宿儺を相棒だと思ってる虎杖 作:あべこべ
「釘崎を頼みます。俺はここに残ってアイツが帰るのを待ちます」
「釘崎さんを病院へ届けたら私も早急に戻ります」
「いや…もう伊地知さんいても意味ないし、戻ってくるなら一級以上の呪術師連れて来てください。いないと思うケド」
若者の遠慮ない言葉に伊地知は傷つき、はい…としょぼくれた様子で車を動かし離れていく。
虎杖がもし宿儺に乗っ取られてしまっていたら……責任は俺にある。
帷に覆われた少年院を睨む様に見やる。数刻後か、変化が訪れる。
……生得領域が閉じた! 特級が死んだのか…? あとは虎杖が戻れば——。
「小僧なら戻らんぞ」
宿儺の、声。それは唐突に伏黒の背後に現れた。
今さっきと同じ、いやそれ以上の威圧により動けねぇ…!
「そう怯えるな。今は気分が良い。少し話そう」
不格好になっている上着を破り捨て、両の手を広げて心底愉快そうに話を続ける。
なんの“縛り”もなしに俺を使用した罰だ。俺と変わるのに少々手こずっている様だ。そこで俺は考えた。
「この小僧に呪いとはなんたるか、教えてやる」
自分の胸に手を突き刺し、人体を動かすエンジン…心臓を引き抜いた。べチャリと地面に投げ捨てられ役割を終えた心臓。
「これがなくとも俺は動けるが…小僧はそうともいかん。つまり俺と入れ替わることは死ぬことと同義。そして……さらにダメ押しだ」
特級から回収した両面宿儺の指を取り出し、ゴクリと飲み込む。これで合計三本。ゴキリと首を鳴らし話はここで終わりだとつぶやく。
「さて、もう怯えて良いぞ。少し遊んで殺してやろう」
伏黒は構える。今の状況を整理し、自分の行うべき行動を決める。
腕が治ってる…治癒、反転術式がつかえるのか。なら俺がやることは一つ。虎杖が戻る前に心臓を治させる。心臓を欠いた身体では俺に勝てないと思わせる!
鵺、蝦蟇を呼び出す。
鵺は飛翔しろ、蝦蟇はタイミングを見て宿儺を固定しろ。
式神に命令を出し、拳に呪力を覆わせ走る。
「ほう。式神使いのくせに術師本人が来るのか」
拳はヒラリヒラリと避けられるが、宿儺が反撃をしようとした瞬間に蝦蟇の舌が伸びる。捉えた!
「締め上げろ! 大蛇!」
伏黒の影からズルリと伸び、宿儺を締め上げる。
「鵺!」
呼びかけ、空から宿儺目掛けて落ちる様に飛んでくるのは電気を纏う鵺の突進。
今は雨。電気だってよく通るだろ! あとは———。
「せっかくの外だ。広く使おう」
締め上げているはずの宿儺の声は背後から。そして首根っこを掴まれ空に投げ捨てられる。
術式うんぬんじゃない! 術式を差し引いてもパワーも、アジリティも!
伏黒を投げ上げたはずの宿儺はまたもや伏黒の背後に。そして空中から叩き落とす。落とされる先は英集少年院グラウンド。鵺が伏黒を庇い着地の衝撃は防がれていた。
宿儺と俺じゃ格が違う…! どうする、もう呪力が——。
悩む時間も虚しく、宿儺は降りて来た。
「…オマエの術式…影を媒介にしているのか。」
だったらなんだ。と小さく抵抗する。宿儺は顎に手を当て考える様子。
「あのときお前、なぜ逃げた。影を媒介にするなら応用がきくだろうに。宝の持ち腐れだな」
まあと一息おいて自身の胸を指さす。
「その程度ではここは治さんぞ」
バレバレか…
力が入りにくい、落ちたときに鵺が下敷きになったが俺にもダメージがあったか……。
「つまらんことに命を賭けたな。小僧を救う価値はないだろうに」
…救う価値……。
思い出せ。なぜ俺は呪術師になった。
不平等という現実が平等に与えられている。
因果応報は全自動ではなく、悪人は法の下でやっと裁かれる。
呪術師はそんな“報い”の部品の一つ。
少しだけでも、善人が平等を享受できる様に。
構える。全身の力を振り絞る様に腕を出し、覚悟を決める。
俺は、不平等に人を助ける。
「ハッ! 勝負はここからと言うわけだ! 魅せてみろ! 伏黒恵!!!」
息を吸う。構えは解かず術式に呪力を、今だせる全てを流し込む。
「布瑠部由良由良」
空気が変わった。ピリピリと息の重い空間になり、伏黒の体にも鉛が張り付いた様に重くなる。
八握——……。
腕を下ろし、握りしめた。どうやら時間切れらしい。
「…俺はお前を助けたのにしっかりとした理由があるわけじゃない。お前が善人だったから、結局は俺の我儘だ。でもそれで良いんだと思うよ」
心臓が抜き取られた身体でどれだけ生きれるかなんて高が知れている。
「俺はヒーローなんかじゃなく、呪術師なんだ。だからお前を助けたことは後悔していない」
「そっか」
そいつはおだやかに笑った。
「アイツにはあとで注意しとかないと…だな」
もう注意できるかも、言葉を発することもできるかわからないと言うのに、虎杖は先を語る。もう時間だ。
「長生きしろよ」
湿った鈍い音が起こる。
今度こそ、虎杖悠仁は死んだ。
ーーーーー
「許可なく見上げるな。不愉快だ」
「宿儺ここどこ〜? なんかめっちゃデカい肋骨の下?」
宿儺の生得領域内、先ほど殺されたはずの虎杖はピンピンしていた。というか殺されたことについて怒ってすらいない。1日経ったら忘れそうな勢いだ。
「あと宿儺! 人間って心臓抜かれたら死ぬんだ覚えておいてくれな!!」
「はぁ〜あ、うざ」
ため息をこぼす。いつまで経っても変わらぬ様子に呆れて来ていた。というかバカは死んだら治るそうだが此奴は治るのか?
ある程度はしゃいだ後、下を向く虎杖。
「…ごめんな宿儺。死んだのは俺なのにお前まで巻き込んじまった」
「……なあ小僧。俺たちは厳密にいうとまだ死んでない」
マジで!? と驚きと歓喜の混ざった声を上げる。わーいわーいと地面に広がる水を打つ虎杖に青筋浮かべながらも宿儺は話を続ける。
「もしお前が条件を飲むなら、生き返らせてやっても良い」
うんうん! と首をふり催促する様子の虎杖。これなら縛りも簡単に結べそうだ。
「一つ、俺が契闊と唱えたら一分間身体を明け渡すこと。二つ、この縛りを忘れること」
「駄目だ」
だが意外にも強くその条件は否定される。面食らったのか宿儺も次の言葉を待った。
「親友との約束を忘れるなんて俺は絶対ごめんだね!!!」
「…はぁ〜〜〜あ」
宿儺は大きく、それはそれは大きくため息をついた。
「あとお前伏黒に稽古つけてやってたっぽいけど、あれ伏黒は普通に痛そうだったからな!」
「わかった。じゃあその入れ替わる一分間俺は誰も傷つけんし殺さん。これで良いか?」
「あと俺は約束のことはずぇ〜ったい忘れないからな!」
会話をして頭が痛くなったのか額を押さえて顰めっ面になる。なんでこうも会話をするだけで疲れる小僧だ。
「…条件は俺が契闊と唱えたら一分間身体を明け渡すこと……」
宿儺自身で条件を確認したが、もっと上手くやるはずだったのにこの小僧相手だとどうも上手くいかない。なんなんだこの小僧。だが呪いの王としての矜持がある。
「小僧、取引だ。今から殺し合いで俺が勝ったらこの縛りを忘れろ。お前が勝ったらお前のルールで生き返らせてやる」
「良いぜ。殴り合って友情深めるとか漫画の王道だものな」
了承をした瞬間、切って終わりだ。
キンッ
発生する予兆もなく生じる宿儺の絶対不可避の技。
「あぶねっ」
小僧は避けた。
正確にいうなら虎杖は転びかけただけだ。転びかけ頭が下がった場所に不可避の斬撃があっただけ。だがそれは虎杖の術なのではないかと思うほどに続いた。
転び避けられ、くしゃみで避けられ、地面の物を拾ったら避けられる。偶然、偶然に決まっていると宿儺は思うしかなかった。そうでないなら不気味すぎる。その豪運。
「おい宿儺。向かってこないなら俺から行くぞ」
しめた。向かってくるなら一直線だろう。外すことはない!
虎杖は向かっていきながらまたもや避けるが、近づけば当たる確率は高くなる。
キンッ!
今度こそと切ったのは…生得領域内に転がる頭蓋だった。
虎杖はそこらに大量に落ちている頭蓋を投げまくる。頭蓋が宿儺の目線を遮った瞬間、走り込む。
そして思いっきり殴った。
ここで話が変わるが、先ほどの取引も縛りの内である。そして‘縛り’を結ぶ際に気をつけるべきことは結ぶ両者の認識をお互いに正しておくこと。宿儺は殺し合いと明言したが、虎杖は殴り合いと受け取っていた。
殴り合いにおいて敗者は地に伏すもので、勝者は立っているもの。故になのだろう。
宿儺は虎杖の拳で倒れてしまった。
そして、取引は成立した。
動きあるところを文字に落とし込むってマジ無理。
無理じゃねぇって!
無理だって!
無理じゃねぇって!!!
宿儺と虎杖話さないとシリアスになっちまうから上手くやらないとだね…。え? すっくんがそんな簡単に殴られるわけないだろって? 伏黒見た後で舐めてかかってたんでしょう多分。そういうとこありそうじゃない?
あと次の更新遅れます!!! ごめん!!!