狛枝(憑依)in犯罪都市米花 作:超高校級のNeet
「ごめんなさい。園子ったら何時もこんな感じで……」
ど、どどーする?
名探偵コナンの世界に来た事に動揺を隠せない。
不味い。不審がられたら終わりだ。
僕の認識が正しければ、目の前にいる角ヘアー女子高生は“歩く死神”こと主人公、工藤新一のヒロインーー毛利蘭である。
彼女に変な対応をすれば、“妙だな……”と彼氏面探偵に目を付けられる案件になってしまう。
思わず、本能からくる恐怖に一歩後ずさった。
「?」
お、落ち着け! まだ慌てるような時間じゃない。
最低最悪の絶望世界から殺人事件が異常に多い世界になっただけだ。
ダンガンロンパ世界が既にスリーアウトだとしたら、コナン世界はまだツーアウト。ギリギリセーフラインだ。
比較対象がおかしいだけで、僕がいた元世界とは比べるまでもなく危険なのは変わりないが。
ネットの何処かで見かけたサイトによると、米花町殺人事件発生率は日本平均よりウン千倍とかいうクソ倍率らしい。まるでこの世の地獄かな?
だがそれは主人公が居る米花町だけの話。
誰が言ったか、探偵は事件を引き寄せる存在だ。
逆説的に、探偵がいない場所では事件が頻発しないのである。つまり、だ。
僕の灰色の脳細胞がきらりと光る。
ーー他の県に高跳びしてしまえば良いのだ!
他の都道府県なら、そこまで頻発に事件が起きていないだろう。仮に発生していたら東と西の名探偵だけではなく、南と北も名探偵が登場しているに違いない。
希望的観測と言われたらそれまでだが、米花町程の殺人事件は発生しないだろう。多分。
「あのー?」
先程から急に黙っていた為、気まずげに話しかけてくる蘭姉ちゃん。
しかし、僕はもう恐れることは無い。
この町からさっさとおさらばするのだからな!
例えどんな危険人物だとして、関わらなければ害は無い。そう判断しこの場を切り上げようとして、ふと思いとどまる。
だけどーーそうなると、このまま別れるのは勿体ないのではないか?
そんな考えが脳裏を過ぎる。
無論、危険なのは重々承知だ。
けれども、折角昔から見続けていた作品のヒロイン達と話せるチャンスなのだ。
今後会う予定は一切無いんだし、今お喋りする位なら問題無いのでは? という欲求がムクムクと湧き上がって来る。
暫しの葛藤の末、今後の危険と安全を天秤に掛けて僕が選んだのはーー
「ああ、ごめんね。ナンパとかされたの初めてで……」
「ウッソー!? そんなにイケメンなのに!」
大袈裟に驚く園子。
ーー僕は、会話を続けてみる事にした。
主人公達のホーム、米花町から出れば学生である彼女達と出くわす可能性はほぼ皆無だ。
なに、ちょっとくらい印象に残ったとして、直ぐに記憶が殺人事件とかに上塗りされて消えるでしょ。
一種の無敵思考になった僕は気が大きくなり、少し攻めた質問をする事にした。
「ところで、この町に少年探偵団っていう凄い子供達がいると聞いたんだけど……知ってる?」
「あー……あのガキンチョ共の事ね」
思い当たる節があるかのように、面倒臭さを滲ませて話す彼女。
彼女の心情から察するに、時系列的には既に工藤新一が毒薬を飲まされ江戸川コナンになった後の様だ。
あと、園子が粉かけて来た事から察するに、世界最強の防犯システムこと京極真君とは付き合って無いのかな?
鈴木園子って尻軽キャラなのか、純愛キャラなのかよく覚えていないんだよな……。
流石に彼氏がいるのにナンパしてくる事は無いと信じよう。
少年探偵団が活躍している所を加味すると、物語としては序盤から前半辺りと予測が付く。
ちなみに、前半は物語の引き伸ばし要素が薄く、黒の組織とバチバチに争ってる時期だったりする。
民間人をあっさり殺そうとする黒の組織怖すぎ。
現実じゃスパイ天国とか無能組織とか言われても、実際は銃を気軽にブッパしてくる狂人達が揃った場所だ。
つまり、今はそんなヤベー奴らが米花町に集合したりしていた時期だったのである。
ええい! 尚更こんな町に居られるか!
僕は他県に高飛びさせて貰うぞ!
「でも、どうして気になったんですか?」
「興味があったからさ」
何で僕がその質問をしたのかまるで分からない様子。
そりゃそうだ。
僕は彼女がアニメや漫画で少年探偵団メンバーの知り合いだと確信を持っているからこそ話題に出したのだし。
先程知り合ったばかりの人と世間話するにはミスチョイス。
愛想笑いで誤魔化そうとするが、それでも疑問に思っているようなので、会話を続ける。
「だって、凄くない? 普通の小学生の勇気じゃないよね」
「勇気というよりムボーだけどね。アイツらは」
半ば呆れたように悪態を吐く彼女。
まあ実際、主人公が居なければ少年探偵団のメンバーは死亡していても不思議では無い無鉄砲さがある。
そもコナン君が犯人を惹き付けている陰謀論は脇に置いといて、普通の小学一年生に比べれば能力は上なのは確かだ。なお元太君は除く。
光彦君とかは頭のキレが小一レベルじゃないからといって黒の組織ボス説が一時期出回ったくらいだし。
……どうやら、園子の方は誤魔化しきれたみたいだが、毛利蘭の方は若干眉間に皺を寄せている。
話題の切り出し方が不味かったか。
十分不審人物として認識された様だ。
そろそろ会話を切り上げて離れても良い頃合。
ひったくりというハプニングから知り合った男性とはいえ、お喋りを止めても問題ないと判断されるだろう。
「それじゃ、毛利さん……ありがとね。おかげで助かったよ」
会話を切り上げ、引き止められる前に足早にその場を離れていく。
リスクを犯して対話を望んだはいいものの、少し理性のタガが外れていたみたいだ。
若干会話の順序をすっ飛ばしてしまった。
これ以上話を続けていると、ボロを出していただろう。うっかり知らないはずであるコナン君の名前を出してしまえば、目も当てられない。
……にしても、二人とも二次元の登場人物って事もあるんだが、めっちゃ美人だったなぁ。
ヒロイン達との会話を名残惜しみながらも、僕は立ち去った。
「……どうしたの、蘭? そんなヘンな顔して」
「うん、ちょっと気になった事があって……」
「ーー私。あの人に名前、教えたっけ……?」
★ ★ ★
次の日の朝、僕はビジネスホテルで目を覚まし、早々にチェックアウトして外に出た。
昨日はもう夜にさしかかっていた事もあり、まずは寝床の確保を優先した。
飛び込みだった為、嫌な顔はされたが空室があったので案内してくれた。
これも【超高校級の幸運】のなせる現象なのか。
狛枝凪斗の幸運は代償を伴う。
先日のパチンコ大勝利と、今回のホテル宿泊で大分運の力を使ってしまった。
これからはなるべく波風立たないようにしないといけない。
……いや、パチンコの件は一旦盗まれたからチャラになったのか?
だけど蘭姉ちゃんに助けて貰ったし、運の総合って釣り合い取れてなくない?
ううむ。
ダンガンロンパ2をプレイしていた時はそういうもんだ、と認識してたけれど、現実問題どうなってるんだろうか。
狛枝の場合は幸運が不運より若干多めに来てたような気もする。
ーーま、その辺の検証はおいおいにしよう。
目が覚めて実は夢でした!
とかそんなオチはなかったので、残念な事に、僕はこの身体と一生付き合っていかねばならないだろう。
幸運を試す機会はいくらでもある。
まず、優先すべきは米花町からの脱出だ。
幸運の検証なんて二の次でいい。
命あっての物種だからね。さすがに殺人事件が最低一日一件は生まれてしまう場所には長居したくないし。
僕は米花駅に到着すると、券売機に向かい切符を購入した。行先は米花町から一つ離れた隣町、杯戸である。
米花町から離れる事だけが目的なので、別に何処でも良かったりする。
一駅だけの移動は、節約の為。パチンコで手に入れたお金が全てなので、ちょっとでも節約するつもりだ。
そして杯戸に移動した後は高飛びする県を吟味する必要がある。
さて、これから忙しくなるぞ。
住居の確保。金稼ぎ手段の確立。日本人としての国籍取得。
これら三つを目標にして頑張っていこう。
さしあたっては、まず国籍取得からーー
と、駅のホームで悩んでいた所。
それは突然起きた。
ガタンゴトンと電車が到着する音が響く。
僕が一番前に並んでいたのだが、後方を見れば何十人と人が並んでいた。
その中から、一人の若い女性が飛び出して来た。
割り込みかな? マナー悪いなぁ。
そう思いつつも、わざわざ話しかけて注意する正義マンじゃない僕は見逃そうとした。
だが、女性はホームの縁で止まろうとはせず、勢いそのままに空中へと身を躍らせた。
あっ、と誰かが言った。
電車は急に止まる事が出来ず、急ブレーキでキキキキキィと歪な金属音を立てて駅のホームへと到着した。
無論、電車が通った場所にはーー既に死亡したであろう彼女の身体がある。
騒々しくなる駅内で、僕は呆然と立ち尽くしていた。
あれから、僕はもう電車で移動する気はなくなった。
わりとショッキングな現場を思い返してしまい、躊躇するのだ。
次に選んだ移動手段はバス。
行先表も見らず、丁度近くのバス停に来た所に乗車。
偶然一つだけ席が空いていたのでそそくさと着席。
そんな小さな幸運を噛み締める暇もなく、わずか百メートルも進まないウチに、追突事故が起きた。
状況としては足元のブレーキが利かなくなった事で前にいたトラックにバスが激突。
幸い死人は居なかったものの、軽傷者は四名出てしまっている。
この時点で、嫌な予感はしていた。
今度は、タクシーで移動する事にした。
バスや電車と違って個人で利用する為運賃は高い。
が、背に腹はかえられない。
僕は失礼だとは思いつつも、何人かいた人の中で、中年と呼ばれるくらいの人を選出し乗り込んだ。
途中で何らかの“不幸”が働き、心臓麻痺や交通事故を起こして貰っては困る。だから体調的にも能力的にも問題なさそうな年齢で選んだ。
「行先はどこまで?」
「杯戸まで、お願いします」
行先が思いつかなかった僕は先程電車で移動する予定だった隣町の名を挙げた。
運転手のおじさんはやる気なさげに返事をし、車を発進させた。
この分だと大丈夫そうだな。
そう思ったのも束の間。
優先道路を直進していた所を横から車が出てきて衝突事故となった。
車は大破したものの、幸運な事に怪我等は一切無し。
警察が来たら身分証を求められるかも知れないので急いで逃げた。
最終手段として、徒歩で米花町から出る事にした。
電車は精神的にダメ。バスもタクシーもダメとなれば、残る手段は自分の足で移動するしか無かった。
適当に真っ直ぐ歩いていけば、そのうち米花町の範囲から抜け出せる。
何時間とかかるだろうが、文明の利器を使えない以上、仕方ない。
ーーでも、それでこの町から脱出出来るのか?
記憶に残る三件の事故。
胸中にえもいえない不安を抱えながら、道を歩いていく。
案の定、悪い予感は的中した。
とにかく事故に遭遇してしまうのだ。
どんなに真っ直ぐ歩いていても、偶然工事中となっていた道が五件。
急に飛び出してきた猫や犬を蹴り飛ばし、怒り狂う相手に逃げ惑った事が八件。
不良達が喧嘩している現場に出くわして、引き返したのが三件。
細いケースを上げれば追加で十件はあるのだが、流石にここまで来ると、もはや諦めの境地である。
ーー間違いなく、【超高校級の幸運】絡みだ。
何せ、行く道行く道障害があるのだ。
超常現象染みた“不運”である。
一体、どういう事だ?
狛枝凪斗の才能はこんな不幸ばかりを押し付ける才能では無く。望む未来を引き寄せるモノだった筈だ。
一旦、立ち止まって整理してみよう。
僕が今陥っているケースとして、考えられる事は二つある。
一つ目はパチンコでの金稼ぎとビジネスホテルでの宿泊。
正直、ちょっとこれは弱い。
手に入れた金額と一宿した程度の幸運では不運に釣り合っていないからだ。
二つ目は僕が米花町を出ないメリットの方が大きいケース。
もはや僕の身体となってしまった狛枝凪斗の肉体。
それに宿っている幸運が、この米花町から出てしまえば取り返しの付かない事になってしまうと、警告をしているかもしれない。
だけど、僕が望む事と言えば二つだけである。
第一に現実世界への帰還。
それが叶わないのであれば、この世界の国籍取得くらいだ。
いや、この治安最悪の町からさっさと脱出したい、も追加すると三つになるか。
じゃあ、尚更なぜ僕はこの町から出れないんだ?
グルグルと負の思考ループに陥る。
何故、どうしての堂々巡りである。
そうして答えの出ないまま立ち止まっていると。
不意に、地面にある影が揺れた。
何かな、と空を見上げると。
ビルの屋上にある大型看板が折れ曲がり、今僕が丁度いる地点に落下している最中だった。
うわあぁぁぁ!!?!!??
バカじゃないのか。【超高校級の幸運】!
不幸ばっかり起こしてるのほんと辞めて欲しい!!
いや、立ち止まってる場合じゃない。速く逃げないと! こんなの当たり所が良くても普通死ぬぞ!?
慌てて猛ダッシュしようとした時、頭上から看板が落ちてくる事に気付かず、無防備に歩いている少年が横にいた。
クソッ。この状況じゃ説明してる暇はない。
僕は少年を抱き抱え、一、二歩助走を付けて泥臭く地面へダイビングした。
ゴロゴロと三回転ローリングして止まる。
すると背後からゴンッと物が落ちる音が聞こえた。
た、助かった……。
生命の危機に心臓がヤバいくらい跳ねているのを感じる。もし気付いていなかったとしたらゾッとするね。
全く、何から何まで散々な一日だ。
この子も巻き込んじゃったし、申し訳ないな……。
立ち上がり、少年を解放する。
目を瞬かせキョトンとする少年は落下した看板を見たらしく、顔を青ざめてしまった。
「君、大丈夫?」
「は、はい! ありがとうございました!」
「そう、それは良かった。咄嗟の事だったから乱暴に扱ってーー」
待てよ。
この声聞き覚えあるぞ。
具体的には元いた世界の国民的アニメとかで。
この少年の外見を改めて観察すれば、センター分けの前髪と両頬に散ったソバカスで一発ビンゴだ。
オマケに丁度小学一年生くらいの年齢とならばもう確定的である。
ーー光彦君じゃん!
円谷光彦。
少年探偵団の一員かつ、小一なのに知識も頭脳も並の大人より上で、ほんとに小学生か? と疑惑が発生する程の天才児である。
登場当初はやや鼻にかかる感じのキャラだったが、物語が進むにつれて優秀なだけのキャラに成長してしまった。
僕個人としては、登場当初の性格も嫌いじゃ無かったんだけどね。
どっかのおにぎりうな重小僧にも見習って欲しいものである。
「あ、あの……これどうぞ」
「ん?」
見ると、コンビニで購入したらしき小袋を差し出してきた。
多分、助けてくれたお礼って事かな?
とんだマッチポンプだけれど、いる要らないの押し問答をしていれば余計に時間を食ってしまうだろう。
昨日までなら、嬉々として会話をしようとしたかもしれ無いが、米花町から離れられないと分かった今では光彦君が特大級の地雷にしか見えない。
スマートに受け取って、さっさと別れるのが吉だな。
「じゃ、有難く貰っておくよ。 僕は急いでいるからもう行くけど、怪我してたら病院いきなよ?」
「は、はい!」
そうして小袋を受け取り、足早にその場を離れる。
何だか逃げ回ってる気もするが、メインキャラと関わると確定で殺人事件に巻き込まれてしまうからな……。
自己防衛の為にはいたしかたないのだ。
そして十分な距離を離れて漸く一息ついた時。
さっき貰った袋が気になったので開封することにした。
ろくに確認しないまま受け取ったので中身を把握してないんだよね。
袋を拝見すれば、仮面ヤイバーとかいうバッタ男のパクリ的カードパックが入っていた。
……ああ、確かに少年探偵団って仮面ヤイバー好きだったな。何処の世界線でも、変身は男の浪漫なのは変わらない、か。ちょっと感慨深いね。
あれ、まだ何かあるぞ。
また袋の中に手を突っ込み、取り出してみると。
名探偵ホームズの姿を模した阿笠博士作のバッジがあった。
……ホワイ?