二乃の人生二周目フー君略奪大作戦   作:真樹

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~幕間~
16_結びの伝説2001日目


 林間学校、最終日の夜。

 風太郎が二乃の手を取り、踊り始めた様子を見下ろす姿があった。

 部屋の中から見下ろす影は四人。姉妹達だ。

 

「おめでとう、二乃……」

 

 二乃に聞こえるはずのない祝いの言葉を述べたのは三玖だ。

 言ってから、窓に背を向けると部屋の扉へと向かっていく。

 震えた声で三玖が言う。

 

「ごめん、トイレ行ってくる。お化粧、二乃が戻ってくるまでに直さないといけないから……」

「私も一緒に行くよ、三玖!」

 

 部屋を出て行く三玖の後を、一花も追って行った。

 部屋には四葉と五月の二人が残る。

 

「良かったです、二乃が悲しむ結果にならなくて」

「だね、五月ももういいのかな、上杉さんは信用できそう?」

「ハッキリとはわかりませんが、でも信じてもいいかもしれないという気にはなっています」

「上杉さんの良さを五月も分かってくれたみたいで何よりだ」

「あなたは最初から彼の味方でしたね、何故ですか?」

「実は私も上杉さんのこと好きだったりして!」

「もしそうだったら二乃がどんな顔をするか……!」

「なんてね」

 

 四葉は五月へと向いて、イタズラっぽい笑みを浮かべて見せた。

 二乃の一世一代の大切な時だというのに、冗談めかした態度に五月は呆れたように、けれど悪い気をしているわけではなさそうに釣られて笑う。

 

「冗談でも二乃の前ではやめておいた方がいいですよ」

「あはは、凄く怒りそうだね」

「まったくです。まあ、今日なら機嫌はいいかもしれませんけどね──私もちょっと失礼しますね」

 

 三玖同様、部屋の外へ向かう五月。

 

「どこ行くの?」

「二乃と上杉君の行く末も見届けましたし、安心したらお腹が空きました。なので夜食を買ってこようかと」

「了解。私はここで待ってるね」

「はい。では行ってきます」

 

 五月が部屋を出て行った。

 見送った後、四葉は再びガラス越しにキャンプファイヤーの方を見る。

 ダンスの時間はまだ続いている。

 ガラス越しでもフォークダンスの音楽は聞こえてきており、二乃達含めて生徒たちもまだ踊り続けている。

 四葉の視線は、その中でも二乃と風太郎の二人にずっと注がれていた。

 遠くに見える二人はずっと、幸せそうな顔をしている。

 二乃などはもうこのまま世界が終わったって悔いがないとでも言わんばかりに笑顔が顔に張り付いたままだ。

 

「二乃、おめでとう」

 

 姉妹さえいない部屋で一人ごちる四葉。

 これでよかったのだと、自分の想いに蓋をしながら自分へ言い聞かせる。

 自分には二乃に対する負い目がある。

 だから二乃を応援すると、心の底から決めていた。

 だから、今の結果は自分の望んだ結果なのだ。

 

「……あれ」

 

 足元にポタリと、水滴が落ちる音がした。

 四葉はそこで、自分が泣いていることに気が付いた。

 どうして自分が泣くのか、自分自身に向けて疑問が投げかけられてくる。

 

「私は二乃を応援するって決めたんだよ……なのに、泣いたりなんてしたら二乃が困っちゃう……!」

 

 けれども、気が付いてからというもの、涙は一向に止まることはなかった。

 涙だけじゃない。

 胸の奥の熱はどんどんと上がっていき、自分の風太郎に対する気持ちが強くなってくる。

 それと同時に、四葉の"実体験した風太郎との会話"が、脳内で勝手に呼び起こされる。 

 

『俺は弱い人間だから、この先何度も躓き続けるだろう。こんなだせぇ俺の勝手な願いなんだが、その時には四葉、隣にお前がいてくれると嬉しいんだ』

『正しい道も、間違った道も、一緒に歩いて行こう。だからお前が良ければ……俺は……好きです。結婚してください』

『ありがとな、お前達と会えてよかった』

 

(ダメ……ダメ、ダメ! 私の中から消えて! 私は上杉さんを……風太郎を忘れるって決めたんだから!)

 

 けれども四葉の思いに反して、思い出は再生される──

 

 

 

 

 

 2023年5月5日

 この日、上杉風太郎と中野四葉改め、上杉四葉が夫婦となった。

 この年の明日、5月6日は新たな季節の始まりだ。

 二十四節季における立夏と呼ばれるこの暦は、夏の始まりを意味している。

 新たな家族として、ますます愛を燃え上がらせていくであろう二人にはふさわしい門出と言えるだろう。

 そんな、夏の始まりに四葉達はハワイへと新婚旅行へ行ったのであった。

 

 

 

 

 飛行機の座席に体重を任せながら、四葉は楽しかったな、と旅行を振り返っていた。

 今、自分は風太郎と姉妹達と一緒にハワイから日本へ向かう便に乗っている。

 私と風太郎の新婚旅行が無事終わったのだ。

 いつもの如く、一筋縄ではいかない旅行だったけど、終わってみれば楽しい記憶ばかりが脳裏に再生される。

 

「二乃、起きてる?」

「起きてるわよ」

 

 風太郎を挟んで一つ奥の席で目を閉じていた二乃へ話しかけた。

 まだ寝ていてもおかしくない夜の時間だったが、二乃は閉じた目を薄く開け、小声で返事をしてくれた。

 

「今回の旅行、付いてきてくれてありがとうね」

「……礼を言わなきゃいけないのはこっちの方よ。あんた達の新婚旅行に勝手についてきたんだから」

 

 付き合い始めてからも、四葉は何度も姉妹達に助けられてしまった。

 今回の新婚旅行だって、せっかく夫婦となった風太郎ともっと愛を深めるための相談にも乗ってくれた。

 きっとこれからも、自分と風太郎は二人だけではなく、姉妹達とも一緒になって多くの艱難辛苦を乗り越えていくだろうと予感していた。

 けれど、そんな幸せな時間は突如終わりを告げた。

 飛行機が墜落し始めたのだ。

 

「お前ら! 急いでマスクを付けろ!」

 

 それが風太郎から聞けた最後の言葉であった。

 必死に神様にお願いした。

 私はいいから、どうか風太郎と姉妹のみんなだけでも助けてほしいと。

 願って、願って、願い続けたまま、視界が真っ暗となった。

 

 

 

 

「追々試不合格。中野四葉さん、あなたを落第とします」

「……え?」

 

 気が付くと自分は立っていた。

 そして飛行機の中にいたはずだというのに、どこか別の場所にいる。

 それに目の前にいる女性。

 

(今なんて言った?)

 

 落第と言われた気がした。

 そんな言葉、久しく聞いていないし、状況だって意味不明だ。

 けれど、考えているうちに女性にも見覚えがあることを思い出してきた。

 

(黒薔薇女子にいた頃の先生だ……!)

 

 そして気づく。

 自分もまた黒薔薇女子の制服を着ていることに。

 髪が昔のように長いことに。

 

(まさか、これって)

 

 漫画で読んだことがある。主人公が死ぬと、過去や異世界に移動してしまう話だ。

 自分は、タイムリープしてきた? 

 ようやく自身の状況に整理が付き始めた頃、先生に対しては何のリアクションも取れていなかったこともあり、先生が言った。

 

「ショックかもしれませんが、現実です。話は以上ですから、荷物をまとめに出て行きなさい」

 

 退室の許可が出たこともあって、四葉は職員室から飛び出すと昔の記憶を頼りに廊下を走った。

 一直線に向かったのは、当時の自分達の教室だ。

 あんな事故があったのだ、自分だって動揺している。

 けれどフィクションでそういった話もあることを知っているおかげで、なんとか考えにまとまりがついた。

 しかし姉妹達はどうだろうか。

 突然の出来事にパニックになっているかもしれない。

 

(もしかしたら風太郎だって……!)

 

 だから四葉は、まずは姉妹達の安否を確認するために走ったのだった。

 

「一花!」

 

 教室の近くまで来た時、廊下で一花の姿を見かけた。

 鏡で自分の姿を見た訳ではなかったので確認できていなかったが、やはり一花も若いころの見た目をしている。

 大声で呼ばれた一花がこちらに気が付いた。

 

「四葉? そんなに慌ててどうしたのさ?」

「どうしたって……大丈夫!? 怪我はない!? パニックになったりしてないよね!? あの飛行機事故の後、何が起きたか私なりの考えを説明す──」

「飛行機事故って、なんの話?」

「……は?」

「というか四葉の方がめちゃくちゃ焦ってるじゃん。何があったか知らないけど、お姉さんが相談に乗ろうか?」

 

 そう言う一花の様子は、確かに平然と落ち着き払っていた。

 その様子はまるで何も知らないかのようだ。

 一花の様子に、四葉はまさか自分だけ戻ってきてしまったのではないかという不安に駆られた。

 だったら、もしそうだったら……"私の知ってる姉妹達はどこへ行った"? 

 タイムリープものの話にだって、作品によっていくつか派生がある。

 過去へ戻ると、世界そのものが巻き戻っているケース。

 過去へ戻っても、戻る前の世界はそのまま続いているケース。

 もし、もしも後者で会った場合、姉妹と風太郎は全員死んでしまって、自分だけ戻ってきた? 

 

「そんな、嘘だよ……」

「四葉?」

「嘘だ!」

 

 一花の問いかけも届かず、叫ぶ四葉。

 向こうから見れば、理由もわからず様子がおかしくなっている四葉に対して一花は心配そうにしていたが、四葉の叫びに目を丸くする。

 

「四葉!? ねぇほんとにどうしたの!?」

 

 けれども四葉は反応できない。

 自分はなんてことをしてしまったのだという自責の念が脳内を埋め尽くしていたから。

 元々、新婚旅行の行先をハワイにしたいと言い出したのは自分だ。

 いつものように五つ子で行先を決めた時、バラバラに指された中でハワイを選んだのは自分だったのだ。

 選ばれた候補の中から、当然のように新婦の意向が尊重された。

 だから"あの事故に巻き込まれたのは自分のせいなのだ"。

 なのに、あの事故から逃れてきたのが、その自分だけとはどういう了見か。

 絶望という感情を、これほど強く感じたのは初めてだった。

 

 そんな一花と四葉の後ろから、廊下を走る音がした。

 

「四葉!」

「二乃?」

 

 反応できない四葉の代わりに、一花が返事をした。

 目線だけを後ろへ向ける四葉。

 そこには二乃だけでなく、三玖と五月もいた。全員、やはり若い。

 二乃はここまで走ってきたせいか、四葉のすぐ後ろまできて立ち止まると、膝に手をつき肩で息をする。

 けれど、それも少しの間で、四葉に向き直る。

 

「先生から聞いたわよ! あんた落第したって!?」

「え!?」

 

 初耳というように一花。

 

「だから勉強しなさいって言ったじゃないのよ! あんたずっと部活ばっかやって……どうすんのよこれから!」

「私も教えようかって聞いたのに……」

「とにかく、ちょうど五人とも揃ったのですし、一旦落ち着いて話し合いを──」

「うるさい!」

 

 五月を遮って四葉は叫んだ。

 落第などどうでもいい。どうせお父さんが手配して風太郎がいる学校に行くんだ。そんなことはもう知っている。

 今重要なのは、やはり一花と同じく何も知らない三人の方だ。

 心配されるべきは自分ではなく、姉妹と風太郎の方だ。

 

「そうだ……風太郎、風太郎は……?」

「四葉!?」

 

 気が付くと同時、四葉は再び走り出した。一花の脇をすり抜け、学校の外へと向かう。

 風太郎に会って確かめなければ。

 もう一度彼と出会わなければ……! 

 けれども──

 

(もし、覚えてなかったら……)

 

 駆けてた足が徐々にゆっくりになり、そして止まる。

 会ってどうしよう。

 もしも彼も姉妹達のように記憶を失っていたら、彼の目の前に現れるのは変なことを口走る頭のおかしな女だ。

 そんなことになれば、この先もしも二度目の人生を送ろうとした時に障害となる。

 自慢の姉妹達皆が彼のことを好きになってしまった中で、自分を選んでもらえた奇跡が起きなくなってしまう。

 そんなのは、嫌だ。

 そう考え至ると、ならば今自分が抱えている悲しみはどうしたらいいのかと、行き場を失う。

 よろよろとした足取りで、たまたま目に入った女子トイレに入ると、個室の便座に突っ伏した。

 最早、立っていることすら難しかった。

 

 閉まっている便座の蓋に頭を乗せると、思い出されるのは事故の前のことばかりだ。

 高校生の時、彼と初めてしたデート。

 大学生の時、彼がしてくれたプロポーズ。

 結婚式の後、新婚旅行で彼と一夜を共にした初めての──

 

 これからのことだってあった。

 一緒に住んで。仕事を始めて。彼と愛し合っていくうちにきっとできたであろう、私と風太郎の──

 

 全部、全部なくなってしまった。

 

「ああああああああ!!」

 

 あふれ出る感情のまま、絶叫する。

 自責の念と、全てを失った悲しみと、様々な思いが洪水のように浮かんでは流れていき、自分というものが形を失っていく感覚がする。

 その時だ、力任せに叫んだ拍子に、自分の髪が揺れた。

 常に視界の端でちらちらと揺れていたその長ったらしい髪が、憎いとすら思う。

 

(私の髪は、こんなに長くない!)

 

 風太郎が好きだと言ってくれた髪はもっと短かった。

 ポケットにいつも入れている化粧ポーチから、小さなハサミを取り出すと、自分の髪を鷲掴みにして力任せに切った。

 小さなハサミでは大した量が切れず、二度、三度と繰り返していくうちにトイレの扉が開く音がした。

 続けて自分のいる扉を開いたままの個室へと歩いてくる音がする。

 足音と一緒に聞こえたのは一花の声だ。

 

「やっと追い付いたよ四葉。もう私じゃ追い付けないんだか……何やってんの四葉! やめて!」

 

 個室の床にへたれこみ、乱暴に髪を切っている四葉の姿を見た瞬間に一花は血相を変えて四葉の手を掴んだ。

 しかし、四葉は掴まれた手を振りほどこうと暴れた。

 

「離して!」

「駄目だよ! 意味わかんない! 本当にやめて四葉!」

「いいから離して! お願いだから離してよおおぉぉぉ!」

 

 

 

 

 あの後、四葉は追い付いてきた他の姉妹達にも取り押さえられ、救急隊が駆け付けるまでそのままだった。

 落第しただけで異常なほどに取り乱したと周りからは思われ、病院で精神検査をすることにもなった。

 結果は問題なく、マルオの手引きもあって一般の病棟で検査入院となるころには四葉も大分落ち着いていた。

 あれだけ暴れたにも関わらず、マルオが裏で黒薔薇女子の理事と話をつけていた転校という形での退学手続きも変わらず取り仕切られ、晴れて自分達は旭高校へ転入することになった。

 このころになると、四葉の考えはあるものへと変わっていた。

 

(私はもう一度、同じ高校生活を送って風太郎と結ばれるんだ)

 

 そのために、か細い記憶を頼りに何とか二度目の高校生を演じた。

 隠して、演じるだけではおかしなところも出てきて、転入前の夏休みの間には嘘も平然とつけるようになってしまった。

 それでも、何とか姉妹にも疑われないまま転入の日となり、ついに自分は風太郎との再会の時を迎えたのだ。

 食堂で彼が落としたテスト用紙を拾う。

 これを届けるのが、私の最初の出番だ。

 

「貸しなさい、四葉」

 

 そこで、するはずのない声がした。

 

「え、二乃……?」

「どうせさっきの冴えない男子が落としたんでしょ。突き返して来てやるわ」

 

 そう言って少しの会話の後、自分がするはずだったことを二乃がやってしまった。

 今日は上手く当時を再現できてたというのに、どこかでミスをしたのだろうかとこの時は思った。

 けれども、その後もおかしなことは何度も起きた。

 

 

 

 風太郎の家庭教師の初日、二乃は彼を追い出すために睡眠薬を盛らなかった。かわりに四葉の部屋へ来るなり、

 

「えっと、あんたって転生とかタイムスリップとかする漫画に詳しかったりする?」

 

 と、前世では読んだことなど一度もないような本をリクエストしてきた。

 

 

 

 風太郎がテストを出してきた日は、

 

「採点終わったぞ! すげえ合格だ! ……二乃だけな!」

 

 姉妹達と同じく頭が悪いはずだった二乃が高得点を取った。

 自分は今も"わざと"馬鹿のふりをしているというのに。

 この時には、もしかして二乃も自分と同じなのではないかと思い始めた。

 

 

 

 そして確信に変わったのは、花火大会の日だ。

 最近、二乃が自分と同じような漫画を読むようになったから、純粋に借りようと部屋へ入った時、机の上に無造作に置かれたノートが目に入った。

 

「見ないで!」

 

 すぐに後を追ってきた二乃によって奪われほとんど読めなかったが、それでも中に書かれていた情報は間違いなく、あの日々のことだった。

 

 

 

 それからだった。四葉の考えが変わったのは。

 自分は、風太郎と姉妹を殺してしまったという取り返しのつかないことをしている。

 本当は自分に、もう一度風太郎を愛する資格などないのではないかとも考えてしまっていた。

 そんな中で、私の知る前世の二乃が戻ってきた。

 嬉しかった。本当は名乗り出て抱きしめたかった。

 けれども二乃は、四葉が潜伏していることも知らずに風太郎へと告白までしてしまった。

 いや、知らないからこそ告白してしまった。

 ここで自分も生まれ変わっていると言えば、二乃を苦しめてしまう。

 だから四葉は自分の心を殺すことに決めたのだった。

 自分が姉妹達を殺してしまったのなら、自分も罪を償うべきだと考えて。

 だから四葉は、林間学校の最後の時まで、二乃に協力したのであった。

 

 

 

 

 四葉の意識は過去の記憶から、林間学校へと戻ってくる。

 今、眼下の校庭ではもう、二乃と風太郎が踊っている。

 風太郎はもう、二乃のことを好きになってしまっているのだろう。

 結ばれて幸せそうにしている二人を見て、四葉の心は、抑えきれなくなった。

 

「やだ……やだぁ……捨てないで、ふうたろうぅ……」

 

 目の前の光景が、自分さえも望んで勝ち得た戦果が、今は認められない。

 それがどれほど醜い考えなのかわかっているのに、止められない。

 そして、苦しさのあまり逃げ場を求めた四葉の脳裏に、今の世界でした二乃との会話が思い出された。

 二人で夜の本屋へ漫画を買いに行った日。

 初めて自分が二乃を応援すると、本人へ伝えた日に二乃から言われた言葉。

 

『四葉、あんたも後悔のない青春を送るのよ』

 

 その言葉が、まるで免罪符のように胸に張り付いて離れてくれない。

 だから四葉の覚悟は、捻じれてしまった。

 

「ごめん……ごめんね、二乃」

 

 二乃へ、風太郎との恋を応援するといった言葉は嘘ではない。

 

「私、やっぱり風太郎を諦められない」

 

 心の底から応援するつもりであったし、結ばれた時には祝福するつもりであった。

 

「だから、戻ってきた時にもしも二乃と風太郎が付き合ってなかったら……取るね」

 

 だから今、嘘に"なってしまった"二乃との約束は、なかったことにした。

 

 

 

 結婚式のあの日、役目を果たした一度目の結びの伝説。

 彼女の黒い決心に呼応して、それは再び目を覚ました。

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