に聞こえた。

 突然のことだから、いつものネガティブが発動してしまっているのだろうかとすら自問する。

 三玖には四葉が"三玖など無視して返事をしろ"と言っているように聞こえたのだ。

 急に、隣に座っている四葉との距離が離れたような錯覚に陥る。

 何故そんなことを四葉がわざわざいうのか、まったく理解ができない。

 

 四葉は自分と風太郎の距離が接近しようとしているのを阻もうとしている? どうして? 四葉は私のことがもしかして嫌い? 

 それとも四葉は二乃の味方なのか。それならば分からないでもない。

 それとも、何か得体のしれない考えを持っているのだろうか。

 

 考えたところで三玖の頭では答えが出なかった。

 一瞬、四葉も風太郎のことを好きなのではとも考えたが、だとしたら三玖のお願いを却下するだけではなく、二乃の返事を催促する意味がわからない。

 その瞬間、三玖には四葉がただただ、異質な何かに見えた気がした。

 

 

 

 

 余談であるが、後日中間テストを終え、答案を返却された二乃以外の五つ子達はものの見事に赤点を取った。

 日課やハマっている漫画を読む時間を削って、マルオを騙す練習をした二乃であったが、意外にもすんなり騙されてくれて前世と同じ展開となり、二乃の努力は無駄になったのであった。

 

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