蛮族な結月ゆかりと弦巻マキがルビコン3で暴れるやつ   作:その辺の残骸

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突入!独立研究都市!

 

 中央氷原でのアイスワーム討伐直後。共通の敵を退けたことで企業間のコーラル争奪戦は再燃した。

 しかし、惑星封鎖機構の兵器を多数鹵獲するという大きな収穫を得たアーキバスに対して、ベイラムは大きく遅れを取っていた。

 

 そこに一つの報告が飛び込んできた。

 封鎖機構が残った兵力のかなりの部分を割いて保持している独立研究都市の地下深くにC兵器が秘匿されているという。

 通信傍受と封鎖機構上級将校への尋問は、それがアイスワームに匹敵するC兵器であることを示唆していた。

 

 ベイラム・グループ上層部は情報の精査をすることなく、ただちに動いた。

 突出部にある件の都市に部隊を配置する戦略的な意義が見られないことが根拠だった。

 

 執行部隊とサブジェクト・ガードによる混成守備部隊の殲滅が高額で公示されたのである。

 任務の完遂だけでなく、敵戦力の撃破に対しても一機ごとに報酬が設けられている。

 

 まず一山いくらの独立傭兵達を使い潰し、守備隊の戦力を減らす。

 頃合を見計らい、レッドガンを筆頭とした主力部隊を送り込み、施設を確保することを目論んでいた。

 

 多くのランク外独立傭兵が件の都市に乗りこんだが、撃破できた敵機は僅か数機のMTのみ。

 ACは鉄の棺桶として虚しく市街に転がっていた。

 

 確かに惑星封鎖機構は企業の反撃で著しく戦力を損なっている。

 しかし、高性能な機動兵器群による戦闘部隊とそれを操る士気旺盛なエリートパイロットを未だ多く残しているのだ。

 

 都市には三次元戦闘に長けた高性能なLC機体と陸戦兵器にとっての最悪の悪夢、超大型攻撃ヘリを主力とした鉄壁の防衛網が築かれていた。

 さらに切り札として最低でも二機のHCを擁していた。

 

 後に捕虜にさらなる尋問を加えて吐かせたことだが、物資の蓄えも相当なものであり、砲火は衰えることを知らなかった。

 

 アイスワームが起動される切欠となったアーキバスによる旧宇宙港襲撃。

 その直前にルビコン入りした独立傭兵、結月ゆかりと弦巻マキは崖の上に陣取り、作戦開始の刻を待っていた。

 

 ゆかりは上品な紫髪。マキは明るい性格をそのまま反映したような金髪だ。

 髪は艶やかで顔立ちもトップアイドルのように華やか。

 傭兵らしからぬ容姿であった。

 

 一方、身に着けている衣服はそれらしい。ベイラムの私設軍で正式採用されているモデルのフライトスーツ。

 AC乗りの独立傭兵としての顔であるエンブレム・パッチが誇らしげに張り付けられている。

 

「やっと、やっと、AC乗りらしい仕事ができますね!」

 

 感極まった表情と声音でゆかりに頷いて、心から同意するマキであった。

 

「うんうん。本当に長かったね! ここまで漕ぎ着けられたのはゆかりんがいてくれたからだよ~!」

「えへへ、もうマキさんったら。まあ事実なんですけどね」

 

 胸は薄く、懐は寒い。だが、結月ゆかりの自我は巨大だ。

 ゆかりとマキは空中分解寸前の輸送船で、空気が不味くて鉄臭い故郷を飛び出し、二人一組の傭兵としてやってきた。

 

 戦場生まれ、戦場育ちの相が華やかな美貌に色濃い。

 目つきは鋭く、笑う口元は人食いサメのもの。艶やかな髪からは仄かな硝煙と炎の匂いがする。

 

 暴力の気配を色濃く発散させている。顔が抜群に良いだけの女蛮族であった。

 

 彼女達の元々のACが載せてあった降下艇は衛星砲に見事迎撃され、火だるまになりながらも執念でルビコン入りを果たしたのである。

 

 無謀の代償は大きかった。

 様々な惑星を渡り歩き、主に企業と惑星封鎖機構に対して行ってきた多数の略奪と少々の傭兵活動で溜め込んだ財産は丸ごとお釈迦に。

 

 まこと絶望的な状況であった。

 しかし、高濃度の汚染粒子によって大地の大半が砂漠化し、それでもしぶとく生き残った人類が領地を奪い合い続ける惑星に生まれた蛮族はこの程度ではへこたれなかった。

 

 己の命と僅かな銃火器を元手にベイラム、アーキバスといった企業グループ、さらに惑星封鎖機構に対して略奪を敢行。

 

 手始めに通りかかったアーキバスの哨戒部隊のMTを頂いた。

 ハッチを素手でこじ開けて、パイロットを引き摺りおろして分捕ったのだ。

 

 その小型MTを使ってさらに大型で戦闘力の高い機種を鹵獲するという手口でMTを仮初の乗機として得た。

 そして十分な戦力を確保するとルビコン解放戦線からの仕事を取りつけ、ベイラム支配地域後方にある大豊のAC訓練キャンプを襲撃。

 

 目的地が勢力圏の奥深くなので行軍には苦労したが、気が緩んだ後方の拠点を襲う仕事自体は楽なものだった。

 

 正規パイロットとしてのコールサインが付与される日を夢見て、厳しい訓練に励む訓練生たちを朝礼中に教官ごと砲撃で片付けた。

 その後、操縦技能者を失い、ただ突っ立ているだけの置物と化した訓練用ACの下で、キャンプを一掃したのである。

 

 企業の兵隊を殺すことに良心の呵責はないし、何よりこちらは困窮しているのだ。

 

 要望通り、徹底的にキャンプを破壊した。

 大豊のACは脚として使ったMTの手でスクラップにして、ついでにその動画を自己アピールを兼ねてベイラム、アーキバス双方に送った。

 

 独立傭兵の力を借りて戦局の打開を企てている解放戦線は久しぶりの纏まったコームを渡してくれたが、動画の件は厳重注意されてしまった。

 

 こうして苦労に苦労を重ね、汗水垂らして健気に働いた。

 ゆかりは自分のような美少女がこのような汚れ仕事をしなければならない世界をおかしいと思っているし、マキもまあまあ同意している。

 

 どうにかAC二機分の資金を確保すると、すぐさまRaDのグリッドに脚を運び直接コンタクト。

 

 AC乗りとして他の惑星で暴れてきたが、今は機体を持たず、オールマインドへの傭兵登録さえできていない身。

 ACを調達するにはルビコンの現地勢力を頼るしかなかった。

 

 金と権力(ちから)があるというだけで威張り散らし、弱い者虐めをする企業に比べ、ルビコンの民への敵意や恨みはない。

 彼らに対しては火事場泥棒程度しか働いていないのが幸いした。

 

 ゆかりとマキは大枚叩いて新たなACをオーダーした。

 

 予断を許さぬ情勢のなか、RaDのエンジニア達は職人技で応え、二機のACを完璧に仕上げてくれた。

 

 ゆかりとマキは受領直後に慣らし運転を兼ねて、幾つかのグリッドを襲撃してRaDの敵を減らして謝礼をもらった。極めてWin-Winな取引だった。

 

「おっこれは……もしやっ! おおっ! 独立傭兵レイヴンが依頼受託! トーザーを掃除してもらったお金を全部報酬に当てた甲斐がありました!」

 

 ゆかりが小脇に抱えていたタブレット端末に着信があり、支援を依頼した独立傭兵レイヴンから短い連絡が届いた。

 

 約十五分で作戦予定地点に到着、潜伏するとのこと。

 

 壁超えの、今やワーム殺しとも綽名される超凄腕の独立傭兵の力を借りたのである。

 引く手数多なはずだが、無名の傭兵の依頼を引き受けてくれたことへの感謝は溢れんばかり。

 

「コーラルの残り火薫る雪風が、私達の背中を押しているのを感じます! それはもう猛烈に! びゅーんっと!」

「わたし達は今、栄光への道を間違いなく進んでいるね!」

「ええ、この結月ゆかりには見えています! コームのデータ量がキャパオーバーして私とマキさんの口座がパンクする薔薇色の未来の姿が!」

 

 大げさな仕草で片手を天高く掲げるゆかりであった。

 

 狂暴を極めた美人姉ちゃんコンビには似つかわしく言い回しと所作だ。

 目を潤ませながら近い将来の贅沢放題に思いを馳せる。

 

 ゆかりもマキも単純極まりない蛮族思考でそれを確信していた。

 

 ちょっとした幸運に舞い上がるのは底辺傭兵の常。だが、この二人にはそこいらの傭兵連中が持たないものがあった。

 劣悪の極み、醜悪の極みの環境で育まれ、闘争を友に培ってきた暴力のスキルとセンスだ。

 

 独立傭兵レイヴンは本命に見せかけた陽動を担ってくれた。

 

 ゆかりとマキこそが真の本命としてベイラムが切望する超兵器が封じられているはずの技研施設を制圧する。

 敵機動兵器の殲滅は必須事項。

 

 一騎当千の戦闘力が求められる仕事だ。マシンもパイロットも最高でなければ成し遂げられない。

 

 こちらも動く。マキは慣れた手つきでACを隠すための雪色のシートを外す。

 

 現れた二機の中量二脚ACはRaDが良質ジャンク部品で組んだ最高最良の最低野郎(ボトムズ)だ。

 WRECKERとBASHOを用いた、箱を組み合わせたような無骨なAC。一部のパーツにはカスタマイズが施してある。

 

 受領したのはつい三日前だが、ジャンク品を再生したACなので両機の装甲には無数の傷が残っており、使い込まれ、薄汚れている。

 一度は戦い破れて朽ちながらも、新たな躯体を得て戦場に舞い戻った地獄還りの戦機だ。

 

 ゆかりの乗機はベルゼルガ・フラット。近接突撃型のACで突進速度においてはルビコン最速を誇る。

 単純にベルゼルガと呼称することが多い。決してゆかりの胸が平坦だからフラットなどと付いているのではない。

 

 狂戦士の名に反して、青を基調とした重厚な騎士甲冑を思わせるフォルムだ。頭部にはブレードアンテナが装着されている。

 ライフル、重ショットガン、パルスブレード、左ハンガーには特注の杭を用いたパイルバンカー。

 カスタムパーツが使われているが、典型的なアセンブル。

 

 左肩に描かれたエンブレムは黒い鴉と戯れる、パーカーを羽織った兎というファンシーなもの。

 

 マキの乗機はオーデルブレイカー。秩序砕きの銘を与えられた攻撃型ACだ。

 

 こちらは両手にガトリング、背中にレーザーキャノンとミサイルという火力重視の機体。

 RaDの尽力でぎりぎり走攻守のバランスが取れている。

 

 白く塗装された鉄の騎兵には聖騎士を連想させる品格がある。

 エンブレムは赤い鴉の翼をもつ、長い髪の女性のヌード・シルエット。エレキギターを手にしている。

 

 機体名とカラーリングはRaDによるものだ。

 

 次に、自分達の身支度を整える。ゆかりとマキはフライトスーツのジッパーを下ろす。

 略奪品を防寒着として利用していただけだ。パイロットスーツであるスキンタイトなボディスーツが露わになった。

 

 極めて薄く、煽情的な光沢がある。ゆかりのスーツは紫と黒を基調としており、マキは赤と白だ。

 遠くから見ると塗料を塗りつけた裸体、と錯覚しそうだ。

 

 そんなぴっちりパイロットスーツ姿になると、ゆかりの平坦な胸とマキの巨乳の差は歴然となる。 

 

 過酷な惑星に生まれ、戦場で鍛えられてきた肉体の造形は見事なもの。

 女性らしい引き締まったラインが戦闘的な筋肉を兼ね備えている。腹筋はギリシャ彫刻さながら。

 

 手足と股間部分は硬質な装甲板で保護しており、スーツが戦闘装備であることを物語る。

 股間を視線とダメージから保護する装甲板はCストリング状。逆に視線を引き付けそうな形状だ。

 

 上向きなお尻がスーツにくっきり縁取られ、股間アーマーから伸びたパーツが尻間へと深々と食い込んでいる。

 軽くストレッチをする。ゆかりとマキの豊満な尻が弾み、揺れ、引き締まる様がそのまま見て取れる。

 

 この一見すると煽情的なコスプレめいた、ぴっちりスーツはルビコン3に持ち込むことのできた数少ない装備だ。

 

 正式名称をナノスキンスーツという。ナノテクノロジーの結晶たる耐環境パワーアシストスーツだ。

 

 厚さ0.01mmの生地に、高性能ナノマシンによって魔法のような機能を詰め込んである。

 

 劣悪な環境から着用者を守るだけでなく、スーツの内側は常に清潔が保たれている。

 負傷すれば傷をナノマシンが塞ぎ、ある程度の治療をしてくれるし心肺停止時には心臓マッサージが施される。

 

 半永久的な老廃物のリサイクル機能まである。着用中はトイレに行く必要がなく、体を清める必要もなくなる優れものだ。

 

 ゆかりとマキは、このスーツの清潔を保てる点と飲料水を常に確保できる点から愛用していた。

 

 裸同然の恰好になってしまうのが欠点の一つだが、ゆかりとマキの羞恥心は薄いのでその点は問題ない。

 すたすたと歩いて、それぞれの乗機に向かい、ハッチを解放。

 

 中古のシートに柔らかなお尻を下ろして機体のジェネレータを始動した。

 

《メインシステム 戦闘モード 起動》

 

 COMのナビゲーションボイスが響き、機体は正常に起動。

 流れるような手つきでブースター、センサ、FCS、アクチュエーター複雑系(ACS)、ジェネレーターをチェック。

 

「オールグリーン。いいね、この子のジェネレーター、今日もぎゅんぎゅんしてるよ!」

 

 HUDに映ったマキがサムズアップする。

 

「ベルゼルガのコンディションも良好です。今日もパイルが血に飢えていますよ!」

 

 ゆかりはハンガーシフトをテストして、手持ちの武装と背負った武装を交換。

 パイルバンカーの動作テストをしてからもう一回転させた。

 

 このACは二人の肉食獣めいた身体能力に合わせて調整されている、極めてピーキーな機体だ。

 搭乗者保護のためのリミッターは外してある。二人は生身だが、現時点での技術で最大限強化された強化人間と同等以上の機動戦闘が可能だ。

 

 コーラル漬けで正常な判断力を欠いたドーザーでさえドン引きするセッティングだった。

 もし平均的な技量のACパイロットが操縦すれば、一歩目で派手にすっころび、機体を立て直せずそのままシェイクされてしまう。

 

「ようし、それじゃ行こっか!」

 

 散歩に行くような調子でマキはブースターを起動。

 絶妙な操作感覚で反応速度最高、操縦性最悪の機体を操る。

 マキの操縦は感覚派だ。

 

「私達も行きますよ、ベルゼルガ」

 

 ゆかりが後に続く。意外にも繊細で丁寧な操縦。

 計器を確認し機体と周囲の環境に合わせて、ジェネレータで戦いの歌を奏でる狂戦士(ベルゼルガ)を操る。

 

 アサルトブーストを起動して、オーデルブレイカーとベルゼルガは地表を舐めるような低空飛行で突き進む。

 機体のブレは一切ない。この女蛮族二名が一山いくらの傭兵でないことを示していた。

 

 雪を被った針葉樹群がソニックブームで激しく揺れた。耐え切れず倒れる木々もある。

 

 猛禽の力強さで着地。灰色の廃墟群は巨大な墓標のよう。

 

 道路をブースト移動で進みながら、惑星封鎖機構の出方を窺う。

 

 二機でデータリンクしてセンサー情報を共有している。

 

「さあさあ、どこからでも仕掛けていいですよ。天才ゆかりさんはノーダメで完全勝利しますから!」

 

 ゆかりは不敵に笑い、あえてオープン回線で敵に呼びかけた。

 

 この地を死守するよう、システムから厳命されている封鎖機構の部隊。その戦術は市街地という環境を活かしたゲリラ戦だ。

 派兵当時の圧倒的な兵力は見る影もないが、現状に合わせた戦術を採っており、練度の高さを物語る。

 

 キルゾーンに踏み込んだ。四方八方から高出力のレーザーライフルによる狙撃が飛んできた。

 

 レーダー照射を検知したCOMが警告音と予測される攻撃方向を矢印で示す。

 

 それよりも速く、ゆかりとマキは別々の方向に動いている。

 クイックブースト(QB)をかけてから、アサルトブースト(AB)でさらに加速。

 

 複数のレーザーが着弾した路面が青白く融けた。

 

 上空に避退した二機のACはすぐさま攻撃に転じる。コア理論に忠実な突撃戦法は単純明快で、二人の好みだった。

 一定高度を保って浮遊するLC機体のカメラアイが睨む。

 

 封鎖機構の兵士達が口々にコードとやらの数字を唱え、状況を冷静に報告し合う。

 ゆかりは傍受した無線に不快感を露わにした。

 

「私それ、機械みたいで気に入らないんですよね」

 

 ゆかりはロックオンした都市迷彩仕様のLC機体を睨み返す。瞳は暴力の開放に酔い痴れ、爛々と輝いている。

 ベルゼルガは乗り手の狂気に鞭打たれて空を駆けた。

 

「よっ!」

 

 一方、マキのオーデルブレイカーはビルの屋上を蹴って跳躍。慣性飛行でジェネレーターを休ませる。

 第二射がくるのを肌で感じる。

 

「ほっ!」

 

 老朽化したビルを貫通しての直撃コースを取っていた青い光条を躱す。

 

「はっと!」

 

 マキが回避した先を狙う二機目の偏差狙撃はQBにより回避。

 

 エネルギーが回復するとアサルトブーストを起動。音速を超えたスピードで強烈なGがかる。

 

「隙あり! マキマキキィィィィック!!」

 

 ナノスキンに包まれ、巨大な乳袋を形成したマキの胸が激しく揺れる。操縦の妨げにはならない。

 

 高速道路から狙撃してきた二機目を狙い、鋭角な機動で強襲。蹴り飛ばした。装甲同士が激突して心地良い音を奏でる。

 

 LC機体は吹き飛ばされたがACS負荷は限界に達していない。ぎりぎり踏ん張っている。

 

 攻撃された僚機を援護するべく咄嗟に放たれたレーザーに反応し、後ろに跳ぶ。

 

「邪魔しないでよねっと!」

 

 二度目のブーストキックで正面のLC機体の胸部装甲を大きくひしゃげさせる。

 コクピットブロックが潰れ、パイロットは即死した。

 

「まずは一機目ね!」

 

 瞬きするまでの間に起きた出来事だった。

 

 近接強襲兵器であるACの兵装は有効射程が基本的に短い。

 射程距離で勝る兵器との戦いでは技量、体力、運の三つが必要となるわけだ。

 

 逆に全距離に対応した高性能機である執行機体群は距離を取るだけで、一方的に攻撃できる。

 機体性能、武装の面で封鎖機構は有利を取っているはずだった。

 

 だが、この戦闘ではABとQBで高速のハイGマニューバを繰り返す、イカれたAC二機に一方的に叩きのめされている。

 

「マキさんは一機目ですか! 私も負けていられませんね!」

 

 相対している二機のLCはベルゼルガが狙撃を立て続けに回避することにいら立ったようだ。

 ブーストをかけて、空中にいるベルゼルガに突っ込んでくる。

 

 ゆかりは嗤う。

 ACの得意距離にわざわざ踏み込んでくれた礼をしなければならない。

 

 二機が一直線に並んだとみるや散開。時間差攻撃だ。

 レーザーライフルとミサイルを撃ちおろしての十字砲火。

 

 ゆかりが駆る蒼の狂戦士(ベルゼルガ)は急降下して地表を蹴り、鋭角に跳び跳ねる。ブースターの排気炎が猛烈に噴き上がる。

 直線の加速度は信じられないほどでLCは回避が間に合わない。

 

 アサルトブースト中の横スライドでフェイントをかけてLCの蹴りを避けた。

 反撃の時間だ。ゆかりは流れるようにトリガーを引き、重ショットガン、蹴り、パイルバンカーによるトドメを見舞う。

 

 左手に装備された杭はLCを刺し貫いたまま。

 ベルゼルガは冴えたクイックターンをかけてもう一機に機体を向け直す。

 パイロットを乗せたままの敵機がチャージされたレーザーとミサイルからベルゼルガを守る盾になった。

 

《ちゅっ中尉殿ぉぉぉぉぉぉぉぉ!》

 

 いつものコードを諳んじることを忘れ、味方を盾にされたパイロットが悲鳴を上げる。

 ベルゼルガはLCでレーザーを受けながら間合いを詰めている。

 

「くぅぅぅっ! きっつい……!」

 

 ゆかりは歯を食いしばり、裸同然の肢体を攻め立てるGに抗う。地獄の苦痛だった。

 耐環境性能は最高クラスのナノスキンスーツだが、重力加速度の負担と苦痛はそれほど軽減してくれない。

 

「まあ、このしんどさが好きでACパイロットやってる節があるんですけどね、私」

 

 苦痛が生を実感させ、戦意を高めてくれるからだ。

 ベルゼルガは前方にQB。

 敬愛する上官殿を喰らわせてやる前に、ゆかりは回線をオープンに。ロック・オンしている敵に吠える。

 

「ガオッ!」

 

 言葉は可愛らしいが、ライオンに目の前で吠えられたような迫力だ。

 上官を撃たせた卑劣なならず者に怒りを燃やしていたLCパイロットは怯んでしまった。

 

 既に搭乗者がこと切れたLC機体をぶち当て、二機目を高層ビルにめり込ませる。豪快に崩れる壁面が奏でる音は心地よい。

 

 図らずも殺めた上官の機体とビルに挟まれた機体の中でパイロットは激しく揺さぶられ、意識を失い、二度と目を覚まさなかった。

 

「二機目! ごちそうさまでした!」

 

 ゆかりはベルゼルガの左腕を引いて杭を引き戻す。

 ブースターによる後退とタイミングを合わせての蹴りで敵機を使って跳ね飛び、ビルの屋上に降り立つ。

 

 マキのオーデルブレイカーと交戦している上空のLCをロック。

 ENゲージは既に最大。アサルトブーストからのパルスブレードで斬りかかる。

 

 敵がブーストで回避したので、切っ先が装甲の表面を掠めるだけに終わった。

 

 だが、そこにはマキのミサイルとガトリングガンの砲火が置かれている。砲弾とミサイルが完膚なきまでに秩序の守り手を打ち砕く。

 

「こっちも二機! ゆかりんサンキュー!」

 

 オーデルブレイカーを滑走させつつ、マキが礼を言った。視線は周辺スキャンをかけたモニターを注視して、潜む敵を探している。

 

 SGのMTとLCの混成部隊が潜んでいる。数は合わせて十二機!

 おまけに物陰にジェネレーターを切ったMTが隠れており、偽装された対空レーザーキャノンまである。

 全く大した戦力だ。こいつらを片付けるだけで、かなりのコームが稼げるとマキは思った。

 

「撃墜競走はまだまだ続けられるね!」

「コンビ打ちの醍醐味といったらこれですね! 負けませんよ、マキさん!」

 

 ゆかりとマキはゲーム感覚で強大な敵戦力に突っ込み、蹂躙していく。

 

 三次元機動と二次元機動を組み合わせることによる戦術。近接戦のスリル、爽快感。

 ゆかりもマキもACこそが最高の戦闘マシンであると信じてやまない。それは実践を通して培った信仰でさえあった。

 加速の責め苦さえ、打ち付けるような被弾の衝撃さえ、闘争の祝福だ。

 

 惑星封鎖機構はたった一分で多数の機動兵器を失ってしまった。

 

 さらに独立傭兵レイヴンが別方向から侵攻しているとの報告が入り、そちらに戦力を割かねばならなくなった。

 指揮官はシステムに問い合わせ、陽動である二機のACよりレイヴン排除を優先すべしとの返答に従い、戦力を動かす。

 

 ベルゼルガ・フラットとオーデルブレイカーはアサルトブーストによる超高速でビル群の間を駆け抜けていく。

 超巨大攻撃ヘリが二機、HCとLCを伴っている。交戦せず、すれ違った。陽動のレイヴンの対処に向かったのだ。

 

 次の防衛ラインを守るのは大型パルスシールドを構えたHCが率いる盾持ちLC部隊。少ないとはいえ強力な部隊だ。

 二機のカメラがそれらを捉え、爛々と輝いた。

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