狛枝(憑依)in犯罪都市米花 作:超高校級のNeet
なんで探偵バッジが光彦君から貰ったコンビニの袋に……?
いや、多分光彦君が買い物途中、何らかのアクシデントがあったから袋に入れていたんだろうけど。
扱いに困るぞこれ……。
この探偵バッジ、一言でいうとやっべー代物なのだ。
変なクイズおじさんイメージが先行している現在はさておき、阿笠博士の発明家設定がバリバリメインになっていた頃。
阿笠博士の全盛期に作成された探偵バッジはトランシーバーの役割を果たしていて、片手で覆える程の大きさなのに遠距離通信が出来るという優れものである。
朧気な記憶だが、確か歩美ちゃんが自宅から学校にいる少年探偵団へ助けを求めた回があった。しかしその時は少なくとも十kmは距離が離れていた筈である。
数十年前の技術で遠距離通信可能な小型トランシーバーを個人作成出来る技術力は、まさに発明家を名乗るに相応しい能力と言えよう。
そしてこれが一番重要なのだが。探偵バッジは以上の機能に加えて、驚くべき事に発信機まで付いているのだ。
ーーそう、発信機がこのバッジに付いているのである! (2回目)
しかもそれは“死神”、もといこの世界の主人公、江戸川コナン君の眼鏡型ディスプレイに投影する形で映ってしまうのだ。
追跡範囲はどれほどかは知らないが、米花町から出られない僕に取っては逃れられないレーダーと同じ。
つまるところ。この探偵バッジは所持しているだけで超絶厄ネタをおびき寄せてしまう呪物である。
要るかこんなもの!
思わず地面に投げ捨てたい気持ちをグッと堪えて、袋に入れ直す。
流石に少年探偵団のイメージアイテムとも呼べる玩具をポイ捨てするのは気が引けるからね……。
一応、先程の事故現場へ戻って光彦君が居ないか近辺をうろついたものの、影も形も見当たらなかった。
時間もそれなりに経過していたので、既に帰宅し終えた後なのだろう。
と、なると。
この探偵バッジ……どうしよう。
透明なビニール袋に入ってある呪物はどれ程眺めても変わらずそこに存在している。
何が問題かって、コナン君を引き寄せる厄ネタなのはそうなんだけど。
これ、おそらく僕の“幸運”で手に入れたものなんだよなぁ。
なぜ、そう思ったか。
それは僕の望む事にある。
まず、大前提として僕は平穏無事な暮らしがしたい。というのは変わらない。
その為の条件として犯罪のインフレーション都市米花からの脱出。
次に日本国籍の取得を目標としていた。
けれども何故か僕はこの町から出られない。
だからこそ僕の幸運は少年探偵団経由で阿笠博士と関わらせ、日本国籍を取得させようとしているのだろう。
ーーぶっちゃけ、余計なお世話である。
例を挙げると、通常、小学校に入学するにはきちんとした証明が必要だ。
しかし小さくなった工藤新一と宮野志保は身分証明が出来ない状態である。
そんな状態でありながらも彼らは見事小学一年生として潜入に成功している。
一体、身分が保証出来ない彼らはどうして帝丹小学校に入学出来たのか?
その答えはーー阿笠博士がちょちょいと偽りの戸籍を与えた、だ。
バチクソ犯罪行為だが、しれっと行ってるのが阿笠博士のヤベー所なのだ。
まあ黒の組織にバレたら殺されるという逼迫した状況なのは確かだが、さらっと戸籍偽造をやってのける手腕と伝手がある事をほのめかしている。
僕が幸運を使い、なんやかんやあって恩を売り、戸籍を取得出来るようにお願いすれば滞りなく上手く行くだろう。間違いないと確信を持てる。
だがこのルートを辿るには致命的な問題がある。
どうあがいてもコナン君を通して話が進んでしまうのだ!
うん、無理! (即決)
この話終わり。閉廷!
幸運を使ってしまったのが勿体ないけど、この探偵バッジは処分するべきだろう。
交番に届けようにも身分がないから手続きも出来ないし、道端に捨てるしか無いかな。
うーん、それも何か可哀想な気が……。
あ、そうだ。
この袋に光彦君の名前書いて小学校の前に置いておけば気付くんじゃないか?
光彦君の家とか知らないから家の前には届けられないし。
もし光彦君以外の小学生が拾ったとしても、それは僕の責任じゃない。
こんな道端に捨てておくよりかは有情だろう。
ヨシ。
取り敢えず、コンビニでマジックペンでも買ってくるかな。
……あ、仮面ヤイバーのカードパックだけは抜いておくか。カードパックが無ければ、他の人に取られる事もないでしょ。
こうして僕はコンビニへと向かった。
★ ★ ★
「おい光彦、元気出せよ」
「ああ……なんで僕ったらこんな事を……」
少年探偵団は朝の登校時間、落ち込む光彦を励ましながら歩いていた。
「また博士に作ってもらおーよ」
「ええ……それはそうなんですけど……」
口ごもる光彦。
不審に思った元太が問い詰めると、照れながらも白状した。
「だって……あれは僕らの、少年探偵団の大事な証じゃないですか。あっさり無くしてしまったのが悔しくて……」
そうなのだ。
思い入れのある物は、例えそれが幾らでも替えが効く量産品であっても“思い出”という付加価値が付く。
大人であろうと子供であろうとそれは変わらない。
光彦の言葉に感化された少年探偵団は口々に放課後探そうぜ! と提案して行く。
「んで、何処に落としたんだよ」
「あ、いえ。恐らく落とした訳では無いんですよ。助けて貰ったお礼で差し上げた袋に、間違って混入していた筈です」
「助けて貰った?」
先日の事ですがーーと落下物から助けて貰った白髪の男について話をする光彦。
咄嗟にお礼の言葉を上手く伝えれず、唯一手持ちの袋を差し出す事しか出来なかったらしい。
「じゃあそのお兄さんを探さなくちゃね!」
「でもよぉ、名前も聞いてねーんだろ? 難しくねーか」
そこまで聞いて、コナンはこっそり犯人追跡眼鏡を起動させた。探偵バッジには発信機が取り付けられている。
万が一、探索範囲である20km以内に入ればその位置を覚えておこうとして、気付く。
ーーこれ、反応が小学校の近くだ。
周囲を観察しながらコナンが歩いていると、正門の脇にビニール袋が棄てられているのが目に留まる。
駆け寄り、拾い上げて見ると【つぶらや みつひこ】と書き込まれており、中には無くした筈の探偵バッジが入っていた。
「おい光彦。これ、お前のじゃねーか?」
「あああー! 間違いないです! それ僕のです!」
案外すぐ見つかり喜びに湧く少年探偵団。
落ち込んでいた光彦も晴れやかな笑顔を見せている。
「でも、ビニール袋に名前が書いていたけど、白髪の人に名前を教えてたのか?」
「え、いいえ。その時僕は頭が真っ白になってて、ろくに喋れていない状態でした。名前なんて、とてもじゃないですが言えてませんよ……」
「だったら、どうして光彦の名前を知っていたんだ……?」
探偵バッジを見つけたは良いものの、教えてもいない光彦の名前を知っている、という新たに生まれた謎。
それを解き明かす為、改めて白髪のお兄さんを探すぞと決意する少年探偵団だった。
★ ★ ★
いやあ、良いことをした後は気持ちが良いね!
僕はマジックペンで袋に【つぶらや みつひこ】と子供でも読めるように平仮名で書いて、帝丹小学校の校門付近に置いて帰った。
大事な物を無くすと何の影響があるか分からないからね。探偵バッジがある事で、命が助かった話も何話かある。
僕のせいで、少年探偵団の誰かが死ぬ、なんて目にはあって欲しくない。
だったら待ち伏せして直に渡せば良いじゃん、となるかもしれないがそれはそれ。
僕は自ら地獄と知りながら、首を突っ込むタイプではないのである。
誰だって我が身は可愛い。臆病者ともいう。
閑話休題。
さて。
これからどうしようか。
実際、僕に取り巻く問題は解決していない。
ギャンブルで生計を立てて行くことは出来る。
しかしそれには不幸という形で代償が来てしまうのが一番のデメリットである。
職を得ようにも、住所不定の不審者を雇ってくれる所なんて何処にもない。
田舎の方ならあるかもしれないが、ここは東京。色々ザルな地方とは違い日本の首都である。
セキュリティ面はかなり厳しい。
ネット環境があればなぁ。
色々対策が出来るんだけれども。
携帯ショップを見回って見本スマホを触れないか試みたのだが、未だガラケーが主流らしく、アップルもアンドロイドもありゃしない。
スマホが日本に普及され始めたのが2000年代終わり頃なので、この頃は情報収集がしにくい時期なのだ。
唯一、簡単に触れられそうな場所がある。
それは図書館である。
図書館には調べ物用に、利用する時間制限はあるもののパソコンが導入されている。
僕も勉強の為、足繁く通っていた際に何度か使った覚えがある。
ただ、これもまた重大な問題がある。
初期の頃って、確か館長がいるんだよなぁ。
名探偵コナンで屈指のトラウマ回と呼ばれる話。
超杜撰な管理をしていた麻薬を見つけられた館長がホラー演出と共に、全力で殺しにかかってくるという色々ツッコミ所満載の回だが、当時の子供達を恐怖のどん底に陥れたのは有名な話。
今や僕のものとなった超高校級の幸運がどんな作用をして降り掛かってくるか不明な以上、迂闊には近寄れない。
昔の話ということもあり、具体的な話数も忘れてるから何時になれば安全かも分からないのが痛い。
誰かに図書館で不祥事がありました?
とか聞くのもアリだが、もし仮に館長が現役だった場合。
僕が怪しい動きをしていたのがバレ、
何処からか図書館について嗅ぎ回る虫がいる!
ぶっ殺して証拠隠滅だ!
と、誇張抜きでなる可能性があるのだ。
名探偵コナン世界って沸点低い奴多すぎない?
フットワークが軽くて行動力が高いってのは必ずしも褒め言葉じゃないんだぞ。
奥ゆかしいコミュ障の日本人であって欲しい。
まあこの世界じゃ無理なんだろうけども。
……グゥゥゥウ
僕がくだらない事を考えていると、唐突に腹の虫が鳴った。……お腹空いたな。
何か食べながらでも考えるかぁ。
空腹なままだと頭も働かないし。
丁度近くに喫茶店があるからそこで食事を済ませよう。
緩やかな坂を上り、喫茶店の扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませー」
女の店員さんがお決まりの挨拶を放ち、
こちらの席が空いて居るのでどうぞ、と案内してくれた。
席に座り、机に置かれていたメニュー表を手に取る。
何を頼もうかな。
お腹は空いてるけど、そこまでガッツリ食べたい気分では無いのだ。
ぱらぱらとページを捲りある一点に目が留まる。
ふむ。
店内おすすめメニュー、ピーチサンデーパフェね。
別に隠していた訳では無いのだが。
僕はーー甘党なのだ。
躊躇いなく店員さんに注文し、待つこと数分。
こういう店舗独自メニューは年甲斐もなくワクワクさせてくれる。
かつての子供時代、毎回どんな旗が来るのかなと楽しみにしていたお子様ランチのように、童心を刺激されるのだ。
運ばれてきたパフェに対してスプーンを突っ込み、すくい上げる。
果たして、僕の舌を唸らせる事が出来るかな? (貧乏舌)
僕は大変満足してパフェを完食した。
また来よう。
それから数週間が経過し、僕はすっかりこの店《Peach Sunday》の常連になっていた。
「あら狛枝さん、いらっしゃい!」
この店は予約も出来るみたいで、つい数日前から同じ時間に予約を取る事にした。
便宜上、名前を出さないといけないので名義を狛枝凪斗にした。
僕の本名は新しい戸籍を得た時にでも使う予定だ。
それまでは代替案として、狛枝凪斗と名乗るつもりである。
いつもの席に案内された後、改めてメニュー表を見る。
今日は朝からお腹が空いている。
ピーチサンデーパフェを……三、いや四個頼むか……。
結局の所、僕はまだ住所不定無職生活を続けている。
安易な金稼ぎの誘惑に勝てるはずもなく、昨日現金が底をつきそうになった僕は再びパチンコ店に足を運んだ。
勿論賭けには勝ったのだけれども、その後特大の不幸があって朝まで大騒動だったのだ。
その話はまあ割愛するとして。
今はただ至福の時間に身を委ねよう。
店員さんに注文し、四個運ばれてきたパフェの内一つを手に取り、口に運ぶ。
うーん、美味しい!
その時、外からドアが開き、新たな客が来店した事を知らせる。
「あのー俺たち」
「少年探偵団の皆ね?」
ウンッ!?
モノが気管支に入ったのか、ゲホゲホと咳き込む。
今、聞き間違いじゃなければ少年探偵団って劇物ワードが聞こえたんだけど……??
入口近くの席に居た事もあり、ここからはじっくりと眺めることが出来る。
恐る恐る伺ってみると、灰原哀がいないと言うことを除けば、その四人は正真正銘、少年探偵団のメンバーであった。
青服に蝶ネクタイ付けた子供とかコナン君しかいないよ! 見間違いとかであって欲しかった!
「阿笠博士との待ち合わせでしょ? こちらへどうぞ」
不味い! こっちに来る!
慌ててフードを被り、せめてもの抵抗として人相を隠そうとする。
同じ服ばかり着ていられない為、何着か服を購入しているのだが、たまたま今日は光彦君と出会った服装。つまり狛枝凪斗の服装のままであった。
どうかバレませんように。話しかけられませんように、と祈り、ドキドキしながら少年探偵団の子供達が横を通り過ぎるのを待った。
……ふぅ。セーフ、か。
光彦君は僕に気付く事なく、奥の席へと案内されていった。
クソッ。なんで僕は調子にのってパフェを四個なんて頼んでしまったんだ!
後悔しても時既に遅し。
机の上にはそれなりの量があるパフェが四個並んでいる。
ーー仕方ない。こうなれば最終手段だ。
「あのーすいませーん」
「どうなさいました?」
「このパフェなんですけど……」
お腹の具合が悪くなったんで、残しても良いですか? と言おうとして。
「ああ、このパフェ美味しいですよね! 狛枝さん気に入ってくれて毎日来店してくれてますし。当店自慢のメニューです! 味わってくれると嬉しいわ」
「あっ、はい」
店員さんのキラキラとした目に負けた。
到底、お腹痛いんで残して良いですか? と言える雰囲気では無かった。笑えよベジータ。
しょうがない。普通に食べるか。
周囲の会話をシャットアウトして、できるだけ早くパフェを口に運ぶ。
あ゛ッ。~~~ッ!!
ガツガツと食べ過ぎて、頭痛がする!
いつもは味わって食べているので、店員さんからは若干困惑された目で見られる。
違うんです。と謎に言い訳したくなる衝動に駆られるも、黙々とパフェを食べる作業を行う。
至福の一時から地獄の時間へと早変わりだ。
なんでこんなことになってしまったんだ。
そして、無心で食べてる時もまたもや客が入店した。
いつもはこの時間帯は空いているのに、珍しいなとは思いつつ、ひたすら食事を進める。
そして、最後の一口をついに食べ終わる。
や、やったぞ。パフェを四個食べ終わった。
長く苦しい戦いだった。それもこれで終わりだ。
コナン君……僕の勝ちだ……!
意気揚々と立ち上がり、会計を済ます為にカウンターへ向かう。
「お会計は4620円です」
僕の心は晴れやかだった。
もう二度とこの店には来店しないだろうけど、今まで美味しいパフェを作ってくれてありがとう。
そして財布からお金を出そうとした瞬間。
ドッゴオオオオン!
と轟音を立て宅配トラックが壁をぶち破って店内に突っ込んで来た。
鼻水が出た。