蒼褪めた仮面から全身に広がった死の神の力。
これまでは目に見えぬ形で歴代の使用者や周囲の者たちにその脅威を知らしめて来た死神は千年の時を超えてようやく真の顕現を果たす。
仮面は三対の邪眼と乱杭歯を噛み合わせた鬼面となり、身体を纏う鎧は仄暗い海底を思わせる深い蒼となり人の輪郭を辛うじて残す異形と化している。
不可視の力としてザンクを喰らった刃は鋸状の刃を持つ大鎌の姿を現す。
「ば、化け物みたいだけど……見た目だけってことはな」
アポカリプスの異形を纏った俺を見てタツミが震える声でアカメに問うが、アカメは俺から視線も注意も外さないようにタツミの襟首を引っ張って自身の傍に引き寄せた。
「どうしたんだよアカメ?」
アカメの突然の行動に戸惑いながらも再び構えを取るタツミ。
そんなタツミにアカメは冷静な表情で俺を、アポカリプスを睨み付ける。
「私が知っているアレの攻撃は目に見えないけど直接的な攻撃力はなかった。でも、絶対にアレの攻撃を受けたら駄目。アレの攻撃は防げないし、一撃でも喰らえば動けなくなる」
以前は反乱軍の幹部がもっていた帝具だけあり、この帝具の恐ろしさをアカメは十分理解しているようだ。
アカメの様子にアポカリプスの危険性を感じたタツミも油断なくこちらを睨み付ける。
「そ、そんなやばいのか?」
「私が知っているアレの能力は、見えない何かが一定範囲内の対象を無差別に行動不能にするものだった。さっきザンクが動きを止めたのもその能力のはず……」
「無差別って……さっきのザンクの動きが止まった時のは?」
「そこが分からない。少なくとも文献には特定対象のみを狙って攻撃することはできないと書かれていた。実際に以前の使い手もそんなことはできないと言っていた。それは絶大な効果を持つアレにいくつもあるペナルティの一つだと」
「おいおい日和ってんじゃねえぞ、アカメよォ?」
「……っ」
せっかくアポカリプスのお披露目をしてやってるんだ。
長々と見当違いな説明をされてもつまらない。
「こいつの説明は一言ですむ。……この世のモノじゃないってことだけさ!」
言うと同時に物質化されたアポカリプスの刃をアカメに向けて振り下ろす。
物質化された刃は、タツミ諸共アカメを斬るのに十分な長さがある。
「くそっ! アカぐふぉッ!?」
こちらの間合いを瞬時に見切ったアカメが出遅れそうなタツミを蹴り飛ばした。
「ここは引く」
「逃げられると思ってんのか?」
現状の間合いの倍以上の距離を一足で後退したアカメと地面に転がされたタツミの双方に一撃ずつ刃を振るう。
大鎌の長大な間合いにモノを言わせた大振りの一撃を前に殺し屋たちは各々の獲物で受ける。
「……ッ」
アカメはこの程度の攻撃は後方に飛び退きながらも難なく村雨で防いでみせる。
目に見えない攻撃もアカメなら直感で防いでみせただろうが、以前よりは余裕がある様子だから多少なりともあの時よりは実力をあげているようだ。
良い女が強くなるというのは俺としても喜ばしい。
もっともこれがエクスタスの一撃だったならアカメを両断できていたと考えるとやはりまだまだ未熟とみるべきか?
まあさすがに俺がエクスタスを持っていれば全力で回避していただろうがな。
「ぐぉァッ!」
タツミの方も自分の剣で受け止めてみせはしたが如何せん単なる剣で受けるには大鎌の斬撃は重すぎたようだ。
盾とした剣は大鎌の牙に噛み砕かれあえなく粉砕。
そのまま奔る刃を躱し切れずに腹部の肉をわずかに大鎌に噛み千切られる。
「「タツミッ!」」
大鎌の質量とアポカリプスによって強化された俺の膂力が齎した超重量級の一撃を受けてただの剣で死を免れたのは流石と褒めてやっても良いな。
タツミの肉を喰らった大鎌は上手そうな咀嚼音を漏らしながら鋸状の牙をガチガチと鳴らす。
血反吐を吐きながら倒れ込むタツミの名を叫び、やはり少女たちがそれぞれのやり方でタツミを庇うように俺の前に立つ。
「ぐ、がはぁッ」
「タツミ、しっかりしろ! 傷口をこれでしっかり押さえるんだ」
俺を睨みながらアカメは腰のポーチから布を取り出してタツミの傷口に押し当てる。
傷口を押されてさらなる激痛にタツミは顔をしかめて呻きながらも出血による行動不能を避けるために自身の手で布を持つ。
「隊長やめてください! お願いですから!」
サヨは相も変わらず自分の立場を弁えることもなくタツミを庇おうと懇願する。
そんなものは無駄だというのにな。
「いい加減弁えろ、サヨ。一度熾した死神は一つや二つの命を喰ったくらいじゃ満足しねぇんだよ」
なんてことは出まかせだが、こう言ったところでサヨが俺の邪魔を止めるとも思えない。
俺の真意を理解できないサヨを叩き伏せるわけにもいかなし、説得するのも面倒だ。
「いつも言ってるだろ? 俺を止めたいなら神級淫乱巨乳美女を連れてこいってな」
「ふざけないでください! 隊長はいつもそうやっ――」
涙を滲ませながら凄むサヨの表情も中々にそそるものがあるが、俺が手を止めるほどではない。
サヨの言葉を刈り取るように大鎌を揮い夜の闇を斬り刻む。
「……た、隊長?」
サヨは間合いに自分が居るにも関わらず俺が大鎌を振りぬいたことに唖然とした表情で膝をつく。
「俺はいつでも本気だぜ?」
「わ、私……今、斬られ……え、あれ?」
死神の舌に舐められた感触があったのだろう。
膝をついたサヨはそのまま力なく地面に倒れ込む。
「サヨッ! テッメェエ!!」
「やめろ、タツミ!」
倒れたサヨの姿に激昂するタツミをアカメが抑え込む。
手負いの素人がいくら凄んだところで何も感じないが、高いところから見下ろされるのは気分が良くない。
「だから、こんな糸クズで俺は止められねぇんだよ。殺し屋風情が」
『うげ、やっぱバレてたのかよ』
夜の闇から漏れ聞こえた軽口を無視してさらに大鎌を一閃。
何もなかったはずの背後に振りぬいた刃が硬い金属音を響かせて停止させられる。
「相変わらず、とんでもない直感だな。ヴォイド?」
大鎌の一閃を止めた何者かは、接触部位から徐々にその姿を月夜の下に現す。
「はっ! 不可視化はテメェの専売特許じゃねぇぞ、ブラート?」
月光の柔らかな光を浴びて神秘すら感じさせる白色の鎧に身を包み、その手に掴んだ槍で大鎌の一撃を防いで魅せた男ブラート。
帝国軍時代は百人斬りのブラートと畏れられた優秀な兵士であり、帝国のやり方についていけなくなり軍を抜けて暗殺集団ナイトレイドに入った裏切り者。
「エクスタスを持ったお前もやばかったが、その帝具もかなりやばそうだ、ぜっ!」
俺の挑発に応じることなく隙の無い槍捌きでブラートは襲い掛かってくる。
「そう見えるのならテメェはここで死ぬぞ?」
「おお、怖い怖い。つってもそう簡単に殺されてやるわけにゃあいかないぜ!」
槍を用いるのに適さない狭い路地にも関わらず正確無比の槍術が絶え間なく繰り出されるなか、インクルシオのマントの影から凶刃が迫る。
「……葬るっ!」
「てめぇには無理だよ、アカメ」
ブラートの槍の間隙を徹すような村雨による斬撃を刃の背を拳で弾いて逸らす。
帝国軍時代から白兵戦において最強と言われていたブラートに帝国の暗殺部隊であらゆる任務を完璧にこなしてきたアカメ。
こいつらは離反したとはいえ間違いなく帝国軍でも最上位の強者たちだが、それでも俺を上回るには至らない。
それは俺が最強だった時代を直接見て知っているこいつらがよく分かっているはずだ。
白兵戦において俺を殺すことができないと考える奴らがすることといえばひとつ。
「どうしたヴォイド? お喋りの余裕がなくなったんじゃ――うおッ」
「――っ」
「テメェみたいに野郎とのお喋りを楽しむ趣味はねえからな」
大鎌を振りぬいてブラートを背後のアカメともども弾き飛ばし、頭上から降り注いだ破壊の閃光に左手を翳して防ぐ。
「さっきの糸もそうだが、それくらい隠形で俺に気付かれないと思わないことだ」
『ちょ、いくら鎧型だからって片手で防ぐなんて反則よ!』
閃光の発射源で姦しい声が悪態を吐く。
「こいつは浪漫砲台パンプキン……だが、ナジェンダじゃないな?」
声の感触から若い女のようだが、見た目も声と同じくらい愛らしいことを期待しよう。
「おいおい、お尋ね者がわんさかと。今日はボーナス日だったかっと」
「四人も帝具使いを敵に回してずいぶんな余裕だな。さすが元帝国最強!」
弾き飛ばしたブラートが自慢の槍を叩きつけてくる。
「悪いな、ブラート。その元最強の足元にも及ばないネズミ共が湧いたところで余裕くらいじゃハンデにもならねぇか?」
ブラートの攻撃を大鎌で防ぐと同時に気配を断って移動したであろうアカメの斬撃へブラートを蹴り飛ばす。
「がはっ!」
「――っ」
鎧を纏った重量級のブラートが飛んできたらさすがにアカメも防ごうとせずにサイドステップで回避するが、その動きに合わせて大鎌を回転させての二撃目でアカメを斬りつける。
「あ、兄貴!」
『『…っ!』』
タツミや影に隠れている奴らが仲間を心配するような息を漏らすが、隠れるなら隠れるで呼吸を抑えるくらいはしろと言いたい。
勝機を見計らって無駄な攻撃を控えているのは評価するが暗殺を行うには気配を消す能力が低すぎる。
気配を断つ技術は暗殺者じゃなくても戦闘者としてなら最低限修めておくべき技術の一つだというのにな。
「だから、良い女には助言しておいてやる。壁一枚くらい挟んだ程度じゃ隠れた内に入らないぞ?」
アカメとブラートを吹き飛ばした次は、路地の壁を強化された脚力で蹴り砕く。
すると俺の蹴りに合わせたように壁側から獣の如き鋭い蹴りが打ち出されてきた。
「ちょっとちょっと~? 神級巨乳美女のアタシが相手なんだからありがたく蹴られといても良いんじゃない?」
「確かに――いや、淫乱が抜けてるな」
蹴り砕いた壁の向こうから現れた乳尻プリンプリンな獣系美女に一瞬反応してしまったがまだ完璧じゃない。
「あんたは何か足癖だけじゃなくて手癖も悪そうだからな。俺好みの淫乱に調教されてくれるんなら蹴りの十や百や千は受けてやるぜ?」
「はっ! 言ってくれるじゃないか、この変態め」
獣のような風貌の女は俺の軽口に憤慨することなく笑みさえ浮かべるが追撃することなく後方に飛んで倒れていたタツミの傍らに着地する。
この女はナイトレイドの手配書になかった。
その滑らかなラインの腰に巻かれたベルト型の帝具は、百獣王化ライオネル。
文献では読んだが実物を見るのは初めてだな。
これの使用者は獣化することによって身体能力が大幅に強化される。
身体強化のみに限定すれば帝具の中でも群を抜いていると記述されていたな。
もっともこの女は部分的な獣化で済ませているせいで最大強化はされていないようだ。
まあこれだけ良い女が全身毛むくじゃらの化物になるのは勿体ないから俺としては嬉しいんだが、本来の力が発揮されないライオネルは可哀想だ。
タツミの横に跳んだ獣耳おっぱいは俺から視線を外さずに倒れているタツミを軽々と担ぎ上げた。
「すまねえ、姐さん」
「こいつのヤバさはアタシもビンビン感じてる。こんな奴相手に生きてるだけで十分だよ」
担ぎ上げたタツミを労うように優しげな声をかける女。
アカメやサヨといいこの獣耳おっぱいといい、タツミはハーレム属性でも持っているのだろうか?
そうであるならばここで確実に息の根を止めるべきだ。
そんなことを思っていると頭上から何かが投げ込まれた。
「爆弾か何かか?」
手投げできる程度の爆弾でアポカリプスの装甲を破ることはできないし、生身でも十分対処できるんだがな。
拳大のそれをとくに警戒することなく見上げた瞬間、夜の闇を塗り潰す閃光が解き放たれた。
「……っ、閃光弾か?」
アポカリプスの全身鎧を纏っているとはいえ視界を塗り潰す光は眩しい。
視界を奪われたと同時に周囲の気配が動き出す。
「おいおい、これだけメンツを揃えて逃げるつもりか?」
「そんなわけないだろ、と言いたいところなんだけどね。これでもアンタの力量くらいはわかってるつもりだよ」
言うと同時に獣女はタツミを抱えて一足で路地の壁を飛び越えたのを感じる。
『よっしゃ作戦成功、さっさと引き上げようぜ!』
『分かってるわよ! ついでに最後に一発食らわせてやるわ!』
隠れたままの声から撤退開始の声があがると同時に再びパンプキンによる砲撃が路地に降りかかる。
閃光の向こうでアカメやブラートも駆け出していた。
視界を奪われた程度で砲撃を喰らう俺じゃないが、足は止まってしまう。
数秒で回復した視界の先にはアポカリプスの攻撃を受けて昏倒したサヨだけが残されており、ナイトレイドの気配はかなりの勢いで遠のいている。
「ようやく撤退戦になったな」
砲撃を防いだ後に倒れたサヨを抱えて俺も壁を駆け上がって屋根へ飛び乗ってサヨを寝かせる。
アポカリプスの行動不能にする能力で昏倒させたので当分は動くこともままならないだろう。
「ゆっくり休んでろ。目覚める頃には、ほとんど終わってるだろうよ」
サヨをそのままにして俺は街の夜空に飛び出す。
「さて、鬼ごっこは得意か、ナイトレイドども?」
せいぜい派手に逃げ回ってくれよ。
お前たちが逃げれば逃げるほど俺の特になるんだ。
「さあ、狸狩りを始まりだ」
更新がだいぶ遅れてしまい申し訳ありませんでした!
多人数描写が難しく、時間をかけてもうまくまとめることもできずお見苦しい内容となっているかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします!