そうだね! 魔具だね!! 皆もお金を貯めて強い魔具を勝って強くなろうぜ!!
え? 指輪? あんな怪しい物を装備しちゃいけません!
七つの指輪を揃えれば、〈神〉に到達する。
それは古いお伽噺。
勇者が到来するよりも更に前。
暗黒の時代から、密やかに語り継がれた荒唐無稽な逸話である。
曰く、七つの指輪は〈神〉の力を封じた代物だ。
曰く、七つの指輪は精霊たちが作り上げた神器だ。
曰く、七つの指輪は魔導の超越者が戯れに生み出した玩具だ。
長い間、人々の間で語り継がれた逸話の中に真実などは無い。
そもそも、真実など誰も求めていない。
指輪を一つでも手に入れれば、魔人にも負けない莫大な魔力を扱えるようになる。
指覇を七つ揃えれば、誰にも負けない力が手に入る。
そのような『無力を慰めるお伽噺』を望んでいたのだから、大抵の者は真実など求めない。どこかの誰かが作り上げた、都合の良い作り話などを本気で信じる馬鹿などは居ない。
――――それが実在することを知っている者以外は。
無論、実在するからといって、それはお伽噺のような便利な代物ではない。
安易に扱えば、属性災害に遭って死ぬ。
十分に注意して扱っても、相応の『器』が無ければ弾けて死ぬ。
たった一つの指輪だけでもそうなるのだ。
七つ指輪を揃えたところで、それを十全に扱える者など皆無だろう。
そう、皆無だったのだ。
ナユタ・スイカという『神の器』が誕生しなければ。
◆◆◆◆
【視点変更】
【ソリテール:エリュシオン所属】
「集めた指輪はこれで五つ。励起自体はできると思うけれど、安定は難しいわ。万全を期すなら、七つ全てを集めるべきでしょうね」
少女の形をした魔人が一人、薬液で浸した水槽に向かって話しかけていた。
場所は薄暗い地下室。
血管のように幾重にもパイプが張り巡らされた研究室。
ここが、魔人――ソリテールにとっての自室だった。
「けれども、もう時間は無い。ファングは失敗したわ。指輪は古龍を打ち倒した冒険者の手に。常識的に考えれば、あれは解析に回されるでしょうね。そうなれば、私たちが求める物も、エリュシオンの活動の痕跡も見つかってしまう」
水槽の中には一人、裸体の那由他が浮かんでいた。
胎児の如く体を丸めて。
その手には集めた五つの指輪を嵌めて。
仮死状態のまま、肉体の調整を受けている。
――――〈神〉に至るための準備を整えているのだ。
「だから、ここが勝負どころ。七つを集めるだけの時間は無い。いずれ、王国から相応の戦力が派遣されて私たちは殺されてしまうでしょう。だから、貴方たちは調整を終えたら、そのまま王都に向かいなさい」
「――――わかった」
ソリテールの呼びかけに応えるように、闇の中から人影が浮かび上がる。
ナユタの護衛にして、エリュシオンの殺戮者、タカオ。
包帯で顔を隠した怪人は、静かにソリテールの言葉に頷く。
「よろしい。じゃあ、六つ目の指輪の確保には私が向かうから。上手く行けば、六つは揃えるかもしれないけれど……んんー、まぁ、戻らない前提で」
ソリテールは淡々と、自分の死を前提とした計画を作る。
そこに恐怖や後悔などは無い。
今更、死を惜しむには、彼女は長く生き過ぎてしまった。
そして、それ以上に――――殺し過ぎた。
「本当は六神武貴と戦って死ぬ予定だったけど…………うん。領主を殺したり、冒険者たちと遊ぶのも悪くない最後ね」
エリュシオンの幹部の一人、ソリテール。
彼女の勇名を知る者は居ない。
彼女の殺戮を知る者は居ない。
何故ならば、彼女はこの世界に於いてありふれた存在――『無名の怪物』なのだから。
二つ名を得るほど表舞台には立たず。
二つ名を語らせるような生存者は残さず。
ゼロ・ゾーンを貫いた上位魔人。
「さぁ、人類賛歌を謳わせて貰いましょうか」
暗黒の時代から研鑽を続ける『魔剣使い』は、高らかに己が悪を宣言した。
ポンコツ世界の名産物:気合の入った悪党。