お嬢様のお気に入りのプリンが少し……いや、かなりおかしいんです!   作:生牡蠣

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なんかリクエスト来たから続き書いてみたゾ~
今年最後の投稿、これでええのんか……


星に願いを

その日の夜の事は、よく覚えている。

昼間はポケモン達が楽しそうにじゃれ合っている光景がよく見られる館の庭。今はよるだからか、彼らの姿は影も形も見られない。

空気は冷たく澄んでおり、雲一つない空には星々がキラキラと輝いていた。

時々ホーホーやニョロトノ達の大合唱が五月蠅く難じる時もあるが、今日は珍しく鳴りを潜めていた。

そんな広い夜の庭を、私はお嬢様を乗せた車椅子を押しながら歩いていた。

夜は冷えるから、お身体に障りますと強く言ったのだが『ごめんなさい、どうしても……星を見たいの』と藁にも縋るようなお嬢様の視線を前に、断る事なんて出来なかった。

 

お嬢様は、生まれつき身体が弱い。

外へお出掛けに行ったらその晩に高熱を出すなんてことはよくある事だし、少し転んだだけで骨折していたなんて事もあった。

お嬢様の両親は、そんなお嬢様に精いっぱいの愛情を注いでいた。

身体が弱くたって構わない、生きていてくれさえすればそれでいいとお二人で話していたのを何度も聞いた。お嬢様の望むことは何でもしてあげたい、そう口癖のように言っていた。

幸い、お嬢様の家は裕福でいくら怪我や病気をしようとも医者に診てもらえる環境が整っていた。

いつか医療がさらに発展し、お嬢様の病弱な身体も何とかなるかもしれない。ご両親を含め、屋敷の人間はそう希望を持っていた。

 

しかし、現実は残酷であった

 

 

 

 

 

『余命1年』

 

 

そう医者から言われた時、私達は言葉を失った。

お嬢様はひどい病にかかっていたらしい。治療法も見つかっていない、未知の病だそうだ。

その言葉を聞いた瞬間、奥様は事実を受け止め切れずに泣き崩れ、旦那様は奥様を気遣いながらも、その握りしめた手には血がにじんでいた。

私自身も、医者の言っている事が真っ赤な嘘だと断言し、医者を罵倒したかった。

だが、それは出来なかった。

何故ならその医者は、世界的にも名を連ねる名医を言われていた人物であったからだ。

その事実が、お嬢様はもう助からないという現実を決定づけていた。

 

 

『まだ助かる方法があるはずだ!』とご両親は治療法を探してあちこちを飛び回った。

世界中の医師を訪ね歩き、時には命を与える伝説のポケモンなどオカルト的な話にも希望があるかもしれないと熱心に調べた。

しかし、どれもお嬢様の命を長らえさせることは出来なかった。

その間にも病魔はお嬢様の身体を蝕み、ついに歩く事さえ困難な身体になってしまった。

 

余命まではあと3か月、もうほとんど時間はない。

今は自然の中の方が身体にはいいという理由でこの別荘を買い、お嬢様を療養させている。

ご両親はお嬢様の治療法をあきらめずに探し続けている。

まだ幼いお嬢様は、ご両親に会えずに心細い思いをされているはずだ。

しかし、その事にお嬢様は弱音一つ言わない。ご両親のご意向で、病気の事はお嬢様には秘密だが、両親が自分の為に動いている事をどこかで理解しているのかもしれない。

あるいは、自身の身体がもう長くないことを本能的に解っているのか…

 

 

 

 

「お嬢様、寒くはありませんか?」

 

「大丈夫よマージェ。貴方がくれたマフラー、とっても暖かいんですもの」

 

お嬢様はそう言って、マフラーを手で少し持ち上げる。

現在の季節は春だが、やはり夜はまだ冷える。やはりマフラーを持ってきておいて良かった。

 

「わぁぁ…!見てマージェ、星がいっぱいですわ!!」

 

お嬢様は夜空を見上げて“キャッキャ!”とはしゃぐ。

病気の事もあって、今まで夜空を見上げるなんて出来なかったのだ。はしゃいで当然か。

マージェはそんなお嬢様の姿に微笑ましさと、こんな少女が背負わされている辛い現実に対する怒りの両方を感じた。

……何故、お嬢様がこんな辛い思いをしなくてはならないのだ。できる事なら代わってあげたい。マージェは何度もそう神に願った。

 

「……ねぇ、マージェ。星に願うと何でも願い事が叶うって言い伝えがあるのを絵本で読んだことがあるのだけど、それって本当かしらね?」

 

お嬢様がどこか不安そうに聞いてきた。

 

「……えぇ、きっと叶いますわ」

 

私は嘘をついた。

星に願っただけで願いが叶うなら、誰だって願ってるし、辛い思いなんてする必要なんかなくなる。

しかし、私はお嬢様の言葉を否定してしまったら何かが壊れてしまうような気がして、嘘を付くしかなかったのだ。

 

「それは良かった」

 

お嬢様は、今にも消えてしまいそうな細い笑みを浮かべ、両手を合わせてて目を瞑った。

それはまるで、修道女が神に祈りをささげるかのような仕草であった。

 

「私、今まで星に願ったことがないから、その分いっぱい願い事がありますの…色々考えましたわ。美味しいケーキに可愛らしいお洋服、走っても疲れない身体、仲のいいポケモンと出会う事…最近元気のないお母様とお父様、屋敷の方々が元気になりますように……多すぎて願いきれませんから、この一言だけ」

 

お嬢様はそう言った後、一呼吸おいて言葉を発した。

 

 

 

 

「みんなの願いが、叶いますように」

 

 

お嬢様の言葉を聞いた時、私は顔を覆って何とか涙が流れそうになるのを堪えた。

みんなの願い。それはきっと叶わないだろう事は、今までお嬢様を近くで見てきたマージェが一番よく知っていた。

……自分の願いより、他の人の事を優先するような優しい子が、どうしてこんな目に合わなければならないのかっ…!

……ここで悲しんでは、お嬢様も負い目を背をわせてしまうかもしれない。ここは……いいや、自分はずっとお嬢様にいつも通り接しよう。

お嬢様が不安にならないように、なんて事のない明日がいつまでも続くのだと思わせるように……

 

「あぁ…本当に星って綺麗ですわねぇ……あっ!流れ星ですわ!!」

 

「えぇ……そうですね…」

 

お嬢様は顔を上げ、星空を楽しむ。

それに対して、マージェは俯きながら答える。

今、顔を上げてお嬢様の笑顔を見たら、きっと自分は耐え切れないだろうから……

 

「まぁ…流れ星って本当に星の形をしていますのね……」

 

「はい、そうですね……」

 

「わぁぁ…!星って真っすぐだけでなく、こんなにも縦横無尽に空を飛び回る者なのですね!」

 

「えぇ…えぇ……!」

 

「あっ!なにかピンクっぽい物が上に乗ってますわよ!!……あれは、ポケモンかしら?」

 

「えぇ……きっとそうで……んん?」

 

マージェは頭に「?」を浮かべた。

さっきから会話の内容おかしくないか?

星の形? 縦横無尽? ピンク?

お嬢様はさっきから何を言っているのだ?

 

「あぁ、段々大きくなってきましたわよ!流れ星ってすごいですわねー!」

 

「…………えっ」

 

お嬢様の言葉に、マージェは顔を上げる。

 

そこには、☆があった。

隕石なんかの丸っこい物ではない、アニメなんかでよく見る黄色い☆

わぁ~星って本当に☆型なんだ~…スピードスターと全く同じだぁ~

 

……ってちやぁぁぁぁう!!!

あれはイメージであって本当に☆の形なわけあるかい!?

 

心の中でツッコむマージェは「はっ!?」気付いた

☆がどんどん大きくなっている……否、()()()()()()()()()()()()()

 

―――お嬢様が危ないッ!!

 

「お嬢様!!」

 

「わぷっ」

 

今から走って逃げても間に合わないと察したマージェはお嬢様に覆いかぶさった。

せめて、お嬢様だけでも命に代えても守って見せる…!

マージェは覚悟を決めたようにこちらに向かってくる☆を睨みつけた。

 

だが、マージェの覚悟とは裏腹に、☆はマージェ達には当たることはなく、目の前の地面に激突して“パァッ”と甲高い音をたててそのまま消えてしまった。

……へっ、それで終わり?

☆の大きさや落ちてくる勢いから、その場に大きなクレーターが出来てもおかしくないと思っていたのだが……その予想はハズレ、地面にはえぐれた箇所一つない。

 

☆が地面に当たって消えたのを不思議そうに見つめていると、☆が墜落した場所になにか生物が動いているのをマージェは発見した。

その生物は、何と言うかピンクの玉に手足を生やしたような生物であった。

目や口の様なものは確認できたが耳や鼻はない、今まで見たことのない生物がぐるぐると目を回していた。

この生物は……ポケモン?

……でも、今まで見たことのないポケモンだ。新種か?それとも、ポケモンではない何かなのか…?

☆が衝突しなかったことに安堵するマージェであったが、今度は突然現れた謎生物に対して警戒しなくてはならなくなった。

マージェは直感で感じていた。目の前の目を回している生物が、計り知れない力を宿していることを。

 

―――せめて、お嬢様が逃げる時間だけでも…!

 

マージェは腰に忍ばせていたモンスターボールに手を伸ばした。

 

「マージェ、いきなりどうしたんですの……あら?」

 

ボールを掴みかけた丁度その時、お嬢様がマージェの行動の理由を探ろうとマージェの腕の間から顔を出し、ピンク玉の生物を視界に入れた。

 

「お嬢様、危険ですから逃げてくださ「プリンですわぁ!!」…いぃ!?」

 

お嬢様に自分が時間を稼ぐからその間に逃げる様に伝えようとした声は、お嬢様のハイテンションな声にかき消された。

 

「見てくださいましマージェ、野生のプリンちゃんですわよ!はわぁ~かわいいですわぁ~!」

 

先程までの今にも消えてしまいそうな雰囲気はどこへやら、代わりに年相応に嬉しそうにはしゃぐお嬢様。

あぁ…そう言えばお嬢様、小さい頃からプリン大好きだったなぁ……

今まで部屋の中や病室からあまり出られなかったお嬢様にとっては初の生プリンだ。そりゃあ年相応にもはしゃぐか……

マージェはもう一度目を回している生物を見る。

……耳がなかったり、目がつぶらだったりとプリンとはかけ離れている特徴だらけだが、まぁこの興奮具合なら間違うか…?

 

「プリンちゃ~ん、こっち向いてくださいましぃ~!!」

 

「……ぽへぇ?」

 

お嬢様の声に、目を回していた謎生物は意識を取り戻したようで、お嬢様の方向に視線を向け―――

 

 

 

「……はぁい!」

 

と可愛らしく手を振った。

 

「きゃあぁぁぁ!見ましたかマージェ、手を振り返してくれましたわよ!!」

 

お嬢様の興奮具合もさらに増していく。

……とりあえず、敵対しているわけではなさそうか?

だが、油断させてから一気に襲ってくる可能性もある。引き続き自分だけでも警戒をした方がいいだろう。

可愛いさに騙されてはいけないのだ…………可愛いけど、めっちゃ可愛いけどっ!

 

「プリンちゃん、もっと手を振ってくださいましぃ!あぁ、とっても愛くるしいですわぁ!是非ともゲットして…………ゲホッ!ゲホッ!!」

 

「ッ!?お嬢様ッ!!」

 

お嬢様のテンションが最高潮に達しようとした時、急にお嬢様の顔が険しいものとなり、激しく咳込んだ。

マージェは膝を着き、お嬢様の顔を確認する。

お嬢様の顔色は真っ青で、具合が悪いというのが一目でわかる。

まずい、夜の冷えた空気に当たったか…!やはりお嬢様を連れてきたのは失敗だった。

……落ち着け私。まずはどうすべきか、最適解を考えるんだ。

お嬢様を連れて屋敷に戻る?

…屋敷から離れすぎている。それまでお嬢様の車いすを激しく動かしながら移動すべきではないだろう。

手持ちポケモンに人を呼びに行かせて自分とお嬢様はここに残る?

…今日の私の手持ちは素早い子がいない。最適とは到底思えない。

くっ!こうして考えている間も、お嬢様は苦しんでいるのに…!

早く、速く方法を考えなくては……!!

 

「ぷい?……!! (ガサガサ…)うい!」

 

お嬢様の様子を不思議そうに見ていた謎生物であったが、何かに気が付いたようなジェスチャーをした。

その後何かを探すような動きをしたかと思うと、どこからかとある物を取り出した。

それは真っ赤に輝く、見ただけで水々しいものだというのが分かるトマトであった。

……何故、トマト?見た感じはこれと言って特徴はない、普通のトマトだが………しいて言うなら、何故か表面に『M』っぽい文字が書かれている事だろうか。

 

「はぁい!」

 

謎生物はお嬢様に近づき、トマトを差し出す。

どうやらお嬢様にトマトを食べさせたいようだ。

 

「やめなさいっ!咳込んでるお嬢様がそんなもの食べられるわけないでしょう!!」

 

マージェは謎生物に向かって“シッシッ!”と追い払うようなしぐさをする。

この生物の好意はありがたいが、今は緊急を要する。謎生物の事も気にはなるが、それよりもまずはお嬢様だ。

こんな所でお嬢様を死なせるわけにはいかない、必ず助けなければ!

 

「ぺぽぉ?……! ポヨ!」

 

謎生物は一瞬“キョトン”とした後、何かを思いついた様子になりおもむろにトマトを食べ始めた。

なんだ、お嬢様にトマトを食べさせるのを諦めたのか…?

謎生物は何度か咀嚼するような動作をした後、再びお嬢様に近づき―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「んちゅ!」

 

「むぐぅ!?」

 

 

お嬢様に口づけを交わした

 

 

……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?

 

「なにしとんじゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

マージェは謎生物を振り払った(謎生物はギリギリの所で避けたようだが…)

一瞬の出来事で反応が遅れてしまった。

お嬢様の唇を奪うとは、やはりこの生物は危険だったか…!

 

「はっ!お嬢様、御無事ですか!?」

 

マージェはお嬢様の状態を確認する。

もしかしたら、あの生物はお嬢様に毒を流し込んだのかもしれない。もしそうならば早急に対応しなければ…!

お嬢様は顔を伏せており顔色を見ることは出来なかったが、呼吸は安定している様であった。

毒っぽい臭いもない。むしろ……少し甘い匂いがする?

これは嗅いだことのある匂いだ……そう、サラダとかを作っている時によく嗅ぐ匂い……

あぁ、そうだ―――トマトの匂いだ

 

その匂いを認識した瞬間、お嬢様が顔を上げ、瞳を“カッ!”と見開いた。

 

 

 

 

 

「美 味 で す わ ぁ ! ! !」

 

 

 

お嬢様が車いすから立ち上がり、大声で叫んだ。

……えぇ!?医者から立ち上げるのも絶望的って言われてたはずではぁ!?!?

 

「芳醇な甘さ!程よい酸味!そして大地を感じさせるような自然本来の味わい!!今まで食べたトマトが腐ったものだったと言われたら信じてしまいそうなくらいフレッシュで美味しいものでしたわぁ!」

 

お嬢様がどこぞの美食屋四天王のようにトマトの味の感想を言った。

お嬢様キャラ違くありませんか!?なんでそんな海〇雄〇みたいなキャラじゃなかったでしょう!?

 

「そしてあのトマトを食べてから、身体の中を未知のエネルギーが暴れてる感覚を感じますわっ!!この身体からあふれ出すパワー……私、もう我慢できませんわあぁあぁぁぁぁぁ!!!!」ダッ!

 

「ポヨ~♪」

 

「何が『ポヨ~♪』かっ!…ってあぁ!?お嬢様どこへ行くんですかぁ!?」

 

ついにお嬢様がアスリート顔負けのいい姿勢で走り出してしまった。

ちょ!?もうク〇ラが立ったどころか、そのまま世界記録狙えるような走りを見せてますって!?病弱設定どこ行った!?

 

 

 

「待ってくださいお嬢様!お嬢様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?

 

 

脳の処理が追い付かないマージェ、そんな彼女にできる事はお嬢様の後を追って走る事だけであった。

 

 

 

 

 

この夜から変わったことが2つある。

 

 

一つは、この日を境に屋敷に謎のピンク玉が住み着いたこと

 

 

 

 

 

 

もう一つは、旦那様や奥様、屋敷の使用人たちの願いが叶った事である

 




本当は元気ドリンクにしようと思ったけど、全回復ならマキシムトマトかと思って入れ替えたゾ

2023年も終わりかぁ…皆さん、お疲れさまでした。
皆さんにとっては、今年はどんな年でしたか?
私は色々と変化のある年で大変でしたが、結構満たされた年でありました。
思えば今年の始めに某ゴリラの作品を投稿してから結構読んでくれてる人増えたよなぁ…来年も頑張らんとなぁ……
まぁ、これからも気が向いたら書く感じでのんびり投稿していきますので、来年もよろしくお願いします

ここまでご拝読ありがとうございました
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