狛枝(憑依)in犯罪都市米花   作:超高校級のNeet

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一話

 

 

 身体全体に生じる違和感があった。

 

 そして、後頭部や背中に感じる、ざらついたアスファルトのような硬い感触。両手を伸ばせばコツンと壁に触れる。

 

 何かがおかしい。

 僕は確かに昨日、薄っぺらい煎餅布団で寝ていた筈だった。

 

 一瞬、寝相が悪くて布団から飛び出したのかな? 

 

 と思ったが、生憎と我が家では奥ゆかしき日本特有の文化、畳を床に敷いている。決して、寝ている間に身体の節々が痛くなるような硬質な床ではなかった筈だ。

 

 そう思い、目を覚まして見るとーー

 

 

「ここは……?」

 

 

 そこはどこかの路地裏だった。

 真昼間だというのに、建物の影が差し込み若干薄暗い。

 先程、ざらついたアスファルトの様だ、と称していた感触に間違いはなく、僕は地面に直寝していた。

 

 完全に家中ではなく、外の世界。

 

 身体に優しい寝具が使われていなかった所為か、節々にかかる痛みを堪え、壁を支えにして立ち上がる。

 

 

 ここ、何処なんだ? 

 

 

 明らかに自宅の近所でもない。

 辺り一帯は見知らぬ土地だった。

 

 

 

 何故、僕はこんな場所に居るんだ……? 

 

 

 昨日の事を振り返っても、心当たりはない。

 記憶に残ってる事と言えば、普通に大学に行って、普通に帰宅して、普通にゲームやらテレビを見て一日を過ごした事ぐらいだ。

 

 僕は成人してこそいるが、酒も煙草もしていない。

 やれ最近では路上喫煙やらアルハラやらだが問題になっているが、そんなのとは関係無く、極端に身体が弱いってだけだ。

 

 子供の頃から身体機能が並の人より劣っていたし、病気にも罹り易いってもんで、定期的に病院に通っている。そんな僕が心肺機能を悪くさせる物質を取り込めるはずも無かった。

 故に酔っ払って路上で寝た。という線は考えられない。

 

 だからこそ、無防備に路上でぐーすかと眠りこけていた理由が不明なのだけれど。

 

 

 ……こうして考えても仕方ない、か。

 原因が解明出来ない以上、後回しにするしかない。

 

 

 切り替えが早いのだけが僕の取り柄なのだ。

 

 

 パンパンと両手で顔を叩き、気合いを入れる。

 とりあえず、家に連絡を取らないと。

 きっと行方不明になった僕を心配している筈だ。

 両親は病弱気味な僕に対して、過保護だからな……。

 

 

 

 まずは現在地の把握からだ。

 こんな薄暗い路地裏じゃ、標識も何も無いし。

 

 

 

 とりあえず、人通りのある方へ行ってみよう。

 

 

 

 壁に寄りかかっていた手を離し、足を一歩前に踏み出すと、身体に違和感を感じてしまう。

 

 

 やはり、路上で寝ていた事が響いているのか。

 歩くだけでバランスが掴めず、よろけてしまいそうになる。

 これは帰宅したら母さんに叱られそうだな。

 苦笑しながら、路地裏から出ると今まで太陽を隠していた遮蔽物が無くなり、猛烈な光を浴びせてくる。

 

 

 思わず手をかざして、ソレに気が付く。

 

 

 僕の手って……こんなに細長かったか……? 

 

 

 漠然とした違和感が明確な異常となり、一筋の汗が頬を伝った。

 

 

 改めて自分の服装を確認してみると、

 

 膝裏まである深緑色のコート。

 胸部に何かのマークが記された白シャツ。

 黒いズボンに茶色の靴。

 オマケにお洒落なチェーンなんてものまで装着していた。

 

 僕はこんな服装一度足りともした事が無い。

 しかし僕には一つ、この服装に心当たりがあった。

 けれども現実を受け入れることが出来ない。

 なぜならそれは、とても非現実的な妄想だったからだ。

 

 

 普段より合わない歩幅。

 見慣れない服装。

 気付かぬ間に外で寝ていた異常。

 

 そう思ってしまえば、止めどなく溢れてくる疑問に抗えない。

 

 

「まさか、まさかね……」

 

 

 ありえる筈がない。

 そう言いつつも、震え声すら昨日の僕とは違っている現状に気付き、心中では察していた。

 

 万が一、という言葉もある。

 未だ成長期が終わってなくて、一夜の内で急激に成長しその上で、眠っている間に外に担ぎ出され、無理やり着替えさせられた。

 その可能性もゼロに等しいが、全くのゼロという訳でもない。

 

 

 未練がましく自分に言い訳をするが、近くの店にあったショーウィンドウを覗きこめば一目瞭然だった。

 

 

 

 そこに映っていたのは平均的なモブ顔の僕ではなく。

 

 

 眉目秀麗という言葉が相応しい中性的なイケメンが青ざめた顔でこちらを見つめていた。

 

 

 どうやら、僕はスーパーダンガンロンパ2という作品。

 

 その作品に登場していたキャラクターである超高校級の幸運こと【狛枝凪斗】に僕は成っていたらしい。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーま、なるようになるだろ。

 

 

 

 これがたっぷりと考え抜いて出した結論であった。

 

 

 

 まあ、身体が変貌してしまったのは嘆いても戻らないのだ。

 そりゃ、泣き叫んで事態が解決するのなら、恥を捨てて某国民的アニメに登場する金持ち坊ちゃんのように“ママーッ”とオギャる。

 

 だが現実には何でも解決してくれる青狸など居やしないのだ。

 どうしようも無いなら、次にやるべき事を考えた方が余程有益だろう。

 

 それに、完全にダンガンロンパの世界に入り込んだって訳でも無さそうだしね。

 

 

 ーーダンガンロンパ。

 

 一時期流行ったハイスピード推理アクションゲーム。

 

 その世界は【超高校級の絶望】と呼ばれる存在により崩壊している。主人公達はその超高校級の絶望により、隔離された場所で殺し合いを強要される。

 

 無論、首謀者自らが姿を表すはずがなく。

 モノクマと呼ばれる白黒のツートンカラーで作られたぬいぐるみ型ロボットを操り、主人公達を殺し合いへと誘導するのだけど。

 世界中にも自動殺戮マシーンと化した量産型モノクマが稼働されており、まさに絶望としか言いようがない有様だった筈だ。

 

 

 しかし、この付近ではモノクマが蔓延っていたり、崩壊した建物が見当たらない。よってこの世界は安全なのだろう。

 

 ここはひょっとしたら、本編からしたら過去にあたる時間軸で未だ破壊しつくされていないだけなのかもしれないが……。

 

 世界が安全か、危険か。

 こうして世界の安全性について考えるのも厨二病みたいで少し気恥しいのだけれど、ちょっとした油断が原因で命を落とすかもしれないのだ。

 いくら懸念して損はない。

 

 しかし少なくとも、柱の裏に隠れていたモノクマに背後からグサッと殺られることは無いので、ほんのちょっぴりだけ精神的負担は軽くなった。

 

 

 

 ……一応、今後の予定は決めてある。

 

 それは、この世界が僕が居た元の世界か、ダンガンロンパの世界かは知らないが、両親に連絡する事である。

 顔や声が別人に変貌していたとしても、家族間でしか知らない思い出トークをすれば僕が息子だって事を信じてくれるかもしれない。

 というより、信じてくれなければ困る。

 そうでも無いと、現時点の僕は住所不定の無職になってしまうからな。

 

 

 そうと決めたら、まず、現状把握が優先だな。

 

 

 左右に首を振り、改めて周囲の外観を確認する。

 

 無駄な隙間等なく、ぎっしりと都市ビルが乱立して、 見るものを圧倒させる威厳を放つ。しかし歩道では大勢の人が意に介せず、つかつかと歩いている。

 

 それだけではない。正面を向くと、オシャレな喫茶店や探偵事務所等が当たり前のように存在している。

 

 どれも僕の地元では見かけない光景であり、活気に満ち溢れている事が分かる。

 我が地元では寂れた商店街(大半の店舗はシャッターが降りている)、休日でも滅多に人を見かけない歩道。イベントにはほぼ老人しか集まらない等、これぞ過疎! という感じで満載だった。

 

 子供の頃は都会に良く憧れたものである。

 だから間違いなくここは僕の住む地域ではないのだ。それが分かっただけでも収穫と言える。

 

 

 さて……困ったぞ。

 見知らぬ土地となると、自宅帰宅難易度がハードからナイトメアにレベルアップだ。

 念の為ポケットに手を突っ込みまさぐっても、何もなし。この身体は財布すら所持しておらず、全くの無一文。現状、打つ手無しなのだ。

 

 交番に行ったとて、『身体や顔が変わってて目が覚めたら路地裏にいました! 原因は分かりません!』などと抜かそうものなら、精神科に行くことをお勧めされるに違いない。

 

 故に、交番に行くのは最終手段として、だ。

 

 

 ……お金さえあれば全部解決するんだけどな。

 公衆電話の通話料・交通費・宿泊料等。

 

 自力で何とかしようにも、まずお金がかかる。

 なのに一円たりとも持っていないのだ。

 

 その辺の通行人に話しかけてなんとかして貰うってのも、無理がある。

 

 知らない人に話かけられて、急に携帯電話貸してくれない?  お金でも良いよ! と言われ貸す人は居るのだろうか。いや、居ない(反語)

 

 僕なら真っ先にもにょもにょと断って逃げる。

 

 もしそんな人物が居たらとてつもない善人か、大馬鹿者のどちらかである。

 

 

 

 ーーあれ、もしかして、わりと僕って詰んでる? 

 

 

 

 今更の事実。

 

 だが悲しいことに否定しようがないのである。

 

 

 うんうん唸り、何か良いアイデアがないかと悩み、歩いていると。

 

 突然、足裏に柔らかいものを踏んだ感触があった。

 

 

 何かな、と思い足元を確認すれば。

 寝そべっていた犬の尻尾を僕の足が踏み付けていたらしい。

 

 ギロリ、と敵意満々で睨み付けてくる顔。

 その目は外敵に天誅をくださねば、という怒りに燃えていた。

 

 慌ててばっと飛び退き、犬の様子を伺う。

 

 犬はすっくと立ち上がり、こちらに向かって走り出す。が、電柱に繋げられてるリードのお陰でその場から離れないようだ。

 

 ビンビンにリードを引っ張り、それでも諦め切れなかったのか、苛立ち混じりの咆哮で威嚇してきた。

 

 

 

 あ、危なかった……。

 リードで繋がれて良かった。

 コートの袖で額から出た冷や汗を拭う。

 

 ごめんね。でもわざとじゃないんだ。

 だから許しておくれ。

 

 申し訳程度に謝罪を呟き。

 ワンワンと吠えまくる犬を放置して、その場を離れようとした時。

 

 

 どうやら飼い主の縛り方が悪かったのか。

 犬がぐいぐいと引っ張ったお陰で電柱に繋いでいたリードがするりと外れ、犬は見事解放された。

 

 犬は自分で外したそれをちらり、と横目でみて。

 

 僕目掛けてダーッと勢い良く駆け出した。

 

 

「なんでぇ!?」

 

 

 叫びながら僕は逃げ出した。

 

 

 

 ーー【狛枝凪斗】 通称、超高校級の幸運。

 

 初代ダンガンロンパの舞台、希望ヶ峰学園は全国各地から超高校級と言った才能を集め、育成をしている。

 

 その中で抽選枠、というものがある。

 

 システムは単純。全国の学生からランダムに選ばれた人が超高校級の幸運として、希望ヶ峰学園への入学切符を入手出来るのだ。

 

『運』という不確かなものを研究する為に導入された制度なのだが、彼の幸運は並外れたもので、自分が望む結果を引き寄せてしまう。

 正に超高校級の幸運と呼ぶべきに相応しい人物なのだ。

 

 ここまで聞くと、超能力染みた強能力だと思うだろう。

 

 だが、物事にそう美味い話はない。

 

 幸運には代償が必要で、望む幸運の前に見合った不幸が発動する。

 

 異能じみた才能と独特の思考回路が合わさり、狛枝はダンガンロンパという作品において飛び抜けてイカれた人物だった。

 

 一般人の僕が中身となった今でも、彼の肉体に備わった才能は変わらなかったようで。

 

 

「うあ゛ぁ゛ーーッ!!」

 

 

 お尻にがぶり、と噛みつかれ激痛が走る中。

 彼の才能の恐ろしさを身を以て味わうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目にあった……」

 

 あの後、飼主のおじさんが到来。怒るお犬様を宥め、謝罪と迷惑料として一万円をくれた。

 

 

 こんなに都合の良い事があるのか……? 

 

 燦々と輝く空に万札を掲げ、日本一有名なご尊顔をまじまじと拝見する。

 

 超高校級の幸運の力は凄まじい。

 今迄、開き直りつつも心のどこかで疑っていた部分はあった。

 

 しかし、まるで漫画のような出来事が起きれば、さすがに信じざるを得ない。

 

 

 僕は【狛枝凪斗】になってしまったのだ、と。

 

 

 偶然犬の尻尾を踏み、偶然犬を縛り付けていたリードが外れ、更にその飼い主が欲しがっていた金銭を恵んでくれる確率はどのくらいだろうか。

 

 少なくとも、僕は産まれてきて一度も体験した事は無かった。

 

 

 これが……超高校級の幸運……。

 

 超高校級の名に恥じないつよつよ能力。

 

 

 でも苦痛のデメリットが大き過ぎるよこれ……。

 狂犬に齧られて未だに痛む臀部を擦りながら思った。

 

 

 ま、何はともあれ、金銭を獲得したのに違いは無い。

 払った犠牲(尻の痛み)は大きかったけれど家に連絡する目処は立った。

 

 

 それは、ズバリ。公衆電話を使用するのだ。

 

 公衆電話は大凡の駅、または歩道にも設置されている。しかもワンコイン投入するだけで通話可能という利便性の良さ。

 正に今の僕にとって天の救いと言えよう。昔にこの機械を導入した人を褒め讃えたい。

 

 

 だが万札には対応していないのが残念である。

 近場に建設されていたコンビニで万札を崩し、いくつかの小銭と野口さんを入手した僕は公衆電話を見つけるべく散策した。

 

 

 すると駅にたどり着くまでもなく歩道に公衆電話ボックスがあるのを発見。

 

 丁度使用者は誰もおらず、すぐ利用可能みたいだ。

 

 

 これも超高校級の幸運の能力か……? 

 反動がいつ来るか分からないのが怖い。

 が、今更臆しても仕方ない。

 

 

 えいやっと扉を開き、先程苦労した入手した十円硬貨を投入。

 

 

 

 連絡すべき相手は決まっていた。

 

 それは、専業主婦である母さんだ。

 父さんは現在仕事中の可能性が高く、繋がらないだろう。

 それならば年中自宅にいる彼女にアプローチを取るのがベストな選択だ。

 

 ピ、ピ、ピ、と彼女の個人携帯に繋がる番号を押して、待機すること数分。

 

 

 ーー母さんが電話に出る事は無かった。

 

 

 現在時刻十三時。

 時刻は先程すれ違った人の腕時計で確認した。

 普段なら、今頃ソファーに寝っ転がりながら韓流ドラマでも視聴しているというのに、返答が返ってくることは無かった。

 

 それでなくとも、息子が突如失踪したのに呑気に昼寝している親はいないだろう。

 

 諦め悪く、更に何回かコールしたものの応答は一切ナシ。念の為、父さんの携帯にもかけてみたが予想通り繋がる事は無かった。

 

 

 まあ、薄々勘づいていたが。

 どうやらこの世界には僕の両親は居ないようだ。

 

 

 

 

 バタン、と電話ボックスの扉を閉めて考える。

 

 これから先、どうしよっかなぁ。

 

 住所不定。戸籍不明。経歴の証明不可能。

 誰の目から見ても分かる不審者の誕生だ。

 

 この世界での狛枝凪斗の戸籍はあるかもしれない。

 そして狛枝凪斗には家族がいる可能性もある。

 素直に警察に頼れば、そこら辺の疑問は諸々解決してくれるだろう。

 

 でも戸籍がなかった場合の対応ってどうなるんだ? 

 

 確実に日本人、と分かる容姿なら諸々世話を焼いてくれそうなものだが、生憎と現在の僕は日本人っぽくない白髪と緑眼なのだ。

 

 下手すれば縁もゆかりも無い外国に強制送還されるかもしれない。実情はどうか知らないが、警察に頼るのはネットで調べてからでも遅くはない。

 

 

 なんでこうなったんだろうなあ。

 天を仰ぎ、僕の心とは裏腹に、憎いほど晴れ渡った青空を眺め、ため息を吐いた。

 

 

 

 

 ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 そして僕は現在、パチンコ店に入店し、一財産を築いていた。

 

 

「おっ、またチャンス光った」

 

 

 七の数字を揃え、機械はジャララララッとメダルを吐き出す。

 

 

 うははは! 

 パチンコってこんなにも簡単に出る物なのか。

 出まくり出しまくりの快感が止まらないぜ! 

 

 今までパチンコにハマる人が理解出来なかったが、確かにこれは楽しい。メダルを投入すれば投入するだけ稼げるのだ。

 

 パチンコ凄い!  パチンコ神! 

 

 ヤケクソ気味に心中で叫ぶ。

 

 

 

 

 何故、僕がパチンコに居るのか。

 

 ーーそれは約数時間前に遡る。

 

 

 

 

 ーーネットカフェ

 

 

「身分証の提示をお願いします」

 

「すみません家に忘れたみたいなんで出直します」

 

 

 

 

 

「ああもう身分証明なんて出来ないって。……ん、あれは……」

 

 

 

「ただ今から抽選を始めまーす! 順番に並んでお待ちください」

 

 

「何か人が並んでると思ったらパチンコか……。もう、このお金使いまくってから交番に行くか……」

 

 

 

 そして冒頭に戻る。

 

 

 まさか、ネットカフェに身分証明が必要とはね。

 もはや打つ手無し。

 

 交番に行った時、現金の所持理由を聞かれたら説明に困るし、かと言って捨てるのは勿体ない。

 

 折衷案としてパチンコでお金を溶かしてから行こうと思ったのだが。

 

 

 これが、まあ出る。

 

 メッチャクッチャ出た。

 

 

 隣にいたおじさんが台バンしてる最中も、ジャラジャラ出ていた。

 

 

 流石に積み上がったメダルケースの数的に幸運が関係していると察し、すぐ換金所へ行った。

 

 

「合計十六万五千円になります」

 

 

 

 じ、十六万分の幸運を使ってしまった……。

 

 犬に噛まれて一万なら、一体どんな事故にあってしまうんだ。

 一時の感情に身を任せ、ギャンブルに手を出したのは間違いだった、と後悔が押し寄せてくる。

 

 

 とりあえず、財布は無いので上着のポケットに突っ込んで、店を出た。

 

 

 

 外に出ると、すっかり夕暮れ時だった。

 街道は人も若干疎らになり、学校帰りなのか制服を着用した少年少女らが多めに見られる。

 

 

 それだけパチンコにハマっていたらしい。

 熱中するのはいいのだが、ここまで時間が経過するとは思わなかった。

 

 

 しかし、おまわりさんのお世話にならなくても、自力で生活出来るような気がしてきたな。

 

 ポケットの中に入った万札。

 

 これは超高校級の幸運のお陰だとしても、稼げるには稼げるのだ。

 問題を先送りにしてもいいんじゃないか。

 

 そんな思いが僕の心中を満たす。

 

 

 

 ただ、幸運の反動が怖いけれども。

 今夜ばかりは、適当なホテルでも見繕って、英気を養おう。

 

 

 うん、それがいい。

 誰に見せるまでもなく、一人で頷き、歩き出そうとするとーー

 

 

 

「うおりゃあッッ」

 

 

 突然、ポケットの中に手が捩じ込まれ、中にあった札全てを引っ掴まれ、おじさんが逃げる。

 

 

 それに一瞬ポカン、と惚けたものの、現状を認識する。

 

 

 ぬ、盗まれたァ!? 

 しかもあのおじさん、隣で台バンしてた人だ!! 

 慌てて追いかけるが意外と足が速く、中々距離が詰まらない。

 

 

 

「畜生。金返せ泥棒!」

 

 

 

 そう言っても、おじさんは止まらない。

 脇道は無く、一本道が続いてるのが不幸中の幸いだ。そのおかげでまだ見失わずに居られる。

 

 

 これが幸運の反動なのか! 

 プラスマイナスでマイナスじゃないか。と、悪態を吐き追いかけ続ける。

 

 

 そしておじさんの前に女子高生らしき二人組が横に並びながら歩いてるのが見えた。

 

 

「クソッ。どきやがれ!!」

 

 

 そうおじさんは乱暴に手を払い、逃げようとしてーー

 

 

 

「はァっ!!」

 

 

 女子高生の片割れが素早く動いたかと思うと、拳を鳩尾に叩き込み、おじさんは後ろに大きくぶっ飛んだ。

 

 

 

 は??  

 

 

 

 意識に空白が生まれる。

 

 

 

 目測で軽く4mはぶっ飛んだぞ……。

 あの細腕の何処にそんな力が!?

 

 

 どうやらおじさんは意識を失ったらしく、握りしめていた万札が辺りに散らばる。

 呆けてる場合じゃないと、全力ダッシュをしておじさんが手放した札を拾い上げ、息を整える。

 

 

「すみません。助かりました」

 

 

 激強女子高生に頭を下げ礼を言う。

 謝礼金として金を寄越せと言われたらビビって全額渡す程の強さ。

 ジャッキー・チェンの生まれ変わりと言っても信じるレベルだ。

 

 

「そこの人にお金を盗まれてね。慌てて追いかけていたんだけど、キミのお陰で取り戻せた。感謝するよ」

 

「そーだったんですか! 実は貴方が慌てて追いかける姿が目に入ったもので……」

 

 

 あの一瞬でそこまでの判断が出来るとか、生まれついての戦闘民族かな? 

 

 正直ドン引きレベルの所業である。

 

 かなりの美人だが末恐ろしいものを感じる。

 落ち着いて観察してみると髪型もへんてこりんだ。

 重力を無視した様な、大きな一本角を模したヘアースタイル。

 ガチガチにワックスで固めてる訳ではなく、風にそよいでる所を見ると、天然モノだ。

 

 というより、こんな髪型、見覚えあるぞ……? 

 

 

「ていうか、よく見たら超イケメンじゃない!?  あのー、この後一緒にお茶とかでもどうです?」

 

 

「ちょっと、()()!」

 

 

 女子高生の相方が逆ナン発言をして、角ヘアーの子がそれをたしなめる。

 

 ヘアーバンドで髪全上げオデコ丸出しの女子高生、園子。大の大人を一撃で昏倒せしめるめちゃ強女子高生。

 

 

 僕の脳裏に電流が走る。

 見覚えのある、という見覚えのありすぎる姿……。

 

「こっ、ここここ」

 

 

 

 

「ほら、この人も困ってるじゃない!」

 

「えー、そうかなぁ?」

 

 

 

 名探偵コナンの世界だコレ!!!

 

 

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