ベンケン:シーバスリーダ/主人公。堅物。最後に死ぬ
マルケイ:シーバス1/部下。ノリが軽い。次に死ぬ
ニーノ:シーバス2/部下。新人。丁寧語。最初に死ぬ
ベリウス地方北部。海に面した施設の外周部を三機のMTが滑るように進んでいく。
先頭に一機、追従するように左右に広がって二機の陣形。
「こちらシーバス1。周辺に異常なし」
「シーバス2。こっちも異常ありません」
周辺に警備が敷かれていることを周知するためにわざと専用回線を介せずオープン回線で流された現状報告。
部下たちから届く何時もの通りの内容を受け取ったベンケンは何時も通りの連絡を無線の先に座るオペレータへと伝える。
「シーバスリーダーより管制室へ。ポイント1-2異常なし。シーバス小隊はこのまま所定ルートで巡回を続ける」
無線の出力を落としてから視線をコクピット内のバックモニターに向ける。
映っているのは追従する部下のMT。
動きに違和感。直線的すぎる。
「シーバス1、哨戒作業中だぞ。自動操縦は切っておけ」
MTに備え付けられたAIによる自動操縦機能特有の硬い動き。
長距離移動などによるパイロットの負担軽減のために標準で組み込まれているシステムだが、
襲撃があれば最初に襲われる哨戒担当が使っていて良い機能ではない。
ベンケンは自らのMTを即座に後退させてシーバス1の機体の肩をライフルのストックで叩く。
「ちょ、隊長。ログ! ログが残る!」
無線から届く部下――マルケイの焦り越えと、ACS負荷限界の警告音。
自動操縦によって停止させられていたACSがダメージすら残らない僅かな衝撃で一気に負荷限界を向かえてパイロットに対してがなり立てる。
「服務規程違反だぞ。後で絞られて減給を受けてろ」
それで済むなら安いものだと内心でつぶやいて言葉を続ける。
「どこかの馬鹿が襲撃を掛けてきたらどうするつもりだ。ACSが限界を迎えたMTなんか、弾の一発でお釈迦だぞ。
ルビコンの治安がどれだけ悪いか分かっているか? 死んだら給料も受け取れん」
「いや、でもここBAWSの工廠ですよ。どこの勢力とだって取引してるんですから、襲ってくる馬鹿なんて居ませんよ」
気楽過ぎる部下の言葉に頭痛すら感じ、自然と語気が重くなる。
「そんなわけがあるか。ドーザーの酔っぱらい共がまともな判断をすると思うか。独立傭兵どもは依頼があれば何でもやるぞ。星外企業の連中だって、右手で握手しながら左手で殴りつけるのは当たり前の行動だ。
良いか、あいつ等を信用するな。BAWSが隙を見せれば、何時だってあいつらは襲い掛かってくる。
今は襲わないで居たほうが利益があると考えているだけだ」
取引している相手は襲わない、ルールは守る、そんな思考が僅かにでもあれば、星外企業はルビコンに来てなど居ない。
「いや、そんな隊長心配しすぎですよ。」
だというのにマルケイから帰ってくる言葉は気楽なものだった。
「お前がそう考えるのは止めん。だがな、せめて仕事中は手を抜くな。新人に悪影響だ」
付ける薬は無いのだろう。
諦めを含みながら口を挟んでこないもう一人の部下に対して水を向ける。
ベンケンとマルケイの両者から向けられる、同類で居ないでくれと同類で居てくれという正反対の色を帯びた視線を向けられたMTが身じろぎする。
自動操縦が行われていない生の動きだった。
「えーっと、ベンケン隊長の言ってることが正しいんじゃないですかね。
せめて、仕事中はしっかりしましょうよ」
「ニーノぉ」
「そういうことだ。分かったら自動操縦を切って哨戒に戻るぞ。
お前の処分に関してはガレージに戻ってから決める。
まったく、ニーノがお前に毒されていなくてよかったよ」
マルケイに対して自動操縦を停止して再び哨戒へ戻るように促す。
BAWSの工廠外周を周回しての哨戒任務はまだ半周が残っていた。
「あれ? 隊長、あれって」
哨戒を再開するため、MTの向きを直したところにニーノの怪訝な声が無線を通して伝わる。
ベンケンもまた、その理由を目にしていた。
視線の先に映る青白い光。
自然光ではない。
何かが集まるような――
「避けろ! 襲撃だ!」
喉が裂けるような叫びと共にMTを動かす。
踏み抜きそうな程にコクピット内のペダルを踏み込み、MTが背部のブースターから火を吐き出しながら右へと滑り出す。
急加速に体を押し付けられた中で、ベンケンはそれを見ていた。
まっすぐに伸びる青白い光の線。遠方から放たれた高出力のレーザーがニーノのMTを貫き、爆散させるその有様を。
「シーバスリーダーより管制室へ! 襲撃だ! 敵は不明!」
入ったばかりの新人の命が散る様に苦々しい思いを抱きながら、ベンケンの手はよどみなく動いていた。
無線の出力を即座に最大に変更。そのまま叫ぶように管制室へと異常を報告する。
だが、その無線に答える声はない。
「繋がらない!? ジャミングか!」
近距離にいる
今この時、ベンケン達は孤立していた。
「シーバス2! 撤退しろ! 襲撃を報告するんだ! シーバス2! マルケイ! 撤退しろ!」
ノイズを吐き出す無線機に向かって怒鳴りつけるように命令を放つ。
最悪は全滅して襲撃を伝えられないこと。
わずかな可能性に掛けてMTの姿勢を整え、背部に設置されたグレネードを光源へと向けて放つ。
MTのセンサー範囲外なのか、混乱のうちに移動しただけなのかすら分からず、敵機の姿は見えていない。
それでも目くらましになればよいと装填が終わる端から射撃を繰り返す。
「そうだ、撤退して襲撃を伝えるんだ!」
マズルフラッシュが暗闇を引き裂く中で、マルケイの操るMTが後退する姿を確認し、歓喜の声を上げる。
それでいい、俺を見捨てろ、皆に伝えるんだ。
言葉に出来ない思いがベンケンの脳裏を走り抜け、そして消えてゆく。
見てしまった。
撤退するべく後ろを向いたマルケイのMTを襲うその一撃を。
虚空から現れたとしか表現できない。
障害物などどこにもない場所から光の線が振り下ろされマルケイのMTを捉え焼き切っていく。
見たこともない人型をしたMTが手に握る光の鞭が上から下に振り下ろされ、そして右から左へと薙がれる。
「ステ、ルス――」
目の前で部下のMTが火を噴き、砕けていく姿に反応できない。
管制室に――工廠には何も伝えられていない。
何も気づかずにこの機体に攻め込まれたならば、警備部隊は防衛体制へ移ることも出来ずに全滅する。
「あ、ああァ、アアァァァァ!」
言葉にならない叫びと共に機体を翻す。
抵抗は無理だ。機体の性能が違いすぎる。
逃げるのではない。無線が通じる距離まで辿り付く前に落とされる。
取りえる選択は無かった。
MTのFCSを解除し、グレネードの方針を工廠へと向ける。
犠牲は出るだろう、だがまだマシだった。
ベンケンが引き金を引き、MTから砲弾が打ち出されるその直前にコクピットを激しい衝撃が揺らした。
つい先ほども聞いた警告音。
まだ部下達が生きているときにも聞いた音。
その時は無線越しだった音が、今度は直接ベンケンの耳を叩く。
マルケイを襲った機体とは別のステルス機がバックモニターに映っている。
背後から襲ったステルス機の蹴りがMTにACS負荷限界を超える衝撃を与えてグレネードの発射を阻んでいた。
「くそ、ふざけ――」
末期の罵倒を言い切ることも出来ず、ステルス機の振るう電磁鞭がMTの装甲を焼いていく。
後に残ったのは三機のMTの残骸と、二機のステルス機。
そしてステルス機の姿は空気に溶け込むかのように姿を消し、目前の工廠へと侵入を開始したのだった。