【視点変更】
【ソルベ:フリーランス】
覆面の男――ソルベはフリーランスの傭兵だ。
十分な金さえ支払われるのならば、悪意だろうとも正義だろうとも、捨て駒だろうともなんだってこなす傭兵である。
名前は既に捨てた。
ソルベという呼称は、単なる仕事名に過ぎない。
たまたま傭兵としての名前を考えている時、シャーベットを食べていたから名付けた程度の代物だ。執着すべきものではない。
そもそも、命すら執着には値しない。
ネームレスの命知らず。
幾度の死線を乗り越えて、偶々生き残っているだけの傭兵。
それがソルベという男だ。
そんなソルベであるが、この世界に執着している者が二つだけ存在している。
「甘味……至福……このためだけに生きている」
一つはスイーツ。
甘味である。
ソルベは仕事に関わる物を購入する以外は、その財産のほとんどスイーツに費やしている。
傭兵という仕事上、あまり体型を崩すような食べ方はできないので、必然と量よりも質を求める傾向になっていた。
現在も、幾つもある隠れ家の一つで、最高級のプリンを一人静かに味わっている。
今回の仕事――『開かない小箱』を届けた報酬の十分の一をつぎ込んだ最高級のプリンだ。商人や護衛の冒険者たち、それと盗賊たちを纏めて皆殺しにしていれば、更に報酬を引き出せたかもしれないが、それはあくまでもプラスアルファに過ぎない。
ソルベの仕事は完遂されている。
故に、のんびりとスイーツを楽しんでいるのだ。
「いや、違うな。そうだ、甘味ともう一つ……痛み」
そして、もう一つは『闘争』である。
ソルベは強者との戦いのために生きている。
その戦いの果てならば、死んでもいいと思えるほどに。
「思いもよらない強者との戦い……そこで味わう痛みは、冷たく、甘い」
包帯を巻いた傷跡の上から、ソルベは緩やかに傷跡をなぞる。
奇怪なる剣術により、動かされた――否、自ら進んで刃の先へと動いてしまったが故に、付いてしまった傷跡。
呼吸を盗まれた上に、掌の上で踊らされる感覚。
その時の死闘を思い出し、ソルベは唇の端を釣り上げる。
「ああ、今度は最後まで味わってみたいものだ」
いつか、再戦の日が来ることを願い、渇望しながら。
◆◆◆◆
【視点変更】
【ファング:エリュシオン所属】
エリュシオンという組織の幹部は、たまに拠点の一つに集まって会議を行う。
議題は主に、至上目的である【楽園】の構築についてなのだが――幹部の一人であるファングが見た所、二つ分席が空いていた。
円卓の周りに置かれた、六つ分の席。
教主であるナユタ。
ナユタの護衛であるタカオ。
戦闘部隊の隊長であるファング。
【楽園】構築に関わる魔法研究家であるソリテール。
四人は着席している。
だが、残りの二人の姿が見えない。
「ナユタ様。恐れながら、残りの二人は?」
「うーん、それなんだけどね?」
ファングの問いかけに、ナユタは困り顔を浮かべながら答える。
「スライスギークは領主が派遣した工作員によって、拠点の一つと一緒に爆破されてしまったみたい。かわいそうだよね、まだやりたいことがあったはずなのに」
「……やはり、生き残りを許したのは致命的でしたか?」
「そうかもしれないね。生き延びてしまった彼にもかわいそうなことをしてしまったよ。ぼくがもうちょっと強ければ、悲しみと絶望を与えることはなかったのに」
露骨に気落ちするナユタの様子に、皮肉や偽りはない。
本当に悲しんでいるのだ。
幹部の一人が殺されたことと、滅ぼした村の生き残りを逃してしまったことを。
前者はもっと生かしてあげたかったと。
校舎はちゃんところしてあげたかったと。
「ナユタ様、貴方は慈悲を与え過ぎます。同胞だけならともかく、あのような……」
「ううん、ファング君。誰だって一緒だよ。誰だって苦しんで、誰だって悲しんでいるんだ。だったら、全部をどうにかしないと」
悲しみながらも決意に満ちた微笑みは、何も知らなければ聖女の如く見えるだろう。
今まで、数多の無辜の民を殺して来た、殺戮者だというのに。
ナユタが言葉を紡げば、それは福音となる。
聞く者の心を癒し、惑わし、曲解させる。
現に、ファングという幹部は既に、ナユタに心酔し、狂信者と成り果てていた。
「お任せください。貴方様の悲願を必ずやこの私が叶えて見せましょう……ところで、残りの一人は?」
「錆剣のメグ君からは手紙が届いているよ。今、読み上げるね? ええと……『ごめん、幹部会には行けません。今、死地にいます。不具者でありながら武神の如き男と戦っています、やったぜ。本当はナユタ様が恋しいけど――』」
「いよぉし、破り捨てましょう、そのクソみたいな手紙!」
なお、基本的にファングとタカオ以外の幹部はフリーダムである。
この後、錆剣のメグという幹部も頭部が潰れた死体で見つかるのだが、他の幹部たちからは『まぁ、あの戦闘狂だし』で片づけられることになる。
「まぁまぁ、彼女が楽しそうで何よりだよ! 彼女は死んでも幸せそうだからね! それはとてもいいことさ」
「……ナユタ様」
「それに、ファング君が指輪の一つを見つけてくれたからね。これで合わせて三つ。最善は残り四つだけど、あと二つ集めれば形だけなら『至れる』だろうし」
ナユタの言葉に、ファングは頭を下げて畏敬の念を示す。
厳重な封印が施された『開かない小箱』の中には、一つの指輪があった。
それは七つに分けられた力の一つ。
エリュシオンの至上目的である【楽園】構築のために必須の秘宝。
「頑張ろう、皆。ぼくたちが王国に滅ぼされるのが先か? あるいは、ぼくが〈神〉に至るのが先か? これはきっとそういう競争だ」
神の如き超越者に至るための、膨大なる力が込められた魔道具である。
これらを全て集め、世界の一部を掌握することこそがエリュシオンの目的だった。
――――都合の良い妄想をまき散らす、悪党どもの『言い訳』だった。
だが、エリュシオンの誰もが知らない。
この時点では誰もが予期していない。
己が野望を挫くのが、王国の強靱なる武者ではなく、今はまだ始まったばかりの未熟な冒険者たちであることを。
〈神〉関係はその場のフィーリングで、『なんか凄い奴』みたいなニュアンスで使っています。
広い心で罵って許してくれれば嬉しいな! 美少女ボイスだったらもっと嬉しいな!!