星野アクアが死に戻りの力を手に入れ、カミキヒカルに転生したら?

pixivに投稿したものと同じです。

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何度でも

海風が俺たちの間を走り抜ける。

目の前の金髪を靡かせた男は軽く笑みを浮かべながら星を眺めている。その様子は天使のようでもあった。

 

改めて彼の姿をマジマジと見るとその姿は自分の生き写しのようであった。金髪や長身などの外見的な特徴はもちろんのこと、彼もまた自分と同じであったのであろうか、苦しいこの世からの解放を望んでいる目をしている。まるで復讐に囚われていたかのような。。。

 

これから彼に起こる未来とは裏腹にどこか幸せそうな彼を見て苛立ちが募る。

「いい加減なんか喋ったらどうだ」

遺言が聞きたいわけではなかったがこのまま彼に逃げ切りされるのは癪に障る。

 

「ごめんなアイ。結局君を救えなかった」

彼の口から出たたのは彼女に対しての懺悔の言葉であった。彼に彼女の何が分かるのだろうか。苛立ちが収まらなかった。

 

用意したナイフを取り出し、彼に向かって突き刺す。彼は避けなかった。軽く呻いて崩れ落ち、芋虫のようにその場で悶える。

実に醜い姿であった。先ほどまでの彼の余裕とは違う。自分の生の重みを実感する。今までの自分の人生は無駄ではなかった事を教えてくれる。

 

彼の悶え苦しむ様を見て楽しくなる

 

何度も何度も彼にナイフを突き刺す。ワザと大動脈を外す。簡単には死なせない。

 

だがその無惨な姿に反して彼はもう一度軽く笑みを浮かべ始めた。

俺のことまっすぐ見つめ彼は静かに語りだす。

「俺はルビーも.....あかねも....有馬も...救えなかった....」

意味が分からなかった。なぜお前が彼女らのことを知っている。。?

彼は悶えながら静かに立ち上がり、白い牙を剥く暗い暗い海の方へ近づく。

 

「おい!!!」

声を張り上げるが混乱で体は動かない。

 

「次は上手くやれよ」

そう言い残し目の前の男-カミキヒカル-はこちらを見つめながら崖から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

その後彼の遺体は見つからず彼の死は自殺として扱われ終わった。直筆の遺書が見つかり、自殺で片付けられたのだという。遺書は今まで犯した罪とその懺悔が書き連ねられていた。

数日間は片寄ゆら殺害の件などでワイドショーを賑わせていたが、事件の発展性も見込めずテレビからその話題は消え、彼のことなど世間の殆どが忘れ去っていた。

 

 

全てが終わった。復讐は果たせたがそこに残ったのは虚しさだけだった。

もうこの世にルビーや有馬、あかねは居ない。

 

1人暗い部屋でファンレターを眺めるが、どれも俺の心を満たしてくれるものはなかった。

俺はクローゼットから前々から準備していたものを天井にかける。

椅子の上に立ち、輪になった部分を首にかける。

 

最期に俺はアイのことを思い出しながら勢いよく椅子を蹴り飛ばした。

 

視界が暗くなる。全てが見えなくなる。

 

だが苦しさは感じない。むしろ心地よさすら感じる。

 

その最中俺の耳元からあの憎い少女の囁きが聞こえる。

「全く君はどれだけ自分の命を無駄にすれば済むんだい?」

 

「死に戻りでも出来れば君は上手くやれるのかな?」

 

目覚めれば地獄にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は再び生まれ変わった。前世とは異なり劣悪な家庭環境、いわゆるネグレクト家庭というところに生まれ変わったらしい。父はおらず、母は夜になったらなくなる。碌に食事を与えられず軟禁生活を送っていた。

 

2歳になる頃母が再婚し苗字が変わった。再婚相手も碌な奴ではなかった。ムカつくことがあれば俺のことを殴った。母はそれを止めはしなかった。彼女も最初は止めたこともあったが、そうすれば彼女が殴られた。数回彼女が殴られた後俺を庇うことは無くなった。彼女は結局俺のことより自分の方が大事だったらしい。

 

4歳になる頃母は俺を見捨て一人家を出て行った。無論父は俺のことなど気にかけることなどなかった。俺は孤児院に預けられた。

 

薄々勘づいていたが、どうやら星野アクアが生まれる16年前と同じ流れの世界。そして俺はカミキヒカルに生まれ変わったらしい。

 

 

前世では、全ての元凶であったが裏を返せば自分が何もしなければアイは幸せになれる。そう信じて毎日を過ごした。幸い前前世、前世の記憶の記憶があるため勉強は出来た。俺は捨てられたスマホを手に入れ、前世の経験を元にYouTubeに動画を投稿することで月十数万円の収入を得ていた。

 

12歳になる頃には前世と同様にアイはアイドルになっていた。彼女の輝きはまだ磨ききれてはいないもののこの時点で既にその片鱗を見せていた。その姿にふと前世のルビーのことを思い出してしまう。

 

ルビーは15年の嘘を経た後、より一層アイドルとして輝き、武道館、ドーム、ツアー。

アイの無念を晴らし、アイを超えスターダムへと駆け上がりそして散っていった。

嫉妬であった。ルビーは輝きすぎていたのだ。それはメンバー間に亀裂をもたらし、メンバーの吉住みみによって殺された。世間は悲しみに暮れ、ルビーを失った新生B小町は解散した。ミヤコさんもルビーを失ったショックでおかしくなってしまった。彼女は数日後自殺し社長を無くした苺プロは消滅した。

 

太陽によって生まれたアイドルグループは超新星となり周りを巻き込みながら崩壊した。

 

だが目の前に再び太陽が蘇った。今世でもアイは完璧で究極のアイドルとなり、これがあと数年見れると思うと胸の動悸が止まらなかった。幸運にも関東圏に住んでいたため、アイの生ライブや握手会にも参加することが出来た。

 

こんな幸せが続くと思っていた。

 

 

 

 

 

 

「集団少女暴行殺人事件」

 

被害者は16歳のアイドル-アイ-だった。劇団ララライが主催するワークショップで起こった事件であり、そこには著名な芸能人も複数名参加していた。彼女は海辺で複数回の性的暴行を受けた後手足を縛られ海に投げ込まれ、数日後付近で漁をしていた漁師によって彼女の遺体が発見され、事件が発覚した。

 

そのニュースを俺は直ぐには受け入れることは出来なかった。事件の凄惨さはもちろんのこと、明らかに前世では存在しない事件であったことである考えが俺の頭にちらついたせいであった。

 

カミキがアイを守っていた?

 

そんな荒唐無稽な考えに辿りついた自分が嫌になる。俺がずっと憎んでいた復讐相手が意図的かどうかは置いておいたとしてもその存在が彼女を救っていた事実を俺は受け入れることが出来なかった。

 

ただ茫然と俺は外に出る。真夏の熱気のせいなのか周囲を見る気力はない。

そのせいだったのだろう。

俺は信号が赤のまま横断歩道を渡り始め

 

トラックに轢かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると何故か自分は公園のベンチに座っていた。空は夕焼けに染まり、寒々しい風がふく。急いでスマホを取り出し、時期を確認する。

 

 

事件が起きる5年前に戻っていた。

 

 

これが厄病神が言っていた死に戻りという奴なのか。。でも何故前世のカミキはこの能力がありながらあんな世界に。。?なぜアイを一人にさせた。。?

多くの疑問点はあるがとりあえずまだアイを救える可能性があることに気づき涙と笑みが溢れる。

 

数時間その事実を噛み締めた後どうやればアイを救えるか考え始める。

 

今自分は10歳、ライブは数回行ったことはあるがきっとアイは自分を覚えてはいない。雨宮吾郎も生きているはず。

あかねによれば、前世のカミキは丁度今頃ララライに入団したのだという。俺も前世の演技の経験でオーディションは通過できるだろう。

ただ問題は俺が入ったところでアイを救えるかどうかだ。前回のアイを殺した主犯は上原清十郎と報道されていたが、流石に今の体格で勝てそうにもない。さらに姫川愛莉の存在も気になる。前世と同じであれば来年姫川愛莉に襲われるはずだ。

 

考えることは多いが、とりあえずララライに入団しなければ始まらない。

 

俺はスマホの画面をいじり、劇団ララライのホームページを開く。そしてオーディション申請のボタンを押した。

 

幸い、この頃のララライはあかねが所属していた頃ほどレベルは高くなかった。外部生ではあったが演技力とルックスで金田一に気に入られ、難なくララライに所属することが出来た。ただララライが演劇学校を中心に組まれたことから、外部生に対する目線は冷たい。さらにどこかこの劇団には浮ついた雰囲気を感じる。演劇の内容も他の劇団が扱うようなものではなく個性的なものが多かった。

 

「今日から参加するカミキ君だ。演劇未経験だそうだが才能がある。みんなよろしくやってくれ」

金田一代表から説明が入る。

俺は本来このような浮ついた雰囲気のところは好きではない。しかし俺には目的がある。そんな我儘を言っている場合ではない。

全力で道化を演じろ。少しでもララライに取り入れ。

 

アイを守るために。

 

「どうもカミキヒカルです。これからよろしくお願いします」

口から出た声は前世で憎んでいた彼の声にそっくりであった。

 

 

 

 

 

 

 

俺は劇団に入ってから数日後、ベンチに腰をかけボトルに入った紅茶を飲んでいた彼女に声をかける。

「すみません。今度一緒に食事に行きませんか?」

「あら、まだ10歳なのにそんな大人びているのね?」

彼女は少し驚いた顔で俺を見つめた後、舌なめずりをする。

「愛莉さんの演技は全てを包み込むようで、暖かくて、そんな演技を学びたいなって。それに父も愛莉さんのファンで仲良くしなさいって言ってたので」

彼女のことをまっすぐ見つめながら返す。

 

「ダメです...か?」

上目遣いで訴えかける。

 

愛莉はいわゆるショタコンであった。劇団に入団する気に入った子役に声をかけ、自宅に連れ込む。これまでも2人ほどの被害が発覚しているものの、親が資産家であり、また被害者側も我が子の尊厳より、女性に喰われたぐらいで騒ぐ親というレッテルを貼られるのを恐れ、示談になっている。

そんな生粋のショタコンが親公認で自分に好意を寄せている少年に対して愛莉が惹き付かないはずがなかった。

 

「いいわよ。でもお父さんとお母さんには秘密よ?今日はもう遅いから連絡先だけ交換しましょ?Lineやってる?」

「はい!やってます!」

 

その後何度かの「特別指導」という体で呼び出され、体を触られ、性行為を迫られた。

 

気分が良いものではなかった。

その後何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

呼び出され、道具として使われ、叩かれ、罵られた。

だがそんなことアイを救うためなら些細なことであった。暴行の後はきちんと記録し、カメラを仕掛け全てを記録した。

11歳という年齢を甘く見ていたのだろう。愛莉は避妊などせずに行為を行った。

 

子供が出来たのは、関係を持ってから10ヵ月のことであった。

 

愛莉は当時付き合っていた上原に認知を迫った。上原の方も疑うことなくこれを了承した。この後愛莉は舞台から離れることとなる。

 

愛莉は夫となった上原に悟られたくなかったために俺と距離を置こうとしていたが、一度だけ赤子を見してほしいと頼み込んだ。

姫川さんは赤子の時の自分とそっくりであった。手を差し出すと指を握られ、何処か嬉しそうにする姫川さんを見て罪悪感で胸が一杯になる。

「すまない」

心からの言葉であった。これからの人生のことを考えると二度とその笑顔は見れなかった。目を瞑りながら姫川さんの髪を引き抜く。

愛莉には何が起こったのかわからないだろう。

泣き出した姫川さんを後ろに俺はその場を立ち去った。

「また来ます」

姫川さんに向けた言葉は届いたであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワークショップが始まった。外部から人集めをするためらしい。

参加者は総勢40名。年齢も5歳から65歳まで様々な方が参加してくれた。

その中にアイはいた。一人寂しく佇んでいるが、その雰囲気は隠しきれていない。

B小町のメンバーと共に参加しているはずだが、どうやら噂に聞く通り、メンバー間の仲は劣悪で上手く溶け込めていないらしい。

 

前前世の頃は推しとして、前世の頃は親として見ていたが、今回はどう接すれば良いのだろうか。

 

「こんにちは。緊張してる?」

内心バクバクなのは俺である。母親を口説いた男性などこの世の中にいるのであろうか?

「あっいえ。。はい。。少し。。。」

戸惑うような推しの声に心を癒されながらも平静を保ちながら続ける。

「どうしてこのワークショップに参加しようとしたの?」

「佐藤社長がアイドルは演じるものだ!!演技を学べば上手い嘘がつける。嘘がつき続けていれば、それはいつか真実になるんだ!!とか言ってて。。。それで。。」

(とんだ誤謬だな。あと佐藤じゃなくて斎藤社長な)

「へぇ〜アイドルやってるんだ。なんてグループ?」

ずっと前から知っていることではあるが彼女に問いかける。

「B小町って名前」

「へぇ〜小町か。確かに君可愛いもんね。」

「?」

彼女はB小町の由来を知らないらしい。ようやくBの秘密を知れると思ったのだが

少し落ち込みながらも会話を続ける。

「そういえば、他のメンバーは来てないの?」

「あそこに。。。」

少女が指差した先には上原と談笑する6人がいた。

「君は混ざらなくて良いの?」

「うん。。。ちょっと仲が悪くてね。」

彼女は目を背けながら答える。

「そっか〜じゃあもうちょっと僕と一緒に話していようよ」

 

 

 

 

 

 

「〜でそれでミヤコさん怒らせちゃって、次の日加藤社長は日の丸の赤と白入れ替えた弁当持たせられて、メンバーの前で泣きながらミヤコさんに謝ってたんだよ〜」

「それでそれでミヤコさんったら謝罪する気持ちがあるのならその弁当食べ切りなさいって本当鬼畜だよねぇ〜」

 

数日を共にした時には彼女はステージ上の推しでも、母親でもなく、一人の可愛い女子高校生になっていた。

「苺プロ楽しそうだね?僕も入ろっかな」

「えー社長こわいよぉ?見た目はただの金髪ヤクザだもん。それに君入ったら取り合いになっちゃう。君は私のものだからね〜」

そう少女はニヤつきながら言う。

どうやら心を開いてくれたらしい。何か欠けている同士、悲惨な家庭環境を歩んできた同士何か惹きつけるものでもあったのだろうか。

 

 

 

 

そんな日々を過ごしつつ、遂にワークショップも残り2日となった。

 

最終日はワークショップで学んだことを活かして近くの市民ホールで劇をするらしい。

題材は「天岩戸伝説」

アイは天鈿女命役、俺は天之手力男神役となった。最終日に備え2人で公演に向け練習する。

「ねぇねぇ、この神様エロすぎじゃない?芸能の神とか言われてるけどこんなのただのA◯女優じゃん!?」

推しのアイドルであり母親がそのような言葉を発しているのは聞くに耐えないが今は一人の少女である。優しく流す。

「あのなぁ。アイドルだって似たようなもんだからな。少しは警戒心持った方が良い。この前のライブの映像なんて〜」

「ふーん、この前のやつ見たんだぁ、、エッチ」

「だからそういうことじゃなくてな」

 

そんな談笑ばかりであまり演技の練習もせずに1日がすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

最終日アイは来なかった。

 

急遽代役を立てて挑んでものの、集中出来ずにその日の演技はワークショップ前よりも幾分酷いものになってしまった。

 

後日アイが溺死体となって見つかった。

海岸に落ちていた遺書には

 

こんな私で許してください。ごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめなさい

 

と書かれ、精神異常の末の自殺として片付けられた。

 

ただ自分は他殺だと確信している。

手紙の隅に「助けて」と書かれていたのだから

 

「ごめんなアイ。次は上手くやるよ。」

 

そう独り言を呟きながら俺はアイの沈んだ海に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワークショップ開催1日前まで戻って来た。なるほどある一定のポイントまで来ると引き返せなくなる感じか。あまりこの能力を頼り過ぎてはいけないらしい。

前回アイはワークショップ最終日前日に海岸で溺死。俺と別れたあとだから18時以降だろう。容疑者は絞り込みにくいが死体の状況から大人の男性が関わっていたのは確実。おそらく上原さんだろう。考えるだけで今すぐ殺したくなってくる。

 

ただ長期的スパンで見ると直接手を下すのは良くない。アイが今後生存出来る保証はないし、もし仮に死んだ際、牢屋に入れれられていては取り返しのつかない事態になる可能性がある。

 

そんなことを考えながら明日に備え眠りについた。

 

翌日のワークショップは初日と同じメンツ、内容だった。

前回との反省から上原の様子を伺う。

「どうですか?上原さん誰か有望そうな子はいましたか?」

彼は品定めをするように周りを見回したあと6人で談笑する少女達を指差す。

「B小町の子達かな。あの6人グループの。どの子も可愛くてしっかりとしている。ああいう子達は役者に向いてるね」

「あれ?7人じゃなかったでしたっけ?」

とぼけたふりをして俺は確認する。

「え?6人って聞いたけどなぁ。会ったのも6人だったし」

どうやらアイと他メンバーとの仲は本当に良くないらしい。

「あそこにいるアイって子も含めて7人ですよ上原さん」

一人台本を持ちながら必死に練習する彼女を指差す。

「へぇあの子が。どうしたんだ気になってるのか?」

「えぇ。とても」

彼の少しニヤつきながらした質問に俺は素っ気なく返した。

 

上原さんとの会話を終えた後アイに話しかける。

「こんにちは。どう演技には慣れた?」

 

「う〜ん。まだちょっと。。。アイドルとして舞台に立つのとは全然違ってちょっとまだ。。」

彼女はまだ不安な表情を浮かべている。

「やっぱりアイドルには嘘をつくのは難しい?」

「ううん。嘘をつくのは難しくないの。私なんて嘘で出来た人間で、嘘をつくのは得意だからね⭐︎」

あまりの可愛さに思わず頬が緩む

「あっ君ちょっと反応しちゃったでしょ〜ダメだぞ可愛い年下の悪い女の子に照れちゃ」

「君の方が年上だよ。」

「えぇ!!びっくり!!年上かと思ってた。どことなく女の子の扱いに慣れた50代男性の雰囲気が漂ってたもん!!」

少し心を開いてもらえたようだ。それにしても彼女は何処か勘が鋭い。

 

そんな会話を続けながら初日のワークショップは終了する。

 

アイとは前回とは異なり程々の距離を取りながら過ごしていた。

それは3日目の出来事だった。

「アイマジでうざくない?」

「だよね。アイツマジ調子乗ってる。」

「カミキだっけ。あの金髪イケメン口説いててさ-マジ自意識過剰すぎ」

旧B小町の面々だった。こういう嫉妬は真面目に聞いてても疲れるだけだ。アイもその辺は分かっているはず。

そそくさとその場を立ち去ろうとした時に聞いた言葉で動けなくなった。

「上原さん使って、ボコらない?」

空いていたピースが嵌った気がした。

前々回は集団的な暴行によりアイは殺された。ただ報道により開示されたのは上原さん一人であった。俺は残る加害者も男性と俺は決めつけていた。

混乱した頭を整理し終えた後には、彼女らはもう既にそこを去っていた。

 

 

 

ワークショップも中盤に入る。劇の練習にも本格的に取り組み始めた。

ただ最近アイの態度がよそよそしい。というか自分を拒絶している。近寄ろうとしてもすぐに離れていく、目も合わそうとしてくれない。

ルビーや有馬に同じようなことをされていたのである程度耐性はあるが流石にキツイ。

 

 

どうしたものかと海辺を散歩をしていると、夕暮れに照らされながら砂浜で黄昏ている彼女を見つけた。気づかれないように後ろから彼女に近づき声をかける。

「こんなところにいたら風邪を引くぞ」

「あっ!みつかっちゃった⭐︎」

ステージ上の彼女のようでもありながら何処かもの寂しげな表情だった。

「あれ。君ってそんな喋り方だったっけ?」

「こっちが素だよ。俺は人と触れ合うのがそこまで得意じゃないんだ」

「それにしては女の子口説くの得意そうだけどぉ」

「変なこと言うなよ。」

「なんか君って私に似てるね。人に好かれるために自分を隠してる。」

「そうかもな」

数分間俺たちは黙ったまま海を眺める。

今日の海は静かであった。牙を抜き青く佇む海がそこに広がる。

 

 

 

「私さぁ。アマノウズメノミコト?がどうして他人のためにあそこまで出来たのかよくわからなくて悩んでるんだぁ」

彼女は海を見つめたまま呟く。

「歌って踊るのは一緒だけど、私は踊ってる最中自分のことしか考えてなくて、ファンのことなんてあんまり考えてない。」

意外であった。俺の知っている彼女は常にファンの方を向いていた。

「大好き!!とか愛してる!!とか叫んでるけど、実際好きとか愛してるって気持ちがどんなんだかもわからない。

 

アイシテルって嘘も吐き続けてたら真実になるって言われたけど、アイシテルって言いながら考えてるのは自分を愛して欲しいってことだけ。

 

でもファンが愛してるのは、仮面を被っている自分、本当の自分じゃない。。」

波に消え入るような声で彼女は不満を漏らす。

 

「ファンのことってどうやったら愛せば良いのかな。」

今まで聞いたことがなかった彼女の弱音に少したじろぐ。

 

 

「・・・まず名前を覚えてやったらどうだ?好きの反対は無関心って言うだろ?人の名前を覚えれば、その人を認識出来る。認識出来れば、その人の良いところも悪いところも分かる。そうすれば好きになることもあるんじゃないか。」

人に諭せるほど自分は愛を知っているわけではないが、言える範囲のことだけ率直に言った。

「そっかー私今までファンのこと、ゲームのNPCみたいにしか認識してなかったかも。。

 

相談乗ってくれてありがとうね⭐︎」

彼女が少し自信を取り戻したようで自分も嬉しくなる。

 

「そういえば、なんか最近俺のこと避けてないか?」

しばしの沈黙の後単刀直入に切り出す。

「あーバレちゃった?実はさぁうちのメンバーが君の悪口言ってるの聞いちゃって。自分の悪口だったらどうでも良かったんだけど、自分のせいで君が悪く言われるのが嫌でさ。」

彼女は静かに揺れる海を見つめながら言った。

「俺のことは気にしなくて良い。人目が気になるんだったら連絡先交換して電話で話そう。」

「えっ良いの?私毎日電話しちゃうかもよ?」

彼女は何処か嬉しそうに俺に尋ねる。彼女の反応には何処かさりなちゃんのようなもの感じた。

「それくらい良いよ。君の方が大切」

そうあっさりと答えると?少女は頬を少し赤く染める。

 

 

「君って名前なんて言うんだっけ?」

「カミキヒカルだよ。」

「OK。覚えた。あとこれ私の電話番号。またね!!カミキ君」

彼女は砂浜を去っていった。

 

 

 

 

その後毎日のように連絡しあった。

だがワークショップも残るところ2日のところで彼女はワークショップに来なかった。

メッセージの既読もつかず、電話も繋がらない。怖くなり、自分もワークショップを抜け出し彼女を探す。

 

彼女は暗く月が照らす中、あの海にいた。

彼女は自分を見つけると泣きそうな顔でこちらに近づいて来る。

「ごめんなさい」

弱々しい声で彼女は呟く。

「携帯。海に落としちゃって。。」

嘘だ。あれだけ大事そうに持っていた携帯を海に落とすわけがない。

「それくらい大丈夫だ。ほらこんな格好で居たら風邪引くだろ。」

優しく彼女に話しかけながら掴んだ彼女の手は、細くそして冷たかった。

 

 

 

 

濡れている彼女を自宅に連れ込み、シャワーを浴びせる。服は男物ではあるが緊急時のために保管していた未使用のものを置いておいた。

 

彼女はシャワーを浴びた後でも目が虚であった。

「ねぇ。なんでカミキ君はこんなことしてくれるの?」

突然の問いかけに戸惑うが落ち着いて答える。

「君が大切だからだよ。」

「それって好きってことなのかな?」

どうなのだろうか?自分でもアイのことをどう思っていたのかよく分からない。推しのアイドルであり、母親であった頃は好きと言う感情ではなかったと思う。

「愛してる。。のかな?自分でもよくわからない」

思っていたことを素直に伝えた。

「君からこんなに大切にされて、愛されているのに。。。自分は何もお返し出来てない。君を愛せてない。。」

逆に彼女を不安がらせてしまったらしい。彼女の声は震えている。彼女を抱きしめ落ち着かせる。

 

「だからごめんね。こんなことしか出来なくて。」

そう言いながら彼女は俺の肩を持ち口付けをした。

 

 

 

拒絶することも出来た。だけど彼女の想い拒絶したら彼女が何処か遠くへ行ってしまいそうで怖かった。そのまま拒絶することが出来ず最後まで行ってしまった。

我ながらダメな男だと思う。

 

深い深い夜の中俺たちは愛し続けた。

 

 

 

気づけば朝になっていた。

 

隣で彼女は何処か満ち足りた表情で寝ているが、それが昨夜の出来事が夢でなかったことを証明している。

朝食を用意していると彼女が起きてきた。

「おっはよー⭐︎」

まるで昨晩のことは何もなかったかのようないつもの彼女であった。

「昨日はお楽しみでしたねぇ うりゃ」

彼女はニヤつきながら俺に抱きつく。

「おいおいやめろって、ほらご飯出来たから一緒に食べるぞ」

腰にまわった彼女の手を解く。

「はーい」

何処か不満の残るような声で彼女は答える。

 

2人でテーブルに座り手を合わせる。

「「いただきます」」

白米と味噌汁、焼き魚のシンプルな朝食。

目の前の彼女はそれをパクパクと箸を止めることなく食べ続ける。

「私さ、人の家で出る料理ってあんまり好きじゃないんだよね。なんか怖いから。

でもなんだろう。ヒカル君の出したのだと不思議とそういうの感じない」

底に溜まった味噌を解きながら彼女は話す。

「意外だな。劇団で出された弁当も全部ペロリと食い上げてたじゃないか」

「やっぱり食欲には勝てないからさ⭐︎」

 

 

「「ごちそうさまでした」」

2人で手を合わせ食器を片付ける。

「そういえば勝手に俺の家泊まって大丈夫だったのか?」

食器についた泡を流しながら彼女に問いかける。

「ワークショップ中はホテル泊まりだから大丈夫だよ。それに誰も私の事心配しないし」

隣で俺が流し終わった食器を拭きながら彼女は答える。

「壱護さんがいるだろ」

「あぁ社長!そうだったそうだった」

彼女は食器を全て拭き終えるとバックから仕事用の携帯を取り出し確認する。

「うげっ朝から12件も着信あるし、どんだけ私無くなったこと好きなのよ」

そう言いながら彼女は社長に電話をかける。電話越しに彼は怒鳴っていたが、それに彼女はごめんごめんと見えもしないジェスチャーをしながら呑気に答える。

「社長が早く戻って来いってさ。あっそういえば服どうしよう!?」

「もう洗って乾かしておいたぞ」

昨日のうちに洗っておいた服をカゴから取り出す。

「さっすがヒカル君、私のこと分かってんじゃん!!」

そう言いながら目の前で着替え始める。

「おいっあっちで着替えて来いよ」

「良いじゃんべつにぃ。もう裸見てんだし」

「そういう問題じゃないだろ」

うだうだいう彼女を脱衣所に押し込め着替えさせる。

着替え終わった彼女は自分の荷物を集め、玄関に向かう。

「まったねーヒカル君!!」

軽い足取りで彼女は家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

俺は家を出た彼女を見送ったあと、すぐさま準備を始める。

彼女の精神状態は回復させたが、彼女の危険は根本的には未だ解決していない。B小町は不仲であるし、上原もまだ始末していない。

 

もう少し万全の状態で行いたかったが彼女にいつ危険が及ぶかわからない。

俺は引き出しからボイスレコーダーとDNA鑑定の結果報告書を取り出し、ボイスレコーダーは苺プロ事務所に、鑑定書を上原自宅に送付した。

 

そこからの動きは俺の予想以上に早かった。斎藤社長はすぐさまボイスレコーダーの記録に残っていた3人を解雇、上原は翌日に一家心中を図り死亡した。

ワークショップは無論中止。姫川さんは金田一代表が引き取ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

数日後の連絡会の後、俺たちはまたあの海岸に来ていた。

「あーあ。なんかやばいことなっちゃったね。メンバーも悪口言わなくはなったけど、ちょっとよそよそしくなっちゃったし。。。」

彼女は遠くで白波を立てる海を見つめながら呟く。

「別に悪口言ってた奴なんて気にすることないだろ。」

「良くないよ。私はずっと仲良くしたいと思ってたし。あぁ前みたいに仲良く話せないかなぁ」

少し申し訳ないことをしたと感じつつも、アイが守れたのなら良かったと感じる自分が居た。

 

 

「これでヒカル君ともお別れかぁ。寂しいなぁ」

彼女は俺の手を名残惜しそうに掴みながら呟く。

「そうだな。アイドルに男の影があるのは良くない。携帯での通話も極力控えた方がいい」

「はぁ。。。アイドルって難しいなぁ。ねぇヒカル君はアイドル辞めたら会いに来てくれる?」

彼女は寂しそうな声で俺に語りかける。

「俺に会うためだけにアイドルを辞めてほしくはない。アイドル活動に一区切りついたら真面目に考えてやるよ。」

「一区切りってどれくらい?」

「やっぱりドームじゃないか?」

「ヒカルのイジワル。。。」

彼女は右手で砂をいじりながら俺の方をじっと見つめる。

「アイならあと5年もすれば達成できるさ。」

「よし⭐︎ヒカル君の為なら頑張っちゃうぞぉ⭐︎」

そう言いながら彼女はヒョイと立ち上がった。

 

「あとアイ。もし子供が出来てたらどうするつもりだ?」

その場を去ろうとする彼女に一応の確認をとる。

「え?もちろん産むよ。だってヒカル君との子供だもん。」

彼女はあっけらかんとそう答えた。

「ヒカル君の子供を持つ幸せとアイドルを持つ幸せ。普通は片方かもしれないけど、どっちも欲しい!」

 

「星野アイは欲張りなんだ⭐︎」

その目はゴロー時代に見た彼女の姿にそっくりであった。

 

あぁ眩しいどこまでも君は眩しいな。

 

「そうか。分かった。子供とはしばらく会えないだろうけど、君のところの斎藤社長ならなんとかしてくれるだろう。

 

あともし産むのならば宮崎総合病院に行ってほしい。あそこは親戚の信頼出来る医者がやっている。」

 

雨宮吾郎 

 

俺の前々世であり信頼できる産科医だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後彼女との交流は殆どなくなった。お忍びで彼女のライブを見に行ったりしたことはあったものの、彼女は周りのファンと同様に自分を愛してくれていた。特に接触をしに来ないのも彼女なりの優しさだったのだろう。

 

別れた4カ月後彼女は活動を休止した。1回で出来るわけがないと自分に言い聞かせていたが、そう簡単に運命は変えられないらしい。

 

彼女を支えるためにも劇団ララライを脱退し、勉学に励んだ。金田一代表も事情を察してくれてていたため引き留めはせず、「OBとしていつでも来てくれ、歓迎する」と優しく声をかけ送り出してくれた。

 

そんな日々を送っていると、前々世で彼女が出産をする日になっていた。

落ち着かない時間を過ごす。時計を見ながら「あぁ雨宮吾郎が死んだのはこのくらいの時間だったかな」と思い返し、ふと疑問に感じる。

雨宮吾郎が死ななかった場合この世界はどうなる?

俺は星野アクアの生まれ変わり、星野アクアは雨宮吾郎の生まれ変わり、現に雨宮吾郎と俺が並行で存在しているのだからパラレルワールドの解釈で過ごして来ているが雨宮吾郎と星野アクアの存在は切っても切り離せない関係である。雨宮吾郎が死なない場合は星野アクアは誰になるのであろうか。

 

そんな不安は現実のものとなった。

 

 

 

 

電話がかかってきたのは朝4時頃だった。その電話はアイからだった。

 

「ごめんね。ヒカル君」

 

そんな謝罪の言葉から始まる。あの日のことを思い出し俺は固まる。

彼女は滅多なことでは弱音を吐かない。吐いた時にはギリギリの状態になるまで。

 

「子供流産だったんだぁ」

 

おかしい

 

前々世ではそんなことなかった。雨宮吾郎の医療ミス?そんなはずはない。俺がいなくても、生まれた現場で医療ミスなどするはずがない。

ふと前世で疫病神が言っていた言葉を思い出す。

「魂のない子供。。?」

本来死産だったのが、雨宮吾郎の死によって生まれることが出来たのか?

 

「やっぱり君との間に愛はなかったのかな。。」

 

そんな言葉を最後に電話を切られた。

急いでかけ直すも繋がらない。

慰めの言葉をかけなければならないはずなのに、何も言えなかった。

 

数時間後にはニュースに速報が流れた。

 

「アイドル-アイ-飛び降り自殺」

そのニュースを駅で確認したあと俺はホームから飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

起きたのはベットの上だった。

スマホを確認し、絶望する。アイが出産する前日であった。神奈川から宮崎まで今から行ける資金も時間もない。

 

考える。何度も何度も思考する。

考え続けて出た結論は最初から知っていたものであった。

 

前世で何度も夢に出てきた憎い顔。復讐のために彼の住所、高校、電話番号、合法、違法を問わず彼についてのことは何度も調べた。

忘れるはずがなかった。

 

 

「もしもしリョースケ君はそちらにいらっしゃいますか?」

 

 

電話をかけ終わり項垂れる。あれほど嫌っていた過去を。あれほど憎んでいた彼と同じことをしているじゃないかと。

運命に抗えないのかと絶望しながらも、その運命と同じように進むことを望む自分が居た。

 

その後アイからの電話はかかってこなかった。

 

前々世の自分を殺すことに躊躇がないわけではなかった。だがアイと自分の命を比べた時天秤は常にアイの方に傾いていた。

それに星野アクアとしての人生はそれなりに充実していた。後悔などなかった。

 

 

 

 

それから3年後大学へ入学した。前々世でも、前世でもなりたかった外科医の道も考えたが、転生、死に戻りのことを調べ、今後に活かすために理学部に進学した。

 

だが結局のところ徒労に終わった。

物理学、生物学、医学、心理学、神話、伝承学、超心理学。あらゆる分野から調べてみたが結局のところ神の気まぐれ。何よりサンプルが少なすぎた。

分かったのは死に戻りをすればするほど、巻き戻す時間が指数関数的に縮まっていることくらいだった。

それに気づいたあとは経営学などを学び、大学生活を過ごす。

 

そんな中彼女から再び電話がかかって来た。

 

「ねぇ。子供も大きくなったんだよ?一度会ってみない?」

彼女の声は既に大人びており、アクアとして聞いて来た声と同じであった。

「よりを戻すのはドーム終わってからだって前言っただろ。」

「いや、よりを戻すとかじゃなくてさ。。。」

 

淡々と子供たちが父親が誰か知らずに寂しがっている。そして挙げ句の果てに父親は存在せず処女受胎で私たちは生まれたと言い始めていることを彼女は伝えた。

 

それを聞いて絶望した。ルビーと俺の会話のせいで連絡をとって刺されたのか。。。?そんな下らない理想のために俺たちはアイを殺したのか?

深い懺悔に襲われる。

 

「うちの子は凄く賢いし、分かってくれるよ。」

 

何を分かってくれるのだろうか。客観的にみれば4年間子供を放置したダメな父親である。ルビーにどんな目で見られるか考えたくもない。

 

「お前のこと家族だなんて思ってないから」

 

「所詮血が繋がってるだけの他人でしょ」

 

恐ろしい光景が目に浮かぶ。

 

「お願い!!私も悪かったからさぁ。許してよ。。」

だが推しの涙ぐんだお願いには敵わなかった。

 

「分かったよ。ドームって来週だっけ?ドーム終わったら会いに行ってやるよ。」

 

「うん、新しい住所はね。。。」

 

 

 

 

 

 

 

はぁ。これでアイもドームに立てるのか。

電話を切ったあと部屋のポスターを見つめながら感慨に耽る。

もちろんドームライブのチケットは持ってるし、応援グッズも揃えてある。

俺は主治医で、息子で、恋人である前に彼女のどうしようもないくらいのファンなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーム当日、俺は胸騒ぎが止まなかった。何か重要なことから目を背け続けている気がする。

 

 

今まで復讐に囚われていて気づかなかった可能性。

 

 

アイの事を捨て放置してようやく気付いた可能性。

 

どうして今まで気づかなかったのか。前世のカミキヒカルも同様に俺の立場だったのならアイの事を殺すはずがない。

 

一番大切にしている人を自らの手で殺めるはずがない。

至ってシンプルで今まで目を背けていた可能性。

 

 

 

「出産場所と現住所をリョースケに教えた人物が同一でない可能性」

 

 

人を殺すほど、リミッターの外れた狂信者がアイが活動復帰するまで大人しくしているだろうか?

事務所への脅迫電話。インターネットへの投稿。彼に出来る事は何でもしただろう。

もし仮に彼の行動を目撃していた人がいたとすれば。。。。

 

その狂気を利用したい人が他にいないと何故今まで思えていたのか。自分を叱責するが迷っている時間はない。

 

 

時刻を確認する。アイが刺されるまであと2時間。

 

まだ間に合わない時間ではない。

 

ハンガーにかかっていたジャンバーを羽織り、バイクに跨る。

発作が起きるため避けていたあの場所へ向かう。

 

 

 

建物の前に着く。あれだけ恨んでいたこの建物の欠陥。エレベーター横の非常階段を駆け上がる。

 

 

 

あの階に着くと既に部屋の前に既に白薔薇の花束を持った男がいる。

 

知っている過去。知りたくない未来。

 

扉が開きかける。

 

もう何も考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいた時にはドロップキックを喰らわせていた。

 

 

「え?何してるの?」

能天気な声に苛立ちと安心を覚える。

 

だが、そんな声など無視して彼を羽交締めにする。

 

「ちょっとやめたげてよヒカル。子供の前なんだから。」

 

そこの助けられなかった無能なんてどうでも良いと思いながら、彼の顔面を床に押し付ける。

 

「えーと。そこの君はリョースケ君だっけ?ごめんね。うちのバカがこんなことしちゃって」

彼に戸惑いの顔が浮かんだようにも見えたが無視して彼を拘束する。

 

「ちょっと本当にやめたげてよ。うちのファンなんだからさ」

 

目の前の彼は既に泣き出していた。全てに許しを乞うような声で「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返し呟いていた。

 

「ねぇそんなことより、ドームの入場終わっちゃうよ?今日は来てくれないの?私の晴れ舞台なのに。」

もう抵抗する気力のない彼の拘束を解き床に落ちていたナイフを隠すように拾った。

 

「リョースケ君だよね。もしかしてドームチケット買えなくてウチまで来ちゃったのかな⭐︎ダメだぞー私を見るためにはちゃんとお金払わなきゃ。他のファンが可哀想でしょ?」

彼女は彼に優しく語りかけていた。

彼は答えることはせずにひたすら謝罪を繰り返していた。

 

そんな彼を抱きしめ、「大丈夫だよ〜」と彼を宥める彼女。

 

 

彼女は既にファンを愛せるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

ドームライブは1時間の遅れはあったが無事に開催された。

前世では見れなかった光景。

夢にまで見た光景。

それが今自分の目の前にあった。

 

隣では未だ泣き続けながらも、しっかりと彼女の姿を焼き付ける彼とサイリウムを振り続ける4歳児がいた。

 

彼女のパフォーマンスは今まで以上に輝いていた。一人一人のファンに目線を送り、振り付けも音程もミスらず踊り切る。完璧で究極と言えるアイドルがそこにはいた。

 

 

ライブも終盤になったところでアイが一人ステージに立つ。

 

 

「ここで皆さんに重要なお知らせがあります!!」

 

分かってはいたが聞きたくなかった言葉。これがもう見れなくなると思うと涙が止まらなくなっていた。

 

 

「私のドキュメンタリー映画が公開することが決まりました〜イェーイパチパチ」

予想と違った発言に驚き、涙は既に引っ込んでいた。

 

「本当は来月あたりに発表する予定だったんだけど、気が変わって今発表しちゃいます!!!」

どうやらメンバーも聞いていなかったらしい。ステージ上でヒソヒソと話始める。

 

「えぇタイトルは「20年目の。。あれなんて読むんだっけ?告白?ってやつ。。です!!」

多分このドームの中で話についていけてるのは斎藤社長ぐらいだろう。。。と思ったが斎藤社長もサングラス越しに分かるほど目を見開いていた。

 

えっもしかして独断でやってる?

 

「まぁ言っちゃうとここでアイドルのアイは終了。卒業でーす。」

 

話についていけず混乱する。

 

「みんなにはねーアイドルのアイじゃなくて星野アイを見てほしいと思ったんだ。あっ私の苗字星野って言うんだけどね。」

観客がザワザワしている中でも彼女の声はドーム中に響きわたる。

 

「この映画には私の綺麗な部分だけじゃなくて、汚い部分も詰まってる。だからそれを見てみんなが私を許して、愛してくれるのなら私は星野アイとしてこのドームに帰ってきます!!」

誰も状況を読み込めていない中でドームライブは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

「20年目の告白」

そこには星野アイの全てが詰まっていた。

過酷な家庭環境。捨てられた過去。社長に拾われたこと。初めてのライブ。新規メンバーの加入。そこでのメンバー間でのギクシャク。そして劇団ララライでの俺との出来事。そして子供がいること。

 

全てが語られていた。そこには完璧で究極のアイドルなんていなかった。

 

だけどそこにはメンバーとファンへの愛が詰まっていた。

 

無論ネットは荒れた。裏切られただの、信じてたのに、だの色んな意見が書かれていた。

 

しかし映画のチケットの入手によって手に入る投票券での投票では。

 

 

 

 

 

星野アイの続投に8割越えが賛成していた。

 

映画は一カ月にわたりランキング1位を独占し、彼女の半生を謳った主題歌「アイドル」は全世界でのランキング1位を記録した。

 

 

 

 

 

 

彼女は今も叫び続けている。

 

何度でも。何度だって叫び続ける。

 

「愛してる」と

 

 

 

 

 

 

 

後日談

星野ヒカル

流石にカミキヒカルは嫌だった。苺プロの子会社としてホシノプロダクションを立ち上げ、演技指導を行なっている。

息子が苦しまないよう演技を自ら教え、またアイとどのように出会ったのか。自分は何をしたのか細かく言い聞かせようとするが、最近は避けられている。

 

星野アイ

「カミキアイってめちゃくちゃ言いづらくない?」てなことで星野姓を引き続き使っている。

最近の悩みは巷で「星野アイはファン全員の名前を覚えている」なんてデマが囁かれたせいで、握手会で「覚えてますか?」と聞かれることだ。明らかに初対面のアラビア系の男性まで言い出すのだから困る。

 

星野ルビー

最初はヒカルを嫌っていたが、アイとの出会い。何故今まで離れていたのかを聞いて父として認めている。

何故だか、せんせ味を感じて落ち着きいつのまにかファザコンになっていた。

 

 

星野アクア

目の前で母が刺されそうになっていたのを引き止めていたので尊敬はしているのだが、アイとの惚気話を延々聞かされて嫌になってきている。

 

 

B小町メンバー

情報漏洩の犯人。完璧で究極のアイを卒業なんてさせずに伝説にしたかった。

だが「20年目の告白」を見てアイの真意を知り、今では普通にプライベートでの食事もする仲にまでなる。アイの単独ライブで大はしゃぎする姿が目撃されている。

彼女らもまたどうしようもないくらいファンだったのだ。

 

斎藤壱護

最初ヒカルに挨拶された際ぶん殴りそうになるも、アイを守り、そして今まで何故来なかったのかを聞き納得する。

今では立派な酒飲み仲間ではあるが、最近ミヤコのヒカルへの目つきが恋人のそれなので浮気を疑っている。

 

斎藤ミヤコ

苺プロのベビーシッター兼マネージャー。ベビーシッター役を任されるには癪に障るけど、一カ月に一度、ヒカルとデート出来る褒美があるので頑張っている。


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