二乃の人生二周目フー君略奪大作戦   作:真樹

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5_貴女には絶対に負けない

 とある平日の夜、リビングでは二乃を除いた四人が集合していた。

 二階にいる二乃を気にしながら、抑えた声で一花が姉妹達に言った。

 

「二乃は?」

「夜ご飯食べ終わってから部屋に籠りっぱなし。もしかしたらもう寝てるかも」

「まだ九時ですし、流石にそれはないのでは……」

「ねえ、私たちはなんで集められているのかな?」

 

 姉妹達が集められたのは、一花の招集によるものだった。

 普段はSNSの五つ子用グループチャットでやり取りをしている五つ子達だが、その日は一花から一人ひとり個人宛に連絡がきたのだ。

 

『二乃のことで話したいことがあるから、静かにリビングに集合して』

 

 三玖と五月含め、要件は誰も聞かされていない。

 そのため、四葉の当然の疑問に対して一花は引き続き声を抑えたままで答えた。

 

「最近、二乃の様子がおかしいと思うんだけど、気のせいじゃないよね?」

「それは私も思ってた。あんなに頭が良くなってるのは明らかにおかしい。二乃は私達と同じでもっと馬鹿のはず」

「その言い方は私たちにも刺さるのでやめていただきたいのですが……ですが一花と三玖も同じ違和感を感じていたのですね。実は私も同じでして、学力の件もありますが私としては上杉君に対する二乃の振る舞いの方が気になっていました」

「私が上杉さんと図書室で勉強してる時、二乃は絶対に来るんだよね。しかも上杉さんに勉強を教えてもらってるわけでもなく、一人で自習してるの」

「二乃が……!? 私たちの中で自習するのなんて五月ちゃんぐらいなのに!」

「一花……それは流石に言い過ぎ。私だって前から少しはしてる」

「三玖は私たちの中じゃ一番勉強出来たもんね」

 

 四葉の相槌に、話が逸れ始めてきていると感じた一花はかぶりを振って思考を元に戻した。

 

「とにかく、全員二乃の様子がおかしいことに気が付いてたわけだよね。心当たりって誰かないかな?」

「……残念ながら、私は心当たりがありません」

「私も……」

「そういえば……」

「なに、何か心当たりがあるの四葉?」

「二乃と直接関係あるわけじゃないけど……私この前、会っちゃったんだ……ドッペルゲンガーに!」

「それは私がフータローから逃げるためにやった変装」

 

 先日、風太郎が三玖が授業を受ける気にさせるために、一週間かけて図書室中の本を読み戦国時代の知識を得て、三玖に自分は勉強を教えられる存在だと知らしめるという出来事があったらしい。

 その時、話をする前に逃げた三玖は風太郎の視界から外れた隙に四葉へ変装し、追跡を撒くという一幕があった。

 突如として現れた二人の四葉を前に、風太郎は思わずドッペルゲンガーという単語を口にしたが、その後すぐに三玖は二人の前で変装を解いているし、そもそも四葉は三玖の変装であっても見分けられるため、三玖がわざわざ指摘せずとも冗談であることは四葉本人分かっているはずだった。要するに冗談のつもりだろう。

 しかし、そんな四葉の発言内容とは関係なく、声量に一花の眉が吊り上がった。

 

「ちょっと! 声大きいって! 二階の二乃に聞こえちゃうって!」

「誰に聞こえるって?」

「あ、二乃」

 

 一花が四葉を注意した直後、リビングのテーブルで顔を突き合わせている四人とは別に、階段の方から声がした。

 四人が振り返ると、階段の手すりにもたれかかるようにして二乃が立っていた。

 

「家の中なんだから内緒話なんて出来るわけないじゃない。何よ、私だけのけ者にして、陰口でも言ってたのかしら?」

 

 一花が慌てた様子で立ち上がり、二乃へと弁明する。

 

「そんなんじゃないよ。二乃はもう寝ちゃったかなって思ったから呼ばなかっただけで」

「まだ九時よ? そんなわけないじゃない」

「そ、そうだよね。ごめんごめん、声かければよかったや……あれ? っていうかその服って外行きのだよね。出かけるの?」

「ええ、ちょっと本屋にね」

 

 既にパジャマを着ている四人に対して、二乃の服装は日中出歩く時に着るようなお洒落なものだった。

 五つ子の家の最寄りの本屋と言えば、徒歩で十分程度の距離にある店だ。営業時間も本屋にしては遅く、十時までやっているから間違いないだろう。

 その程度の距離の店に出かけるにしては、やや気合が入り過ぎではと一花は一瞬考えたが、二乃の美意識を加味すればそれほど変ではなかった。

 ついさっきまで、二乃の様子がおかしいという話をしていたせいもあって一挙手一投足が気になってしまうのは流石に良くないな、と自責した。

 

「悪いんだけど四葉、あんた私に付き合ってくれないかしら」

「え、私? なんで?」

 

 四葉からの問い返しに対して少し恥ずかしそうにする二乃。

 

「その、この前借りた異世界のやつの漫画が今日続き出てるらしいのよ……それ買うついでに、他にもあんたのオススメを聞きながら買ってみたくって」

「任せて! すぐ着替えてくるね!」

 

 四葉はリボンをピコンと跳ねあがらせ目の色を変えると、意気揚々と立ち上がり階段を駆け上がっていった。二階からはバタンッという大きな音も聞こえる。

 残された四人の中で、三玖が二乃へ話しかけた。

 

「二乃、異世界系の漫画なんて読んでたんだ」

「ちょっと気が向いてね」

「やっぱり変。今まで漫画自体あんまり読まなかったのに……」

「やっぱり?」

「二乃の様子が変という話を、先ほどまで四人でしていたんですよ」

「ちょっと五月ちゃん!?」

「いいじゃありませんか。誰も心当たりもなさそうでしたし、本人に直接聞いてしまった方がよいですよ」

「……なるほど、そういうことね」

 

 二乃が一花を睨む。

 ついさっき一花は二乃も呼ぼうと思えば呼べた、というような言い訳をしていたが、話題を聞いてみれば意識的に二乃を除外して話そうとしたのはバレバレだ。

 つまり一花は二乃に嘘をついた訳で、それがバレた一花は冷や汗を垂らして目線を逸らした。

 

「べ、別に陰口を言ってたわけじゃないよ~?」

「そういう言い方すると逆に怪しいわよ!? ……まあ、私自身そう思われてるんじゃないかとは考えてたからいいわ」

「自分でも思ってたって、どういうこと……?」

 

 一花の問いかけに、二乃は一瞬押し黙った。

 顔を逸らして、顎に手を当てて逡巡するような素振りも見せる。

 けれどそれは短い時間であり、すぐに三人へと二乃は硬い表情をして向き直った。

 

「この際だから、あんた達には言っておいた方がいいわね」

「なに?」

「私はね……あいつのことが、上杉のことが好きなの」

「!!」

「……え?」

「二乃! 何を言ってるのです!?」

 

 突然のカミングアウトに、三人が同時に目を剥いた。

 その反応を見るように見回していた二乃の目線が、一瞬三玖を見る時だけ止まったように感じた。

 二乃の方は本人に直接告白したわけじゃないにしても、自身の気持ちを打ち明けたにも関わらず、平然とした表情で話を続ける。

 

「私が最近勉強をするようになったのは、全て彼の気を引くためよ。納得したかしら?」

「た、確かに筋は通ってるかもだけど、私たちがフータロー君と知り合ってからまだ一か月も経ってないんだよ? なんでそんな急に」

「急にじゃないけどね……」

「え?」

「何でもないわ。いくら姉妹だからって、好きになった理由まで話さなきゃいけないわけじゃないでしょ。あんた達が私のことを心配してくれてるみたいだから答えを教えてあげただけよ」

 

 確かに二乃の言う通りだ。

 五つ子達は決して恋バナが嫌いではない。むしろ一花や二乃などは好きな方だったが、これまで五つ子達の中から浮いた話が出てきたことはない。

 しかしそれでも、もしも自分が問われる立場となった時に、一から十まで全てを赤裸々に話す義務があるかと問われれば一花もノーと答えるだろう。

 答えるも答えないも本人次第だ。むしろ、姉妹達を慮って自身の恋愛感情を吐露してくれたことに感謝すらすべきだろう。

 急な話すぎてまだ心の整理は付いていないものの、一花としてはこれ以上聞くべきでもないと納得できそうであったが、代わりに二乃へと嚙みついたのは五月でった。

 

「私は納得いきません。二乃、一花も言った通り上杉君と私たちが知り合ってから、まだひと月も経っていません。そんな短い期間で自分の感情を決めつけるのは早いのではないですか?」

「恋っていうのは計画的にするものじゃなくて、落ちるものよ。自分自身の考えすら関係ない、彼のことが好き、そう気が付いた時にはもう手遅れなのよ」

「そうやってハッキリ断言しますが、あなた自身これが初めての経験じゃないですか。その考え自体が誤りという可能性はないのですか?」

「……そうね。恋心に正解なんてないわ。いつ、誰が、どんな風に相手のことを好きになるかなんて誰も分からないことね」

「でしたら」

「でも、私は私が上杉を好きだと理解している。私は今、過程じゃなく結果の話をしているのよ」

「ですから、それが間違っている可能性もあるんじゃないかと──」

「お待たせ! 準備出来たよ!」

 

 扉を開く音が大きく鳴ると同時、五月の言葉を遮って四葉が部屋から飛び出してくる。

 今までの会話などまるで聞こえていなかったらしく、四葉は軽快な足取りで一階へと降りてきた。

 

「あれ? 何か今話してた?」

「何でもないわ四葉。そんな大した話じゃないし。五月、続きを話したいならまた今度にしましょう」

「……わかりました」

 

 二人の会話を聞いていた一花は、最後の五月の発言が堂々巡りをし始めようとしていると感じていた。

 それは二乃も五月も当人同士理解しているのだろう。

 二乃の申し出は、平行線を辿った議論をこの場で続けても不毛であると考えて、日を改めて冷静になろうということなのだろう。

 実際、寝耳に水の話を聞かされたばかりだ。五月が冷静に話を出来ているとは言いきれない。

 二乃の恋愛感情を否定しようとしている五月の発言の根底には、風太郎に対する拒絶の気持ちもあるだろう。

 五月が二乃の申し出に同意すると、二乃は四葉を連れてリビングを出て行った。

 その姿を見送りながら、一花は内心で二乃へ向けていった。

 

(でもね、私が一番変に思っているのは……二乃、あなたってそんな大人びた考え方をする子だったかってことなんだよ)

 

 

 

 

 四葉を連れて本屋に訪れた二乃は、まっすぐ漫画コーナーへと足を運んだ。

 漫画コーナーの本棚の端には、新作を並べる特設ゾーンが設置されている。

 特設ゾーンに並べられた数々の漫画タイトルを端から目を滑らせていくと、目当てだった異世界転生の漫画が見つかった。

 二乃は一冊手に取る。

 

「それにしても意外だよ。二乃が本当にその本ハマってくれるとは思ってなかったや」

「最初のうちは意味わかんなかったけどね。けど何となく眺めてたら自然と続きが気になるようになっちゃったのよ」

「そういうタイプの本は分かりやすさも重要だからね!」

 

 確かに四葉の言う通り、出てくる単語は難解であったが話自体は分かりやすかった。

 特に主人公が基本的に何でも出来て、大抵の局面をピンチにすらならずに突破してしまうのは、転生のことやフー君の気を引くため脳を酷使して疲弊していた二乃にはありがたかった。

 一点だけ気になったのは、主人公がやたらと登場する女の子に片っ端から惚れられていく展開だった。

 日ごろから自分が読んでいる恋愛ものの少女漫画だったら、本編を通してゆっくり自覚していく恋模様が一ページで完結してしまう。それが複数の女の子で発生するのだ。

 自分は男ではないのでそんな頻繁に女子から惚れられてしまうものなのかは知らないが、それでも流石にこの展開は漫画でしかありえないだろうと何度も思ったのだった。

 そしてその度に、

 

(私たち姉妹も結局全員フー君のことを好きになっちゃったのよね……え、私たちとこの作品の子って大差ない?)

 

 と自問自答しては毎度少し凹んでいたのだった。

 目当ての本は見つかったため、本屋に来た目的の半分は達成した二乃は、そのままもう一つの目的を達成すべく本棚の奥へと四葉を連れて入っていく。

 どうせ今買った本も今日、明日には読み終えてしまう。もう少し読んでもいいと思っているため、別のシリーズも買っておきたいのだ。

 今買おうとしている本と似たタイプの本を取り揃えている棚へと向かうと、表紙やタイトルで選び始める。四葉も隣で同じように読みたい本を探し始めていた。

 今回新しく買おうとしている本は、あらかじめ二人とも読みたいと思いそうなのを見繕おうということにしていた。

 本を選びながら、隣に立つ四葉が話かけてきた。

 

「ねえ二乃、私に何か隠し事してない?」

「藪から棒ね。仮にあったとしても、言えないから隠し事なのよ」

「だよね。でも、さっきみんなと話してたことも私には言えないことなのかな」

「……聞こえてたの?」

「ちょっとだけ」

 

 さっき、というのは姉妹達にフー君が好きなのを告白した時のことを指しているのだろう。

 正直、姉妹達に打ち明けるのはまだ先のつもり、というかそもそもそんな予定はなかった。

 しかしいつボロを出してしまったのか、姉妹達から心配されてしまった以上、何かしらの弁明をする必要はあった。

 適当に誤魔化すことも考えてたが、それよりも二乃は自分の気持ちを伝えておくことで、姉妹達へのけん制になればという打算が思いついたのだった。

 三玖はすでにフー君のことを好きになってしまっているが、それでも効果は十分期待できるだろう。

 

(私って、こんなに打算的な女だったかしら)

 

 つい先日、回りくどいことはやめてフー君にアタックしようと決めたばかりであるというのに、また自分はこんなことをしてしまっている。

 実際の精神年齢は二十代であるため、乙女だった当時よりも幾分かは落ち着いてしまっているのかもしれない。

 四葉へと思考の向き先を変える。

 あのタイミングで打ち明けたのも、白状をすると四葉がいないのを見計らってのものだった。

 三玖には悪いとは思うが、現状で二乃が最大の強敵として見据えているのは四葉の方だ。前世の四葉は元々積極的にフー君へアプローチをかける方ではなかったが、それでもフー君のハートを射止めているのは純然たる事実なのだ。

 そんなアピールの少なさで何故フー君が四葉を好きになったのか、それが二乃にとって最大の謎だった。

 

(フー君は五年前の約束の相手が四葉だと覚えてなかった。だから昔のことは関係ないはず。つまりフー君は"今"の四葉を見て好きになったはずなのよ)

 

 たとえ二乃がフー君のことを好きであると知ったところで、四葉ならばこちらに協力してくれる可能性はある。問題はその関係がフー君の目にどう映るかだ。

 元々二乃が読むタイプの漫画、恋愛系の漫画でもそういうことはある。友達の恋を応援しているうちに、応援している側の子を男の子が好きになってしまう展開だ。

 だから二乃はフー君に早い段階からアタックする反面、四葉に対しては下手を打たないよう同じ関係値を維持しようと思っていたのだ。

 しかし、さっきの話も聞かれてしまった以上ごまかしはきかないだろう。ここで無理を通して誤魔化せば、姉妹の仲に影響を出しかねない。

 二乃は今でもフー君に好きになってもらうと同時に、姉妹達を大切に想う気持ちも健在なのだ。

 だから二乃は同じ話を四葉にもすると決断した。

 

「私が上杉のことを好きって話をしてたのよ」

「やっぱり」

「どうして、とか聞かないのかしら?」

「その辺も聞こえてたから……」

「何がちょっとよ!? 全部聞いてるじゃない!」

「ごめん!」

「……別に怒ってはないわ。私だってあんたにだけ秘密にしようとしてたんだし」

「それは何でなのかな」

「あんたに言ったら、フー君にバレかねないからよ」

「私だってそれくらいの配慮は出来るつもりだよ!?」

 

 もう、と言いながら頬を膨らませる四葉。

 四葉に言った言葉は無論嘘だ。

 ちょうどその時、よさげの本を見つけたらしく本棚から一冊取り出すと、パッと表情を明るくした。

 その様子を見て、二乃は内心で少し安堵した。

 

(どうやら。本気で怒らせたわけじゃなさそうね)

 

「みてみて二乃! これとか良さそうだよ!」

「じゃあそれを買っていきましょ。正直私はまだ良し悪しなんて表紙だけじゃわからないわ。あんたのセンスを信じるわよ」

「了解! じゃあお会計してくるね!」

「待ちなさい。一緒に行くわよ。私が買いたいって言い出したんだから、私が払うに決まってるじゃない」

 

 四葉の後に続いて二乃も歩き始める。

 レジで会計を済ませた二人は、購入した本が入った袋を抱えて店の外へと出ると家に向かって歩き始めた。

 

「ねえ二乃」

「今度は何よ」

「もしかして、普段読まない漫画を読むようになったのも上杉さんと何か関係があるの?」

「……」

 

 大正解、と正直に言えるわけがなかった。

 その点を掘り下げようとすれば転生のことも話さなければならなくなる。

 流石の二乃でも、その点に関してだけは何があろうと誰にも話すつもりはなかった。

 信じてもらえる、もらえない以前の問題として、将来の自分たちが事故で全員死ぬだなんてことを言えるわけがないからだ。

 漫画の中で、同じ出来事が繰り返されるなんて話も見たばかりだ。その理屈は少なくとも、同じ漫画を読んでいる四葉は知っているはずだ。

 回避できるかもしれない未来だが、起こりえる未来というだけでもかなりショッキングな話だろう。

 だから二乃は、嘘をつくことにした。

 

「漫画は上杉とは関係ないわ」

「そっか」

「……」

(やけにあっさり信じるわね)

「貸した本のジャンルがジャンルだからさ、まさか二乃って未来から来たんじゃないか、何て思っちゃったよ」

「あんた漫画の読みすぎよ。現実とフィクションの区別ぐらいちゃんとしなさい」

 

 内心、物凄い勢いで冷や汗が出たのは内緒だ。

 

「あはは、流石に冗談だよ。でももし、そうだったらちょっと夢があるなって思ったんだ」

「夢?」

「だって、もしそうだったら二乃は未来が分かってるのに上杉さんに振り向いてもらおうと頑張ってるってことだよね。それって凄いことだと思うんだ」

「別に、凄くなんか」

「凄いよ。だって未来で二乃と上杉さんが結ばれてたとしたら、また一緒になろうって思えたってことでしょ。それって凄い素敵なことだもん」

「……そうね」

「逆に上杉さんと二乃が結ばれてなかったとしても、二乃は未来を変えようとしてるわけだし。それはそれでかっこいいと思う」

「ま、私が好きになった以上、アイツが私以外のやつを選ぶなんてありえないけどね」

「流石二乃、凄い自信だね」

 

 実際のところは、自分で言った事のはずなのに剃刀のように自分を傷つけた発言だった。

 目の前を歩く四葉が、よもや選ばれたとは夢にも思っていないだろう。

 対する四葉は立ち止まり、くるりと回ってこちらを向いてきた。

 

「二乃、私は二乃を応援するからね」

「……ありがとう」

「でも、この前図書室に一緒にいたから分かってると思うけど、きっと三玖も上杉さんのこと」

「好きでしょうね」

「どうするつもりなの?」

「関係ないわ。私は、私の恋を貫くだけよ。三玖を傷つけるつもりはないけど、どちらかしか選ばれない以上、私は三玖を蹴落としてでも自分の幸せを掴み取るわ」

「二人とも、なんてわけにはいかないよね」

「当たり前よ。こうなった以上、そこには必ず勝者と敗者が生まれるわ」

(今度こそ、私は敗者にはならない)

 

 四葉と話しながら、二乃は自らの決心をより固くする。

 後夜祭の日、三玖と抱き合って泣いたあの切なさを繰り返さないように。

 その翌日、四葉から自分とフー君の交際を認めてほしいと嘆願された時に感じた己の惨めさを再体験しないように。

 

「きっと私のことだから、今の話を聞かなかったら三玖のことを手伝っちゃったんだろうね」

「でしょうね」

「でも、二乃の気持ちもはっきり聞いちゃった以上、そういうわけにもいかないよね」

「好きにすればいいわ。誰が誰を好きになるのも、それにどう関わっていこうとも、やりたいようにやればいいわ。だけどね」

 

 この時、続けて四葉に言った言葉をこの後ずっと後になってから後悔することになるとは思わなかった。

 二乃もただ、自分らしくあるための発言であったのに、そのたった一言で未来が大きく変わるとは予想もつかなかった。

 

「四葉、あんたも後悔のない青春を送るのよ」

「二乃……それは……うん、考えてみるね」

 

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