二乃の人生二周目フー君略奪大作戦   作:真樹

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21_つまみ食い_午前の部

 二学期の期末テストが無事に終了した。

 前世の頃であれば二乃と五月の喧嘩に加え、四葉までもがやや暴走気味だった陸上部へ常時助っ人として駆り出されていたせいで碌に勉強ができなかったが、今回は何事もなくテスト期間を勉強に費やせた。

 テスト返却が行われた後の土曜日。五つ子全員と風太郎はいつものように中野家のリビングに集合していた。

 一花を除いた四人はそれぞれ、自身の点数を発表すべく、点数が記載された細い紙の帯を握っていた。

 最初に点数を開示したのは二乃。当然の如く圧巻の高得点。風太郎でさえ舌を巻く点数であった。

 

「お前の脳を他の馬鹿どもに分けてやりてぇ……」

「言いたいことの意味はわかるけど、その言い方ちょっと気持ち悪いわよ」

 

 続けて三玖。二枚目の紙が置かれる。

 

「四葉や五月より一足先に赤点組から脱出か」

「ぶいっ」

 

 小さくピースしてみせる三玖。

 流石というべきか、前世でも最優秀だったこの子も一足先に赤点回避を達成した。

 逆を言えば、二乃も本格的に勉強を教えるようになってあれだけ姉妹たちと一緒に勉強したのに、希望が持てたのは三玖だけなのだが。

 

「どうして私たちは赤点だと決めつけられているのですか!?」

「前日まで勉強見てやってたんだ、だいたいの点数は分かってる」

「でしたらここで発表してる意味とは!?」

 

 続けて四葉。三枚目の紙が置かれる。

 

「あははは、お恥ずかしながら……」

「数理英が赤ね。もっと頑張りなさいよ」

「何故上杉さんじゃなく二乃からの辛口コメント……?」

「どうせフー君は強く言えないからよ」

 

 言いながら横目で風太郎の顔を見る。

 図星のようで、気まずそうな顔をしていた。

 しかし、口を開いたのは風太郎ではなく──

 

「ごめん、私のせいだよね」

 

 と、風太郎と同じような顔をして言う一花。

 四葉の点数が低い原因は、風太郎に一花の家庭教師を続けさせるため、四葉も一緒になってバイトを始めたことが原因だと思っているのだろう。

 

「あんたのせいでもないわよ。自分の夢のために休学を選んだんでしょ」

「そうだ。お前は悪くない。俺が四葉を巻き込んで他にもバイトなんか始めたから」

「フー君もそこまで。後ろ向きなあんたなんてらしくないわよ。一花の復学の可能性を残してくれたんだから、感謝の気持ちしかないわ」

 

 二乃の言葉に同意するように頷く三玖と五月。

 自分の赤点が原因で謝罪の応酬が始まったことに申し訳なさそうにしながら四葉が頭を下げる。

 

「そうです、一花も上杉さんも何も悪くありません。全ては私がお馬鹿なばかりに──」

「それはそう」

「あれぇ! 私にはフォローないのかな二乃!?」

「だから勉強しなさいっつってんでしょ!?」

「やってるってぇ!」

「あの、そろそろ私の分も出していいですか……?」

 

 恐らく自分も赤点があるから早くゲロって楽になりたいのであろう五月が、控えめに手を当てながら割って入ってきた。

 話を遮っての申し出のせいで逆に注目を集めてしまったことに、その後すぐに気が付いたようでいたたまれない面持ちをしながら、テーブルの上へとおずおずと紙を出してきた。

 

「数学だけ赤か、まあ惜しかったな」

「点数も28、後ちょっとじゃない。次はきっと合格できるわよ」

 

 揃って同情的なコメントを述べる風太郎と二乃。

 元々前世のころだって、二学期の期末テストで赤点回避できた姉妹は自分含めいなかった。それに比べれば後2点を一教科で取ればよいだけなのだから、本当に惜しい。

 五月は元々真面目だし、二乃もそれほど心配はしていなかった……のだが。

 当の五月本人は目を伏せ、唸っていた。

 

「うううう……! 何故ですか、四葉のようにバイトをしているわけでもなく勉強だけに取り組んでいるはずなのに……! どうして私はこんなに駄目なのでしょうか!?」

 

 わぁっ、と両手で顔を覆う五月。

 隣に座る四葉がオロオロし始める。

 点数発表どころではない空気となった場に対し、風太郎はといえば。

 

「ちなみに、今回のテスト問題を一花にも受けてもらったんだが──」

「ちょっと待った! あんたこの状態の五月をこのままにして普通話進める!?」

「そんなこと言ってもできることなんて一つしかないだろ。勉強しろ」

「うわでた、フータロー君節」

「久しぶりにあんたのノーデリカシーぶりを感じたわ……」

 

 言いながら頭を抱える二乃。

 五月が落ち着くまで待ってから、一花がマイバッグから五枚のA4サイズの紙を取り出した。

 学校で正式にテストを受けたわけではない一花は、点数だけが書かれた紙の帯は持っておらず、代わりに風太郎が転記した採点結果付きの五教科の答案を出したのであった。

 そして、結果を知る風太郎を除いた四人が答案を上から見る。

 この時、三玖の答案を見た風太郎が妙な言い回しをしたのはこれが原因かと理解した。

 

「おめでと。やるじゃん」

「ありがと三玖。ふふん、お姉ちゃん面目躍如なのだ」

 

 三玖に続き、赤点回避をしていた一花。腰に手を当て胸を張っている。

 同時にようやく泣き止んだはずの五月が再度顔を覆った。

 冷静に三玖。

 

「五月が泣いた」

「やはり私はダメな子なんです! 所詮お母さんのフリをしたってただの真似事! 四葉と同レベルなのですぅ!」

「しれっとひどいね五月!」

 

 予想外な死角からの横やりに致命傷を負う四葉。

 五月をなだめながら、そういえば前にもこんなことがあったなと二乃は思い出した。

 あれは学園祭前の入試判定が出たころだった。あの頃には教職を目指すことを決めていた五月であったが、結果は芳しくなく、入試判定はD、それに加えてあの頃の風太郎は学園祭の実行委員の仕事で忙しかったから相談もできず、偶然会った自分を前にして突如爆発したのだった。

 確実に成長はしているのだからよかろうと二乃からすれば思うのだが、思いのほか他人と比べてしまう性格らしい。

 

 結局、その日の家庭教師が始まったのは五月を宥め終えてからだった。

 テストの復習に重点を置かれた授業が行われ、この日は既に知っての通り一花も帰宅していたため、一緒に授業を受けることができた。

 日が暮れ始め、風太郎の授業も終わった後、二乃は風太郎を見送りに玄関まで一緒について行った。

 

「今日もお疲れ様」

「ああ」

「聞いていいかしら?」

「なんだ?」

「今回も結局、全員赤点回避はできなかったわけだけど……家庭教師、辞めないわよね?」

「……? 何だよ急に。このタイミングで辞めるとかあり得ないだろ」

「そうよね……よかった」

 

 風太郎の返事に、二乃の胸は大分軽くなった。

 彼はそう言うものの、自分にとってはあり得る話だったから怖かった。

 前回の風太郎はこの二学期の期末テストのタイミングで、辞任を申し出ている。あの時は家庭教師としてだけではなく、姉妹たちの問題にも巻き込んでしまって風太郎を精神的にかなり追い込んでしまったからだ。

 対して今は自分との関係もあるし、先日三玖から聞いた話だが一花の模範になると事務所で宣言してきたという話も聞いた。

 だから材料だけで言えば、今回の風太郎が家庭教師を辞めると言い出す可能性はかなり低いはずなのだが、なにせどこで運命のイタズラが発動するかわからない。

 はっきり本人から意思確認ができてようやく二乃は安心できたのであった。

 だから……二乃はもう一つの作戦も決行できる。

 

「ねえフー君、来週のバイトのシフトってもう出てる?」

 

 風太郎と四葉が始めたバイトは清掃のバイトとのことだった。

 バイト先の選定は、バイトを始めると決めた時点で四葉が目星をつけていたところに即断したとのことだった。

 探していると自分に言ってくれれば、かつての自分たちの職場でもあるケーキ屋『REVIVAL』を紹介したのだが、過ぎた話なので仕方がない。

 

「いや、まだだ。今月は出来上がってるシフトに無理やり組み込んでるらしいからな、次の勤務日くらいしか分からん」

「休みたい日とか事前に言ったら調整してもらえそう?」

「言ってみないとわからんが……悲しいことに俺より四葉の方が使えるらしいからな。あいつよりは融通利いてもらえるだろ」

「そう。そしたら、来週の日曜日、空けておいてくれない?」

「この前の祝日は断っちまったし別にいいが、日曜日って何が──」

 

 そこまで言って、風太郎は言葉を止めた。

 来週の日曜日が何の日か気が付いたのだろう。

 けれど、二乃からすれば遅すぎる。言われた瞬間に気づけと言いたくなったが、言わなかった。

 言えなかった。

 今更気づいた。自分の心臓の鼓動もやたら早くなっていることに。

 それくらい来週の日曜日は、楽しみにしていたのだ。

 来週の日曜日。日付は12月24日。

 

「クリスマスデート、しましょ?」

 

 

 

 

 12月24日 日曜日

 世に言うクリスマスイブであるこの日は至る所でクリスマスソングが流され、商店ではセールの旗が掲げられていた。

 また、世間的には親が子供へプレゼントを贈る誕生日以外での貴重な機会でもあるのだが、風太郎の家はご存じの通りドがつくほどの貧乏であり昔からクリスマスという日を祝った記憶はあまりなかった。

 ましてや、デートをして過ごすなんてことはあるわけもなく──

 

「ごめん、お待たせ」

 

 よもや自分が、こんな目の前に現れた美少女と出歩く日が来るなんて思いもしなかった。

 

 午前中のスタートダッシュとして、まずはショッピングモールの広場で待ち合わせをしていた風太郎と二乃。

 約束の時間より少し早くついていた風太郎であったが、あまり待つこともなく続けて到着した二乃は、はっきり言って風太郎の目からしても綺麗であった。

 明らかに服装に気合が入っているのが、ファッションに疎い風太郎であっても察せた。

 コートの素材はカシミヤだろうか、薄い紫色をベースに仕立てられており、首周りを囲むように白毛のファーが備え付けられ、首元ではリボンが蝶結びされている。。

 羽織の下には茶色と黄土色を斜めにストライプにした前綴じのワンピースが着込んである。二色のストライプとは交差するように更に薄い色による二本の糸が飾り縫いにされており、ストライプであることを邪魔しない程度にチェック柄にも見えるようデザインされている。

 腰回りには太いベルトが閉められ、カーディガンの隙間からボディラインの凹凸が強調されているようだった。

 ワンピースの丈は短く、太ももの高い位置で途切れておりほんのわずかに地肌を覗かせた後、白のハイソックスとレザーブーツを履いている。

 手にはワンピースのチェック柄にしている紐と同じくらいの色の濃さをしたハンドバッグが握られており、飾りのボンボンが付いているのが可愛さを強調させた。

 

 以上が二乃の全身像であるが、ここまで読み至るまでと同じくらいの間を風太郎も二乃を見て硬直していた。

 あまりの長時間の硬直ぶりに、怪訝そうに目を顰める二乃。

 

「な、なに。フー君大丈夫……?」

「すまん、少し、見とれてた……」

「──! そう! なら気が済むまで見ていいわよ! むしろもっと見て!」

「ちょ、詰め寄るな! 見えるもんも見えなくなるだろ!」

「あ、そっか」

 

 風太郎の感想とも言えない感想だが、パァッ、と笑顔を咲かせた後接近する二乃に流石に冷静になった風太郎が一歩引いた。

 二乃も言われ、同じく舞い上がっていたところから元へと戻り、一歩下がる。

 すると今度は二乃がこちらを見てきた。

 全体的に首から足元まで品定めする目で眺めた後、にんまりと、イタズラっ子のような笑みを浮かべる。

 やはり林間学校の時と同じ服を着まわすのは良くなかっただろうか。

 

「フー君は私がコーデしてあげた服そのままね。女の子とのデートに同じ服の着回しってどうなの?」

「これが俺の持ってる服じゃ一番マシなやつなんだよ。仕方ないだろ」

「嘘よ。大切にしてくれてるってことよね。嬉しいわ」

 

 一転して、元の快活な笑顔へと切り替わると、風太郎の手を取る二乃。

 手袋は付けておらず、指先は大分冷えていた。

 風太郎の手を取った二乃は、そのまま引っ張って歩き出す。

 

「早速行動開始よ! 今日は一秒だって無駄になんかしないんだから!」

「ああ……!」

 

 いつもなら手を引く立場が逆じゃないのか、くらいの余計な一言を言っていたかもしれないが、言う前に余計だと風太郎も気づけた。

 その代わりというわけではないが、引っ張られるまま二乃の後ろを歩く風太郎は、握られている手を小さく握り返した。

 

 

「見て見てフー君! 今年の冬コーデのトレンドって結構フー君に似合いそうなのよね! これとか!」

「服はわからん」

「私がまた選んであげるから、フー君は着せ替え人形になってればいいのよ!」

「俺はオモチャか」

 

 

「フー君フー君! 交換日記とか良くないかしら! 今ならセットで赤と青の色付きシャーペン芯付きですって!」

「へぇ、色付きのシャー芯なんてあるのか……だが、親父とらいはに死ぬほど弄られそうだな。却下だ」

「フー君ノリ悪い!」

 

 

「これこの前一花が出てた映画の原作小説だって! 買って一緒に読んでみない?」

「お前映画見たから話知ってるんだろ? 俺も本を読む時間があるなら参考書を読みたい」

「今日は勉強の話禁止!」

 

 

「お昼はここのレストランにしましょ!」

「一皿で学食一週間分の値段かよ……上のフードコートじゃ駄目か?」

「ファミリー用のレストランなんだし、このくらい全然安い方よ。お金なら出してあげるから今日くらい良いもの食べましょ。後、前から言いたかったけど学食ももう少し栄養あるやつにしなさい」

「家ではらいはがちゃんと作ってくれるから大丈夫だ」

 

 

 午前中をめいいっぱいかけて歩き回り、昼食も済ました後で風太郎は二乃に連れられショッピングモール外の商店街にあるケーキ屋まで連れてこられた。

 入る直前に看板が見えたが『REVIVAL』という名前らしい。

 家からでも通えそうな場所にあるこの店の存在は知っていたが、店内に入るのは初めてだった。

 扉を開けると、来店の鐘が鳴る。

 まだ日も登っている時間だというのに、すでに店内はそこそこの賑わいを見せていた。店内にいる客は、元々が若い年代を意識した店だからだろうが同じ年頃の子も多く、そして男女一人ずつのペアが多い。

 テーブルの間では慌ただしくウェイトレス達が次から次へと駆けまわっており、中々来店した自分達の元まで案内が来なかった。

 こういった時、短気な二乃がいの一番にでも痺れを切らして手近な店員を荒い口調で捕まえに行かないかと心配したが、見て見ればそんな素振りはなく店内を見回すように首を回していた。

 行き交う店員の顔一人ひとりにまで目を配っているところを見ると、やはり声をかける相手を選んでいるのだろうか。

 

(こいつなら誰が相手でも声をかけそうなもんだが……)

 

 そうしているうちに、キッチンと思われるスペースの方から茶髪の男性が一人出てきた。

 給仕服のような首掛けのエプロンは付けておらず、白で統一された服装と腰巻のエプロンからして調理側の人間に見えた。

 男性は風太郎の前まで来ると、立ち止まった。

 近くで見ると、目の下の異様に深い隈と顎髭に目が向いた。

 その男性は深々とお辞儀をする。

 

「いらっしゃいませ、二名様でしょうか」

「はい」

 

 受付をする男性に応対したのは二乃だった。

 男性の後に続く、風太郎と二乃。入り口の扉がある面に沿った列の、比較的奥にある窓際の席に案内された。

 案内を終えた男性は再度一礼し、注文が決まったら呼ぶように伝えると店の奥へと戻っていった。

 二乃の方は風太郎も気が付いた男性の特徴には気にもしていない風で、一度だけ顔を眺めた後は普通であった。

 

「知り合いか?」

「え?」

「慣れた感じだったから」

「……ああ、よく来る店だから顔を知ってるだけよ。店長さんらしいわ」

「へぇ」

 

 二乃の説明に納得すると、それ以上は大して気にならなかった。

 それよりもずいぶん若く見えたが、それなのに店長だという方が意外であった。

 パティシエというものはそういうものなのだろうか。

 

「それにしてもここに来る前に昼飯食い終わったばかりだろ。よく甘いもんなんか食う気になれるな」

「女の子にとって甘いものは別腹なのよ。なによこの古典みたいな会話」

「いや、俺はただそう思ったから言っただけなんだが……」

「あ……そう。ごめん、最近四葉に漫画をよく借りて読むから、こういう会話って結構ありがちで」

「そうか……」

 

 押し黙る風太郎。()()失言したかと思ってしまった。

 実を言えば、午前中だけでも風太郎はかなり内心では不安に思っていた。

 自分は上手くデートというものをできているのだろうかと。

 一応、先週二乃からお誘いを貰った後で少しくらいは備えておくかと、少ない小遣いからデートのhowto本を買って読んだりした。

 大体書いてある内容を要約すれば、『男は楽しい会話と優しい姿勢でリードしろ』といったことが書かれていた。

 そして、先ほどまでの自分がそれを実践できているかと言えば──

 

(リードするどころか、されてるじゃねえか)

 

 しかも大体の二乃からの提案は金銭的な問題もあり断ってしまっている。

 こんなので二乃が楽しいわけがないだろうということもあり、それで焦っていた。

 

「どうしたのフー君、顔色悪いけど。もしかして、何にも食べられなさそうなくらいお腹いっぱい?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

「はっきりしないわね。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

 こういう時、二乃の性格というのは自分と似ていると感じることがある。

 回りくどいことや面倒なことは抜きに、まずは本題から入ろうとする。

 そんなまっすぐさに、今は甘えることにする。

 

「今日、午前中お前と過ごしてみて感じたことなんだが……やっぱり俺は気が利いたことも言えなかったし、こんな俺と一緒で楽しいか……?」

「楽しいわよ?」

「──!」

 

 おずおずと切り出した自身の不安に対して、一切の躊躇なく即答する二乃。

 むしろ、何を当たり前のことを聞いているのだと逆に聞き返されているようなニュアンスが含まれていた。

 

「まあ、フー君のことだから少なからずそういう不安を持ってそうなのは予想できてたわ。でもね、私達どんだけ一緒にいると思ってんのよ、あんたのダメなとこなんて全部分かった上でこっちは好きになってんのよ」

「……どんだけって、まだ三か月かそこらだろ」

 

(いや、普通はそれくらいあれば仲良くなれるもんなのか……?)

 

 なにぶん、学業に打ち込むと決めた小学6年生の頃以来は友人関係も希薄であったため、その辺の匙加減が分からない風太郎であった。

 しかし、指摘された二乃もやや慌てる様な素振りを見せる。

 

「そ、そうね! 色々あったからもっと長いような気がしてたわ! 気にしないで」

「そうか」

 

 一瞬の沈黙が流れる。

 まだ注文すら済ましていないことを思い出すと、風太郎はメニューを取って眺めた。

 二乃のように別腹を持っていない風太郎はあまり胃袋の余裕もなかったため、二乃に決められてしまう前に自分で軽食を決めてしまおうという考えだった。

 

「私にも見せて」

「……ああ」

 

 テーブルの上に立てるようにして開いてしまっていたメニューを、二乃にも見えるように広げる。

 向かい合わせに座っている自分達二人が見やすいように、座ってる向きと直角になるように置いたメニューは見づらく、少し身を乗り出す必要が出た。

 二乃も同じようにしてくる。

 顔が近づいてくることにドキリとした。同時に今まで気が付かなかったが香水も付けているのか、店内に漂っていた糖分の匂いとは別種の甘い香りが風太郎の鼻孔をくすぐった。

 思わず目線がメニューから外れ、二乃へと向いてしまう。

 こちらがこれほど意識しているというのに、二乃はメニューを向いたままだった。

 その横顔を眺めながら、思う。

 

(もしかしたら、今なら聞けるかもしれないな)

 

 先ほど風太郎は悩みを一つ打ち明けた。しかしそれは、今日限定の悩み。

 前々から風太郎にはもう一つの悩みもあった。二乃は自分なんかのどこが好きなんだろうかというものだ。

 今日の二乃は機嫌もずっといい、聞けば答えてくれるかもしれない。

 その時だった。見すぎたのだろう、こちらの視線に気が付かれた。

 

「ん、フー君も決まった?」

「……! ああ、じゃあこのクッキーにする」

「パティスリーに来たんだからスイーツにしましょうよ。このナッツとキャラメルのケーキとかどう?」

「こんなデカいのは今は入んねえ」

「なら半分こしましょ。決まり! すいませーん!」

 

 風太郎の返事を待たず店員を呼びつける二乃。

 忙しそうにウェイトレスを右往左往している一人が近寄ると、二乃は二つのケーキを注文した。

 注文票への記入を終えたウェイトレスは一礼すると去っていく。

 

「二等分にするんじゃなかったのか? 今二つ頼んだろ」

「一つは私専用よ」

「つまり一個半お前は食うと……ふと──」

「フー君」

 

 風太郎の言葉を遮った二乃の顔面は晴れ渡るような笑顔であったが、額に青筋が浮かんでいた。

 直後、ギリッ、という歯ぎしりの音も聞こえる。

 せっかくの空気を壊したくないと怒りを全力で抑えているのがありありとうかがえた。

 

(また俺は失言を──!)

 

「失礼しました」

「よろしい」

 

 テーブルの上で頭を下げる風太郎。

 二乃もこらえていたものを吐き出すように一息つくと、腕を組んだ。

 顔を少しだけ上げ、表情を伺うようにしながら風太郎は言う。

 

「さっきの話の続きなんだが、聞いてもいいか?」

「なに?」

「お前が俺を好きになってくれた理由って、なんだ?」

「また直球な質問ね。そういうのは察するもんじゃないかしら」

「俺ができると思うか?」

「無理ね」

 

 再び身を前へと乗り出してくる二乃。

 

「だからいいわ、教えてあげる」

「……」

 

 案の定というべきか、すんなりと教えてくれそうな二乃を前に、姿勢を正す風太郎。

 背もたれへ体重を預け、二乃に正面から向き合うようにすると、店内も広く見渡せるようになった。

 

(ん……?)

 

 そこでようやく、視界の端に見慣れたものがいることに気が付いた。

 四人の人影。アンテナのように上へ伸びたアホ毛と、悪目立ちするリボン、その他etc.

 

(あいつら……!)

 

 風太郎が顔を上げた瞬間一斉に顔を伏せたりもしたので、ほぼ姉妹達で確定と思ってよいだろう。

 声は聞こえなさそうな距離だが、それでも今からしようとしている話しを考えると──

 

「え、なにフー君?」

 

 今から説明を始めようとしていた二乃に手を突き出して、静止した。

 

「ここは人が多い。やっぱりまた後で聞かせてくれ」

「……別にいいけど」

 

 ちょうどその時、姉妹達と自分を遮るように、テーブル横へウェイトレスがやってくる。

 手には注文したケーキが二つ持たれており、それぞれテーブルの上へと配膳された。

 伝票を置き去っていくウェイトレスを横目に、二乃。

 

「さっそくいただきましょう。午後だって行きたいところ沢山あるんだから」

「今日一日でそんなにいっぺんに回らなくてもいいんじゃないか?」

()()()()()、よ!」

 

 フォークを持ちながら、今日何度目から分からないほどずっと見せてくれていた笑みを、また風太郎へと二乃は投げかけた。




※五等分世界は2017年が舞台ですが、偶然にも2023年と曜日のサイクルが一緒ですので、今年のカレンダーで曜日の感覚は合わせられると思います。
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