二乃の人生二周目フー君略奪大作戦   作:真樹

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12_二度目の伝説①

 林間学校の前日、一花を除いた姉妹四人とフー君は近所のショッピングモールへと買い物に来ていた。

 目的は二つ。高校生になって初めての同学年たちとの泊まりイベントに向けた洋服類の新調と、そういった心がけが何一つなく普段の私生活を一張羅で過ごしている男の洋服の見繕いだった。

 姉妹達の中では比較的安価の服屋に立ち入ると、まるで着せ替え人形かのように姉妹達がそれぞれ選んだ服がフー君へと渡されている。

 渡された服を持って試着室へ入ったフー君が、着替えを終えて出てくる。

 来ていた服はまず四葉のものからであり、すかさず担当コーディネーターからの解説が入る。

 

「地味目なお顔なので派手な服をチョイスしました」

「多分だけどお前ふざけてるな?」

 

 角の無い丸っこい絵柄に目が点で表現されたゆるキャラ的な動物達が書かれた服のフー君だった。

 二乃も四葉の選んだ服に内心で感想を思い浮かべた。

 

(論外ね)

 

 続けて三玖コーデのお披露目。再びカーテンが開く。

 

「フータローは和服が似合うと思ってたから和のテイストを入れてみた」

「和そのものですけど!」

 

(フー君ならアリね)

 

 更に続けて五月チョイス。三度カーテンが開く。

 

「私は男の人の服がよくわからないので、男らしい服装を選ばせていただきました」

「お前の男らしい像はどんなだ」

 

(アリアリアリ! でかしたわ五月! ちょっと誰か金髪のウィッグ持ってきなさいよキンタロー君で試すから!?)

 

 と、両手で口元を覆いながら心の中で叫んだ。

 最後に二乃。カーテンが開かれると本人からの、これまでのようなコメントという名の指摘はなく代わりに脇の方からヒソヒソ声が聞こえる。

 

「あ、二乃本気で選んでる」

「ガチだね」

「真面目にやりなさいよあんたたち!」

「なあもういいか? いい加減着替えるのも疲れてきたんだが」

 

 頼んでもいないのに着せ替え人形にさせられていたフー君は、言われた通りにしているというのに放置され、目の前で勝手に盛り上がっている二乃達にげんなりとした様子を見せる。

 二乃は自分の見立てた服が選ばれることに確信を覚えながら、一応フー君に好きなものを一着選ぶように伝えると案の定二乃がコーディネートした服を選んでくれた。

 対抗馬が軒並み駄馬だったことを踏まえても、自分の服が選ばれたことに小さくぐっとガッツポーズした。

 フー君は元の服装に着替えると試着室から出てきた。そのまま最後に着ていた二乃が選んだ服だけ手に持つと、残りの服をカゴへ戻し歩き出す。

 

「ちょっと、どこ行くのよ?」

「どこって会計に決まってるだろ」

「いいわよ。カゴだけ店員に返して、買う方の服はよこしなさい」

「は?」

「だ、だから、買ってあげるって言ってるのよ!」

 

 言いながら、フー君から服を奪い取る二乃。

 疑問気にこちらを見ていたが、しばらくすると首をかしげながらも言われた通りカゴだけ持って店員の方へと歩いて行った。

 

(プレゼントだって何でわからないのかしら!)

 

 と、最早フー君の鈍感さは慣れ切っているものの、それはそれとして憤慨する二乃であった。

 フー君用の服も自分の買う分のカゴへ混ぜるとレジへ向かった。

 歩き出す直前、視界に三玖の顔が横切ったが、こちらに何か言いたげな顔をしていたのが目に入った。

 

 

 

 二乃の会計が終わり店の外へ出ると、他のみんなが待っていた。

 既にいくつかの店舗のレジ袋を手に引っ提げている一同であったが、二乃が合流すると足取りは次の店へと向く。

 

「ふー買ったねー」

「三日分となると大量ですね」

「お前ら洋服に一万二万って……俺の服なら四十着は買えるぞ」

「こんなの安い方よ」

 

 移動の最中も、姉妹達は無意識にとめどない会話を続けている。

 日常会話の折には三玖も普段通りに接してくれることに、二乃はわずかに安堵していた。

 

「林間学校もいよいよ明日ですね」

「まだ買うものあるわよ」

「うーん、男の人と服を選んだり一緒に買い物するって……デートって感じですね!」

 

 四葉が言った直後、ピタリと四葉以外の足が止まった。比喩ではなく本当に。

 しかしそれは一瞬のことで、静止した一同の中でいち早く五月が再び動き出す。

 

「これはただの買い物です。学生の間に交際だなんて不純です」

「あ、上杉さんみたいなこと言ってる」

 

 瞬間。口答えをしたのは四葉であるにも関わらず、五月はタンッとローファーの踵を鳴らして翻るとフー君へと詰め寄る。

 

「一緒にしないでください! あくまで上杉君とは教師と生徒! 一線を引いてしかるべきなのです!」

「言われなくても引いてるわ!」

「今は、の間違いじゃなくてですか!?」

「うっ……!?」

 

 一歩後ずさるフー君。

 返事を待つ身である二乃としてはその様子から、彼は今の関係から一歩踏み出してくれようとしているのではないかという期待をしてしまう。

 とはいえ、ここで口を挟もうものなら五月を刺激するのは目に見えているため、特に何も言わなかった。

 その後、すぐにランジェリーショップへ到着した。

 当然のように店内までついて来ようとするフー君を外で待たせると、三玖と五月と一緒に店に入った。四葉も特に用はないらしいのでお留守番だ。

 必要なものを買い終え、手に持ったレジ袋が一つ増えた二乃達が店を出ると、外で待っていたのは四葉だけであった。

 

「あれ、フータローは?」

「何か電話に出たと思ったら血相変えて帰っちゃった」

「何も言わずに帰るとは、やはり彼は失礼ですね」

「きっと本当に急ぎだったんだよ。一応走っていく前にみんなにごめんとは言ってたよ」

 

 フー君が急遽帰宅した理由には心当たりがあった。

 らいはが風邪をひいて倒れたという連絡があったのだろう。

 こうなることは事前に分かっていた二乃だったが、流石に一緒に生活をしている子でもないのに風邪を予防させることは難しい。一度はどうにか防ぐことができないかとも考えたが、これだけは良い案が思い浮かばずらいはには申し訳なく思いながらも"らいはに対しては"何もしなかった。

 その代わりというわけではないが、ここでらいはの元へフー君を帰宅させると林間学校の三日目に彼は体調を崩し、せっかく漕ぎつけたキャンプファイヤーのダンスの約束が水泡と化す。

 そのため二乃は、先ほど彼に買った洋服を渡した時点で袋の中に"一つの仕込み"をしていたのであった。

 

 

 

 ショッピングモールで風太郎が受けた連絡の相手は、らいはが通う小学校の先生からだった。らいはが教室で倒れたらしい。

 緊急連絡先として伝えている父親の番号に連絡もしたが繋がらなかったとも言っていた。

 勇也へ連絡がつかないことはよくあることだった。カメラマンを生業としている勇也は撮影現場に入ってしまうと連絡がつかない場合が多いのであった。

 こういう時のために二番目の連絡先として風太郎の番号も伝えてあったおかげで、学校から直接連絡をもらうことができた。

 しかし、風太郎の場合は未成年のため、当然車の運転ができない。学校へ向かっても家までおぶって帰ることになると先生へ伝えたところらいはを自宅まで送ってくれるとのことだった。

 そのため、現在風太郎は家へと直接向かっているわけだが、その道中でドラッグストアへ立ち寄っていた。

 保険医の見立てではただの風邪の可能性とのことなので、市販薬や胃に負担がかからない食べ物を買うためであった。

 

「まずい、薬はどれがいいんだ……?」

 

 市販の風邪薬売り場まで来たところで、風太郎の商品を取る手が止まっていた。

 らいはに合う薬がどれかわからないのだ。

 上杉家の男二人は基本的に健康優良児だ。自分から毒でも食べなければ基本体調など崩さない。

 そのため薬を買うという行為が風太郎は年の割に慣れておらず、パッケージに書かれていることがどれも同じようにしか見えないのであった。

 

「何かお探しですか?」

 

 風太郎に女性が声をかけてきた。店員の服を着ており、名札に『医薬品相談係』と書かれていた。

 

「妹が風邪をひいてしまったんです。僕も学校からさっき連絡を受けたばかりで直接病状を見たわけじゃないのですが──」

 

 風太郎が電話で聞いたらいはの様子を説明すると、店員の女性は「でしたら」と言いながらしゃがみ込んだ。

 

「この辺りのものが、女の子でも負担が少ないお薬になりますね」

「どれ、ですか?」

 

 風太郎も一緒になってしゃがみ込む。

 その時、手に提げていた服屋の紙袋が地面に触れ、カツンという固い音がなった。

 

「ん?」

 

 服が入っているはずの袋から聞こえるはずの無い音に疑問を覚えた風太郎が紙袋の中を覗き込む。

 中には二乃が選んでくれた服が当然入っていた。

 覗き込んだだけではそれ以外特に他の物は見当たらなかったが、音がしたのは袋が地面に触れた時であったため、服を一度取り出す。

 再び中を見れば、そこには小瓶と一枚の紙が入っていた。

 風太郎は小瓶を先に取り出す。

 

「なんだこれ?」

「そちらですね。今ご案内しようとした風邪薬」

「これが?」

 

 さっき店員が紹介してくれた薬のパッケージと薬に貼られたラベルを見比べる。確かに同じロゴが付いていた。

 しかし、風太郎はこんなものを買った記憶はない。

 ふと、そういえばもう一つ紙も入っていたなと思い出す。

 取り出して両面を見ると、片面に手書きの文字が書かれていた。

 

『君も風邪薬を飲んでから林間学校に来ること』

 

 その一文だけであった。名前も書いていない。

 状況的に考えれば姉妹の誰かが入れたのであろうが風太郎はショッピングモールを立ち去る時、その場にいた四葉にすら禄に事情を説明をしていなかったため、らいはが風邪であることを知っている人物に心当たりがなかった。

 風太郎は一体どういうことかと、頭をひねったのであった。

 

 

 

 

 翌日、二乃が林間学校のバスが待つ集合場所に訪れると、案の定フー君は来ていなかった。

 教師に確認すると、家族の体調が悪いから辞退すると連絡があったらしい。

 

 そこからは前世の記憶同様の流れだった。

 五月の案内によりフー君の家で本人を回収すると、その足で林間学校へと向かった。

 道中、天候は豪雪に見舞われ車は大渋滞に巻き込まれた。

 しばらくの間、適当に時間を潰したところで二乃達を送っている車の運転手の江端が、午後からは別の仕事があるということなので最寄りの旅館へと立ち寄ることになる。

 記憶と同じ旅館へと到着した。

 

 江端を残して一同が下車する。

 江端は万が一部屋が取れなかった場合には全員を連れて戻るため、受付が済むまでは待ってくれるとのことらしい。

 二乃以外の一同が玄関へと向かう中、二乃がグループから外れた。

 

「ごめん、ちょっと電話するから先に中入ってて」

「うん、わかった」

 

 先頭に立つ一花へ告げると、二乃はスマホと取り出し電話をかける。

 電話の相手は今、目の前にある旅館だ。

 

「もしもし、予約していた"高野”ですけど、雪のせいで行けなくて今日は予約をキャンセルしたく──」

 

 この場合に備えて二乃は旅館の部屋を一部屋だけ予約していたのであった。

 前回の記憶では他の部屋に林間学校に向かう学校の面々が宿泊しており、一部屋しか取れなった。

 その一部屋が万が一、二乃の知らないところで何かが変わり埋まってしまった場合、自分達は林間学校を諦め自宅へトンボ返りすることとなる。それを避けるためであった。

 この林間学校において二乃は、この旅館やフー君へ渡した風邪薬のように『しくじると林間学校が即終了する』マストイベントに対して、計画と共に事前の対策を打っているのであった。

 電話を終えた二乃は早歩きで旅館の玄関へ入る。今頃、中では空き室無しで帰ろうとしてしまっているかもしれないため、引き留めるつもりだった。

 玄関の戸を開けるなり、仲居の声が聞こえてくる。

 

「申し訳ありません。現在一部屋しか空いておらず、六名様でもお泊りになることは可能なのですが、かなり手狭になってしまうかと…………え、予約のキャンセルが入った? 分かったわ、ありがと。お客様、今もう一部屋空きましたので、二部屋ご用意させていただきます」

(え?)

 

 聞こえてきた話は、二乃の想定と異なっていた。

 元々、一部屋空いていた? 

 つまるところ、やはり前回とは何かが変わっているらしい。しかし部屋が埋まる所か、余計に空くというのは想定外であった。

 この旅館に二乃の学校関係者以外の客がどの程度いるかは知らないが、他にキャンセルでも出たのだろうか。

 早速組み上げた作戦が崩れ始めている音が遠くから聞こえてきた二乃であった。

 

 

 

 案内された二部屋は幸いにも隣あっていた。

 二乃達六人は片方の部屋に全員集まると、どのように割り振るかを話すこととなった。

 

「当然、男女で分けるべきです!」

「いやでも五月ちゃん。そしたらフータロー君が一人部屋になっちゃうよ?」

「何か問題でも?」

「別に私は普通に三人ずつで分かれてもいいんじゃないかなー、とか思ったり」

「はぁ?」

「五月ちゃんがフータロー君を見る時のような目で私を見てくる……」

 

 ギロリと一花を睨む五月。異論は認めないという圧に一花はたじたじとなる。

 一花の斜め前に一歩出て二乃。

 

「ならこういうのはどうかしら?」

「論外です!」

「まだ何も言ってないわよ!?」

「どうせあなたと上杉君の二人部屋を提案するつもりでしょう?」

「うっ……正解……」

「論外です!」

「二度も言わなくてもいいじゃない!」

 

 二部屋確保という偉業(戦犯)を成し遂げたというのに一蹴された。

 瞬殺されてすごすごと引き下がる二乃と入れ替わるように三玖。

 

「だったら誰にするかは五月が選んでいいから、それで三人ずつっていうのはどうかな?」

「それやったら私外されるの確定じゃない!」

「二乃は自業自得。五月の目で見て安全だと思う組み合わせってないかな?」

「お前ら、俺を何だと思ってる」

 

 三玖の提案に五月は顎に手を当てて考える。

 二乃が候補から除外されているところからスタートなのは確定として、残る四人で考えているのだろう。

 見立てでは五月は恋愛ごとには疎いため、まさか既に自分以外の全員がフー君に惚れている詰み状況だとは思いもしないだろう。

 仮に二乃と同程度の見識をもっていたとしたら、おそらく最善は一花と五月を選ぶべきなのだろうが、五月は自分自身がフー君と同室になることも眼中にないだろうし、そうならんとした時には死ぬほど嫌そうな顔をするだろう。

 五月が思いついたように顔を上げる。

 

「では、私たち姉妹が二、三で部屋を分かれて上杉君には──」

 

 五月は窓の外を指さす。

 雪に埋もれた使われていない犬小屋がポツンと置かれていた。

 

「あちらの第三の客室へ泊っていただきましょう」

「フータローがしんじゃう……!」

「すみません、やはり私は私の案しか考えつかないです」

 

 一応は真面目に考えたのか、申し訳なさそうに五月は目を伏せた。

 三玖もワンチャン自分が選ばれる可能性を期待していたのか、ガッカリした顔をする。

 四葉が手を上げた。

 

「いっそのこと片方の部屋に荷物を置いて、もう一つの部屋に六人全員が寝るっていうのはどうかな!」

「それはちょっと……」

「私もパス。普通に狭いし」

「一花と二乃と同じく。せっかく部屋を借りたのに申し訳ないし」

「上杉君が同じ部屋という時点で反対です」

「俺もそれなら一人の方がいいな」

「上杉さんまで!?」

 

 四葉としてはかなり自信があったのか、総スカンをくらいリボンがへにゃりと折れてしまった。

 結局、この場では結論が出なかったため、寝るまでに決めることとなった。

 

 

 

 夕飯を済ませた後、温泉へと移動した二乃達。

 体を洗い露天風呂に浸かったところで姉妹達は部屋決めの話を再開させる。

 しかし二乃は初めから自分がフー君と一緒にしてもらえる可能性はないと昼間の会話で諦めていたため、既に興味を失っていた。

 姉妹達の話し声をBGMに今日のフー君の様子を思い出す。 

 例のらいはからもらったというミサンガを付け始めてからというもの、それなりにテンションは高かったが普段通りという印象だった。

 具体的な映像は思い出せないが、確か前回は風邪のせいで明らかに異常だとわかるハイテンションだったと記憶していたため、そのイメージと比べると今のフー君は風邪の症状はまだ出ていないと見える。

 自分が送った薬を素直に飲んでくれたのだろう。

 

 フー君が三日目の夜に風邪をこじらせた理由は、元々らいはから風邪のウイルスを貰っていた可能性と、二日目の晩にスプリンクラーの水を浴びたのがトリガーになってしまったためである。

 前世での二日目の晩、キャンプファイヤー用の丸太を収納した倉庫に閉じ込められた一花と風太郎にどのような会話があったかまで二乃は知らないが、その様子を三玖と五月に発見されたため、体調を崩した理由についてはある程度特定できているのであった。

 

 フー君が快調であることで彼とのキャンプファイヤーの実現にまた一歩近づいた実感を持ちながら、今日一日のことを振り返る。

 上手くスタートダッシュを切れたのではないかと二乃は結果に対して自己評価した。

 一日目は終日姉妹全員と一緒に行動することが分かっているため、大した作戦は用意していなかった。

 確保できた部屋の数など多少の想定外はあったものの概ね順調な現状に、二乃は初めて手ごたえを感じていた。

 二日目以降はフー君へのアタックなども考えている。上手く行けばキャンプファイヤーで返事を貰えてしまうかもといったことまで妄想し始めると、自然と笑みがこぼれそうになった。

 その時であった。

 

「二乃、聞いていますか?」

「え?」

「決まりましたよ、部屋割り」

「ああ、そう。結局どうするのよ」

 

 二乃が問いかけると、五月は大変不服そうにしながら説明してくれる。

 

「遺憾ながら、三人ずつで部屋を分けることになりました」

「やっぱりフータロー君を一人だけ別の部屋にしちゃうのもかわいそうだしね」

 

 五月の説明に補足する一花。

 けれど目線は二乃に話しているというのに、三玖へと向いている。

 二乃と三玖二人の味方と言っていた一花だが、先日の図書室の外での一件以来は三玖にテコ入れしているように二乃は感じていた。

 大方、今回も一人余計なギャラリーは付くがフー君と三玖の時間を作ってあげようと画策しているのだろう。

 一花の裏で糸を引こうとする計算高さはこの時から健在だったかと認識した。

 五月へと目線を戻す。

 

「それで、フー君の部屋には誰と誰が行くのかしら?」

「それがですね……」

「?」

 

 すると、途端に歯切れが悪くなる。

 そこまで決まったから話を聞いてなかった自分に教えようとしたのではないのかと考えながら、辛抱強く続きを待つと、五月は四人で出した案を二乃にも伝えたのであった。

 

 

 

 

「なるほど、この手があったわね」

 

 五月から話を聞いた後、温泉を上がった二乃達。

 しかし温泉に入る前とは全員、様子が違っていた。

 全員が同じ姿をしているのだった。普段つけているアクセサリーを外し、髪も長さはどうしようもないがセットの仕方を同じにしている。

 この状況にも覚えがあった。しかし今回は作戦が違う。

 

「同じ姿でわからなくして、誰と一緒の部屋になるかフー君に選ばせるとはね」

 

 要するに選ぶ本人すら分からない状況でランダムで決めようということだった。

 であれば昼間遊んだ、フー君が持ってきたトランプの一から五の札で無作為に引かせればよいのではとも考えたが、あえて言わなかった。

 純粋に、フー君が誰を選ぶかも気になったからだ。

 

 部屋へと戻ると、やはり男性の入浴は早いものでフー君が既にくつろいでいた。

 姉妹達が温泉で話した部屋割りの決め方をフー君へと伝えると、呆れたような顔をして──

 

「もう好きにしてくれ」

 

 と、意外にも反論や拒否はなくすんなり決めてくれることとなった。

 

「コホン。それじゃあ、早速だけど選んでもらおうかな。自分と相部屋になる二人を」

 

 話し方はそのままだが、やや普段の感じから雰囲気を外した一花が宣言をする。

 今、フー君の前には五人が横並びに立っている。

 二乃も当然混ざっている。

 そして並び順は一から五の順番などではないということも、先にフー君へ説明している。

 つまり、フー君が五つ子を見分けることができない限り、完全なランダムだ。

 その中で、フー君は一つ深く深呼吸をすると、指さした。

 

「お前と、お前だ」

 

 

 

 深夜。部屋割りが決まった後も六人で少し遊んだ後で就寝の時間となった。

 二乃も明かりが消された部屋で大人しく布団に入っている。

 けれど、いつまで経っても寝れる気がせず、布団の中でずっともぞもぞと寝返りを打っては固まってを繰り返していた。

 現在、川の字に敷かれた布団の真ん中に寝ており、左右にはフー君と三玖が寝ているのだった。

 

(フー君めちゃめちゃナイスだけどなんでよりにもよって三玖なのよ!?)

 

 嬉しい気持ちと、気まずい気持ちが心の中でずっとせめぎ合っていた。

 それは三玖も同じだったようで、寝るために部屋を移動し今の三人になったころなど、二人してお通夜のような空気になった。

 一人だけ、部屋が広くなったと喜んでいるフー君を見た時などはやはり犬小屋を割り当てた方がよかったのではないかと本気で考えかけた。

 そうして布団の中で悶々としている二乃であったが、あろうことか意外にも三玖を見れば爆睡していた。

 

(あんたは何で寝れるのよ!?)

 

 この複雑な感情を唯一共有できる仲間だと思っていたのに裏切られた気がした。

 かくして順調であったはずが、最後の最後で寝不足になる形で二乃は一日目を終えるのであった。

 

 

 

 そう思っていた。

 ごそりと、三玖の布団が動いた。

 掛け布団がまくれ上がり、立ち上がる三玖。

 

「どうしたの?」

「……ちょっとトイレ」

 

 思わずフー君の横へ行くんじゃないかと警戒した二乃だったが、想像以上に寝ぼけ眼の三玖は答えるとのそのそと部屋の外へと出て行った。

 再び音の無い世界となった室内で、二乃だけが三玖に驚かされて高鳴っていた胸の鼓動を鎮めようと深呼吸する。

 その直後──

 

「なあ二乃」

「──!!」

 

 二乃とは反対側を向いて寝ていると思っていたフー君の声がした。

 凄い声が出そうになった。

 

「な、なに。あんた起きてたの?」

「お前がずっと動いてたせいだろ」

「あ……ごめん」

「気にすんな。慣れてる」

「慣れてる?」

「らいはも寝相が悪いからな。よく寝ながら動くんだ」

「子供と一緒にしないでよ!」

「じゃあ何で何度も寝がえりうったりして……いや、なんでもない」

 

 言いながら、原因に思い当たってくれたのか途中で言うのをやめるフー君。

 それからフー君は黙ってしまった。

 ちょうど、二乃も聞きたいことがあるのを思い出した。

 

「ねえフー君」

「なんだ」

「何で私と三玖を選んだの?」

「適当だよ」

「本当に?」

「ああ」

「髪の長さとかで決めてない?」

「……決めてない」

「ちょっと間があったわね」

「うるさいぞ」

 

 少し不機嫌な声になる。図星を突いたか。

 しかしこれ以上の追撃はやめることにする。ここでフー君の心を掘り下げるのは、カンニングをするようなものだから。

 質問を変える。

 

「それで、私に何か用だったのかしら?」

「礼を言おうと思ってな」

「……ああ、あの風邪薬のこと?」

「やっぱりお前だったか」

「元気そうで何よりよ。らいはちゃんからもらってないでしょうね」

「人の妹を病原菌扱いすんな」

「それは本当にごめん」

 

 ちょっと失言してしまった。浮かれているのだろうか。

 それでも、反省の気持ちより匿名のプレゼントに気づいてくれた嬉しさがまだ勝ってしまっている。

 

「あの薬結構効いたでしょ。パパから病院に行けない時はあれを飲むように言われてるのよ」

「父親? なんでそこで父親が……まあいい。悪いがもらった薬は飲んでない」

「何でよ!?」

「よっぽど信用できる出所じゃない限り、人から貰った薬なんて飲まないのは当たり前だろ。あの時は、お前がくれたとも知らなかったしな」

「そっか……」

 

 手ごたえを感じていたが、どうやら空回っていたらしい。

 少し残念に思った。

 

「だが、薬局の店員にも同じものを勧められた。だから自分で買って飲んだが、おかげさまで今は元気だよ」

「そ、よかったわ」

「それに……気持ちも嬉しかった」

 

(~~~~!!)

 

 嬉しさのあまり声が出そうになる。喜びの声だ。

 こんなに素直にフー君から感謝の気持ちを貰えるなんて、こっちの世界に来てからは初めてじゃないだろうか。

 脳内が今聞いた言葉だけを勝手に何度も繰り返し再生して、頭の中がフー君の声でいっぱいになる。

 抑えきれなくなりそうな気持ちを少しでも吐き出さんとするかのように、体をフー君へと向ける。

 まだ背中を向けて寝ていて顔は見えない。電気もついてなく、窓から差し込む月明かりだけなのでぼんやりとした後ろ姿も輪郭しか見えなかった。

 だというのに、そんなフー君の姿を見ているだけで幸せな気持ちになれた。

 

「それにな」

「うん」

 

 フー君が続けて話してくれる。

 

「薬だけじゃない、あの手紙もそうだ。あれが無ければ自分も予防で薬を飲んでおくなんてしなかった。感謝してる」

 

 

 

「……え? 手紙?」

 

 

 

 手紙とは、なんのことだ? 

 そんなもの、自分は"渡していない"。

 二乃が渡したのは薬だけだった。

 

「……? どうした二乃?」

 

 反射で出た言葉だったが、フー君は聞き取れていなかったらしい。

 黙り込んだと勘違いしたのか、ようやくこちらを向いてくれる。

 けれど二乃の内心はそれどころではない。やっとフー君がこちらを向いてくれたとか、そんなことを考えている余裕がなかった。

 沸騰していた頭が急速に冷めていくのを感じる。

 

 先ほどまでの会話を反芻する。

 手紙の内容は風邪薬をフー君にも服用させるよう促す内容だったらしい。

 続けて、手紙を入れた人物は風邪薬の存在を知っていることになる。

 風邪薬を入れた服屋のレジ袋は、当日に店から貰って、その後に薬を入れている。その後はフー君に直接渡しており、他の姉妹の手には渡っていない。

 となればフー君に近寄った時に入れたのだと考えられる。昨日服を渡された後のフー君に近づき、手紙を入れることが可能である人物を思い出す。

 ──口論をした五月。

 ──ランジェリーショップの外でフー君と二人で待っていた四葉。

 そして何より重要なこととして自分達は昨日、フー君かららいはが風邪を引いたことを知らされていない。知ったのは今日のはずなのだ。

 つまり昨日の時点では未来を知らなければフー君が風邪をひく可能性などないことに気が付く。

 

(!!)

 

 自分以外に未来を知る可能性がある人物など、一人しかいない。

 あの日見られたノート。創作ノートだと思ったなどと嘘をついた人物。

 四葉だ。

 四葉は嘘が苦手だから、あのノートを見られた時の言い訳も本当だと馬鹿正直に信じてしまっていた。

 いつの間に嘘をつくのが上手くなっていたのか。何故そんなことをしたというのに名乗り出ないのか。

 犯人を特定できたにも関わらず、次から次へと湧き上がる疑問は絶えなかった。

 

「おい、大丈夫か二乃!?」

 

 そこまでずっと返事をせず黙ってしまったからだろう。少し焦った顔で近寄ってくるフー君。

 これ以上は余計な心配をさせないよう、二乃は平静を務める。

 

「だ、大丈夫だから」

「本当か? 凄い汗だぞ……俺の風邪が移ったか……風邪薬も持ってきてるからお前も飲──」

「本当に、本当に大丈夫だから」

 

 急いで立ち上がり荷物へ駆け寄ろうとするフー君の浴衣の裾を掴み静止する。

 変わらず心配そうな表情をするフー君だが、離す気配のない二乃の手を見て理解してくれたらしい。

 フー君を掴むため膝立ちになっていた二乃の前に、フー君は身を向き直すとしゃがみ込んだ。

 

「わかった、だが薬くらいいつでも渡せるから、辛くなったら言えよ」

「ありがと……」

 

 手紙の存在を知ったことによる動揺が未だに抜けず、膝立ちのまま固まる二乃と、それに相対して向き合ったままでいるフー君。

 流石の二乃も、しゃがんだままの姿勢で何も言わないフー君に疑問を持ったところで、フー君が一つ大きく息を吐いた。

 

「二乃」

「な、なに?」

「こんな時で悪いが、聞いてほしい」

「──!」

 

 かしこまって言うフー君の様子に、直感で二乃は何を自分が言われようとしているのか理解する。

 

「フー君待っ──」

「明後日のキャンプファイヤーの時、俺はお前の告白に返事をしようと思う」

「フー君……!!」

 

 待ち望んでいたはずのその言葉がようやく聞けた時、二乃の心はそれを素直に許容できるほど余裕がある状態ではなかった。

 ただただ、何故こうなった、自分に守護霊的なものがついてるなら自分に似てかなり性格が悪いななど、現実逃避じみたことを考えることしかできず……フー君には何も言えなかった。

 

 

 

 

 二乃と風太郎がそのような会話をしている部屋の扉の向こうでは、寝ぼけ眼でトイレを済ましたが、慣れない部屋までの帰り道に自然と目が覚めてきていた三玖が、二人の会話を聞き廊下で蹲っていた。

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